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【PS Vitaゲームカンファレンス】徹底した最適化でフル解像度、60FPSを実現した『パワースマッシュ4』

ソニー・コンピュータエンタテインメントは3月28日にゲーム開発者むけ技術カンファレンス「Playstation Vitaゲームカンファレンス」を開催し、内容の一部を報道陣に公開しました。

ゲームビジネス 開発
ソニー・コンピュータエンタテインメントは3月28日にゲーム開発者むけ技術カンファレンス「Playstation Vitaゲームカンファレンス」を開催し、内容の一部を報道陣に公開しました。

会場では『パワースマッシュ4』『ニコニコ』『GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動』『みんなといっしょ』の開発ポストモーテムが行われました。以下、概要を紹介していきます。

会場では200名以上の開発者が詰めかけた


■開発初期のフレームレートは1桁台?
セガの看板テニスゲーム最新作として、2011年6月30日にPS3&Xbox360版が発売された『パワースマッシュ4』。PS Vita版も本体のローンチタイトルとして12月17日に発売されました。特徴の一つが、Vitaの有機ELを存分に生かした、フル解像度(960×544ピクセル)による美麗なグラフィックと、ゲーム中の描画速度で60FPSを実現した、スムーズなゲームプレイです。

その背後には開発チームの、さまざまな最適化に向けた挑戦がありました。講演を担当したのはセガ第二研究開発本部プログラマの平山尚氏と鈴木宏氏です。

プラットフォームSDK抽象化ライブラリを担当した平山氏レンダリング部でシェーダ関係を担当した鈴木氏


本作は形こそ据え置き機版の移植タイトルとなりますが、平山氏は「ただの移植作ではない」と語ります。移植タイトルはオリジナル版と開発チームと異なる例が大半ですが、本作では据え置き機版の開発末期から、開発チーム(30名)がほぼ引き継いで並行開発したため、時間が潤沢にありました。実質的な開発期間は2010年末から2011年末の約1年間。ライブラリ層やレンダリング層は2010年5月から先行開発されていたほどです。トーム全体でVita一機種に集中できた点も大きかったと言います。

2010年5月6日にサンプルを初めてビルド。5月13日にはライブラリ経由でポリゴン描画。6月20日にはPS3版のレンダリング部がベタ移植されました。その後、据え置き機版の開発で一時中断しますが、2010年10月1日にはゲームが初めて動作。ところが、ここからが苦労の連続でした。なにしろ、この段階では起動に30秒かかり、少し動かせばメモリ不足が発生。フレームレートに至っては一桁台という有様だったからです。ここから約1年かけて最適化が行われたことになります。

この段階で「性能は未知数だが、据え置き機版と同じ絵が出せる」「メモリ量は十分に多い」「開発環境に違和感はない」ことがわかりましたが、足踏み状態が続きました。ボトルネックになったのはCPUまわりの処理で、おおよその性能がわかるまでに数ヶ月が費やされることに。ローンチタイトルならではの問題にぶつかったのです。

それでも「最大解像度で、有機ELの美麗なグラフィックを押し出す」「マルチサンプルアンチエイリアシング(MSAA)処理は4倍」「フレームレートは可変処理で、処理オチしたら描画スキップ」という方針が立てられました。繰り返しますがフレームレートが一桁台で、CPUがボトルネックとなったため、最終形のイメージがつかめなかったのです。また「テニスゲームは画面が動かないので、スクリーンショットや止め絵の美麗さが商品力につながる」という事情もありました。

■プログラマとアーティストが一丸となって最適化を推進
最適化のポイントとなったのは、CPUとGPUの双方の処理削減と、両者の同期処理です。中でもGPUに比べてCPUの処理はスキップできなかったため、いかにCPU側の処理を60FPS可能な速度にするかが鍵を握りました。CPU側の解析が進むにつれ、徐々に最適化の処理も進行。具体的には▽スキニングをGPUの頂点シェーダに移動▽布や髪などのアニメーションを減らす▽ドローコール(描画呼び出し命令)あたりの負荷削減▽スタジアムのデータを分割して描画を簡略化▽UI(ユーザー・インターフェース)描画システムの改善▽プログラム処理のマルチスレッド化(スレッドプールによる並列化)▽テクスチャの並び替えなどでロード時間を最適化――などです。

中でも据え置き機版はマルチプラットフォーム開発だったこともあり、シングルコアしか使われていませんでした。これがVita版では4つあるCPUコアを最大限に生かすため、マルチスレッド化を選択。ゲームの土台部分が大改造され、2つのコアがスレッドプール専用に確保されることになりました。また社内のUIライブラリが据え置き機向けの作りになっており、処理が重かったため、こちらも全面改定。試合中の点数表示などで、板ポリゴンにテクスチャを貼り付けて描画するなど、ダイレクトな処理が行われました。「今から作るなら軽量なシステムを別に作ります」(平山氏)。

一方GPU側の処理で問題となったのが、ピクセルあたりの処理削減でした。「フル解像度をやめる」という選択肢もあり得ましたが、前述の通り静止画の画質が重要視されたことと、長い間CPUがボトルネックだったので、開発スタッフがフル解像度のグラフィックに見慣れてしまい、解像度を下げる気にならなかったそうです(最終解像度を落とせば、UIまで劣化してしまう問題もありました)。平山氏は「アーティストによる、ピクセルごとの気の遠くなるような最適化が行われた」と説明。動くまでは早いが、据え置き機のベタ移植では話にならない。使い方次第で大きな差が出るGPUだと語りました。

ここからスピーカーは鈴木氏にバトンタッチして、GPU側の具体的な処理に入りました。中でも時間を多く割いて説明されたのが、影の処理です。まずシーンの構成を簡略化して、ゲーム中のポストエフェクトを無効化し、影のみをレンダーターゲット経由で描画するようにしました。また光源を固定すると共に▽選手が選手に落とす影▽背景が選手に落とす影▽選手が背景に落とす影▽背景が背景に落とす影――の4つに分類し、それぞれに異なる処理がほどこされました。このほかバックバッファの描画が最適化され、▽シェーダの軽量化▽UIの軽量化▽超点数の削減▽カテゴリでソートを行う▽できるだけカリングをほどこす――などの処理が行われました。

平山氏は講演のまとめとして、「最適化を行うには『原因を特定』『修正』『効果検証』のステップを踏むのが正しいが、高度に並列処理が行われている場合は、原因特定が困難」だと説明。測定自体にもそれなりの時間が必要で、作業が自己満足化する恐れも否定できないとしました。それよりもアーキテクチャがわかっていれば、そこから推測して何らかの修正策は思いつくはずとして「半ばノリと勘で作業を進めた」とあかしました。当初は未知数だったフレームレートの目標値も、ゲーム中の描画速度が30FPSを越えたあたりから、どんどん作業が楽しくなっていったそうです。

もっとも、その結果「正直何が効いたか良くわからず、いつ60FPSに達成したかすら覚えていない」と述懐しました。「正直しんどかったので、もっと欧米スタイルの合理的な開発手法を見習いたいですね」(平山氏)

また今からVita向けの開発を行うなら、性能解析ツールが充実してきたため、シーンごと、シェーダごと、素材ごとなどに分けて、もう少し賢く最適化作業ができると補足しました。ハードウェアの性質がかなり解明されたので、それを前提とした絵作りの設計ができますし、ライブラリ層のAPIを設計し直すことも可能になります。「もっとも逆に言えば、Vitaはこうした処理なしでも、ここまで達成できるポテンシャルを秘めたハードだった、ということですね」(平山氏)

(C) SEGA.
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《小野憲史》
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