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【CEDEC 2012】ストリートファイター×アジャイルで直接対決×鉄拳

CEDEC2012最終日の8月22日には、株式会社バンダイナムコスタジオと株式会社ディンプスによる合同セッション「ストリートファイター×アジャイルで直接対決×鉄拳」が行われました。

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CEDEC2012最終日の8月22日には、株式会社バンダイナムコスタジオと株式会社ディンプスによる合同セッション「ストリートファイター×アジャイルで直接対決×鉄拳」が行われました。

それぞれ『鉄拳タッグトーナメント2』(以下、鉄拳TAG2)と『ストリートファイター X 鉄拳』と大規模な格闘ゲームを開発しているスタジオであり、アジャイル開発手法における「スクラム」を導入した開発事例が紹介されました。

前半はバンダイナムコスタジオのリードプログラマの堂前嘉樹氏と松丸友和氏が、『鉄拳TAG2』におけるスクラム開発の事例を紹介しました。『鉄拳TAG2』は業務用がアーケードで稼働しており、今年の9月にXbox360及びPS3の家庭用版がリリースされる予定です。

まず『鉄拳TAG2』のスクラム開発の事例を紹介する前に、開発が混迷を極めた「暗黒期」とされる『鉄拳6』について振り返られました。『鉄拳6』の開発の段階では、アジャイルの手法は取り入れられておらず、プログラマの各セクションでそれぞれの班が個別に開発を行なっておりました。そのため、極端なコミュニケーション不足が発生し、他の部所の開発状況の「見えない化」が発生。結果的に納期に間に合わず、他のプロジェクトから大量のヘルプが投入され、プログラマだけで総勢39名もの人員がさかれました。

このように過酷な開発状況でなんとか『鉄拳6』はリリースされたものの、次のプロジェクトである『鉄拳TAG2』ではプロジェクト参加者の半数以上が抜けてしまいました。この状況を見て、堂前氏は「このチーム運営はまずい」という空気を感じ、業務用『鉄拳TAG2』の開発にスクラムを導入することを模索したと言います。

次に堂前氏は簡単にスクラム開発の概要を述べました。スクラムとは、小規模なアジャイル開発手法の1つです。製品の総責任者であり顧客の代表の役割を担う「プロダクトオーナー」を1人、スクラムの開発状況を監督し、チームのファシリテートを行ない、プロジェクト外部からの妨害を防ぐ「スクラムマスター」を1人配置し、後は5から9名の小規模なチームを率いて開発を行ないます。

実際のプロジェクトでは、1から4週間の「スプリント」と呼ばれる短期間で、「スプリントバックログ」で決定された製品の仕様を実現します。スプリントではまずプランニングで実装する機能を決定後、毎日開催する15分程度の「スクラム会議」とともに開発を行ない、スプリントの終わりにはスプリントで開発されたソフトのレビューが行われます。さらにスプリント全体の運営を「ふりかえり(レトロスペクティブ)」という形で見直します。またスクラムバックログとは別に、製品全体の仕様を起こした「プロダクトバックログ」が作成され、それに従って個々のスプリントで開発する機能などを決定します。

業務用『鉄拳TAG2』の開発では、スクラム開発を拡張し、最終的に10~12人のチームで開発を行いました。バックログはEXCELで管理、毎日の会議、レビュー会、ふりかえり会も行ないました。描画班である堂前氏のチームは、タスクをかんばん方式で管理、付箋紙を用いることで柔軟かつ視認性を高めました。その結果、お互いの作業把握が円滑に行われ『鉄拳6』の開発に比べ、スタッフの話し合いが活発になり、プロジェクト離脱者も少ないままに無事に開発を終えることができたと、堂前氏は振り返りました。

次に家庭用『鉄拳TAG2』のスクラム開発の事例が紹介されました。業務用の開発において、堂前氏の描画班がかんばん方式のタスク管理を行なっているのを参考に、プランナーやアーティストにもスクラム開発の説明を行ない、よりプロジェクト全体にスクラムを導入しました。そして、スクラムの研修を受けた堂前氏、松丸氏が「認定スクラムマスター」となり、堂前氏が6名の描画班、松丸氏がシステム班、バトル班、通信班の11名のチームのファシリテートを行ないました。

タスク管理などは、前回と同じく付箋紙とかんばんで行ないました。また当初は、それぞれの4つの班がバラバラにスプリントの期間を決定していましたが、終盤になり、同じタイミングでスプリントを行なうように調整しました。そうすることで、スプリントのプランニングとレビューを合同で行なうことが可能になったといいます。しかしながら、それぞれの班のスケジュールにズレが発生したため、スプリントの期間の終盤に班のリーダーとプロダクトオーナーが集まり、バックログを確認しあうミィーティングをさらに設けました。

タスク管理において付箋紙を利用したメリットとして、EXCELなどを用いるよりも並べ替えが劇的に容易であること、誰でも追加可能であることなどが挙げられました。またタスクの大きさの把握は、仕様が明確ではないものに関しても、ザックリとした値で見積もることが有効であったと振り返りました。

しかしながら、実装する仕様が完全に出そろうと、タスクのサイズが膨大であることが判明し、結果として18名ものヘルプを投入されるなど、まだまだ反省点は多いようです。またプロダクトバックログが電子化されていなかったため、バックログの残量を把握する「リリース・バーンダウンチャート」を用意できなかった点に関しては、他の部所にバックログの電子化を頼む、アナログなタスクボードで毎日、タスクの残量を反映させるなどの方法で補ったといいます。

