本名は熊田大幹(くまだ・ひろみき)。27歳。アーケードの対戦格闘ゲーム『バーチャファイター』シリーズのプレイヤーとして有名な人物です。2001年にリリースされた『バーチャファイター4』で頭角を現し、セガ主催の全国大会「格闘新世紀」シリーズ本戦にフル出場。2002年は決勝大会2回戦敗退、2003年は決勝大会3回戦敗退、そして2005年は見事に優勝して「天帝」の称号を得ました。2006年はエリア決勝大会で敗退し全国大会に進めなかったものの、2008年の8月はシンガポールで開催された『WCG2008 アジアチャンピオンシップ』のバーチャファイター5で金メダルを獲得。その5日後に開催された闘劇'08でも、バーチャファイター5の団体戦でチームを優勝に導きました。
ゲーム大会には積極的に参加したい、というイタザンは、去る10月26日に開催されたWCG日本予選で見事に優勝しました。日本だけではなく、世界が認めるEスポーツマン、イタザンに、格闘ゲームの面白さについて聞きました。なお、このインタビューは『WCG2008 アジアチャンピオンシップ』で金メダルを取った後、『WCG2008日本予選』開催前に行われました。
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板橋ザンギエフ氏 |
■WCG世界大会の前哨戦、『WCG2008 アジアチャンピオンシップ』で金メダル
杉山:いまさらですが、『WCG2008 アジアチャンピオンシップ』の優勝おめでとうございます。日本では大会優勝経験もあって、誰もが強さを認めていると思います。シンガポールでは楽勝でしたか?
イタザン:危ないって場面はありました(笑)。
杉山:誰との戦いで?
イタザン:決勝戦です。韓国人のリコジャンという相手でしたが、彼がかなり強い。韓国はプロゲーマーの国ですからね。ちなみに韓国は『鉄拳』のプロゲーマーがいるんです。鉄拳は日本人より強いんじゃないかと。なにしろ彼らは一日10時間くらい練習していますから。
杉山:そうですか…。『バーチャファイター』の代表はプロでした?
イタザン:いや、プロではないと思います。だから勝てたのかもしれません。
杉山:韓国は、「プロになる種目」と「そうでない種目」でレベル差が大きいってことですか?
イタザン:そうですね。それでもギリギリでした。3ポイント先取なんですが、途中で2-2になって、ギリギリで勝った。ドラマチックでした(笑)。
杉山:そうだったんですか。で、最後は握手して。
イタザン:はい。
杉山:いまでも交流してる?
イタザン:いつかゲームで出会ったらメッセージ送ろうと思っています。
杉山:格闘ゲームって、実は頭を使うゲームですよね。本物の格闘技もそうだけど、攻める、受ける、避ける、という判断を瞬間的に続けていく。頭の回転が速いというか。そういう部分は、日常生活にも現れたりしますか?
イタザン:あると思いますよ。『バーチャファイター』で蓄えた戦略ノウハウとかね。実生活の勝負事でも「本質は何か」とか、「ポイントは何か」とか…。いろんな要素があるなかで、“鍵”を見つける。受験だったらどの科目で勝負するとか、好きな子と付き合うためにはどうすればいいのかとか。ポイントを探すってことは大事ですよ。対戦ゲームと一緒です。
杉山:そういう人生の判断って、問題の入り口で右往左往するだけで悩んで失敗するパターンだけどなあ。僕なんかまだそうだけど(笑)。
イタザン:バーチャファイターの仲間内では、確率論とか期待値とかいろいろあるんだけど、期待値がいい行動と悪い行動があるんですねよ。うーん…(しばし思考)。
杉山:ここは親の言うことを聞いて置くべきだとか、今回は友情を取ろうとか。
イタザン:自然と期待値の高い行動を取ってますね。
杉山:そういう風に生きていると、後悔することってあんまりないでしょう? 決めたって言うことに対して納得しているというか。
イタザン:そうですね。自分がこういう理由で決めたことだから後悔しない。
杉山:あんまりくよくよしないで生きてきた。そういう中学高校時代。
イタザン:うーん、そうだったかな(笑)。
杉山:人生のね、ある意味で真実に気づいた感じでしょう。ゲームでそういう判断力が実生活で役立つって気づいたのはいつごろですか?
