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【GDC 2009】ディズニーランドに学ぶゲームデザイン

子供からお年寄りまで、あらゆる年齢層の人に親しまれている、史上最強の「仮想」世界。それがディズニーランドです。ゲームと異なり、現実世界に存在する「夢の国」ですが、その「おもてなし力」は、平均的なゲームを軽く凌駕しています。

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子供からお年寄りまで、あらゆる年齢層の人に親しまれている、史上最強の「仮想」世界。それがディズニーランドです。ゲームと異なり、現実世界に存在する「夢の国」ですが、その「おもてなし力」は、平均的なゲームを軽く凌駕しています。

GDCで、このディズニーランドの魅力をゲーム開発者的な視点から読み解いたセッションが「Everything I Learned About Level Design I Learned from Disneyland」(私がディズニーランドから学んだレベルデザインについて学んだすべて)です。講師のスコット・ロジャース氏はTHQに在籍するゲーム業界歴13年のベテランで、これまで「ゴッドオブウォー」「マキシモ」「パックマンワールド」など、数々のタイトルでゲームデザイナーやクリエイティブマネージャーをつとめてきました。

THQのクリエイティブマネージャー、スコット・ロジャース氏

そこ本稿ではRogers氏の講演をもとに、本場ディズニーランドのレベルデザインと、ゲームへの応用方法について読み解いていきましょう。

■まずは個人的な興味からスタートしろ

まず第1の法則「ストーリーガイドデザイン」です。ロジャース氏は「個人的な興味から始めよ」「テーマに即したゴールを定めよ」「プレイヤーの行動に任せよ」「トップダウンでデザインせよ」と整理します。

ロジャース氏はディズニーランドが、ウォルト・ディズニー氏の個人的なアイディアをもとに誕生したこと。そしてディズニー氏自身が陣頭指揮をとって、原作のアニメーションをもとに、その根元的な魅力が調査され、コンセプトデザインが決定されたと振り返りました。その結果、単に原作のアトラクションを並べただけではない、「ディズニーワールド」の精神にあふれた設計が可能になったのです。

これを再確認するために、最終段階ではディズニー氏自らが来場者(ゲスト)となって、さまざまなアトラクションを体験し、細部まで修正を加えたエピソードが知られています。これもまたトップダウンのなせる技だといえます。

ロジャース氏はディズニーランドのコンセプトが「ここを訪れる、あらゆる人々が幸せな気分になれること」であり、これを元に「楽しい経験を得るためのアトラクションが設置された空間」がデザインされたと分析します。ゲームでは「楽しい体験を得るためのレベルデザインが設計された世界」をデザインするべき、と置き換えられるでしょう。

人気のアトラクション「カリブの海賊」のイメージイラスト「パックマンワールド」でも同様のコンセプトマップが描かれた


第2の法則は「プレイヤーの移動を後押ししろ」。具体的には「ウィニー」「地図と標識」「地形とライティング」「探索と報酬」となります。

ウィニーとは来場者の目印になる特徴的な建物や地形のことで、ランドマークとも呼ばれ、シンデレラ城やビッグサンダーマウンテンなどが相当します。これらを大小組み合わせて配置し、道案内の役割を果たすと共に、次に向かう目的地の選択機会をゲストに提示して、「次はあそこに行ってみよう」と思わせる力を与えているのです。ロスのディズニーランドの園内マップをみると、中央のシンデレラ城を中心に、大小のウィニーが放射状に、巧みに配置されていることがわかります。

園内に張られたアトラクションの標識類も、どれもエリアごとの世界観をうまく表した、楽しげなものになっています。一方で道案内に必要な方角や距離などの情報はありません。来場者は形式的な地図や標識を求めているのではなく、体験的に目的地に導いてくれるような情報を求めているのです。こうした考え方は、ゲームにおいてもレベルデザインやメニューデザインに必須の要素でしょう。

