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■本物の戦車を見に行こう!
2014年4月初旬。戦車戦MMO『World of Tanks』(以下、WoT)を運営する、ウォーゲーミングジャパン主催の「Wargaming Japan ミリタリーバスツアー in 土浦駐屯地」が実施されました。このイベントは抽選で選ばれた約30名が参加した駐屯地見学ツアーです。目的地である茨城県の陸上自衛隊土浦駐屯地には、戦後自衛隊が運用した各種戦車が展示されています。
このツアーの集合場所は一昨年10月に復元工事が完了した東京駅前。快晴ではあるものの、まだ冬の寒さが残る朝8時後半からツアー参加者が続々到着し、今か今かと出発の時を待ちわびていました。また、ツアー参加者がバスに搭乗する前に、Wargaming.netのロゴが入ったパーカーがプレゼントとして配られました。
太陽が上へ昇り始めた9時過ぎに、『WoT』ユーザー約30人を乗せたバスは土浦に向け出発。車内では各ユーザーの自己紹介が行われました。その中には、はるばる遠方の青森から来たユーザーの他にも、女性ユーザーや、愛知から来たクランメンバーなど様々。好きな戦車や主に使用している車両について話しながら進んでいきます。
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途中、車内でのジャンケン大会や、サービスエリアで休憩を挟み、一同は茨城県にある土浦駐屯地へ。片道約2時間をかけ目的地へ到着します。駐車場でバスを降りた後、集合地点へ向かいます。その入り口には満開に咲き乱れた桜の木々と、数々の車両が出迎えてくれました。
その車両達は90式戦車を筆頭に、74式戦車、61式戦車、60式自走無反動砲、M4A3シャーマンE8など数え上げればキリがありません。この日は土浦駐屯地の一般開放日なので、家族連れなど様々な人が訪れていました。集合地点(ラリーポイント)を確保し、各参加者がいったん落ち着いた後。ウォーゲーミングジャパンのミリタリーアドバイザー、宮永忠将氏によるミニツアーが開始しました。このミニツアーは午前/午後と分かれており、参加したのは午前のグループです。
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■宮永忠将氏による車両解説
●60式自走無反動砲
はじめに宮永氏が向かったのは60式自走106mm無反動砲。この車両は陸上自衛隊の発足後、一番初めに開発された対戦車車両です。2丁の106mm無反動砲を装備したかなり小型の車両です。待ち伏せ戦術を取り、攻撃時は無反動砲部分を上昇させて投影面積を最小限にして射撃するという特徴を持っています。
また、この車両は銃身があがった状態で展示されており、かなり近くに寄って見ることが出来ます。普通の大砲と無反動砲の大きな違いは、その反動です。無反動砲は、砲弾発射時に発生するガスなどを利用して後方へ反作用を作り出し、衝撃を相殺させます(完全に相殺される訳ではない)。しかし、その強烈な爆炎のために敵に発見されやすいというリスクがあり、攻撃の際は直ちに場所を移して再装填後再び待ち伏せるという戦術がとられます。乗員数は3名、開発時にはSS(装軌装甲、Soki-Sokoの頭文字をとって)と呼ばれました。
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●唯一現存する三式中戦車チヌ
続いてチヌ車の解説に移ります。並べられた他の車両とは反対側に設置されており、火砲館の隣に展示されています。八九式戦車がレストアされる前は隣同士に並べられていました。本車両は当時のまま保存されているため、転輪部分のゴムには“横浜ゴム”のタイヤが装着されています。このチヌ車には九〇式野砲を改修した、三式七糎半戦車砲が装備されています。『World of Tanks』では日本ツリーのTier Vにある車両です。一番目立つのは75mm砲。当時、ドイツの戦車開発/運用に多大な影響を受けていた日本は、ティーガー戦車やパンター戦車などの、高射砲を改造した88mm砲や75mm戦車砲を持つ車両の出現に感化されています。
高初速、大口径の対空砲は貫通力に優れるため、対戦車用に転用するにはいいものの、日本が当時持っていた対空砲はリコイルがとても長大で小型化するのが難しく、反動の比較的小さい砲を探して九〇式野砲に目を付けます。それでも反動を抑制する駐退機の小型化が当時の日本では難しかったため、結果チヌ車に搭載された砲の駐退機は、砲塔から飛び出した形となっています(砲身の下半分についている物が駐退機)。また砲塔がバスケット化されていないなどの話をした後、宮永氏は車両内部の写真を取り出しました。車内に入るための許可をとって写真を撮影したとのことです。統制型一○○式12気筒空冷ディーゼルエンジンが残っている姿について解説しました。砲塔内部に入り込んだ際は鉄錆びの臭いが凄まじく、調査する際は大変だったとのこと。