イタザン:『バーチャファイター4』0が出たのが2001年。7年前で、自分が20歳。「真剣に」と言うと、シリアスに取り組んだのはそのころからですね。
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板橋ザンギエフ氏 |
杉山:格闘ゲームって、どれもやるって言う人も多いけど、大会に出る人はタイトルを固定している人が多いですね。『バーチャファイター』が好き。でも、『デッドオアアライブ』や『鉄拳』をやらない。その違いって何でしょうか。
イタザン:『バーチャファイター』の魅力は駆け引きの要素です。この技に対して、この手は強いけどあの手は弱い。じゃんけんみたいな要素があるんです。確率的な部分も多い。
杉山:じゃんけんみたいという、たとえが難しいな。
イタザン:たとえばキックされそうになったらガードで受けるんですけど、ガードしている相手に対しては投げ技が使える。
杉山:なるほど、同じ相手でも有利な技と不利な技がある。三すくみだね。それはじゃんけんに似ている。
イタザン:こっちが蹴ろうとしているとき、相手がガードするかもしれない。攻撃してくるかもしれない。そのまま蹴るか、投げ技を決められるか。確率は2分の1です。
杉山:なるほど、こちらはグーを出そうとしている。相手はパーを出すかチョキを出すか。それを先読みして、こちらはどれを出すか。技とダメージの関係がランダムではなくて、法則が決まっているということですね。
イタザン:そうです。だから作戦が立てやすい、次の行動を決めやすい。
杉山:やはり頭脳戦ですね。洞察力に長けた人が有利という…。
イタザン:蹴りが得意な相手とか、ブロックで時間を稼いで、相手の気が抜けると大技をかけてくる相手とか。それをゲーム中に把握しないといけないんです。
杉山:そういう判断が瞬時にできなくちゃいけない。相手の傾向を短時間で見切る判断が必要。そういう人が強いんだ。
イタザン:そうです。相手の挙動から読み取れるんですね。
杉山:ブラウン管の中から読み取れる。
イタザン:はい。まるでキャラクターの顔に書いてあるんじゃないか、と思うくらい、簡単に見破れる時もあります(笑)。
杉山:選手じゃなくて、キャラクターの表情で読める!?
イタザン:はい(笑)。
■バーチャファイターには手が出なかった少年時代
杉山:27歳で職業はシステムエンジニアだそうですね。ご出身はどちらですか。
イタザン:東京の板橋です。
杉山:ああ、だから板橋ザンギエフですね。
イタザン:僕はマリオ世代なんですよ。
杉山:物心着いたときにはファミコンがあったんだ。兄弟は?
イタザン:姉がいます。
杉山:年上の兄弟がいるとゲームとの出会いも早いよね。でもそのころは、『バーチャファイター』はゲームセンターにしかなかったでしょう?
イタザン:サターンが出たのは僕が中学の時かな。
杉山:じゃあゲームセンターにどっぷりはまると。
イタザン:いえ、ゲームセンターに通ってたけど、『バーチャファイター』はやってません。高かった。1回200円だから中学生には無理なんですよ(笑)。
杉山:ああ、僕も中学の頃はそうだったなあ。50円で長持ちできるゲームで粘ってね。100円のゲームを、いつかアレをやるぞ!と思いつつ、観てるだけ。
イタザン:そう。それで僕は『ストリートファイター2』をやってました。ゲーセンでも家庭用でも。
杉山:そりゃ強くなりますね。そのころからゲームセンターでも目立ってました?
