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『初音ミク』に見る、ユーザーコミュニティを「動かす力」・・・中村彰憲「ゲームビジネス新潮流」第23回

東京ゲームショウ2011の基調講演において、スクウェア・エニックス代表取締役社長である和田洋一氏がこれから(ゲーム業界の速さで考えると、つまりは今ということですよね)のゲームで鍵となるのは「コミュニケーション」だといわれました。

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東京ゲームショウ2011の基調講演において、スクウェア・エニックス代表取締役社長である和田洋一氏がこれから(ゲーム業界の速さで考えると、つまりは今ということですよね)のゲームで鍵となるのは「コミュニケーション」だといわれました。

筆者はこの「コミュニケーション」で重要な役割を果たすのは、「コミュニティ」だと思っています。そこで、まず頭に浮かんだのが「初音ミク」。いまでこそ、『初音ミク -Project DIVA』シリーズが累計100万本を突破したり、『初音ミク Project DIVA Arcade』がゲームセンターをにぎわしていますが、もともとは、歌声合成ソフト『VOCALOID2 キャラクターボーカルシリーズ01 初音ミク HATSUNE MIKU』(以下、『初音ミク』)のために、クリプトン・フィーチャー・メディア(以下、クリプトン)がプロデュースしたキャラクターであることは誰もが知るとおり。

発売されるやいなや、ニコニコ動画を皮切りにさまざまな動画・画像共有サイトで二次創作がアップロードされるなどネット界隈で社会現象を巻き起こし、瞬く間に「バーチャル・アイドル」の道を駆け上りました。この現象は一体如何に生まれたのか気になり、当時から企画に携わっていたクリプトンの熊谷友介氏にお話を伺いました。

■音のプロとして育んだバーチャル・アイドル

クリプトン・フィーチャー・メディアはもともと、音楽制作の為の音源やソフトウェアの販売を中心とする企業。このような背景から、在籍しているスタッフの多くが音楽に情熱をもった人たちで構成されているとのこと。「僕自身、以前は音楽バンドをやっていました」と熊谷氏。従って、クリプトンからVOCALOID製品を販売するにあたり、アニメ風のキャラクターをパッケージデザインに据えた、『MEIKO』をリリースしたときも、最初はマイクをパッケージデザインとして採用しようと考えたものの、どうもしっくりこなかったとのこと。そこで、中に人がいることにしようということになったのです。

となると、パッケージも単にマイクと言うよりは歌うソフトだと直感的に伝わるデザインにする必要が出てきました。ただ、実写だと生々しくなってしまうこともあり、アニメ絵にしようといったことになったのです。

この「ちょっとした発案」が通常平均販売数200~300本、1000本程度売れれば成功とされるデスクトップミュージック市場(以下、DTM)で累計3000本以上の販売へとつながりました。

そのような中、Yahamaから新世代の音声合成エンジン「VOCALOID2」が発表され、クリプトンでもこの技術をもとに何かを商品化しようといった事となり、商品企画を進めていきました。同技術は以前のバージョンに比べ、より人間に近い、自然でなめらかな歌声を再現できる技術に仕上がっていました。

著名な歌手の声をシミュレーションするという案も企画の中で生まれましたが、お客様が望んでいるのは、歌がうまいというのではなく、声がかわいい、かっこいい等、歌声に特徴があり、思わず歌わせたくなるような新しい個性だと感じた商品企画の担当者は、この人工的な部分を逆手にとって強みに出来ないかと考えました。

その結果、「実在の歌手の声で歌うソフトを作る」というMEIKO・KAITO時代の発想から離れ、1つの新しいキャラクターを“演じて”もらおうと考え、バーチャル・キャラクターという考えに至ったとのこと。これで「VOCALOID2」のリアルでありながら機械臭さもある特徴がむしろ商品展開でのメリットへと変わったわけです。

■ポニーテールに黄緑の衣装?いまとなってはむしろ見てみたい初音ミクの初期デザイン

前作の『Vocaloid Meiko』でかなりの反響があったことからキャラクターデザインについても徹底的にリサーチを重ねました。旧来のDTMユーザーにも、アイドルやアニメが好きな人にも受け入れてもらえるようなイラストはないかと、徹底的にネットを漁り、たどり着いたのがKEI氏の描いたキャラクターでした。企画チームは透明感のあるデザインに心を奪われたとのこと。

その後、「世界観」や「コンセプト」を伝え、メールでのやりとりを重ね、デザインを構築していったと熊谷氏。ただ、やりとりを重ねていく中で、中々アンドロイドっぽさがでず、そんな中ひらめいたのがレトロなシンセサイザーをデザインに組み込むことでした。そこで発案されたのがDX7でした。

DX7は、アナログシンセサイザーが主流であった時代にあって、はじめてFM音源を導入することで、80年代の音楽シーンを牽引した数々のアーティストが愛用した伝説の楽器なのです。「DX7を想起できるキャラクターをデザインすることで、80年代、音楽をやってきたDTMの第1世代くらいの方々に懐かしいと思っていただけるのではないか」と熊谷氏は当時の想いを述懐しました。

