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モントリオールで、小泉歓晃氏が「マリオに携わってきた13年間」を語った

カナダのモントリオール市で開催されたモントリオール・インターナショナル・ゲーム・サミットで27日、任天堂の小泉歓晃氏が「スーパーマリオギャラクシー:箱庭から銀河への旅」と題した基調講演を行いました。小泉氏は講演の中で、『スーパーマリオ64』から『スーパーマリオギャラクシー』に至る13年間の過程で、快適な3Dアクションゲームを開発するため行われてきた工夫の数々を、ロードムービーに見立てて解説しました。

任天堂 Wii

しかし3D世界での箱庭の探索には、大きな問題もありました。それは3Dゲームにつきものの「奥行きがわかりにくい」「迷いやすい」「3D酔い」という問題でした。『スーパーマリオ64』から『マリオサンシャイン』までの開発は、常にこの3点をどのように克服するか、という工夫の歴史でもあったのです。

まず「奥行きがわかりにくい」という問題についてです。3Dゲームでは現実世界と異なり、両目の視差を利用した奥行き感をモニター上で表現できません。人によっては、クリボーをうまく踏みつけることすら難しくなります。そのため光源の位置や天候によらず、常にマリオの真下に影がつけられました。これは現実世界ではあり得ませんが、ぐっとゲームプレイが簡単になりました。

『スーパーマリオサンシャイン』では、放水による「ホバリング」アクションが加わっています。これも正確なジャンプが難しいという問題をカバーするものです。『ゼルダの伝説 時のオカリナ』で加えられた「Z注目」も、奥行き対策の一つでした。Zボタンを押している間は常にリンクが敵の方を向き続けるので、軸ずれなどの問題が解消されるからです。さらにジャンプアクションという固定概念にとらわれず、アナログスティックで敵をぐるぐると回転させたり、放水で敵を攻撃するなどの、3Dゲームならではのアクションを加える試みも行われました。



第2の「迷いやすい」という問題について、しばしば用いられるのがミニマップを表示するやり方です。しかし小泉氏は「マリオのように連続してアクションを繰り返すゲームでは、プレイヤーはミニマップを見る余裕がない」と述べます。それよりも、遊んでいるうちにマップが覚えられるような工夫が必要だというわけです。そこで採用されたのが、ランドマーク的な地形をステージに設定することでした。『スーパーマリオ64』では大きな丘がフィールドの中央におかれたり、『マリオサンシャイン』では街の中央に水門がおかれています。これによって、自分の相対位置がつかみやすくなるというわけです。

最後の「3D酔い」について、小泉氏は「原因には諸説あるといわれています」と述べつつ、プレイヤーの操作によって、ゲーム画面は動いているのに、遊び手の三半規管は制止したままなので、脳が混乱して酔ってしまうというメカニズムを紹介しました。特に画面が急速にスクロールすると、酔いやすい傾向にあるということです。とはいえ、マリオはジャンプアクションが基本になるので、ゲーム中にカメラが上下に高速に移動することは避けられません。

そこで『スーパーマリオ64』では、カメラに「クッション機能」が装備されました。これはマリオが上下にジャンプする際、画面の中央にマリオが常にいるようにカメラを動かすのではなく、マリオが画面からはみ出しそうになる時に、初めてカメラを上下に動かす仕組みです。これによって、不必要なカメラの上下運動をできるだけ減らす努力が行われました。



しかし、こうした努力を続けても、誰もが遊びやすい、ストレスのないプレイヤー操作を提供することは困難だったと言います。そのため『スーパーマリオ64』」から始まる任天堂の3Dアクションは、ユーザーに対して「3Dゲームは難しい」という認識も植え付けてしまいました。小泉氏は「3Dゲームにおいて"サプライズとイージープレイ"の両立は本当に可能なのか?」と自問自答した結果、答えを見いだすことができず、新しいマリオゲームの開発を封印してしまいます。



第三幕 転機となった「ジャングルビート」

転機は思いがけないところから訪れました。2003年、小泉氏は新設された東京制作部に配属されます。そこで新しく『ドンキーコング ジャングルビート』の開発が始まりました。これはコントローラーに「タルコンガ」を用いた、2Dアクションゲームです。「タルコンガ」には新しく拍手センサーが加えられ、ボタン数もわずか3つというシンプルなものです。しかし、このインターフェースによって、「サプライズとイージープレイ」が実現できました。

ゲームも常に2D画面が続くのではなく、ポイントとなるシーンではキャラクターがクローズアップされ、「ここでタルコンガを連打!」などというように、思わず叩きたくなるようなシチュエーションや映像で、プレイヤーに対して操作のアシストが行われます。小泉氏はこれを「バインド処理」と呼び、こうした工夫によって「少ないボタンで多彩なアクションが可能になった」と説明しました。



小泉氏にとって、『ジャングルビート』の開発は一つの転機だったといいます。これによって、遊んでいる人が笑顔になるゲームや、周りの人も巻き込んで遊びたくなるようなゲームを作ることができました。またあわせて、「ユーザーにゲームを楽しんでもらうには、作り手の心配りが必要で、それには近道はないことを学んだ」と述べました。

ただし『ジャングルビート』は、あまりに熱心にユーザーがタルコンガをたたくため、家族から「音がうるさい」という苦情も寄せられてしまいました。余談となりますが、これがWiiの「家族に嫌われないゲーム機」というコンセプトにも繋がったとのことです。小泉氏も後になって宮本氏から告げられ、驚いたといいます。

第四幕 箱庭から銀河へ

《小野憲史》
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