イタザン:いや、そんなことなかったです。同級生には勝ってましたけど。
杉山:そういう人っていつから強くなるんだろう?…。世界に行く選手って、どこかで急に自分の殻を破るとか、そういう転機が来ているような気がします。たとえば、兄弟や学校の仲間っていう関係が、あるときから、ゲームをきっかけにした新しい仲間(対戦相手)ができるでしょ? そういう時期はいつでした?
イタザン:自分の場合は『バーチャファイター4』の頃かな。ゲームセンターで自分の周りに仲間が集まってきて、自信をつけちゃった、みたいな。
杉山:それはどこのゲームセンターですか?
イタザン:地元ですね。それから池袋ギーゴとかです。
杉山:有名店ですね。
イタザン:地元でいちばん大きなゲーセンでしたから。ロケテストもやってたし、“バーチャといえばそこ”って感じでした。
杉山:君を中心として仲間ができていく感じだったんだ。
イタザン:いやー、中心でもないと思うけど(笑)。『バーチャファイター4』はリングネームとか段位が表示されるシステムなので、仲間を増やすきっかけになりました。「あの名前見たことあるな」とか「ランキングに入ってたな」とか。プレイヤーの個性が出てくるシステムだったんです。対戦回数が多くなれば、自然に相手の名前を覚えるし、「あのときの投げ技はすばらしいですね」とか、話しかけやすい。そうしてコミュニティが自然にできていく仕掛けになっていたんです。
杉山:カードにプロフィールを登録するするシステムでしたね。iモードで名前を登録できたりとか。それにしても対戦格闘ゲームをやっている人って社交的だよね。
イタザン:そうですね。ゲーセン自体がそういう空間ですよね。ネットと違って、直接人と人が接する場だし。それはメリットだと自分では思っているんですよ。
杉山:親近感が生まれるってことでしょうか?
イタザン:そうですね。有名な名前を見たり、段位の高い人を見ると「オオッ」て感じで。
杉山:当時、憧れていた人っていますか?
イタザン:誰って言うことはなかったけど、「段位制度」という明確な要素があったので、それは自分にとってストレートにツボに入った。とにかく闘って段位を上げたかった。
杉山:段位って初段から?
イタザン:10級から始めていって、1級、そして初段、二段…です。十段を超えると特別な称号がもらえるんです。たとえば「覇王」とか。
杉山:イタザンはどこまでいったんですか
イタザン:4のときは鬼神でした。
杉山:鬼に神! それは強そうだ。これが最強?
イタザン:いや、まだ上がありましたよ。
杉山:あるんだ。ホントにそんな人いるの?
イタザン:いましたよ。『バーチャファイター4』は、自分が初めてハマったゲームですから。最初はそんなに強くなかった。
杉山:何勝すると称号が付くんでしょう?
イタザン:同じ段位の人と戦って何回か勝つと昇進っていう感じですね。
杉山:明確に、自分の中で上を目指そう、という気持ちになったのはいつですか?
イタザン:『バーチャファイター4』のロケテストで、段位機能を知ったときからです。
杉山:これでトップを目指してやる、みたいな。
イタザン:そうですね。
杉山:上に上がっていくために、具体的には何から始めたんですか_
イタザン:とくに意識はしなかったけど。新しいゲームが出て、みんな手探り状態のときに、どうやって戦おうとか考えながら研究しました。
杉山:コンボ技を見つけたりとか。
イタザン:そうです。
■シリアスな舞台で闘いたい
杉山:今回は「WCGアジアチャンピオンシップ」<http://www.worldcybergames.jp/>で優勝されたわけですが、こういうゲーム大会に出るようになったのは「格闘新世紀」<http://am.sega.jp/utop/news/vf5_kaku4/index.html>からですよね。予選に出ようと思った理由は?
