![]() |
しかし、これほどの大活躍にもかかわらず。ゲームメディア以外ではまったく報道されませんでした。私の知る限り、いわゆる3大紙は報じず。地方紙や経済誌のネタもとになる役割の通信社も音沙汰なし。テレビメディアも関知せず。そのWCGの会場はドイツのケルンです。日本人が多いと言われるデュッセルドルフからは列車で3、40分の距離です。日本の報道各社の記者たちが少しでも興味を持ってくれたら、WCGの情報を察知してくれたら、きっと話題のひとつとして追いかけてくれたでしょう。そうならなかった理由は、金融、経済、外交、文化のニュースで忙しい特派員たちにとって、特段の興味を持っていただけなかったからでしょう。悔しいですが、これが現実です。報道記者だけではありません。日本のほとんどの人々にとって、Eスポーツの認知度はこの程度です。
この認知度を上げるにはどうすべきでしょうか。
今回のお話は、いま、Eスポーツに参加している人、かつてEスポーツに参加した人すべてに聴いてほしいと思います。Eスポーツに関わって、日本のEスポーツを信じ、将来のEスポーツのために、何かしたいと思う人に。
2000年ごろからEスポーツという言葉が流通し、日本でもWCGやクェイクコンなどが紹介されはじめてから8年が過ぎました。当時、高校生や大学生だった日本の選手たちも、いまや20代半ば、今風に言うと「アラサー」(アラウンドサーティ:30歳前後)などと呼ばれてしまう歳になっています。そこで見えてくる事実はEスポーツマンの将来像です。韓国ではプロリーグがあるし、欧米では優秀な選手にスポンサーが付き、たとえ引退したとしてもゲーム用ハードの開発などで活躍する人がいます。まあ、それもEスポーツ人口の全体から見ると一握りではありますが。
日本ではEスポーツがプロスポーツとして成立していません。だからゲームプレイだけで食べていける選手はいません。では、Eスポーツ選手たちはどんな職業選択をしているでしょうか。有名選手たちの何人かはゲーム関連の仕事に就いています。私の周りではゲームライター、オンラインゲームポータル会社に就職した人が多いようです。秋葉原のPCパーツショップで働き、試合に参加するたびにお店をピーアールする選手もいます。日本のEスポーツを盛り上げるために、Eスポーツビジネスを手がける人もいます。各種のEスポーツ大会をプロデュースする"POLIGON"氏や、WCG日本予選でおなじみの"すときん"氏は、まだEスポーツという言葉がない頃から格闘ゲームで活躍した人でした。厳しい状況ですががんばっています。
現役にこだわる選手もいます。WCGの日本代表として活躍した元4dNのKENNY選手は、オンラインシューティングゲームのインストラクターとして活躍しています。同じく元4dNのENZA選手も海外のチームと契約するなど、選手としての活路を模索しているようです。NOPPO選手は本気でプロを目指すため、単身、スウェーデンに渡りました。彼らはEスポーツ選手として、その将来像の理想に近づいています。頼もしい限りです。
しかし、こうしたゲーム系の職業に就ける人はほんのわずかです。ほとんどのEスポーツ選手たちは、ゲーム以外の仕事に就き、いつしかゲームから離れていきます。もちろん、Eスポーツを楽しむために、仕事とは切り分けている選手もいます。先日のWCGの金メダリスト、イタザン氏はシステムエンジニアです。WCG2006の日本代表の餅A選手は金融系のIT関連企業という堅いところに勤めています。彼らは仕事とEスポーツを切り分け、余暇のほとんどをEスポーツに捧げています。彼らと話していると、あらためて「ゲーム関連の仕事に就くことがゲーマーの幸せとは限らない」と思います。そして、これからの日本のEスポーツにとって重要な人は、彼らのように、Eスポーツ出身でありながら、まったく関連しない職業に就いた人です。もしあなたが、Eスポーツのファンでありながら、Eスポーツやゲームに関連しない進路を取ったとしたら、ぜひその道でがんばってください。そして、いつかEスポーツに応援の手をさしのべてください。
いま、日本Eスポーツ協会設立準備委員会が活動しています。なぜいつまでも「準備委員会」の文字が付いているでしょうか。日本Eスポーツ協会が正式に発足するために足りない要素、それはズバリ、お金です。協会として活動するため、文部科学省あるいは経済産業省に認めてもらうには、財団法人や社団法人になる必要があります。そのためには資本金が必要です。億単位のお金が必要とも言われています。一口1000円のサポーター会員を募集していますが、目標には遠いのではないかと思います。大口のサポーターが必要です。しかし、企業が大口のサポーターになるためには、企業のトップが協会を理解している必要があります。
Eスポーツファンの皆さん、もしあなたがEスポーツやゲームと関係しない仕事に就いたとしても、あなたにはまだできることがあります。がんばって働いて、出世してください。企業のトップに近づいてください。そして、Eスポーツに理解を示し続けてください。これは日本のEスポーツを盛り上げる方法としては遠回りかも知れません。しかし、正攻法でもあります。
なぜなら、現在、スポーツ関連で活発に活動する協会組織は、そのようなOBたちの支援で成り立っているからです。具体的にどことは言えませんが、スポーツ団体で大会のスポンサーを獲得したり、寄付金を獲得する方法として「おぃ、頼むよ」「よし、わかった」こんな会話で決まる話も多いと聞きます。広告代理店やイベント会社がどんなに上手なプレゼンテーションをしても決まらなかった。しかし、トップ同士のあうんの呼吸で決まる。これが日本のスポーツ団体の、いや、体育会の歴史が作り上げた社会の機能です。学生時代のシゴキ、大会ごとに繰り広げられる勝負、忘れられないライバル、ともに闘った仲間。そういう人間関係が社会で活きてくる。現在の立場や上下関係よりも、自分たちの現役時代のつながりを重視して「おぃ」「うん」で話が進む社会があります。
Eスポーツがそうなるためには、現在Eスポーツに関わる人々が、将来に社会でどれだけ活躍するかに関わってきます。ほとんどのEスポーツ選手は20代、30代。将来、企業でトップダウンの指示を出せるようになるまでは、さらに30〜40年の歳月が必要です。そこて表題の通りです。Eスポーツアスリートの皆さん。進路をゲームに絞る必要はありません。さまざまな分野に散り、密やかに実力を蓄え、いざという時に備えましょう。
私はいま40代前半。まだまだです。あと20年、どうがんばればEスポーツに貢献できる人になれるか。いま、ゲーム大会で選手たちのグッドゲームを見るたびに、私はそんなことを考えます。あ、もちろん、奇跡を信じて宝くじを買うことも忘れていませんが(笑)。
2006年10月から連載してきた「Shoot It!」は今回で最終回です。2年間のご愛読、ありがとうございました。