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【CEDEC2007】社長一年生の松原氏によるコーエー丸の舵取りとは?

CEDEC二日目の27日、コーエーの松原健二社長は「コーエーの目指すエンターテインメントサービス戦略について」と題して基調講演を行い、同社の事業戦略について語った。

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CEDEC二日目の27日、コーエーの松原健二社長は「コーエーの目指すエンターテインメントサービス戦略について」と題して基調講演を行い、同社の事業戦略について語った。

コーエー 代表取締役執行役員社長COO 松原健二氏


コーエーは1978年に創業し、来年創立30周年を迎える古参メーカーの一つである。一方で松原氏が代表取締役執行役員社長COOとして経営の手綱を握るようになったのは、今年の6月からで、まだ3ヶ月と日が浅い。それまではオンラインビジネス担当執行役員として、『信長の野望Online』『大航海時代Online』『真・三國無双BB』などのタイトルのプロデュース業務に関わってきた。そんな松原氏が老舗のコーエー丸をどこに導こうとしているのか。新世代機に揺れるゲーム業界の現状とあわせて、興味深いセッションとなった。

コーエーの特徴を一言で表すと、「歴史モノに強い中堅パブリッシャー」となる。1978年に創業し、「信長の野望」「三國志」シリーズで大ヒットを記録して、歴史シミュレーションを中心に業績を拡大させてきた。転機となったのは2001年にPS2で発売された『真・三國無双』。「2」はコーエー初のミリオンセラーを記録し、タクティカルアクションが新たな事業の柱となった。さらに2003年からはオンラインゲーム事業にも本格参入し、松原氏を中心に第3の柱として成長させてきた。

「信長」「三國志」→「無双」→オンラインというゲーム展開


一方で国内市場の位置づけでは、2006年度は国内9位のセールスを記録。4位のポケモンと任天堂をまとめると、アーケードやゲーム機ビジネスを行わない、純粋なパブリッシャーとしては1位となる。これだけを見ると「中堅」などとは言えないが、連結売上高を見ると上位企業と比べて一桁少なく、大きな開きがある。しかも歴史モノが得意という特性上、販売が国内中心で海外市場が弱い。上位企業と互していくためには、さらなる成長戦略が必要というわけだ。松原氏も「昨年は勝ち組・負け組がはっきりした年だった。残念ながらコーエーは減収減益で負け組だった」と自己分析してみせた。

続いて松原氏は、Wii・PS3・Xbox360の新世代機を巡る現状を国内・海外の販売台数から俯瞰。Wiiが急成長しているが、海外ではXbox360がリードしており、PS2も現役ハードと、いまだ新世代機ビジネスは過渡期の状況にあると分析。かつてのPS2のように、単一ハードが世界中でトップシェアをとるような事態にはなっておらず、今後もシェアが変化していく流動的な市場であるとした。補足すれば国内では携帯機が据え置き機を凌駕しており、この点でも世界市場のモザイク化が進んでいるといえる。

またハード別のセールスランキングでは、DSはトップ10すべてを任天堂タイトルが占めており、圧倒的なブランド力の違いがあること。Wiiではサードパーティのタイトルも3本ランクインしているが、ミリオンソフトが2本のみで、ハードも普及期にあることから、まだこれからの市場であるとした。逆にPS3については、SCEタイトルが3本しかランクインしておらず、「開かれた市場」であるとしたが、1位のタイトルでも30万本程度で、先に発売された『ブレイドストーム』についても、まだまだ採算は難しいとコメント。さらなる普及に期待を寄せた。Xbox360のランキングについては語られなかったが、国内では推して知るべし、というところだろう。

(左)家庭用ゲーム機販売本数と連結決算額。中堅パブリッシャーという位置づけだ


DSとWiiのセールスランキング。共に任天堂タイトルが多い


PS3タイトルのセールスランキング。コーエー関連タイトルも2本ランクイン


ここからトピックはコーエーのめざす戦略へと移るが、各論の前に松原氏は「なぜ成長しなくてはならないのか?」について言及。同社の掲げる「世界の人々の心を豊かにする『世界No.1のエンターテインメント・コンテンツ・プロバイダー』になる」という目標はもちろんのこと、タイトル数を揃えていかなければ、今後のゲームビジネスで生き残れないという認識を示した。体力勝負が進む現状では、ポケモンのようにミラクルなキラーコンテンツがない限り、コーエーといえども数の論理で押しつぶされる危険性は拭いきれない、とする懸念も経営者としては当然かもしれない。