イタザン:それまでもゲームセンター内の大会に参加していたんですよ。けして強くはなかったんですが…。だから気軽な気持ちで、2002年の格闘新世紀の店舗予選に参加しました。決勝大会なんて、自分より強い人がいっぱいだから無理だと思った。でも、地元のゲームセンターの予選に勝って、次に池袋ギーゴの地区予選に出たらそこでも勝って、次に東京予選に言ったらそこでも勝っちゃって。運もあったのかもしれないけれど、それで自信がつきました。
杉山:いままで勝ってなかったのに、ある日、そのときに神様が降りてきた?
イタザン:そうですかねー。
杉山:全国大会はZepp東京という大舞台。結果は?
イタザン:2回戦で負けちゃいました。
杉山:なるほど。何回勝つと優勝なの?
イタザン:トーナメントだから、8連勝で優勝かな。
杉山:負けて悔しかったでしょう?
イタザン:そうですね。
杉山:そこでやめようとは思わなかったんですか?
イタザン:全然! 負けた後でも、ステージで強い人が戦う様子がすごいなと思いました。
杉山:あっちに行かなくちゃダメだと思ったんですね。
イタザン:そうです。あの盛り上がりは凄かったんですよ。
杉山:この経験によってゲームに対する気持ちが変わった。
イタザン:そうかもしれない。でも、基本は「段位を上げたい」で、そこはブレなかった。
杉山:そして次の大会も出ると。2003年。全国大会。予選通過は楽勝だった?
イタザン:いや、そうでもないです。危なかった。
杉山:成績は?
イタザン:ベスト16だったかな。3回戦くらいまでいったと思うけど。その次は2005年。この年は『バーチャファイター4』のFinal Tunedでした。これで優勝しました。
杉山:バーチャファイター4の大会に3回フル出場して、ステップアップして優勝。これで「板橋ザンギエフ」の名が全国に知らしめられたわけですね。
イタザン:ザンギエフってストツーのキャラ名ですけどね(笑)。
杉山:さて、2004年に優勝しました。その後はゲーム大会に連戦連勝ですか?
イタザン:いや特にないです。セガの公式イベントがなかった。
杉山:格闘ゲームといえば「闘劇」<http://www.tougeki.com/>もありますね。
イタザン:毎回、出ています。
杉山:成績は?
イタザン:結構負けています(笑)。
杉山:でも、闘劇の決勝大会に出ると言うだけで凄いことでしょう? クルマのF1みたいに、そこに出てくるだけでトップクラスの有名人ばかりという感じで。
イタザン:そうですね。
杉山:基本的には、ゲームイベントがあったら出たい、と。
イタザン:そうです。イベント大好きなんですよ。
杉山:目立ちたいから? 自分の腕を試したいから? どちらでよう?
イタザン:日常のゲームセンターと違って、シリアスな雰囲気で戦えるからですかね。
杉山:真剣勝負がしたいんだ!
イタザン:そうですね。
杉山:ゲームセンターだとレベルが拮抗していないことも多いだろうし。意識も違う。真剣にやりたい人もいるかもしれないけど、基本的には遊びに行くところ。真剣にやりたいと思うならイベントに出たほうがいい、という感覚ですね。
イタザン:そうですね。目立ちたいというのも少しはあるでしょうけど。
杉山:勝って、拍手を受けて、スポットライトを浴びる。あれって気持ちいいよね。
イタザン:そうですね。ああいう気持ちがほしい。だから、「Evolution」というアメリカの試合にも行ってるんですよ。
杉山:真剣勝負を求めて海外にも!? なんでそこまで!
イタザン:好きだから。戦いたい。海外のプレイヤーと交流できるし。
杉山:成績は?
イタザン:2004年と2007年に行って優勝しました。
杉山:アメリカで優勝するって日本とは違ってスゴイ騒ぎじゃない?
