■技術的な側面
―――今回、CRIのミドルウェアを採用した経緯を聞かせてください。
酒田: 以前にサウンドリーダーをやっていた人間が、他のタイトルでCRIさんとやり取りをしていたんです。それで今回もCRIさんのミドルウェアを採用することになりました。個人的には今までにそういうものを使ったことがなかったのですが、CRI Audioのツール画面を見て、全てが1つの画面で操作できる利便性に驚きましたね。
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CRI Audioのツール画面。グラフィカルな操作でさまざまな効果音などを生成できる。 |
山口: サウンドのエンジンを1から作るというのは現実的ではなかったので、CRI ADXに関しては『大神』のときから採用して慣れているという意味もあって決まりました。自分達で全部作るよりは、良い物が既にあるなら使えればいいという姿勢ですね。
大森: 慣れ親しんで信頼感があるミドルウェアだったので、特に他社のものとの比較検討などはしませんでしたね。立ち上がりのスピードも要求されたのですが、組み込みもかなり早い時期に出来ました。
―――マルチプラットフォーム制作でのミドルウェアはどうでしたか?
藤本: PS3版はセガが担当だったのですが、サウンドやムービー再生に関しては、マルチプラットフォーム対応のCRIさんのミドルウェアを使っていたので、開発は格段にやりやすかったです。もし各プラットフォーム独自のものを採用していれば、もっと大変だったでしょうね。
―――今回は、ADX、Sofdec、CRI Audio(※)という3つのミドルウェアを採用されていますが、それぞれどういった用途で使われたのでしょうか?
※CRIが提供するミドルウェア群
CRI ADX・・・マルチストリーム音声再生システム。複数の音声を再生しながらデータを高速に読み込むことができる。
CRI Sofdec・・・高画質ムービー再生システム。高画質なHDムービーをなめらかに再生できる。
CRI Audio・・・統合オーディオソリューション。効果音や環境音、ゲームの状況に応じて変化するサウンドなどをデザインし、再生できる。サウンドデザイナー主体の音楽制作が可能。
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大森氏 |
―――なるほど。ゲームを遊んでいると、リアルタイムとプリレンダのムービーの区別が全くつきません。見分ける方法ってあるんでしょうか?
大森: ゲーム中でプリレンダのムービー(Sofdec)を使っているのは、フィルムタッチで描かれている過去の回想シーンだけなんです。実はゲーム中のその他の現代の場面は全てリアルタイムです。これはベヨネッタが衣装を変更したり、武器を変更したりした際、デモに反映させたかったからです。
橋本: やはり女性主人公ならではの部分として、衣装を変えることで印象が結構変わってきます。男性だと余り大きな印象の違いはないんです。なるべくバラエティの富んだものにしたいと思うと作業量も増えますし、イベントシーンの尺も増えていって結構大変でしたね。その甲斐あって見応えのあるものになっていると思います。
酒田: 最初は1時間ちょっとという話だったのが、1時間半になり、2時間になり・・・。
―――Sofdecのプリレンダムービーの尺はどのくらいだったのでしょうか?
大森: そんなにはないですね。全部で10~15分くらいだったと思います。ムービーのビットレートは大体4~8Mbpsでクオリティが高くサイズが一番小さいものを採用しています。
―――ゲームのボリュームとしてもかなり盛りだくさんだと思いますが、ディスク容量が足りなくなるといった問題に直面しませんでしたか?
大森: 特にDVDメディアであるXbox 360はシビアでしたね。かなり減量しました。運良く入ってくれたという感じです。残りは10MBくらいしかなかったです。ディスクに収まらず溢れていた時期もあって、あと500MB削れ、とかやってましたね。定期的にディスクに焼いてチェックするんですけど、焼こうと思って全部のファイルを圧縮してみると、ディスク容量が足りないというのは良くありました。全セクションで無駄なデータを使ってないか総洗いしましたね。
橋本: 1枚では収まりそうにない、という心配が出てきたので、そうなる前にスタッフには釘を刺していたんです。「アクションゲームで2枚組はないぞ」って(笑)。なんとか1枚に収まって良かったです。
―――ディスクではどういったデータが多いのでしょうか?
大森: 多いのは、やっぱりムービーとサウンドでしょうね。意外に容量を使っているのは、サブ画面やコクピット画面で、圧縮後も150MBくらいあったりしました。あとは、最後に入ったおまけのムービーが・・・。
―――ファイルの圧縮やパッキングもされているようですね
大森: CRI Audioに同梱されている圧縮ツールを使ってパッキングしています。ストリームのデータを除いて、6つほどのファイルにパッキングしています。
―――圧縮率はどのくらいでしたか?
