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コーエーテクモホールディングス 松原健二社長に聞く

コーエーからコーエーテクモホールディングスへ・・・。4月に経営統合を果たし、新たに代表取締役社長に就任した松原健二氏は、ゲームメーカーの経営者であると共に、CESA副会長兼技術委員長として、CEDECを牽引するリーダーでもあります。

ゲームビジネス その他

―――新興市場については、どう取り組みますか?

アジアは非常に成長している地域ですが、オンラインゲームが中心で、コーエーも既に進出しています。一方でテクモは「DEAD OR ALIVE」のPCオンライン版のサービスを、今年から中国と台湾で始めました。オンラインゲームは両社ともに力を入れている分野で、ここを中心にのばしたいですね。パッケージゲームもある程度伸びていますが、ゲーム機の普及台数や、海賊版の問題などで、コンソールがなかなかビジネスとして成立しません。オンラインゲーム重視で取り組んでいきます。他にロシア・東欧地域でも、パートナー企業を通して、PCゲームを数タイトル展開しています。規模は小さいですが、これから成長する市場です。

―――ダウンロード販売への流れを、どう見ますか?

完全にオンラインに移行することはないと思いますが、オンライン流通が増えていくのは時代の流れでしょう。音楽などでは先行していますよね。映像が伴うコンテンツでは、帯域の問題もあるし、音楽に比べると敷居が高いかもしれません。それにしてもデジタルコンテンツでオンライン流通が増えていくのは世界中の流れだと思います。ただし既存流通との割合は、まだ見通しが分かりません。

―――そうですね。

また日本・北米・欧州では市場の慣行やレギュレーションが異なるので、総じてオンライン流通に進むといっても、さまざまな違いは出てくるでしょう。オンライン流通と違って、既存流通では地域ごとに物流コストも違います。パブリッシャーから見ると、一番大変なのがヨーロッパで、次がアメリカ、最後が日本。地域ごとの違いを見ながら、各社さんも取り組まれると思うので、我々もそれに乗り遅れないようにしたいですね。

―――小売りの良さもあると思います。

ええ。絶対なくならないと思います。お店に出かけて商品を手に取るというのは、どんな分野でも、それ自体がおもしろいですから。本などはデジタルコンテンツにしやすいと思いますが、それで本屋が消滅するかと言えば、そうではないでしょう。ページをめくること自体がおもしろいですからね。だからデジタルコンテンツが、すべてオンライン流通になるとは思いません。親子でゲームを買いに行くなんてのも、小売りならではの良さですし。見て触って楽しめるという環境が、いろんなところであればいいですね。

―――iPhoneについては、どう取り組まれますか?

タイトルは未定ですが、今期中にリリースする予定です。私もiPhone 3GSを個人的に買ったばかりです。楽しいですね。メールや電話はあまり使ってないで、もっぱらゲームばかり。シンプルなゲームが多いという印象です。

―――iPhoneには個人で作っているゲームもたくさんあります。これらをビジネスに載せていくスキームは考えられませんか?

それは、すごく良い質問ですね。良すぎて、答えられません(笑)。考えてます、くらいにさせてください。

―――ゲーム開発が長期化することで、人材育成の難しさはありませんか?

確かに1タイトルの開発期間は延びましたが、移植版や派生版を作る場合は、それほど時間はかかりません。そこで、まずそうしたタイトルで経験をつんで、一通り技術を身につけてから、新作ラインに移るといったことは、これまでにも行ってきました。

―――はい。

ただし、全体的に長期化しているので、以前よりそうしたことが、やりにくくなっているのも確かです。そのため技術を底上げするための仕掛けを、進めていきたいですね。当社では大学の新卒採用が多いのですが、ゲームデザインやプログラミング、CGなど、求められるスキルが上がっているので、なかなか即戦力というわけにもいきません。現場での人材育成に加えて、人事としての研修制度といった、システマチックな取り組みが必要です。さらに、現在はコーエーとテクモで違うやり方をしているので、双方をまとめると共に、効率も上げていきたい。人事面での研修や育成は大きな課題ですよ。