ライティングも重要な要素の一つです。夜間にウィニーをライトアップすることで、来場者の視線が自然に目的地へと誘導されるとともに、高い演出効果ももたらします。一方で入場口に続くメインストリートは、開放的な空間であると共に、意図的に暗めのライティングに留めてあります。これによって来場者に、夜になると(閉園時間まで時間があるにもかかわらず))自然に自宅に帰りたくなる心理にさせているのです。

このほか園内には、ゲストが実際にさわれる仕掛けが多数散りばめられています。大きなハンドルをみんなで力を合わせて回すと、井戸から桶が引っ張り上げられる、などです。ここでおもしろいのは、桶の下から骸骨がぶら下がって現れるなどの、サプライズがあること。このように探索と報酬に加えて、予期せぬ驚きという組み合わせが、エンタテイメントを生み出しています。

ウィニーは3DのオープンワールドRPGを開発するに必須の要素だ園内に張られた標識の数々。世界観のみで、距離や方角は省かれている


■環境によってストーリーを追体験させる

第3の法則は「環境によってストーリーを伝えよ」です。これらは「ルート設計」「テーマに即したオブジェクト」「環境による物語性」「行為によるトレーニング」と分けられます。

園内には幹線ルートと、少しわかりにくい迂回ルート、そしてミニSLに乗ってランドの縁を回る周回ルートと、来場者に対して3種類の経路が用意されています。そしてこれらを各エリアの特性に合わせて、うまく配置されています。

たとえば西部開拓時代がモチーフのフロンティアランドでは、自由さやノスタルジーがテーマなので、数多くの導線設定があります。逆にジャングルがモチーフのアドベンチャーランドでは、導線が少なく、見通しも悪くなっています。一方でアメリカ南部の街がモチーフのニューオーリンズスクエアでは、建物の周りをルートが周回しながら、さまざまな売店が設置され、街のにぎわいが演出されています。このように順路の設計一つにとっても、世界観に沿ってテーマやメリハリがつけられているのです。

幹線ルートと迂回ルート、周回ルートの設計導線の違い フロンティアランド
アドベンチャーランドニューオーリンズスクエア


園内に設置されたベンチや街頭などのデザインも世界観にあわせて凝られています。ユニークなのはゴミ箱のデザインで、形状は同じですが、エリアごとに色やマークが異なっています。ロジャース氏はこれを、優れたアセットの再活用だと評しました。

形状は同じだが色彩やマークが異なるゴミ箱


環境による物語性は、ルート設計と共に、アトラクション設計の根幹となるものです。まずロジャース氏は園内の12個のアトラクションを「脱出・生存」「探検」「教育」「モラルレッスン」の4種類に分類しました。「脱出・生存」はスターツアーズ、「探検」はターザンのツリーハウス、「教育」はジャングルクルーズ、「モラルレッスン」はピノキオの冒険旅行などが相当し、それぞれ異なるアトラクション設計がなされています。

時には同じアトラクションでも、ルートやアセットの組み合わせで、異なるテーマになることもあります。例としてカリブの海賊では、ロジャース氏によるとロスの本家版とフロリダのマジックキングダム版では、前者が後者の倍のコースであるだけでなく、前者が「脱出・生存」型で、後者が「モラルレッスン」型になっています。これらがアセットの配置とコース設計で、押しつけがましくなく、自然に呈示されているのです。

ロジャース氏によるアトラクションの4分類ディズニーランド版の「カリブの海賊」は脱出・生存型マジックキングダム版ではアセットの組み替えで「モラルレッスン」型だ


一方、アトラクションと対極にあるのが入退場口へと続くメインストリートです。こちらは一見すると退屈に感じられますが、ゲストに憩いを与えることで、園内の目張りをつけています。オンラインゲームのロビー空間に当たるといえます

