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『ガンダムUC』の始まりから終わりまで 古橋一浩監督、小形尚弘プロデューサーインタビュー(前編)

『機動戦士ガンダムUC』episode 7 「虹の彼方に」が5月17日からスタートした。古橋一浩監督、そしてサンライズ小形尚弘プロデューサーに『機動戦士ガンダムUC』について伺った。

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『機動戦士ガンダムUC』episode 7 「虹の彼方に」が2014年5月17日から、【イベント上映】【Blu-ray 先行販売】【先行有料配信】で同時スタートした。本作は2010年からスタートした、新たなる「宇宙世紀」を描いたシリーズの最終章となる。『ラプラスの箱』を巡る壮大な物語も、ここで決着を迎える。
このタイミングで、スタート以来、本作の制作に携わってきた古橋一浩監督、そしてサンライズ小形尚弘プロデューサーに『機動戦士ガンダムUC』について伺った。作品の始まりから、episode 7「虹の彼方に」までについて語っていただいた。

■ アニメ企画、始まりの頃

――『機動戦士ガンダムUC』に監督が関わったきっかけから教えていただけますか?

古橋一浩監督(以下古橋)
当時仕事をしていた吉祥寺のスタジオの机の上に『ガンダムUC』の小説の1、2巻が置いてありました。
で、国分寺の喫茶店で、小形プロデューサーからお話を聞かせていただきました。これが2008年の春先でした。

小形尚弘プロデューサー(以下小形)
6年くらい前『ガンダムUC』の監督を探していたのですが、福井(晴敏)さんの小説があり、それからアニメーションにするわけですので、翻案の理解度が高い監督、演出のかたを考えていました。
『ガンダム』に対するマニアックな部分は福井さんが消化されているので、逆に『ガンダム』に造詣が深いというよりはシナリオでフォローしていただける監督として候補を出させてもらったなかのひとりが古橋さんでした。
お会いして話をした時のことはよく覚えています。OVAということもあって、お客さんのターゲットを今までのアニメーションよりも上に絞りたい。そこに向けてつくりたいという話をしました。

――人気の高いOVA『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』を作られた古橋監督で、しかもガンダムシリーズですからファンの期待値はとても高かったと思います。プレッシャーは感じられましたか。

古橋
プレッシャーはなかったです。それは『るろうに剣心』の時も同じでした。
完全オリジナルだったらプレッシャーはあったかもしれませんね。でも小説があり、それをどう翻案するかなので、作り方で迷うことはないだろうって。

――小説を映像に落としていくのは、なかなか難しい作業だと思います。もちろん呎の長さが決まっていますし、OVAの本数も限りがありますが?

古橋 
1時間ドラマの作り方をしたいとかで、最初は1本40分くらいとの話だったよね。

小形
ガンダムのOVAを40分×4本制作するのがスタジオワークとしては限界だと思っていました。ただ当然、それでは収まりきりませんでした。

古橋 
TVの1時間枠だとCMがありますから、実際は40分ちょっとなんです。まずはその枠ありきでした。

――当初はこじんまりとはじまったプロジェクトとの印象があります。ここまで大きなシリーズになることは予想されていました?

古橋 
全く予想してないです。予知能力とか全然無いオールドタイプですから。

――6年間という時間は辛いものでしたか、それとも楽しいものでしたか?

古橋 
メカは面倒だし、設定は多いし、トラブル続くし、ひたすら辛かったです。

小形 
ところどころ楽しいところもありましたが、大体は辛いです。
毎回、できたときは一瞬楽しいんです。でも、すぐに次が始まっているので感慨深いものはなくそのまま次にいきました。

古橋 
ひとつ終わったら、もう次が押している。当初は1年に2本は死守しないとね、と話していましたから。

――6年間かけたものが、いま終わったのですが、ぽっかりと心のなかに穴が空いているということはありますか?

古橋 
いや全然。ストレスから解放されて太りました。

小形 
みんなに言われるんですけど、ないですよね(笑)。

古橋 
でも『ガンダムUC』に限らないけど、作り終わらない夢はずっと見るんです。やり残したことがボロボロ出てくるような。

――夢のなかではまだ作り続けていると。

古橋 
時間に追われ続ける仕事なんです、寝ても覚めても。

――プロデューサーも?

小形 
見ますよ。終わって1、2週間は。リテイクが直らない夢を…。

古橋 
原画マンだった昔の頃にも戻って見ますね。「あの作品打ち合わせやったけど、半年くらい手を付けていない、どうしよう?」そんな嫌な夢を延々と30年間見ていますから、いつもと同じです。(笑)

■ 繰り返して見られる作品とは?

――作品の話を伺わせてください。今回はまず『ガンダム』という枠があります。
しかも『ガンダムUC』では、この前の時代の宇宙世紀の話があり、さらに後ろの時代にも宇宙世紀の話があります。それに整合性をつけないといけない。さらにそこにオリジナリティを出さないといけないとしたら、どこでオリジナリティを出すべきと考えられますか?

古橋 
既に大長編とも言える小説がありますので、私としては取捨選択するのみです。残った要素で他のガンダムに無いモノが結果的にオリジナリティになるのかなと。

――『ガンダムUC』がほかの『ガンダム』と違うのは、「『ラプラスの箱』って何?」という謎が設定され、さらにバナージは誰? オードリーは誰? と次々と疑問が提示されるストーリー展開となっています。それは意識されていらっしゃったのですか?