―――人を育てるのは大変です。

ええ。しかし、非常に重要だと思っています。現在もコーエーでは、入社前にさまざまな課題を出しています。4月は研修期間で、5月に配属が決まると、現場でのOJTと共に、フォローアップ研修を要所で行っています。昇格時のマネージメント的な研修に加えて、技術面での研修もあります。各部門での講座なども定期的にやっています。もっとも仕事の場なので、100%教育効果を満たすものではありません。そうなると学校になってしまいますからね。むしろ、どうやって自分自身で勉強していく意識を植え付けるか。それには社内だけでなく、GDCやCEDECに参加するなどもあるでしょう。そうした機会や、場の提供はやっていますし、これからも続けたいですね。

―――御社ではCEDECを受講したいと手を挙げれば、誰でも参加できますか?

誰でも、ではありません。部門にもよりますが、まず希望者を募って、理由を聞いて、フィルタリングをかけます。「なんとなく行きたい」とか「会社の命令だから」なんて理由では、絶対に行かせませんよ。そうではなくて、こういう知識を習得したいだとか、ネットワークを作りたいとか、目的意識が明確な人に行かせます。やはり会社ですから、予算面の制限もありますし。自分が勉強したいという気にならないとダメです。

―――ゲーム開発はどこまで大きくなりますか?

これは我々が決められることではなく、お客様が何を望むかですよね。お客様はパッケージゲームであれ、オンラインゲームであれ、「何か新しいこと」を必ず望まれます。その頻度と量でコストが変わっていくわけです。さらに技術が進歩すれば、コストも上がります。企業側も効率化の努力をするのですが、みなさん競争だから、やっぱり上がるんですよ。少なくともPS3やXbox360とPS2では、開発コストが違う。一方でお客様は、もっともっと刺激が欲しい。際限がありませんよね。ですから最終的には、ユーザーのプレイ時間とゲームソフトの価格帯。この2つのボリュームゾーンで決まってくると思います。

―――あとはゲームユーザーを増やす努力が必要でしょうか。

そうですね。ただ、今後も技術ドリブンの面白さは出てくるし、インターネットによる面白さも加わってくる。ホントに、どこまで行くんだろうという思いです。映画でもハリウッドの大作タイトルだと、製作費が数百億円クラスのものがあります。ゲームでも大作は、映画レベル、もしくはそれ以上になるかもしれません。率先して開発費を増やしたいとは思いませんが、結果として増える方向に行くのではないでしょうか。

―――企業の社会貢献が求められる時代です。

社会貢献といっても、さまざまです。企業の成り立ちからいうと、きちんと利益を上げて、税金を納めること。当たり前ですが、これが企業としての一番の責務です。コーエーは利益率が非常に高い会社で、約30年間、貢献してきました。それ以外の、社員が実際に汗をかくという意味では、先日の「親子で楽しむゲーム講座」などがあります。また社員のボランティア的な活動の支援もしています。コーエーには社員のクラブ活動があり、自転車部が昨年、富士山のゴミ拾いをしたんですよ。それに対して会社が補助金を出しました。

―――それはおもしろいですね。

実際、さまざまな取り組みをしているんですよ。創業者が設立した、「科学技術融合振興財団(略称:FOST)」があり、広い意味でのゲーム研究をする大学の研究者に対して助成金を出しています。また少子化対策については、産休や育児休暇の制度をきっちり整えています。実際に産休から復帰して働いている女性も何人かいますよ。さらに今年から始まった制度として、社員の出産時のお祝い金を拡充しました。1人目を生むと10万円、2人目が20万円、では3人目以降だといくらでしょう?

―――ええっと、この前ニュースで拝見したんですが・・・。

200万円です。まだ今年の6月から始まったばかりなので、3人目の適用事例はないんですが。ただし、ゲーム会社として社会にどうやって関わっていくのか、真剣に考えていきたいですね。もちろん企業は収益を上げていくことが最も重要ですが、その中で少子化対策もあるし、地域貢献などもあります。優先順位をつけて、一番良い形で、さまざまな取り組みをしていきたいですね。

―――昨年は京都に開発拠点も設けられました。

まだまだ、始まったばかりです。ただし、すでに2タイトルの開発が始まっています。これから単身者向けの寮を作るところで、来春竣工になります。だいぶ環境が整ってきました。

―――ご自身の課題は何ですか?

