カナダではアメリカ市場で強いタイトルが多く開発されていて、UBIモントリオールは『アサシンクリード』『スプリンターセル』『レインボーシックス』など、EAバンクーバーは『FIFA』『NBA』『ニードフォースピード』などを開発しています。EAの売上の40%を稼いだ時期もあったとのこと。政府支援も積極的で、最大37.5%の人件費補助(ケベック州による支援)や、ゲームのプロトタイプ開発に2000万円規模の支援をつけるなど中小規模のスタジオの育成もはかっています。しかし、ふだんは「北米」とくくられがちでカナダ固有の情報はほとんど日本で知られていません。
このカナダのゲーム産業の現状について、ゲームジャーナリストの新清士氏と小野憲史氏によるセミナー「カナダゲーム産業レポート」がカナダ大使館で開催されました。
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新氏は、カナダのゲーム開発産業が2000年以降安定して成長している現状を紹介、その理由として、カナダで1980年代後半から3dsmaxやSoftimage、Mayaといった3Dツールのベンダが登場したこと、3Dツールの成熟がゲームの3D化にタイミングがうまく合致したことを指摘しました。また、アメリカ合衆国という大消費地が近く経済ブロックとしてもリンクしていること、カナダ政府(おもに州政府)の産業支援が適切に行われたこと、英語だけでなくフランス語が通じることでヨーロッパからの投資・進出の受け入れがよりおこないやすかったこともあげ、ツールベンダが国内にいることで、3Dツールの新機能の共同開発やヒアリングの反映がしやすいというメリットもあるとしています。
小野氏はゲーム開発の現場についてレポート。カナダのゲーム・アニメスタジオを見て驚いたポイントとして「広い!」「(建物が)古い!」「寝袋がない!」の3つをあげ、無理のあるスケジュールを徹夜など人力でカバーするのではなく、開発効率化に投資することでヘッジするカナダの状況を紹介しました。ちなみに寝袋がないというのは残業が皆無だからということで、これはEAに対する訴訟の影響もあるようです(数年前にカナダで仕事をしたことのあるゲーム会社の人によると、訴訟以前はごく普通に長時間労働がおこなわれていたようです)。
カナダ政府によるゲーム産業支援策(ケベック州の人件費補助政策など)については、保護主義的だとの批判もありますが、ゲーム開発などの知識産業での雇用拡大を重要視しており、資本については海外か国内かは問わないと割り切っています(EAはアメリカ企業、UBIはフランス企業)。つまり、優秀な人材を知識産業に引き寄せて産業クラスタを成長させるという明確な目標が設定されているようです。ケベック州の担当者はこうした補助について「(日本が人件費補助にまで踏み込まないのは)日本では人材を集める苦労がないということではないか。カナダでは環境負荷の高い林業などではなく、ゲーム開発など知識産業を育成する必要がある」とも話してくれました。
ちなみに、モントリオールのあるケベック州というと“フランス語圏でプライドが高い”“過激な独立運動”といったイメージがありましたが、現在ではそうした雰囲気はなく、むしろ「多様さを受け入れる土地」となっていて、欧州ばかりでなくアジア出身の起業家も増えてきているそうです。カナダは3000万人規模の国(韓国よりも人口が少ない!)なので、ゲームの消費地としてカナダ1国で注目を集めることはなさそうですが、ゲーム生産国としてはますます重要さを増していきそうです。