イタザン:でも日本のほうが強いですから。外国はゲームセンターの文化がないので、とくに『バーチャファイター』は日本が強い。
杉山:勝てると思っていくんですね
イタザン:そうです(笑)。対戦のルールも一発勝負じゃなくて、ダブルイリミネーションなんですね。強い人が安定して勝てる。そういうルールに救われることもあります。
杉山:そういうところはアメリカらしいよね。公平さについてすごく気をつけている。人種のるつぼという国らしいというか。
イタザン:それだけに、今度のWCG日本予選は一発勝負なので緊張しています(笑)。
杉山:緊張してる?
イタザン:もうビビってます。
杉山:でも楽しみなんでしょう?
イタザン:いやー、楽しみといえばそうですけど!
杉山:アメリカって何でもかんでも熱狂的に盛り上がるじゃない。「Evolution」って観客は何人くらい集まってるんですが。
イタザン:参加人数が2000人くらい。8タイトル合わせて3日間くらいかな。
杉山:決勝戦だとその人たちのほとんどが観客に回るんだ。観客からコールがかかって…。
イタザン:「イタザン! イタザン!」って(笑)
杉山:気持ちいいね。勝つと歓声がオーってなるわけでしょう。
イタザン:アメリカの人ってリアクション大きいですからね。
杉山:言葉はいらないね。もっとストイックな世界かと思ったけど、楽しそうだ。海外の経験もあるから、シンガポールの試合もあんまり緊張しなかったでしょう?
イタザン:ちょっとだけですね。
杉山:あちらもゲームセンターがないから、日本が有利でしょう?
イタザン:ちょっとはあるんですよ。でも、規模は全然違いますね。誰もが簡単に入れる状況じゃない。
杉山:日本で勝てるゲームで勝った。日本はこういうゲームをもっと大事にしないといけないね。
■試合にはドラマがある。
杉山:いまイタザンは日本の頂点クラスでしょ?
イタザン:いやぁ、そうでもないです。僕より強い人はいっぱいいますよ。
杉山:ライバルといったら誰ですか? 「この人が参加したら燃える!」みたいな。強い人で大会に参加しない人もいるでしょうし。
イタザン:でも『バーチャファイター』の日本でやっているイベントだと、上級者はほとんど出てきます。
杉山:もう仲間同士って感じでしょうか?
イタザン:名前をすべて挙げるのはたいへん。ライバル心というか、もうみんな友達みたいなものだから(笑)。『バーチャファイター』の大会だったら、その場にいる人たちとみんなでご飯食べに行ったりしますよ。名前とか知らなくても。
杉山:さっき韓国選手の名前が挙がったけど、日本で印象に残った試合とか、選手はいますか? もういちど決着をつけたい、っていうような。
イタザン:いっぱいいるけど、誰か1人をあげるのは難しいですね。バーチャファイターって個性があって、攻撃方法も200パターンくらいあって、組み合わせは無限にあります。そうなると、強いかどうかより、個性的な戦い方をできる人と戦ってみたいと思います。
杉山:逆に、こういう奴は嫌だ、ボコボコにしてやりたいというタイプは。
イタザン:いますね。
杉山:いるんだ(笑)。
イタザン:憎しみではないんですよ。いい勝負をした相手ですね。
杉山:自分を追い込んだ相手ってことで。
イタザン:次は差をつけて勝ちたくなる。
杉山:いままでの名勝負を挙げてください。
イタザン:2005年の「格闘新世紀3」で、自分が優勝した試合ですね。これはいい試合ができたと思います。
杉山:どんなドラマがありましたか?