コーエーテクモの統合を、もっと進めるために何をすればいいのか、毎日考えて実行に移すことです。ホントに毎日、そればかり考えています。もっとも実際は、調整仕事ばかりなんですが(笑)。あとはテクモの事業をすべて把握しているわけではないので、それを把握しないと。統括役員という意味では、私自身もオンラインモバイル事業と海外営業事業を担当しています。7月の頭にアメリカに行きましたし、来月はGamesConというイベントでドイツに視察に行きます。

■CEDECについて

―――CEDECについては、いかがですか?

会社統合が1番だとすると、CEDECは2番目くらい(笑)。今年は会場がパシフィコ横浜になって、大きな教室でゆったり聞きたいというご要望が実現できました。セッション数も150個に拡大しています。とはいえ、そのためのコストも増えているんです。CESAは営利団体ではないので、利益を上げるつもりはないですが、赤字になるとCEDEC自体が行き詰まる(笑)。だから内容の充実はもちろんですが、運営面も去年より良くしたいし、収益面もトントンくらいにしたい。ただ、今年はスタッフが非常にがんばってくれています。アドバイザリーボードも去年は約20名だったのが、今年は約40名になりました。毎月1回ミーティングをする以外に、個別ミーティングや、メールのやりとりを大変頻繁に行っています。CEDECアワードも今年で2回目となります。

―――基調講演の人選も多様ですね。

1日目が東大名誉教授の原島博先生。2日目が「機動戦士ガンダム」の富野由悠季さん。3日目が「ドラゴンクエスト」の堀井雄二さん。アカデミック系、ビジュアル系、ゲーム系とバラエティ豊かになりました。中でもアカデミック系にお願いしたかったんです。それで東大でコンテンツ創造科学産学連携教育プログラムの旗振り役をされて、今年の3月で退官された原島先生に、お願いに上がりました。

―――正直、驚きました。

ええ。原島先生のように、ゲームに近い分野で研究をされていた先生でも、ゲーム開発者にとっては、ほとんど馴染みがないし、研究内容も知らないと思います。なので、先生には自分の研究の紹介も含めて、コンピュータサイエンスやITとゲーム業界のかかわりなど、さまざまなお話をしていただく予定です。アカデミックとゲーム業界の関係を深めていく上で、大きなステップが踏めると思います。アカデミック系のセッション、CEDECラボも去年から始めましたが、今年も強化したいと思っています。

―――なるほど。

また2日目は富野さん、3日目は堀井さんですからね。どちらも、なかなか決まらなかったので、はらはらしていました。基調講演は去年の宮本茂さんもそうでしたが、みんなが関心のある内容にしていきたいですね。

―――学生向けのイベントも増設されました。

業界研究フェア「ゲームのおしごと」ですね。先ほどもアカデミズムとの連携と言いましたが、CEDECラボの対象は、研究テーマとしてゲーム業界に関心を持っている方です。それに加えて、自分の仕事の対象として、ゲーム業界について知って欲しいという意味で企画しました。IT業界という意味でも、ゲームのプログラマーはシステム系のプログラマーやSEと比べると、やはりニッチです。そうなると情報が埋没してしまうのではないか、という問題意識がありました。基調講演に加えて、セッション総数が30個という規模にする予定です。こちらは入場無料で、約1000名くらいの方々に来て欲しいと思っています。

―――業界初のイベントですね。

ええ。これが成功すると、来年度は学生向けにCEDECのディスカウントなども考えられる。もしくは学会との連合シンポジウムなどを、CEDECの一部でやってもいい。そんな風に広げられます。

―――CEDECも技術だけでなく、たとえば純粋にアーティスト向けのセッションなどもあるといいかなと思います。参加者も増えて、属性も広がるのではないでしょうか。

もともとCEDECは「技術戦略説明会」が前身で、今でも業界的にプログラマー向けのイベントというイメージがあります。もっとも、ビジュアルアーツやゲームデザインのセッション数の割合も増えていますよ。ただし数だけではなくて、質も重要ですよね。確かにビジュアルアーツだと、モーションデザイナーやテクニカルアーティスト系のセッションが多く、キャラクターデザインなど、純粋にアーティスト向けのセッションはそうは多くないかもしれません。

