可愛らしいキャラクターに対しシリアスな世界観、「日常もの」に対するメタ的な視線など、本作は語りたくなる要素が満載である。そこで今回は、アニメ誌などで活躍するアニメライター4人による座談会を実施。本作の魅力、気になるポイントをたっぷりと語ってもらった。
[取材・構成=沖本茂義]
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■藤津 亮太(ふじつ・りょうた)
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ ゼロ年代アニメ時評』などがある。
■数土 直志(すど・ただし)
メキシコ生まれ。アニメ!アニメ!編集長。国内外の日本アニメ情報およびビジネスに関する取材・調査・執筆などを行う。
■宮 昌太朗(みや・しょうたろう)
1972年生まれ。石川県出身。アニメ・ゲーム専門誌やムックなどで原稿を執筆。著書に『田尻智 ポケモンを創った男』などがある。
■前田 久(まえだ・ひさし)
1982年生まれ。通称“前Q”。ライター。主な寄稿先に『月刊ニュータイプ』、『オトナアニメ』など。 共編著に『あかほりさとる全書』がある。
――『がっこうぐらし!』について、まず放映前の印象はいかがでしたか?
前田久氏(以下、前田):アニメ化が発表になったときには原作は未読だったんですけど、『まんがタイムきららフォワード』で原作マンガの連載が始まってすぐに、「“あの”ニトロプラスが、今度はきららで何かやらかしてるらしいよ」という噂は友達から聞いてて。だから、「お、また、心がぴょんぴょんしそうなアニメが始まるな~」みたいな感じではなかったですね。
藤津亮太氏(以下、藤津):僕は、まず原作マンガ読んで「あー、こういう仕掛けの作品か」と驚きつつ、映像に置き換えるのが難しい作品だなと。アニメでは“語りの水準”をどう設定するのか楽しみでしたね。
宮昌太朗氏(以下、宮):アニメ化すると聞いたときは、正直「どうなるんだろう?」と思いました。藤津さんがおっしゃったように、やはり原作がアニメ化にあたって配慮しなければいけないことが多い作品ですからね。演出家の力量がかなり試されるだろうなと思いました。
数土直志氏(以下、数土):原作を知っているほうがアニメを見るのが恐いなと。驚かされはしないんだけど、不穏な感じがしてヒヤヒヤする(笑)。
前田:分かります。最初から、画面の中にアブない気配を探してしまうというか(笑)。
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――実際に第1話を見てどうでしたか?
藤津:原作から時系列を大きく変更したり、仕掛けを活かすために映像の語り口を変えたりしていて、内容知っていても興味が持てるようになってるのは面白いなと思いました。
――第1話ラストのどんでん返しはかなり大きな反響となりましたね。
数土:「どんでん返し」自体はそんなに珍しくないわけですよ。TVアニメの代表では『海のトリトン』がそうだし、SF映画では『猿の惑星』もそう。ただ昔はラストにどんでん返しを持ってきていたんですが、最近ではド頭からひっくり返すものが多い。昨今はアニメコンテンツの消費速度が速いので、やっぱりツカミは大事なのでしょうね。
藤津:とくに近年はサプライズがあると“バズる”というのが分かっていますから。
前田:実際バズりましたよね。
――ネットの反響を見ていると『喰霊-零-』や『魔法少女まどか☆マギカ』を思い出しました。
前田:『喰霊-零-』や『まどか☆マギカ』は物語の展開がサプライズになっている。でも『がっこうぐらし!』は「語り口」でサプライズが仕掛けられていて、細かい点だけど、そこは違うかなと。アニメでこういう「叙述トリックもの」ってかなり珍しいような。
藤津:たしかに。実写映画ではたまにあるけど、アニメではあんまり見ませんね。
数土:最近はこういうトリッキーな作品をやりやすくなってる気はしますね。昔と比べるとキー局の初回放送からU局で放映されるまでの期間がすごく短くなっているので。
前田:3ヶ月分まとめておいてイッキ見したい作品もありますけど、この作品はむしろ毎週ちゃんと見たい作品ですよね。原作既読の人でも、アニメ独自の構成になっているから、どのタイミングで仕掛けをバラすのか気になっちゃういますし。
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――原作が存在しているのに「引っかかった!」という人が思いのほか多かった印象です。
宮:第1話の先行上映会にお邪魔したんですが、そのときにファンの間で「黙ってようね」という暗黙の了解が共有されているのかな、という気がしたんです。第1話放映前のツイッターを見てても、そんな気配があって(笑)。
藤津:この衝撃を同じように味わってもらいたい、と。
宮:そうなんです。「驚かされたから今度は驚かす側に回りたい」と。原作をすでに読んでいる人の間で、そういう空気があったのかな、と。もうひとつ、原作マンガの規模もちょうど良かったと思いますね。誰もが知っている超メジャー作品というわけではなかったので。