恩田氏は「CEDEC 2010」で「ゲーム業界における特許の必要性とその効果 経営、企画、開発の3者の視点からのアプローチ」というセッションを担当される予定です。
―――さっそくですが、パテントエンジニアとはどのような仕事なのでしょうか
知的所有権と呼ばれるものの中でも特許を専門に扱う部門として、弊社には特許部があります。我われはそこで、大きく分けて2つのことをしています。ひとつは日本国内外で採用したり採用しようとしたりしている技術について特許を取得し、ビジネスに活用すること。もうひとつは弊社がビジネスを展開する上で、どうしても障壁となる特許の対応策をとることです。
弊社は総合ゲームデベロッパーですから、家庭用ゲーム機や携帯ゲーム機、アーケードゲームに至るまで、ありとあらゆる特許を扱っています。また、展開する地域が多岐にわたるので、特許の対応は重要です。特許部はそうしたなかで弊社の製品が市場シェアを確保し、かつ安全にお客様に届けられる環境づくりをしているのです。
―――ゲームと特許の結びつきは、昔からあるものですか?
ゲームと特許がクローズアップされてきたのは、1980年代の終わりくらいからでしょうか。特許法が少しずつ改正され、ソフトウェアの特許が認められるようになったのと、ゲームがスプライトからポリゴンに変わる技術革新とがうまくリンクしたというのも背景にあります。
具体的には、視点変更技術の特許取得のニュースが大きなきっかけの一つだと思います。そのとき「こういうもので特許を取れるんだ」という認識が強くなりました。そこから各社、取り組みを進めていったんです。
ただ、過去には旧ナムコと他社さんとのあいだに訴訟などもありましたが、ここ10年間は大きな問題は起きていません。
今ではお互いがお互いの技術を尊重し、他社の権利を侵害しないように製品開発をしているのです。
―――恩田さんはとどのように開発部署と関わっているのですか?
新規タイトルの場合、開発の初期段階から会議に出席して特許上の問題がないかチェックし、新しい要素があれば「これについて特許を出しましょう」という話をします。
また仕様書や製品の各段階でも、ひとつひとつ丹念にスクリーニングしていきます。これには経験が必要で、既存の特許を見逃したばかりに製品が出せないとなれば一大事ですから、重要な作業です。
―――他社が特許を持っていて、ゲームを作れない場合もあるんですね
しょっちゅうです(笑)。ですが、「他社の特許だから別の仕様を考えてよ」という話をすると、結果的にまったく新しいタイプのゲームに生まれ変わることも多々あります。特許を意識することで、洗練されていくわけです。
私は、世のゲームの99%以上が他のゲームから影響を受けたものだと思っています。そこから「少しでも面白くしよう」とか、「こういう部分で違いを出そう」と考えて差別化される。
タイトーさんの『インベーダー』というゲームがあります。あれは実際にゲームシステムで特許を取られているわけではありませんが、あのあと弊社から『ギャラクシアン』が出たとき、「両者は似てるけど違うよね」という評価をされました。『ギャラクシアン』には『ギャラクシアン』の、斬新な要素があったわけです。ゲームというのは、そういうものの積み重ねではないでしょうか。
―――なるほど(笑)。御社は1000件以上の特許を取得されているそうですね
ええ。大体年間150件程度の特許を申請しています。
先ほど申したように、実際に直ぐに使えるものばかりではありません。そうした特許はそれを必要とする会社に使用を許諾する形で活用を進めていきたいと思っています。
5月から「特許流通データベース」というデータベースの中で、そのうちの28件を有償で公開させていただいています。ゲームのメカニズムに関するもの、映像認識に関するもの、ネットワークに関するものなどです。ゲーム以外でも何かしらの製品に結びつくと嬉しいですね。
―――同業のゲームメーカーとクロスライセンスのような形でライセンスすることもあるのでしょうか?
クロスライセンスというのは、お互いに使いたい特許があって、さらに時期が一致したときでないと難しいんです。ですので、クロスライセンスというのは余り事例がないのですが、同業のゲームメーカーさんであっても、ライセンス料で折り合えればライセンスというのは普通に行っています。もちろん、本当に門外不出の特許もありますけどね(笑)。
―――「CEDEC 2010」でのセッションはどのような内容ですか?
経営、企画、開発の各視点からとらえた特許について話そうと思います。
経営者の方には「そもそも特許は必要なのか?」という視点で振り返ってもらい、企画者にはボツになった企画だからといって放り投げるのはもったいないという話をします。企画者は特許について重要なポジションにあるんです。開発者に向けては、その技術が他社の特許を侵害しているおそれがありませんか? という話をする予定です。
私は、ゲームと特許には親和性があると考えています。たとえば、ゲームシステムそのものについて特許を取ることさえできるんです。代表的なところでは任天堂さんの『Dr.マリオ』やタイトーさんの『電車でGO!』、弊社の『塊魂』などは基本的なゲームシステムの特許を取っています。
またシリーズモノでは、「今回はこういう部分がウリです」「こういう仕様を追加しました」といった部分を拾いだして特許を出願することもできます。『エースコンバット』シリーズや『鉄拳』シリーズはそうした特許の塊で、毎回少しずつ出願しています。
しかしながら特許を取得する技術というのも重要で、誰もが同じように良い特許を取れるとは限りません。やはり担当者の技量やノウハウが必要となるのです。
―――申請を受理する側である特許庁はどうですか。
日本の特許庁のゲーム審査はレベルが高く、厳密です。特許庁にもゲームファンはいて、出願に行くと、「これ、あのゲームで使うやつですね?」とか「これは他社で使っているものと似ているから難しいですよ」と指摘されます。海外の場合、たとえばアメリカや中国では受け取る側にもっとムラがあります。そのことで正直、得することもあるんですが、理不尽に思える理由で特許を取れないこともありますね。
―――今回のようなセッションを持とうとしたのはどうしてですか。
特許というものを、もう少しゲーム業界の皆さんに知ってもらいたいからです。よく尋ねられるんです。「特許ってほんとに必要なの?」って。これは考え方次第なんです。取得しないリスクも、取ることによるデメリットもあります。詳しくはCEDECでお話ししますが、これをきっかけに一度、特許について考えてもらえればと思います。
―――今後、ゲームと特許の関係はどうなるとお考えですか。
特に今後2年間が重要になります。その理由についてもCEDECでお話しします。「お客様の層の変化」と「プラットフォームの変化」。これがキーワードです。今は先ほどお話したスプライトからポリゴンへの変化以来の変革の時期、転換期です。それを理解できる人とできない人とで差が出てくるはずです。
―――楽しみですね。本日はありがとうございました。
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