古橋 
「謎解き」に関しては小説に準じつつも“思わせぶり”にならないように、力を入れない方針なんです。初見時しか機能しない演出は、繰り返し視聴が前提のOVAでは逆効果になりかねないから。

――監督にとって、何度見ても耐えうるものとは、何ですか?

古橋 
そうですね。生理的に生成されるものなら、効果は減じ難いと思います。メリハリのある動き、実感を伴った芝居や表情、肉声による感情の発露など、ザックリ言って気持ちの乗った表現が繋がっていくことかなぁ。音楽とのシンクロは最も効果的です。これらは右脳的なものですが、左脳に働きかける要素もあります。それは視点を変えること。
今回は“大人のガンダム”を謳ってることもあって、主人公ではなく周りの大人の目からバナージを視る見方が重要になります。episode 1ではカーディアス、episode 2ではハサン医師、episode 3はダグザ、 episode 4はジンネマン目線というように。それを可能にするために主人公にのみ感情移入させる演出も極力抑えてます。セオリーに逆行する危険な作劇ですが、今回は物理的にもあらゆるものを殺いでいくしかない状況でしたので。

――『機動戦士ガンダム』からの引用、あるいは後に続く『機動戦士ガンダムF91』からの引用などはどうでしょうか。

古橋 
映像的な部分ですか?

小形 
メカ部分では、玄馬(宣彦)さんが、かなりこだわってやりました。『機動戦士ガンダム』からの宇宙世紀の流れを、エフェクトひとつから完全に逸脱しないようにやっています。それはカトキ(ハジメ)さん、玄馬さんが担当しました。

古橋 
私もep 1で少しだけ。ギラ・ドーガの残骸をザクにしたり、ムサイを逆さまで見せたり。

小形 
episode 7冒頭7分で流れているバウの合体シーンも、『機動戦士ガンダムZZ』の合体シーンみたいな感じです。地続き感は出していると思いますが、ただそんなにオマージュらしさはだしてないですね。

■ バナージは成長しないキャラクター

――キャラクターについても伺わせてください。
まずバナージについてですが、バナージは普通の良い子ですね。

古橋 
はい。絵に描いたような優等生です(笑)。

――監督から見たバナージは、思い入れのあるキャラクターですか?

古橋 
それなりに。現実、身近にいてもウザくない頭も良くて皆に好かれるタイプ。で、青臭い中二(笑)。

――映像ではよりわかりやすい主人公になりました。

古橋 
ただ、若い人が感情移入できるかといえば、できないだろうなぁ。小説よりも表面的な描き方だから。先の理由もあり、共感のし所がない。でも、そこは内山(昂輝)君の声の存在感で補って余りある感じ。ホントにありがたかったです。

小形 
バナージはそんなに成長しないですからね。変わらないバナージを周りの大人たちが視て、どう思うのか、どういう行動を取るのか、という話にしています。

古橋 
それは、タペストリーにその役割が既に示されているように予定調和的立ち位置なんです。バナージは経験を積みますが、その芯は変わらない。その根っ子が、周りの大人に失ったものを思い起こさせてゆく。触媒的な存在ですね。

――フル・フロンタルはどうでしょうか? 小説より立ち位置を一歩踏み込んだ気がします。

古橋
超越的な存在であるという所は変わっていなくて、言うことも正論。計算高い所は有るけど、嘘偽りの無い人格者にはしたかったです。アンジェロが心酔してるわけですしね

――物語の根幹ですが、シャアだったのかシャアじゃなかったのか未だ判断しかねています。

古橋 
そこは断定せず、色んな解釈があって良いかと。私と福井さんの考えも違いますし、グレーゾーンでお願いします(笑)。
ただ、バナージを武力ではなく、理で説得する姿勢は一貫させていただきました。全く付け入る隙の無い全知全能に主人公は如何に対するのか、答のない命題を提出したかった由です。
池田(秀一)さんに演じていただくに相応しい、空(から)でも巨大な器に見えるようなアレンジを目指したのですが、クライマックスが左脳向けになる必然は、エンタメとしては反セオリーにて、大人向けにも程がある感じですが。

――印象的なキャラクターでは、リディはどうですか。

古橋 
ごく初期に、マリーダを撃たないプランも考えたのですが、今の形がベストでしたね。どん底まで堕ちてゲロッて恥ずかしい台詞を喋りまくる。もう清々しいまでの痛さ(笑)。でも、『NT-D』に乗っ取られた部分もあるし、許してあげましょう。バナージもギルボアさんを同じように溶かしましたから責められない。ネェル・アーガマのクルーはオットー以下、お人好しすぎですけどね(笑)。

――マリーダも良いポジションです。力が入っていて、物語を引っ張っています。

小形 
力は入っていると思います。最終章でマリーダ殺す、殺さないという話をふくめて、いろいろ話をしました。

古橋 
呎の問題もあり、あっさり目になってしまいました。ネェル・アーガマをかばってのことなんですが、150km離れてますのでそう見えないのですよ。運命受け容れ系の流れです。

――監督は、好きなキャラクターはいますか?

古橋 
ラー・カイラムのブリッジのオペ子(オペレーション担当)です。ep 4でちらっと出ただけですが。

後編に続く

『機動戦士ガンダムUC』
公式サイト http://www.gundam-unicorn.net

『機動戦士ガンダムUC』の始まりから終わりまで 古橋一浩監督、サンライズ小形尚弘プロデューサーインタビュー 前編

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