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【MSM2009】iPhoneで日本発のヒット作を連発するゼペット宮川氏が語る「プロトタイプ開発の重要性」

App Storeの中で最も激戦区なジャンルがゲームです。アプリ数が最大にもかかわらず、平均単価は低く、大企業からアマチュアまでさまざまなクリエイターが、頭一つ飛び抜けようと熾烈な競争を繰り広げています。

ゲームビジネス 開発
App Storeの中で最も激戦区なジャンルがゲームです。アプリ数が最大にもかかわらず、平均単価は低く、大企業からアマチュアまでさまざまなクリエイターが、頭一つ飛び抜けようと熾烈な競争を繰り広げています。

そうした中でヒットするゲームアプリを作るにはどうしたらいいか……。「iNinja」「iYamato」などで知られるゼペットの宮川義之氏は、MSM2009で「90分iPhoneゲームプロトタイピング」と題した講演を行い、実際にシューティングゲームを会場で作りながら、プロトタイプ開発の重要性について語りました。

ゼペット 宮川義之氏


世界中のゲームクリエイターが実践し、アカデミズムによる研究が続いているにもかかわらず、「おもしろいゲームの作り方」は未だ解明されていません。一見すると同じ絵柄や内容でも、おもしろいゲームもあれば、つまらないゲームもあります。ゲームのアイディアは遊んで確かめてみる以外になく、企画書や仕様書では、「おもしろさ」を伝えきることは不可能。であれば答えは簡単で、できるだけ早くプロトタイプを作ることだ……。これが宮川氏の考え方です。

そのために宮川氏は検索エンジンやゲームエンジンなどを総動員し、ネット上の素材やサンプルコードを改造するなどして、できるだけ手間をかけずにアイディアを実装するテクニックを披露しました。その上で本制作になれば、あらためてグラフィックやサウンドなどの素材を作り込めばいいというわけです。また他人に発注する場合も、プロトタイプが大きな助けとなります。なにしろiPhoneをひょいと手渡して、プロトタイプを遊んでもらえばいいのですから。

宮川氏が思いついたアイディアは、「Touch Asteroid」というシューティングゲームです。画面の真ん中に自機となるUFOが浮かび、本体を傾けて操作します。画面をタッチすれば、その方向に弾が発射されます。周囲から飛んでくる隕石に当たらないように、UFOを動かしたり、隕石を破壊したりして、ハイスコアをめざすというシンプルな内容です。宮川氏は「シューティングゲームには自機の移動や当たり判定、弾の発射、爆発エフェクト、スコア処理など、基本的なゲームの要素がすべて詰まっている」と説明しました。

日ごろからアイディアをネタ帳に書きためておくゲーム画面のアイディアスケッチ仮の絵素材は検索エンジンで探す


最初に必要なのはメイン画面のスケッチです。常日頃から思いついたアイディアをネタ帳にストックしておき、熟成させて、いけそうだと思ったらメイン画面を紙にスケッチしていきます。画面スケッチに便利なレイアウト用紙も紹介されました。これを通して、ゲームに必要な絵素材を確認していきます。今回のゲームで必要なのは「上から見たUFO」「隕石」「宇宙」「弾」の4種類でした。
http://cielo.rojo.jp/p/ToolsForDevelopers.html

素材リストができたら、これをGoogleの画像検索で検索していき、適当なものをダウンロードして、加工していきます。画像ツールにはシェアウェアのピクセルメーカーが紹介されました。背景の宇宙空間にはMacの壁紙をキャプチャして、そのまま使用します。わずか数分ですべての絵素材がそろえられました。

プログラムコードもフルスクラッチなどしません。今回紹介されたのは2D向けのフレームワーク「cocos2d-iphone」でした。物理エンジンのChipmunkとBox2dが搭載されており、サウンドエンジンも数種類が用意されています。作ったゲームがヒットしたら500ドルをカンパしようという実質的なフリーウェアで、BSDライセンスに基づき、商用利用が可能です。しかもiPhone自体に相応のハード性能があるため、カジュアルゲームなら問題ありません。「iNinja」「iYamato」もこのエンジンをベースに作られています。

絵素材はピクセルメーターで修正フレームワークはcocos2dを利用サンプルコードを元に改造していく


その後、宮川氏はcocos2dを起動して新規プロジェクトを立ち上げ、先ほど用意した絵素材を読み込んで、プログラミングしていきました。cocos2dの特徴の一つが豊富なサンプル集で、これらを開いてソースをコピペし、ちょこちょこと修正する形で仕上げていきます。iPhoneのプログラミングに用いられるObjective-C言語に慣れていないプログラマーでも、サンプルコードを改造することで、学習の助けになるというわけです。今回はChipmunkエンジンをベースに開発(改造?)が進められました。

はじめにUFOを表示し、ちょっと大きすぎたのでサイズを調整して、次に弾が発射できるようにして、背景画像を貼り付け、隕石を出し……と、どんどんドライブがかかっていく宮川氏。一つ標示物が出る度に「ちょっと嬉しくなってきましたね」とノリが良くなっていきます。大規模開発においては分業が進んでいるため、パーツを作って最後にドカンと組み合わせる例が多く、このように「徐々に完成系が見えてくる」スタイルは少ないのですが、これが小さなプロジェクトの利点です。ちょっと不都合があれば、臨機応変に修正できるのですから。

ただし残念ながら時間の都合上、ここで打ち止めとなり、後はあらかじめ用意されていたプログラムコードを全コピペして完成となりました。自宅では2時間で完成したため、1時間程度で可能かと思いきや、解説などで時間が取られたようです。特に宮川氏が強調したのがサウンドや効果音の重要性で、イメージ通りのサウンドを組みこむと、一気にゲームとしての完成度が増してくるとのことでした。

ステップごとに試してみる完成した「Touch Asteroid」プロトタイピングの効果


プロトタイピングは、物足りなさを見つけて、仲間と話し合うための叩き台……。宮川氏はこう語ります。「iYmato」においても、ゲームの9割は3日で作ったが、チュートリアルや調整で3週間くらいかけたといいます。そのためにも机の前で頭を捻るのではなく、グーグルで検索して美味しそうな仮素材を見つけて、どんどんサンプルコードを改造して、作ってみることが重要だというわけです。宮川氏は最後に「1時間でこれだけできた。1日あれば次の光が見つかるはず」と講演を締めくくりました。
《小野憲史》
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