その上で松原氏は「挑戦」「収支」「改革」という3つの事業ポートフォリオに基づいてゲームソフトを開発していく姿勢を示した。「挑戦」とは新世代機向けのタイトルで、フラグシップタイトルの開発。「収支」とは人気シリーズの新作で、収益の基盤となる分野。「改革」とは既存シリーズでマンネリ化が進んでおり、てこ入れが必要なもの。これらを総合して、グロスで業績を拡大させようというわけだ。またマルチプラットフォーム戦略についても、より一層力を入れていく姿勢を示した。

また「新世代機はコストがかさむと思われているが、本当にそうなのか?」と問題提起。新聞紙上ではPS2に比べてPS3では開発費が20倍も増大すると報じられているが、同社のタイトルで開発工数を比較すると、2倍程度に落ち着いたと述べた。新世代機になったことで企画とプログラムは倍になっているが、CGについてはそれほど増加しておらず、外注分を含めても約2倍程度だという。松原氏は「同じシリーズではないので、単純比較はできない」と前置きしつつも、「PS3版では工数が上がらないように作った点が大きい」として、開発の工夫でコストは圧縮できるとコメント。そのためにも開発環境の整備やミドルウェアの導入などを積極的に行っていき、従来の開発工程の中でボトルネックを解消して、効率を上げていくとした。開発工数とコストが比例するのは言うまでもない。ハイデフ対応のグラフィックにこだわると、簡単に開発工数が跳ね上がるので、どのような「工夫」がこらされたのか、また具体的なタイトル名についても知りたいところだ。

(左)日本経済新聞紙上で示されたPS2とPS3の開発コストの比較(右)自社タイトルにおけるPS2とPS3タイトルの開発工数比較


ただしPS2発売から7年経過しており、ソフトの中身も非常に複雑になっているのに対して、PS3はまだ発売されたばかりで、この点では注意が必要だろう。とはいえPS3においても、数年後にはハードの解析が進み、ソフトの作り込み度合いが増えることで、同じような開発工数の増加・大作化が予測される(今でもPS3タイトルは充分に「大作」だが)。このトピックの要点は、PS2とPS3の開発コストの比較云々ではなく、予測される新世代機でのタイトル進化に対して、予めどのような布石を打っておくか、という点にある。それが実現できなければ、タイトル数の増加など絵に描いた餅でしかないからだ。

このほか、「コンテンツエクスパンション」というキーワードで、自社IPの積極的な展開や、他メディアのヒット作のゲーム化・有力ブランドとの協業などを推進。ゲームソフトの開発のような「縦の投資」だけでなく、コンテンツを広げる「横の投資」も進めていくとした。一例として「ネオロマンスシリーズ」のような女性向けジャンルを紹介。イベントに参加した時の印象を例に、ユーザーの求めるあらゆるチャネルでコンテンツを届けていくとした。またコーエーの弱い海外市場においても、「日本では返品がないが、欧米では普通に返品がある」と述べ、商慣行が異なる点を指摘。コーエーでは欧米向けにコーエーカナダ、アジア向けにコーエーシンガポールでゲームソフトも開発しており、市場に即した優れたゲームソフトを開発することも必要だが、営業力や宣伝力の強化でブランド価値を高めていくなど、攻めの姿勢を強めるとアピールした。

今回の基調講演をやや乱暴にまとめると、「コーエーは国内市場に強いが、任天堂ハードは任天堂ソフトが強いので、PS3とXbox360のマルチ展開を中心に進める。コストの上昇は開発環境の整備で吸収する。他業種との提携や海外市場の開拓で新天地もめざす」となる。これを新規性がないと捉えるか、現実的と捉えるかは立場によって異なるが、「夢だけ語って戦略がない」発言よりは、よほど説得力があるだろう。松原氏も「当たり前のことを当たり前に進めるだけ」とコメントした。未だ混沌とするゲームビジネスの中で、自社の強みを忘れず、付和雷同しないことが成功の近道だと言えるかもしれない。
《小野憲史》
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