流体力学の応用についての講演は、CEDEC2005〜2007で馬場氏がおこなった講演のアップデート版。流体力学は300年近い歴史のある分野で、造船や航空、土木、最近では医療など幅広い分野で応用されています。『鉄拳6』で話題になった水面の表現にも、流体力学が応用されています。ナビエ-ストークス方程式は、厳密に解こうとすると非常に難問で、ゲームに使うには「重すぎる」のですが、馬場氏は「流体力学は難しい式をいかに扱いやすいようにしていくか」だと述べ、式を簡易化して計算量を抑えることで船の航跡をリアルに表現する事例を紹介。さらに、『ぽちゃぽちゃあひるちゃん』のように考え方そのものを簡略化して自由表面(水面)を水深(高さ)のみで表現するといった事例も紹介。このほか、複雑な形状を扱う場合に、単純な形状での流れを複素写像関数によって変形させるといった技法も紹介しました。
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パネルディスカッションでは、IGDA日本SIG-GTでともに活動している松原健二氏(コーエー代表取締役)とともに登壇。馬場氏は日立造船からナムコ(当時)へ、松原氏は日立から日本オラクルを経てコーエーに移ったということで、ともにゲーム業界外の出身という共通点があり、ゲーム業界の外で蓄積されているさまざまな成果をどのように取りいれていくかについて話し合われました。
最先端技術をどうキャッチアップするかについて、馬場氏は、「新しい情報が発信されてるのは英語なので、英語能力は必須。日本語になるのを待っては1歩も2歩も遅れる。日本のゲーム開発者はセンスはよいので、正しい情報を得るための英語力を身につけて欲しい」と英語を身につけておく必要性を説きました。
また、「他の領域ではあたりまえのことをゲーム業界にもってくることで新しいことができる。(流体力学のような)100年、200年の成果をうまく使うことでオリジナリティを出そう。本屋でも、コンピュータ以外の棚もいろいろ見てみよう」と、視野を広くすることを求め、さらに、技術者の心構えとして「松・竹・梅の技術を持っておく。時間がないときは梅の技術でいいが、時間があるときは松の技術でより高い成果を出せるようにしておく。幅も深さも駆使できる技術者になってほしい」と語りました。
4月いっぱいでバンダイナムコゲームスを定年退職する馬場氏ですが、ゲーム業界を離れるわけではなく、IGDAやCEDEC、学会などでの活動を今後も続けられるとのことです。
[訂正しました] 初出時、日立造船を日立グループと記載しておりましたが誤りです。お詫びして訂正します。(2008/4/15 18:37 編集部)