戦後、この戦車の一両はアメリカに送られて射撃実験に使われました。以前は噂に過ぎませんでしたが、この実験時の写真を持っている人が先日現れました。しかし、その写真をなかなか提供してくれないとのことです。また、車体の幅は日本の鉄道輸送に合わせて設計されているため、攻撃面の強弱だけでなく輸送など運用全体を考察する必要があると話しました。
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●展示車両の解説 ― M24チャーフィーから、90式戦車まで
そして桜の木々と共に並んでいる野砲と車両の解説へと進みます。ここには自衛隊がかつて運用した軽戦車M24チャーフィーやM4A3シャーマンE8など、『World of Tanks』で登場した車両がいくつか展示されています。野砲の簡単な解説を行った後、『World of Tanks』ではアメリカツリーTier 5に当たる車両M24チャーフィーを紹介。この戦車は映画「レマゲン鉄橋」の冒頭に登場します。
続いてTier VIに相当するM4A3シャーマンE8を解説。この展示車両は後期生産型です。M4シャーマンは大まかに分けると5種類あり、無印のM4からA4まであります。生産工場によって微妙な違いがあり、似通った形状でも間近で観察すると多くの違いがあることが分かります。M4A3E8(通称、イージーエイト)はM4シリーズの最終型で、車体や砲塔の各部分が改修されています。また、隣のM36ジャクソンも解説しました。国内にあるM36ジャクソンはある程度特殊な改修をされているらしく、これを見たいという外国人も多いとのこと。
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自衛隊の各支援車両を解説した後、日本ツリーTier 9相当の61式戦車に移りました。日本が戦後本格的に実戦配備した戦車で、映画では東宝の怪獣映画シリーズに数多く出演しています。
続いて、油気圧サスペンションなど多くの機能を備えた74式戦車を解説。本車両は『World of Tanks』には登場しませんが、その試作車であるSTB-1がTier 10に登場しています。正面から見ると、105mm砲を搭載した戦車の中では車体の大きさに比べて砲塔がコンパクトにまとまっていることがよくわかると、宮永氏は解説しました。74式戦車は山岳地帯の多い日本の国土に合わせて待ち伏せ戦術を取りやすいよう、車体を油圧によって上下左右に傾けることが出来ます。
74式戦車は多くの改修がなされたことでも有名で、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)が射撃可能になったB型や、サーマルスリーブを装備したD型。そしてパッシブ暗視装置などを備え、4両改修された最終型のG型など様々です。また現在でも運用されており、今年1月から2月には北米でCombat Training Center訓練にも参加しています。しかし、生産からかなりの年月が経っているため、10式戦車や機動戦闘車への更新と共に74式戦車が退役する日は近いとのことです。
ここで宮永氏が『World of Tanks』でSTB-1を使用しているユーザーがいるか尋ねたところ、アジアサーバーでトップを取ったユーザーが名乗り出ました。彼に使い心地を聞いたところ、優良な足回りや俯角がハルダウン時の戦闘にとても有効で、105mm砲なので貫通力も高いとの回答でした。起伏が激しい地形だと強いが、撃たれ弱いため平原などは難しいと語りました。
そして宮永氏は最後に90式戦車を解説。本車の調達量や国際情勢について解説し、このツアーは終了しました。
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この後お昼休憩を挟み、ユーザー同士の様々な情報共有や、戦車トークなどに花を咲かせていました。途中、ロシアから訪れたユーザーとの記念撮影もありました。各自昼食を済ませたあと、午後のツアーに参加するユーザーは、宮永氏と共に戦車へ再び向かいました。
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中には「正解:『コロンビア』」ネタを披露する、お茶目なユーザーも
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またこのツアーに参加した女性ユーザーと男性ユーザーにインタビューを行いました。
●『World of Tanks』をプレイし始めたきっかけ
――『World of Tanks』をプレイしたきっかけを教えてください。
女性ユーザー: アニメ「ガールズ&パンツァー」を観て戦車がカッコイイと思い、始めてみました。
――初めてプレイした時期はいつですか?