イタザン:調布K・Kサラ選手との対戦がものすごいいい勝負で、イベント的にも面白かったし。
杉山:最後までどちらが勝ったかわからない、というような。剣劇だと、倒れた方が生きていて、相手は立ったまま死んでる、みたいな場面があるけど。
イタザン:まさにそんな感じですね。自分にとって生涯のベストバウトかも。
杉山:…ほんとだ。検索すると動画やレポート記事も見つかりますね。
[格闘新世紀III 準々決勝 板橋ザンギエフ(シュン) vs 調布K・Kサラ(ラウ)]
http://www.youtube.com/watch?v=PTIj_BR_VcI&feature=related
イタザン:もうちょっと言うと、調布K・Kサラ選手は、バーチャファイターのコミュニティではヒール役を演じるスタイルなんですよ。
杉山:強くて憎らしい奴、というヒーロー像をもっているわけだ。人気者は叩きつぶす! みたいな。
イタザン:だから「こいつには優勝させるわけにはいかない」ってマイクパフォーマンスで言ったんですね。
杉山:あー、言っちゃったんだ(笑)。
イタザン:それが受けたんですよ(笑) もちろん彼も返礼して盛り上がった。
(試合のムービーをじっくりと観戦)
杉山:拝見しました。たしかにこれはいい試合ですね。
イタザン:あのときのイベントは、それまでの試合が淡々と行われていて、寂しいなと思ったんですよ。
杉山:ダレちゃうよね。見ている方も。
イタザン:それで盛り上げようと思って、司会者にマイクを貸してくださいと。
杉山:サービス精神旺盛だね。負けたら格好悪かったけど。
イタザン:ギリギリ勝ったからやってよかった(笑)。
杉山:大会に出る時、試合の席についたときってどんな気持ちですか。
イタザン:勝つことだけを考えています。何がポイントなんだろうって。
杉山:ファイトって声がかかる時に、まず何をしようと思う?
イタザン:ケースバイケースだけど…先手を取ろうとか、相手の得意なパターンには持って行かないように。
杉山:相手を見極めて作戦を立てている。
イタザン:そうです。
杉山:知らない相手が出てきた時は?
イタザン:それはもうしょうがないから、自分の得意な攻撃で押していきます。ただ、相手が知らない人ってことはないんですよ。強い人はだいたい知っていて、僕が知らないってことは強くない人。
杉山:うわー、それを言い切るってかっこいいね。
イタザン:強かったら絶対自分が知っている相手なんです。だからプレイスタイルも想像できる。(プレッシャーとか緊張とか)精神的な部分については、もう慣れちゃった。
杉山:スタートするときは試合に集中できる。
イタザン:はい。
杉山:いまは一日に何時間くらいプレイしていますか?
イタザン:新しいゲームが出ている時や、時間がある時は、毎日ゲームセンターに行きますよ。
杉山:いまでもゲームセンターに行くんですか?
イタザン:行きたいですね。自分が落ち着ける場所だし。地元のゲームセンターって、仲間がいつもいて、たまり場みたいになっているんですね。居心地がいい。しかも駅前にあるから素通りできない(笑)。
杉山:ゲームセンターだとお金かかるでしょ。
イタザン:でも。数時間遊んでも、数百円から1000円程度だから、同じ時間を飲み屋やカラオケ屋で過ごす人よりはお金かからないですよ。
杉山:そうか。強くなると安くなる。
イタザン:それもあるけど(笑)。
杉山:もし、バーチャファイターがなかったら何をしていたと思いますか。
イタザン:他の体験ゲームをやってたでしょうね。勝負事が好きなんですよ。
杉山:子供の頃のトランプから。
イタザン:そうそう。
杉山:勝ち負けが好き。
イタザン:はい。
■これからバーチャファイターを始める人へ
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板橋ザンギエフ氏 |
