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【CEDEC 2013】勝つべくして勝つ企画書を作る方法を伝授!アシスタントからディレクターになるために

新卒採用でせっかく若手を獲っても歯が抜けるように辞めていってしまう。これは人気業種であるゲーム業界でも変わらないようです。

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新卒採用でせっかく若手を獲っても歯が抜けるように辞めていってしまう。これは人気業種であるゲーム業界でも変わらないようです。セガで『ソウル・サーファー』(AC)『機動戦士ガンダム 0078 カードビルダー』(AC)『源平大戦絵巻』(iOS)などを開発してきた平魯隆導氏は企画マンの後進を育てる立場にあり、こうした姿に危機感を持ち、そのやり方を改善してきました。CEDEC最終日に行われた「勝つべくして勝つための企画書作成テクニック ~百戦錬磨の企画マンになるために~」は大ホールが聴衆で埋まりました。

同社の場合、企画職で入社すると最初はアシスタントとしてディレクターの下で「資料リサーチ」「仕様書作成」「デバッグ」「バランス調整」などの仕事に就きながら自分の企画を暖めていくことになるそうですが、そこに至らず疲弊で抜けていってしまう人が多いそうです。無論アシスタントという仕事も得られるものが少ないわけではありません。しかし「成長曲線という意味では徐々に下がっていくことになります。若い時間を便利屋で過ごしてしまうのはかなりの損失です。早くディレクターになって360度の視野で仕事をするべきなんです」と平魯氏は話します。

「転職会社と話すと、"20代は若さでいける、30代は実績が必要だ"と言います。つまり何を作ったか、です。"名刺代わりの一本"を早く持たせるという観点で後進育成に励んでいます」

ディレクターになり"名刺代わりの一本"を持つためには自分の企画を通さなくてはなりません。どうやったら、上司をYESと言わせる企画を作ることができるのか。それが講演の趣旨です。

■負けない企画書とは

最初に平魯氏は「負ける企画書」の例を挙げました。

・回転寿司をゲーム化 カジュアルスピード仕分けゲーム
・3D立体視技術でプシャーフィールドに進撃の絶望世界を再現
・ARで着せ替え可能なプリクラマシーン
・最大4人で同時プレイ可能なミニゲーム集
・ご当地マスコットキャラを育成! コレクション&バトルがアツい!!

といったものです。平魯氏はこれらは「遊びの説明を行ったに過ぎず、コンセプトではなく概要説明に過ぎない」と指摘。遊び方や技術を説明しているだけで、なぜ人々が遊んでくれるのか、売れるのかが暗示(明示)されていないと言います。

そして企画書に対するよくあるダメ出し「この技術、コスト高くて無理じゃない?」「この技術、実用性低いでしょ?」「このキャラ、本当に人気あるの?」「この世界観、よく分からないんだが?」「他と何が違うの?」といった言葉の直撃を受けることになると言います。企画の根幹が否定されてしまうと再起不能です。この遊びが面白いと企画書を書いたのに、それが否定されては挽回の余地がありません。

平魯氏はこうした企画書は「思い付いたゲームギミックから膨らませていくことによって生まれる」と言います。根幹となる遊びに様々な要素を付け加えていくことで(つい不安になって、と平魯氏は説明)、あらゆる要素のてんこ盛りとなり、「おまえのやりたい企画は何なのか」と言われる企画書になるのです。それは遊ぶお客さんの姿がイメージできない企画書でもあります。そうしたものに投資する会社はあるでしょうか。

平魯氏は「逆算の企画立案」をする必要があると話します。一番最初に考えるべきは枝葉末節のギミックではなく、"どういう社会現象を起こしたいのか"という、そのゲームが生まれることによって変わる世界です。アプローチは幾つかありそうです。

・生活習慣の変化
・人の回遊ルートの変化
・人のつながり方の変化
・人の集まる空間の変化
・ゲームの遊ばれ方の変化

具体的に平魯氏が手掛けてきた作品のコンセプトを見ると分かり易いでしょう。ちなみに、処女作の『ソウル・サーファー』は入社1年目に企画を出し、翌年からディレクターとして制作に携わったものだそうです。

・『百鬼大戦絵巻』・・・お爺ちゃんが孫と一緒に遊ぶビデオゲームを作る
・『ガンダムカードビルダー』・・・ガンダムが共通言語の集い場を作る
・『ソウル・サーファー』・・・運動音痴でもカッコイイ自分になれる

ゲームが達成したい大枠のフレームワークから考え、それを達するために必要な要素をピースとして当てはめていくわけです。その要素を必然性のあるもので埋めていけば成功確率は上がっていきます。「ギミックからスタートするとそのアイデアに固執することになりますが、ゴール以外を決めなければアイデアに縛られずに自由になれます」

平魯氏はこの手法の良い点について「大ヒットするかは運の要素もありますが、明確にターゲットを見据えて作っているので、少なくともターゲットの心にはしっかり刺さるものにできます」とコメント。また、「この手法で作ったコンセプトは否定がしようもない」とも話しました。

この手法のトレーニングには、社会現象を起こしたものについて"なぜ、そうなったのか"と分解して、それが登場することによってどのようにして社会が変化したか、常に考えるということが必要で、部下にも奨励しているそうです。

■変わるべきは企画を見る側

最後のパートは企画者ではなく、その企画書を書かせる立場に向けたものでした。平魯氏は、通常業務で忙しいアシスタントにいきなり企画書を書かせて、内容を否定して挫折させるようなやり方はすべきでないと呼びかけました。部下と上司はボクサーとトレーナーの関係であり、二人三脚で取り組むべきだと言います。

企画書は

(1)コンセプトメイク→文字だけで未来を予告
(2)ブレスト→人を集めて選択肢を集める
(3)パッケージング→マッチするピースを選ぶ

(4)台割作成→どういう順番で何ページ使うか決定
(5)文字稿&字コンテ作成→初めて筆入れ
(6)グラフィック挿入→ここで初めて画像挿入

という流れで行い、付き添いながら段階を追ってディティールに落としこんでいく作業が必要だと言います。一気に書くとどうしてもリテイクが発生してしまいますが、順を追っていけば修正があっても傷口が浅くて済みます。企画書は中身こそが大事なのであって、見た目だけ綺麗で中身の無い企画書が出来てしまうことも防げます。

上司はどこまでやるべきか?という問いに対しては「アイデアはどこまででも付き合う。でも押し付けがましくしないこと」との解答。上司と部下という関係ではなく、後輩と一緒に戦う姿勢でなければ駄目だと平魯氏は強調しました。「トレーナー側のウエイトも重くなり、技量も問われます。見る側は特権階級じゃありません、見る側も問われ大変です。でも、それが必要なんです」

どの企業も人材を育てる余裕を失い、育つ人間を求める傾向が強まっている昨今ですが、そうは言っても適切なサポートが無ければ伸びる人間も伸びないのも事実。若手アシスタントが使い潰されていく光景を見る度、心をいためてきたという平魯氏の話しは柔らかい口調ながら迫力があり、会場に詰めかけた多くの聴衆は多くの物を持ち帰ったように見えました。
《土本学》
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