女性ユーザー: アニメが放送終了した時期から始めました。ちょうど2年ぐらい前です。
――2年ぐらい前となると、現在プレイ頻度はどの程度ですか?
女性ユーザー: 毎日プレイしているわけではありませんが、定期的に遊んでいます。
――ちなみに現在のTierはどれぐらいですか?
女性ユーザー: 現在、ドイツの駆逐戦車を使用していて、そろそろTier 6の四号駆逐戦車に到達する予定です。
――ありがとうございました。
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男性ユーザーはクランに所属しているということで、そのクランについても一言いただきました。
――『World of Tanks』を始めたきっかけを教えてください。
男性ユーザー: アニメ「ガールズ&パンツァー」を観たというのと、兵器とかミリタリー系が好きというのもありますね。
――プレイ期間は現在どれ位ですか?
男性ユーザー: 去年の5月から始めたので、もうじき1年ですね。
――ちなみに現在のTierはいくつですか?
男性ユーザー: 今は最大Tier10まで達しています。
――クランで活動中とのことですが、『World of Warplanes』など今後プレイする予定のタイトルとかありますか。
男性ユーザー: 『艦これ』ブームもあり、艦艇に注目しているので『World of Warships』がリリースされたら是非プレイしたいです。
――最後にクランについて何か一言お願いします。
男性ユーザー: 私達[CPHTB] colorpalette_第501重戦車大隊は、『World of Tanks』を楽しみたい戦車兵の方々を募集しています。Tierや戦績などは関係なく入隊を許可しているので、もしクランに入りたいという方がいましたらよろしくお願いします。
――ありがとうございました。
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そして午後3時には帰る準備に入り、参加したメディアを含めた全員による記念撮影を終えて帰路に着きました。帰りのバス内では『ガールズ&パンツァー』が上映されました。各戦車へ想いを寄せつつ東京へ帰りました。
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無事、都内に到着し、車内で放送してるガルパン海外版もエンディングを迎えました、にゃ。 #wotjp pic.twitter.com/CNiEi5bTOI
— ウォーゲーミングジャパン広報 (@wargamingjapan) 2014, 4月 5
土浦駐屯地は元々、海軍の水上機発着場として大正10年(1921年)に創設された駐屯地です。大正22年(1922年)には霞ヶ浦海軍航空隊 水上班が開設されています。昭和14年(1939年)には横須賀(神奈川)から予科練習部が移設され、昭和15年(1940年)には土浦海軍航空隊に改称されます。
戦後、この駐屯地は米軍が接収。朝鮮戦争によって警察予備隊が発足した後、昭和27年(1952年)に総体武器学校が立川駐屯地(東京)で創設され、土浦駐屯地(茨城)へ移駐されました。そして陸上自衛隊発足に伴い、この駐屯地は陸上自衛隊武器学校へ改称されたという歴史を持っています。武器学校では、兵站や運用教育、各種装備品などの整備員を養成する整備教育などが実施されています。そのため、この駐屯地には自衛隊が運用した様々な戦車や装甲車、自走砲、小火器などが展示されています。