杉山:ゲームセンターのプレイヤーって、いままではゲームセンターに立ち寄って、そこに好きなゲームがあってハマッていくタイプが多かった。でも、いまは大会もあるし、メディアで報道されて、それをきっかけに、じゃあバーチャファイターをやりにゲームセンターに行こう、という人もいると思います。そういう人たちに、なにか先輩としてアドバイスはありますか? 格闘ゲームの楽しい遊び方とか。
イタザン:まずやってみたらいいと思う。眺めていると強い人ばかりで、気後れしちゃうかもしれないけど、そこで引き返したらもったいない。
杉山:でも、強い人ばかりだと、負けに行くようなものでしょう? 最初は仕方ないことかもしれないけど。どうやったら勝てるんだろう。
イタザン:弱いゲームセンターに行くことですね。
杉山:あっ、場所選びか。
イタザン:そう。強い人が集まるところ、そうでもないところ、料金が安いところ、いろいろあると思うので。
杉山:いきなり有名選手が集まるところに行くとボコボコに。
イタザン:そういうのが好きという人もいますけどね(笑)。
杉山:叩かれて学び取っていくタイプ。
イタザン:好きなプレイヤーに会いたい、見たい。という。
杉山:うまい人は見るだけでも勉強になるモンね。
イタザン:いまはネットで調べると、うまい人がどこでプレイしているか、わかるようになっているんですよ。セガとiモードのサービスで。
杉山:ああ、そうなんだ。
イタザン:無駄にお金を使いたくないでしょうから。最初は強い人がいない店で。でも、強い人と戦わないとうまくなれないから、ある程度自信がついたら有名店へ行った方がいいですね。そういう目的でゲームセンターを選んだらいいと思う。
杉山:すごいね。ゲームセンターを渡り歩くRPGみたいだ。「ギーゴへの道」みたいな。
イタザン:そうかも(笑)。まあ、あとは家庭用ゲームで練習してもいいし。
杉山:家庭用ゲームとゲームセンターは感覚が違うでしょう? 同じタイトルだとしても。
イタザン:全然違うってことはないですよ。
杉山:レスポンスとかは。
イタザン:だいたい良好です。相手を選ぶ時に、ネットの接続状況もマークで表示されていますから。
杉山:イタザンは、ネット対戦でもイタザンの名でやってますか。
イタザン:いえ。ちょっとだけ違いますね。そもそも、ゲームセンターに行く回数にくらべると、ネット対戦の回数は少ない。ゲームセンターが好きなので。
杉山:でも、WCGに向けて練習するでしょう?
イタザン:ネット対戦よりは、ゲームセンターで強い人と戦った方が練習になりますよ。Xbox360ではちょっとだけ。技か違うので、昔の感覚を思い出す程度で。家庭用のコントローラは動いちゃう。ゲームセンターはガチッと固定されている。あの感覚がいいんですよね。
杉山:機械やシステムに調子を合わせるよりも、戦うというイメージトレーニングのほうが大事なんですね。
イタザン:そうです。
杉山:WCG予選、観戦しに行きますよ。次は勝利者インタビューにしたいですね。
格闘ゲームのイベントでは「吠えた方が負け」というジンクスがあったそうです。つまり、相手を挑発するような言動をしたほうが負けてしまう。これはカッコ悪い。しかし、イタザンは「格闘新世紀3」で、あえて挑戦し、ジンクスを破りました。観客へのサービス精神か、相手へプレッシャーを与える戦術でしょうか。しかし、動画を観てわかるように、彼と調布K・Kサラ選手のパフォーマンスで会場は盛り上がりました。試合内容もすばらしく、手に汗を握る展開です。これは伝説の試合といってもいいかもしれません。そして、こんなドラマがあるからゲーム観戦は面白いと言えます。
さて、このインタビューのあとに迎えたWCG日本予選。イタザンは自分の得意なキャラ、Shun Diで望みます。勝ち進んだ決勝戦、対戦相手はKage-Maruを操るふ〜ど。Shun Diは大戦中に酒を飲むほどパワーアップするキャラクターです。しかしKage-Maruは酔い覚まし技でそれを封じるという好勝負。Shun DiはKage-Maruに投げられリングアウトに遭う危機もありました。それでも踏ん張るShun Di、最後は僅差で勝ち抜け、イタザンの日本代表が決まりました。おめでとうイタザン! 11月5日からドイツで始まる世界大会の活躍を祈ります。