アセットの再活用はアトラクション設計にもみられ、ストーリー提示とあわせて興味深い内容になっています。例として「ピーターパン空の旅」では、つり下げ型のゴンドラ型ライドに乗って海賊船の上空を進みますが、船上をぐるっとUターンします。ここで前半ではピーターパンと海賊との戦い、後半では海賊に勝利したピーターパンが船を自由に操っているシーンがみられます。空中で向きを変えるという体験もあわさって、1隻の船という場所が効率よく再活用されている例です。

船をまたいでゴンドラを反転させ、全部と後部で違う場面を再現している


またディズニーランドのアトラクションで良く見られるのが、待ち時間などにキャストが登場し、ゲストに体験的なチュートリアルを行っている点です。ビデオや注意書きによる解説は最小限にとどめられています。これらはゲーム開発についても、大きく参考になる点でしょう。

そして最後の第4の法則が「感情を最大まで刺激しろ」です。「危険の仮想体験」「安全性の確保」「触れる環境」「予兆の活用」となります。

ディズニーランドのアトラクションの主要なテーマが「手軽な臨死体験」にあるとロジャース氏は語ります。ホラー映画などを見ればわかるように、人々は安全性が確保され、危険をコントロールできる状態だと認識されると、スリルを娯楽として楽しめるのです。そのためには、じわじわと不安感を煽って、一気に爆発させる「予兆の活用」が不可欠です。また実際にゲストがアトラクションを体験的に楽しむことで、こうしたスリルはさらに倍増します。これらはゲームのイベント設計などに大きく参考になります。

しかも興味深いのは、各アトラクションがライドであれ、徒歩であれ、基本的に一方通行で、実際には環境への働きかけが最小限に抑えられている点です。にもかかわらず、ゲストに興奮と満足感を与えている点は、イベントとして非常に秀逸です。そのために、これまで分析してきた様々な手練手管がふんだんに用いられていると言えます。逆にゲームでは自由度が増すぶん、さらにさまざまなアイディアが実装できます。

■インディジョーンズ・アドベンチャーを徹底分析

最後にロジャース氏は、これらの集大成として「インディージョーンズ・アドベンチャー・アウトポスト」を読み解いていきました。アトラクションの入り口にはエキゾチックなトーテムポールや謎の石版などが置かれ、雰囲気を盛り上げています。こうして「最初にゲストに期待感を抱かせ、その期待感を常に上回る刺激を提供し続けることが重要だ」と指摘されました。

続いてアトラクションの内部では、偽のルートを用意したり、登り下りを設計して、ルートを適度に複雑にして、探索気分を抱かせる内容になっています。さらに壁面には壁画やサウンド、ゲストが実際に体験できる仕掛けや、ちょっとしたパズル、映画の名馬面を再現したパノラマなどを配置して、自然にインディジョーンズの冒険を追体験できるようになっています。

またユニークなのは、あえてルート中に「ジャングルクルーズ」や、「ターザーンのツリーハウス」など、ほかのウィニーが効果的に視界に入るように設計されている点です。これにより「次はあれを体験してみよう」といった具合に、ゲストに新しい目的を設定させられます。

アトラクションには思わせぶりなガジェットが多数配置されているルートの途中では、映画の1シーンをパノラマで再現ルートの途中で他のウィニーが見られる


そして、たっぷり楽しんでもらったあとは、一直線に出口へと誘導します。ここでは思わせぶりな壁画や仕掛けは不要です。あえてシンプルにしてメリハリをつけると共に、出口付近でたむろさせず、次のアトラクションにスムーズに移動してもらうのです。

ロジャース氏の指摘はベテランのゲームデザイナーだけあって、どれも具体的で示唆に富むものばかりでした。これらの魔法がふんだんに散りばめられているからこそ、ディズニーランドは多くのリピーターを呼ぶことができるのです。これらはセンスではなく技術であり、ゲーム開発者が学ぶべきものが多く含まれています。こうした知識を元に、次の休みに東京ディズニーランドを訪れて、実際に確認してみたい。そう思わせるだけの力がある、優れた講演でした。

ロジャース氏の講演サマリー
《小野憲史》
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