最後に家庭用『鉄拳TAG2』の開発は比較的うまく行えたと全体が総括され、スピーカーが交代し、ディンプスによる『ストリートファイター X 鉄拳』(以下、ストX鉄拳)におけるスクラム開発の事例の説明に移りました。

ディンプスのテクニカルディレクタ、田口昌宏氏は認定スクラムマスターであり、これまでもCEDECにおいてスクラム開発の導入事例を紹介してきました。『ストX鉄拳』においても、スプリントの期間を2週間に設定、紙を使ったタスクボード、毎日の朝会、プランニングとレビューとふりかえりなど、スクラム開発を実践しました。さらに、ディンプスはこれまでのスクラム開発の経験を生かし、様々な工夫点を説明しました。

まず毎日行なわれる短時間の朝会について、毎日行なうため、簡素で形式的なものになりがちであると指摘しました。そのため、朝会においてチームの代表者の1人が、残タスクの見積り時間をアナログのグラフで設定するバーンダウンチャートを付けるようにしました。その結果、スタッフはプロジェクトに対する当事者意識が高まり、コミットメントが強くなったといいます。またこのバーンダウンチャートを決定する当番を、簡単なゲームで決定するといったゲーミフィケーションを取り入れた工夫を行ないました。

さらに紙を利用したタスク管理やストーリーの構築のデメリットとして、ログが残しにくい点を、SHOT NOTEなどの紙データをデジタル化するメモ帳を利用して解決しました。その結果、柔軟なアナログ的タスク管理と堅牢なデジタルによるログの収集を両立が可能になったといいます。

また、ふりかえりに関しても、形式的なものになり、軽視される傾向があることを指摘しました。ふりかえりを効果的に行なうことで、チーム全体の改善が可能であるため、KPT法などを導入しました。KPT法とは、スプリントのふりかえりにおいて、「次でもやりたいこと」、「問題があったのでやめるか改善したいこと」、「次に挑戦してみたいこと」の三点をKEEP、PROBLEM、TRYという項目で挙げる方法です。この方法のメリットは、シンプルかつチーム全体で参加、共有が可能な点にあります。

ディンプスでは、さらにこのKPT法をよりシンプルにして、「よかったこと」と「わるかったこと」の二点をチーム全体で出し合うという方法も試したといいます。またKPTに「次のスプリントでやること」のTODOを入れたKPTT(けぷとつー)という方法も試しました。そして、ふりかえりは形式的なものになりがちであるため、毎回バリエーションを変えてマンネリ化を防ぐことが強調されました。またふりかえりの時間短縮のため、改善点の決定では、ボードゲームのチップを使うなど、ディンプスではスクラム開発の方法論にゲーミフィケーションを導入する試行錯誤がなされているようです。

さらにタスクが終了したことを示す「Done」の定義の見直しもされました。以前は、このDoneの定義が曖昧であったため、スプリント毎にバグが積み重なることが多く、デバック時期に作業量の負担が大きくなったといいます。そのため、Doneの定義をスプリントのレビューで「動く!落ちない!止まらない!」とはっきりと定義しました。この定義は意図的に低い見積りがされていますが、スケジュールに余裕があれば拡張するものと考え、できるかぎりDoneについての意識をチーム内で統一することに主眼を当てたそうです。

またソースコードのビルド時にエラーが発生するとパトランプが点灯する装置などを作り、チームのコミットメントを強めたり、不具合件数を可視化したりなど品質管理の面における工夫も行ないました。さらにバグ修正時の問題として、改善点が人に割り振られることで、チーム内の共有がなされず、作業が特定の人に偏ったことが報告されました。それを改善するため、1週間という短期のバグ修正のスプリントを行い、効率化を達成したといいます。

ディンプスの報告の最後には、田口氏によって関西圏でのアジャイル開発方法の勉強会などの活動が紹介されました。スクラム開発はまだ日本では導入されたばかりであるため、定期的な勉強会などで、スクラムマスター同士が相談できる仲間を増やすことが重要であることが強調されました。ディンプス社内では、スクラムの普及のために講習会やワークショップなどを積極的に行なっています。その結果、社内の理解が得やすくなり、総務部の人にも「スクラム開発」という言葉が定着したといいます。副次的にスクラムで利用する付箋紙などの予算が通りやすくなったといいます。いずれにせよ、田口氏はスクラム開発を強制的に社内に導入することは無理があるため、徐々に興味を持ってもらい、社内において理解を高める必要性を強く訴えました。

バンダイナムコスタジオとディンプス両者の報告の後、お互いの事例を比較してディスカッションが行われました。『ストX鉄拳』の開発に比べると、『鉄拳TAG2』ではプロダクトオーナーの数が多いこと、レビューの所要時間が長いことなどが目立ちました。ディンプスでは、レビューはざっくり行ない、その後、自由に試遊台で遊ぶなどといった工夫をすることで、効率化を行なっていることが報告されました。

バンダイナムコスタジオでは、アジャイルは導入したばかりで、現在はプログラマチームでしか行なっていないが、今後は他のスタッフにも浸透させていくという展望が語られました。その一方、アジャイル開発は確立されたやり方だが、その方法論に固執することは避けたいとも述べられました。

他方、ディンプスからは、今後アジャイル開発をよりスタッフ一人ひとりに浸透させ、自己組織化を促すことで、スクラムマスターはより裏方に徹する方向で努力したいと述べられました。
《今井晋》
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