―――今回のゲーム中の音楽のテーマはどういうものなんですか?
中河:「旅」の一言に尽きます。ワールドマップとフィールドマップは同じ曲のアレンジ違いなんですが、切り替わりを感じさせることなく曲が変化するという試みをしてます。
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本作のテーマは「旅」 |
―――曲をシームレスに切り替えるというのは誰からのアイデアだったんですか?
中河:ディレクターからですね。マップを出入りする時に、曲が頭から再生され直すというのが嫌だというので、アレンジが異なった曲を自然につなげるということを考えたんです。実現するためにはワールドマップとフィールドマップの曲で尺を完全に同じにする必要があって、僕と柳川とで「テンポを変えてはいけない」など色々なルールを決めながらの作業でした。
―――前作からの変更点というのはありますか?
中河:ディレクターからは「静かめな曲」というオファーがありましたね。今回もフィールド画面は3Dなんですが、3Dだと画面が動いた時にプレイヤーが脳で受け取る情報量は、2Dの画面よりも多いんです。なので、頭が疲れないすぎない配慮も兼ねてだと思うのですが、今回は『ロロナ』よりも物静かな曲になっています。
―――「このBGMを聴いて欲しい!」という曲はありますか?
柳川:エンディング曲ですね。maoさんの歌声が素晴らしいですし、私が担当した曲の中では一番制作期間がかかっています。『トトリ』のBGMの総まとめ的な曲になっているので、制作時にはプレッシャーもありましたね。
中河:今回はオープニングで笛を吹き、ベースを弾いていますので、そこを聴いて頂きたいです。時間がなくてオープングだけでもと、楽器を収録したんです。
山本:中河さんは笛を沢山持ってるんですよ。凄いコレクションです。
中河:『イリスのアトリエ グランファンタズム』の制作時、「オカリナを吹こうかな」と思い立ったんです。サンプリングでは高音がきつくなるので。
同僚に相談したところ、「ケルト音楽なんかで使うティン・ホイッスル(アイルランド発祥とされる金属製の笛)がいいよ」と言われて、なんとなくオカリナと一緒に買ったんですが、その後オカリナはあっさり挫折してティン・ホイッスルにハマりました。
ティン・ホイッスルはリコーダーと違ってシャープやフラットといったキーを正確につけられないんです。それぞれの音階用に別々の笛を用意しないといけないので、コレクションがどんどん増えていきましたね。
アイリッシュ・トラッドでよく使われる音階以外のものはマイナー機種になるので高価なんです。そこで似たような運指の安い笛を探しているうちに、更にコレクションが増えるという。
あと、僕はウインドシンセサイザー(息を吹き込んで音をコントロールする電子吹奏楽器)が昔から好きなんで、これも合わせると吹き物系はかなりの数になりますね。
山本:本当はコンサートでもご一緒したかったんですけれど、転調が多くて一本の笛で一曲を演奏し通すのは無理だったんです。
中河:曲自体も、ライブで演奏することを前提とした作りではなかったんですね。
―――最後に、中河さんの考える「アトリエサウンド」とはどういったもですか?
中河:殺伐としない、どこかまったりとした感じがある……ということと、ゲームミュージックらしくあり続けていることでしょうか。
ゲームミュージックというのは演奏家の指先までが見えるようなリアルで正しいサウンドだけを追求してはいけないんじゃないかと思うんです。
僕は途中からシリーズに入ったんですが、ガストサウンドを重んじるディレクターが「生のドラムの音は入れたくない」という考え方の持ち主だったんです。「生ドラム系のサンプリングが入ると、ゲームの世界に忽然とドラマーが姿を現すようで不自然だ」と。私にはない発想ですが、印象的な采配でしたね。
そこで「アトリエシリーズ」ではドラムひとつにしても、複数の民族楽器の太鼓の音を混ぜて仮想ドラムのようにして使うこともあります。実在するようでしないパーカッションキットですね。
シリーズで多用されている多重コーラスもその一環です。原点は北欧的な音楽ですが「一人の人間の声で、統一されたコーラスの世界観を出す」というのは非現実的だけれど作りこまれた構築美があり、ゲームミュージックらしさに通じるものがある。
「アトリエサウンド」には歴史がありますから、新しい提案も「これはやる意義がある」というものでなければならない。そういう意味でプレッシャーはありますね。
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魅力的なキャラクターを更に引き立てるガストサウンド | >
―――では最後に『トトリ』を楽しみにしているユーザーの皆様に一言と、今後の取り組み、目標に関してお願いします。
中河:『トトリ』は旅をするゲームなので、なるべく世界中を回って下さい。旅をすればするほど色々な音楽を聴けますので。
僕らの仕事は「作った音楽がゲームに採用される」のではなく「ゲーム世界の設計図がまずあり、それを表現する手段(素材)の一つ」だと考えています。企画サイドがどういう世界観を提示するか楽しみでもありますし、今回のディレクターとは長く一緒に仕事をしてきていますが、彼の考え方に対する新しい発見もありました。こういうスタッフどうしのコミュニケーションが音楽世界を築き上げるきっかけにもなったんです。
これからガストに来られる方も「ガストサウンドってこういうものなんでしょう?」と決めつけないで欲しいんです。「僕ならこういう解釈をする。僕ならこういう「アトリエサウンド」をやりたい」という人と発展させていきたいです。
山本:ゲームの世界を旅するという気持ちで遊んで頂きたいです。
ゲームの世界を膨らませる上ではBGMの存在も大きいと思うので、是非サウンドトラックも楽しんで下さい。
オープニングのフルバージョンはここでしか聴けませんし、初回特典楽譜集「おとのはのしらべ9」もついてきます。コーラスの歌詞はここでしか読めません。
私が作詞・作曲・ボーカルをしています「ジギタリス」のアルバムも5月12日にリリースされましたので、そちらもよろしくお願いします。こちらも『トトリ』同様、錬金術がテーマになっていて、「アトリエシリーズ」がお好きな方は聴いて楽しいサウンドになっていると思います。
mao:こういう場で『トトリ』に関わる皆さんの想いが聞けて良かったです。サウンドにこだわっている『トトリ』に関われたことも本当に嬉しく思います。
日々を過ごすことは旅をしているのと同じ様なものだと思うので、疲れた時や嫌なことがあった時などは、寝る前にエンディングを聴いてリセットしていただいて
明日また頑張るぞー!という気持ちになって頂けたら嬉しいです。
7月7日にファーストアルバム「toddle」が発売されますので、そちらも是非チェックして頂ければと思います。
柳川:ワールドマップとフィールドマップの曲の切り替えなど、随所にこだわっているところがありますので引きこもらずに色々な場所を回って下さい。
そして「母親の行方を追っていく」というシナリオの結末がどうなるのか、是非ご自分の目で確かめて下さい。
先輩方が作られた「アトリエサウンド」を引き継ぎつつ、新しい挑戦もしています。それが受け入れられるか戦々恐々ですが、今後も挑戦は続けていきたいと思っています。
―――本日はありがとうございました。
「アトリエサウンド」という伝統と新たなチャレンジ、歌で表現する世界観、ゲームミュージックとは何か・・・など、歌い手のお二方とスタッフの皆様からは深いご意見を伺えました。様々な思いが乗せられた『トトリ』、今は発売日を静かに待つことにしましょう。
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本日はどうもありがとうございました |