大森: 12~13GBあったものが6.8GBまで圧縮できました。圧縮率としては60%らいにはなったと思います。CRIさんの圧縮ツールがなければディスクに収めるのは無理だったでしょうね。
■こだわりのサウンド
―――次はサウンドに焦点を当てたいと思うのですが、今回、CRI Audioの新機能として「マトリックスサラウンド(逆相送出)※1」を採用されていますね。この技術はCRIが以前CEDECでご紹介し、お問い合わせいただいて実装された機能ですが、どのようにお使いいただいたのでしょうか?
※マトリックスサラウンド・・・もともと2chのステレオデータを、疑似的にサラウンド化する手法。CRI Audioにも搭載されている。ステレオの音声データを、波形の位相を逆転しリアのスピーカーから出力する。詳しくは下図参照。
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マトリックスサラウンドの解説図。CEDECの説明資料より。 |
大森: ええ、僕がCEDECに参加して、資料を持ち帰って山口に渡したんです。
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山口氏 |
―――効果音に関して、工夫したことや、現世代機になって制作で変わった部分があれば教えてください
酒田: 一番大きいのはサラウンドで作るということでしょうか。音の素材自体はモノラルもしくはステレオなんですが、空間の中に配置していくので大変でした。カメラが回れば音も回りますので。常に正面だけでなく、後ろ側の情報も頭の中で考えながら、カメラが動いたから、こっちを上げて、逆になったら今度はこっちを上げて、という感じですね。気を付けたのは、スピーカーの位置のまま配置すると、少しパンが気持ち悪くなってしまうんです。特に人物が発生させるSEに関しては、若干狭めのパンを取っています。逆に空間の音はフルレンジでダイナミックに使っています。
―――効果音にはリアルタイムでエフェクトなどはかけられているのでしょうか?
酒田: 例えば建物の中に入ったらリバーブやディレイを使ったり、ウィッチタイム(※)中ではディレイを使ってスロー空間を表現したり、周りの音を全てピッチを下げたりといった処理をしています。これはCRI Audioを使うことで簡単に実装できました。
(※ウィッチタイム 敵の攻撃を寸前でかわすことで発動する。限られた時間、敵の動きがスローになる)
―――なるほど。逆に困った部分はありませんでしたか?
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酒田氏 |
もちろんステレオのヘッドフォンで遊んでらっしゃる方も、ヘッドフォンモードにしていただいた方が良いです。ヘッドフォン用にパンなどが調整されていますので。
―――技術的な面以外の音作りとして、ベヨネッタらしさ、クライマックス感を演出するような工夫をした点というのはありますか?
酒田: SEに関しては、迫力のある音、というのは繰り返し言われてきたことで、他のメーカーさんであればNGになりそうな低音もふんだんに使っています。
山口: オーケストラの曲なら、コーラスを入れてこれでもかというくらい壮大に、ベヨネッタらしいノリの良い曲なら、負ける気が全くしないというくらいイケイケに、プレイヤーのテンションを最高潮に持っていく為に、どれも力を入れて作りました。クライマックスの一つである四元徳戦では、最初は天使寄りのオーケストラによる壮大な曲調に圧倒されるんですけど、優勢になってくると徐々にベヨネッタ寄りの曲調になっていって、最後の大魔獣召喚を決めるときにはもうイケイケでとどめを刺す、というような、終止クライマックスな音楽の流れが、自分でも気に入っています。
橋本: 全体の音楽のコンセプトとしては、今回はギターサウンドを最初からナシにしようと言っていました。大人の女性が主人公なので、華麗でエレガントなキャラクターを象徴する音楽をというリクエストを出しました。余裕がありつつ優雅に戦う通常シーンと、オーケストラの派手な音楽のクライマックスシーンと、緩急をつけたバラエティに富んだ内容になっています。
山口: 『デビルメイクライ』の全編を通してロックでノリノリなギターサウンドとは対照的ですね。でも、ギターが入らないと、気持ちが高ぶるような音楽がなかなかできなくて、苦労しましたね。一番最初はスパニッシュから始まって・・・。
酒田: 次にジャジーな感じ。
橋本: ジャズの雰囲気は最後まで残ったよね。
山口: なんとか大人な雰囲気にはまとまったと思います。サントラも既に発売されていますので、是非聞いてみて下さい。
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絶賛発売中のサントラ、「BAYONETTA ORIGINAL SOUNDTRACK」 |
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