KEI氏が描いてきたキャラクターも最初は制服を着ているデザインが届き、髪型もポニーテールのデザインもあったとのこと。また衣装も黄緑に近いカラーリングでした。そこから複数のデザインを描いてもらう中でまずツインテールになり、更に前述のDX7というコンセプトのもと、薄いブルーと黒の基調カラーが発案されていきました。そしてそこにキーボードのモチーフが加わっていきます。このようにして誕生したのが『初音ミク』。ですが、スタッフ全員、むしろ驚かされたのは、リリース後の利用者の反応だったのです・・・。

■ツール会社としてクリエイターが楽しんで使える環境づくりをするのが僕らの仕事。ミクで盛り上がってくれるのを目の当たりに単純に嬉しかった

発売から1週間で初期ロットの1000本があっという間に売り切れるといった異常事態がおこり、発売ら僅か5日で人気の火付け役となった「VOCALOID2 初音ミクに『Ievan Polkka』を歌わせてみた」が投稿されました。

この動画を見たユーザーが感化を受け、ソフトを購入し、自作の曲をアップする。それを見たユーザーがさらに感化を受け…といったスパイラルが生まれ、その後、『初音ミク』関連動画が動画共有サイトに次々とアップロードされていったのです。

『初音ミク』というソフトには、「キャラクター」がついていて、そのキャラにそれぞれの人が持っている初音ミクのイメージが、歌やイラストや動画などさまざまなアプローチで集まり、クリエイターもリスナーも分け隔てなく彼女のイメージが共有される、といったコミュニティが形成されていきました。

また、作曲好きの人の全てがバンドをつくって発表するようなアウトドア派な人だけではありません。インドア派の人の中でも音楽に心得のある作曲好きの人はいたはずなのです。確かに音楽投稿サイトもありましたが、アップロードした後、即座に反応を得ることが出来たのはニコニコ動画が現れてから。『初音ミク』Xニコニコ動画の組み合わせは、多くの作品を作りながらお蔵入りしていたインドア派のひとたちの作品を改めて世に出すということを可能にしました。

「作り手は常に自分の作品がどう評価されるのか気になるはず。以前はそれがダイレクトに伝わることがありませんでしたが、それが可能になったことは作り手にとって計り知れない変化」と熊谷氏。

潜在需要を汲み取れた事実は販売実績という形で現れました。『初音ミク』の販売数も半年で3万本を達成。シリーズは累計で10万本以上を売り上げているとのこと。家電やソフトの売れ筋を公開しているBCNのランキングでは、発売以来これまでPCソフトのサウンド関連部門で第一位を維持し続けています。

ただし筆者として気になっていたのが次々とアップロードされる初音ミク関連の二次創作。確かに優れたグラフィックデザインと楽曲が統合され、サイトにアップされたことがソフトの売り上げにも繋がるという意味で相乗効果を生み出しています。ですがそこで気になるのは著作権の存在。その点については、「僕らもクリエイターだし、クリエイターのクリエイターになって、クリエイターのやりたいことをサポートしていきたいという思いがあります」と切り出したうえで「権利ポリシーをどこまでどうしていくのかという点を認識していないわけではありません。ただ、メタクリエイターという概念があり、我々としてはクリエイターを支援したい、創造性を発揮してもらいたいという点にはこだわりがあります。

それが結果として初音ミクの二次創作に対する対応で一般的なコンテンツメーカーとは違った形になったのだと思う」と熊谷氏。そのような想いとともに、立ち上げられたのが「ピアプロ」。音楽、作詞、イラスト、3Dモデリングなどそれぞれ得意としているコンテンツを投稿、共有することで新たなコンテンツを生み出すことを目的としたCGM支援サイトです。

同サイトは『初音ミク』をリリースして間もない07年12月からサービスインしています。そして09年には、キャラクターを非営利かつ無償であれば原則として自由に使用できるようにするための「ピアプロ・キャラクター・ライセンス」を制定し、ネット上での二次創作を保証しました。

また、VOCALOIDキャラクターを使用したコンテンツの権利処理請負と同時にレーベルとして楽曲配信やCD販売をおこなうレーベル「KARENT」もこの年にスタート。これにより初音ミクのクリエイターたちにプロへとつながる道をつくりだすと同時に、初音ミクファンが気軽に様々な作品に触れることができる場をつくりあげました。つまりクリプトンは、『初音ミク』をはじめとしたVOCALOIDキャラクターを中心に据え、ファン、一般クリエイター、プロクリエイター、そして企業とをつなげる一連のシステムを作り上げたのです。

更にすでに現在進んでいるのが数々のコラボレーション。冒頭で示した『初音ミク -Project DIVA』シリーズでのセガとのコラボから、テレビでも話題となっているGOOGLE CHROME CMでの登場。そしてロサンゼルスや、シンガポールをコンサートで沸かせたHATSUNE MIKU LIVE Partyなど、初音ミクの世界は07年のデビュー以来、ユーザー自身のクリエイティビティと他企業とのコラボレーションによって次々と拡がっていきます。これはヒットというよりはムーブメントと言ってもおかしくないでしょう。

その根底にはクリプトンの二次創作も含めた「クリエイティブな活動」に対するリスペクトのカルチャーがあります。同社のそして初音ミクの今後の展開に期待ですね。
《中村彰憲》
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