■窮地に陥っても屈しない、誇り高き男「岸辺露伴」
何かと問題行動が目立つ岸辺露伴ですが、こうした振る舞いを見せつつも凛々しい誇り高さを持ち、その一貫した人間性に類まれな魅力を感じさせる点にあります。
例えば「ジョジョの奇妙な冒険」の第4部で、敵対する噴上裕也の攻撃で窮地に追い込まれた際、露伴が見せた切り返しには彼らしい美学と格好良さが詰まっていました。
裕也と露伴の戦いはすでに決着がついており、露伴の命は風前の灯。ですが、そこに露伴の仲間である東方仗助がやってきたことで、事態が変化します。この時裕也は、仗助を罠にかけるため、露伴に「仗助を呼び寄せたら、お前の命は助ける」と提案しました。
露伴と仗助は仲間ではあるものの、考え方や反りはまったく合わず、たびたび衝突する犬猿の仲。互いに、相手を快くは思っていません。そんな関係性にある仗助と自分の命を天秤にかけた露伴は、本当に自分の命を助けてくれるのかと確認し、裕也は肯定します。
その直後、露伴が口にした言葉は──「だが断る」。
さらに「この岸辺露伴が最も好きな事のひとつは、自分で強いと思ってるやつに「NO」と断ってやる事だ…」と力強く断言し、裕也の誘いを一蹴しました。
この時、露伴に策があったわけではありません。自らの誇りを汚さず、そして仗助に逃げろと促す──自らの命を投げ出す覚悟で、まったく相容れない仗助の命を救おうとしただけでした。
仗助も、まさか露伴に助けられるとは思っておらず、驚きを隠せません。しかし、その覚悟を受け取った仗助の強固な意志が、最終的に裕也を討ち果たしました。露伴の誇り高い精神が仗助に勝利をもたらした、忘れ得ぬ一戦です。
■「よりよい漫画を描くため」という、揺るぎない価値観
露伴の魅力的な一面は「岸辺露伴は動かない」の作中でも多々描かれています。これは話の前振りでのやりとりですが、リゾート開発から山林を守る目的で、6つの山を買ったという話を露伴が語ります。
その甲斐あってリゾート計画を無事阻止できましたが、そのために露伴は財産のほぼ全てを投げ打つ結果となりました。しかも、開発により高値になっていた山々の土地価格は、計画の頓挫で下落し、資産価値は二束三文程度に。かろうじて借金こそしていませんが、露伴の経済状態は「破産」同然です。
露伴が全私財を投じた理由は、漫画の取材のため。「リアリティのある取材を行いたい」という理由だけで、その土地に残っている妖怪伝説を守るため、全財産を投げ出せる男──それが岸辺露伴なのです。
彼の倫理観や規範は、(最低限は守りますが)一般的な常識をあまり重視しません。それよりも、「素晴らしい漫画を描く」「それを読者に届ける」という自身の価値観を基準としており、その優先度が清々しいほど一貫しています。加えて、私腹を肥やすような世俗の欲望とはほとんど無縁なのも、漫画への一途さをより強く感じさせ、好感が持てる部分です。