―――ええ。そこがもったいないかなと。

ただ、これは国際化という側面ともリンクするのですが、日本の開発者が講演することで、メリットとデメリットがあります。というのも、日本では自分自身の開発経験だけを話されるクリエイターが多いんですね。一方でGDCでは、経験談もありますが、そこから一歩引いて、聴講者が自分の仕事に応用できるような、汎用性のある話も聞けるんです。もちろん、汎用的な話だけでは学校の講義になってしまうので、要はそのバランスですよね。これはCEDECでも、かなり意識しているところです。その中でも、プログラム面ではかなりバランスが取れたセッションが、増えてきたのではないでしょうか。

―――なるほど。

しかし、私の理解で言うなら、ゲームデザインやビジュアルアーツなどでは、もう少しコンテンツよりの話が多い。汎用性という意味では、やや課題が残るのではないでしょうか。クリエイターが「このように作りました。なぜなら、自分がそう作りたかったからです」という話だけにとどまらないようにしないと。これはCEDEC自身の質と量を上げていく中で、解決していく問題だと思います。

―――プログラム分野でも5~6年前は、まだまだだった気がします。それが、続けていくことでレベルが上がってきました。

その意味で、刺激にして欲しいのがCEDECラボです。アカデミックの領域では、当然ながら汎用性の高いテーマで話されます。このセッションを受講することで、講義内容に刺激やヒントが受けられるのではないでしょうか。それがCEDEC全体の底上げに繋がればとも思います。

―――最後にゲーム業界の経営者に対して、CEDECのメリットを伝えるとしたら? ご自身も経営者でありながら、CEDECの旗振り役をされていますね。

経営者の使命は、当然ながら自社を成長させることです。それには良いタイトルを作ることが重要で、そのためには開発者の育成が欠かせません。そのためにCEDECに参加することは、ものすごく価値があると思います。もし経営者の方で、CEDECをご存じない方がいらっしゃったら、この機会に、まずご自身で参加されてはいかがでしょうか。そのうえで、自社の優秀な社員の方々を、発表者としても、聴講者としても、送り出していただければと思います。

―――とはいえ、まだまだ浸透しているとは言えません。

経営者の立場でいうと、発表することで危惧されるのが、自社のノウハウの流出でしょう。しかし結論からいうと、出した情報以上のメリットは必ず得られます。もちろん、これは自社の全ての秘密をさらけ出せ、という意味ではありません。そうではなくて、聴講者の役に立つように、ある程度一般化、抽象化した形で話してください、ということです。本当に秘匿しておきたいことは、オープンにしなくても良いのです。これは、どんなシンポジウムでも同じことです。

―――なるほど。

そして、そのことによって、会社に対する評価も上がります。社員が講演することで、フィードバックが得られたり、ネットワークが広がるといった直接的な効果もあるだろうし、そうした活動をする会社なんだという認知が広がって、IRやリクルーティング、さらには社員の意識向上にも結びつくと思います。そもそも、これだけゲーム開発の進化が激しい中で、自社だけで情報を閉ざして進めることは、大企業であっても難しいのではないでしょうか。それよりも、さまざまな課題をオープンにして、互いに話し合うことが、解決策を導くことになると思うのです。これは残念ながら、日本よりも欧米の方がやり方がうまいと感じます。これを日本でも進めようというのがCEDECです。

―――そうですね。

CESAでは、東京ゲームショウとCEDECを、二本柱のイベントとして育てていく意識が共有されています。CEDECについても、各社の研究開発のトップの社員をボードメンバーとして、出していただいています。それだけCEDECの重要性は浸透しているんです。もちろん中小の開発会社の中には、予算や業務面で難しかったりされる場合があるかもしれませんが、それは各社でご判断いただければと思います。CEDECで話したり、聞いたりすることで受ける刺激の数々は、他では得られない価値があります。だから、ぜひご参加ください。

―――ありがとうございました。



(聞き手:土本学/構成:小野憲史)
《土本学》
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