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では、なぜプラチナゲームズは、優れたアクションゲームを次々に世に送り出せるのでしょうか。そこにはプロデューサーの稲葉敦志氏、ディレクターの神谷英樹氏といったリーダーの存在だけでなく、実際のゲーム作りに携わる、開発者一人ひとりの力量があるはずです。リーダーと現場は車の両輪のようなもので、どちらが欠けてもプロジェクトは前に進まないのは、あきらかでしょう。
そこで本座談会では、同社のアクションゲーム作りの秘密を解き明かすため、『BAYONETTA』『VANQUISH』の制作にかかわったメインスタッフに参加してもらい、社風やゲーム開発のスタイルなどについて率直に伺いました。おりしも同社では開発職種の中途採用も行われていますので、参考になれば幸いです。
■座談会出席者
●プログラマー
・井上和憲
・大谷規之
●グラフィックデザイナー
・小手川宗行 (キャラクターモデリング担当)
・山口孝明 (モーションデザイン担当)
・西村栄治郎 (モーションデザイン担当)
・村中高幸 (モーションデザイン担当)
・山本拓生 (エフェクトデザイン担当)
●プラチナゲームズの社風について
―――今日はよろしくお願いします。はじめにプラチナゲームズの社風について、お聞かせください。パーティションが存在せず、フロアが一望できるなど、かなり社内の風通しが良い印象を受けましたが?
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席にパーティションはなく見渡せるオフィス |
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左から大谷氏、井上氏 |
大谷:良い意味で、社内の上下関係などがないので、上からも下からも、いろんな意見が出てくる自由さがあります。新人でもアイディアが良ければ採用されますし、仕事も任されます。それがモチベーションの向上にもつながって、社内の雰囲気も良くなっていく。そういったところが社風ですね。
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左から山口氏、小手川氏 |
山口:セクション間の垣根を超えて、そうしたやりとりが行われているんですね。ディレクターやゲームデザイナーがネタやコンセプトを提示して、それをみんなで「作る」というよりは、みんなで「育てる」といった方が正しいんじゃないかな。もともとゲームデザイナーの数が少ないこともあって、みんながゲームデザイナーのような仕事を求められていますね。元のアイディアが一人歩きして、全然違う内容になることも、よくありますよ。
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左から村中氏、西村氏 |
村中:僕はこのメンバーの中では唯一、カプコン時代を知らなくて、中途で入ってきたんですが、みんなゲーム作りに対する意識の持ち方や、レベルが非常に高いんですよ。何か頼まれてデータを作って、みんなの前で見せる時は、反応がものすごく気になります。
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山本氏 |
●若手の起用が多い?
―――若手の起用が多いという印象を受けました。
山本:そうした意識はないです。そもそも、そんなに人数がいないので、必然的に若手にも仕事が回ってくるし、任せることになるんです。もともと「ゲーム」を作りたい人間が集まっている会社で、みんな意識も高いので、やりたいんだったら、挑戦させてみるかと。それに対して先輩もフォローしていくので、クオリティが低いままで発売されることはありません。そのため若手にとっても、やりがいはあると思います。
山口:若手だけじゃなくて、途中からプロジェクトに参加した人にでも、平気で主人公クラスのキャラクターモデリングなどを任せたりしますからね。
村中:僕は最初に入った会社がすごく人数の少ない会社だったので、デザイナーの仕事なら、なんでも体験しました。それはそれで良かったのですが、レベルもそれなりだったんです。一方でプラチナゲームズでは、同じデザイナーでも、職種別にセクション分けされています。その一方でセクションを超える自由さもある。今の仕事に満足できていなくて、スペシャリストを極めたい人には向いていますね。
西村:若手スタッフの希望は、基本的に通すようにしています。やっぱり“好きこそ物の上手なれ”で、好きなモノや、やりたいことに挑戦するときが、一番力が出ると思うので。ただ、チャンスをモノにできるか否かは、その人のがんばり次第です。、一定以上のクオリティが達成できて、商品に組み込まれることになった時、ものすごい充実感が得られるし、実力がつくと思うんです。それを繰り返すことでプラチナゲームズ全体がレベルアップしていけるので、この方針を続けていきたいですね。
山口:ベテランなら管理業務などが加わったりもしますが、ことクリエイティブな仕事に限れば、若手もベテランも業務内容に差はないんです。そのため若手に対しても、ある程度の作業内容を、周りが求めるんですよ。もちろん、ちゃんとフォローしていますので、仕事をしながら覚えていってもらう感じですかね。僕も新人の頃はそうやって学んでいきましたし、今でもそうだと思います。若手が良い物を作ると、ゲームも面白くなるし、自分も嬉しいんです。
―――上の人に求められることって、何ですか?
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大谷:僕が心がけているのは、わりと普通のことなんです。ゲーム業界って自分も含めて、ちょっと変わった人が多いんですよ。その部分は認めてあげて、その上で普通に挨拶ができるとか。弊社は9:30~18:00の定時制を取っているので、朝は遅刻しないで出社するとか。弊社に入ってくる時点で、それなりの実力は持っているはずなので、後は社会人としての常識の部分ですね。実際、技術力では若いスタッフの方が高かったりしますよ。
井上:僕はもう、あまり難しく考えていないんです。だいたい、新しく入ってくるスタッフの方が知識が豊富なんですよ。僕らは、特定分野については詳しくても、新しいことを学んだり、挑戦する余裕があまりなかったりするんですよね。なので、あんまり先輩風を吹かせずに、新人に対しても、わからないことは謙虚に聞きます。逆にゲームの作り方については、僕らの方が経験があるんで、そこは教えてあげるみたいな。
小手川:現世代機で、シェーダーが使えるようになったりと、それまでのゲーム機とは、基礎技術が変わったじゃないですか。そのため新人もベテランも、その時点で仕切り直しになったんです。その上で僕らにできることといえば、「ゲーム」の作り方を教えてあげるくらいでしょうか。
●「秘伝のたれ」が生み出す独特のスタイル
―――ちなみに、みなさんはおいくつですか?
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座談会メンバー最年少の村中氏(左) |
村中:僕はまだ32歳ですよ。(一同「若っ!」と声が上がる)
大谷:若いスタッフから「小学生の時に初代『バイオハザード』を遊びました」とか言われると、もうそんな年になったかと思いますね。それ、自分が係わったゲームなんやけど。
井上:カプコンから独立して、会社名が変わる中で、古くからいたスタッフが抜けたりもしましたが、濃いところは変わらず残っているんですよ。その一方で新しい人も入ってきて。
小手川:老舗ラーメン屋の「秘伝のたれ」みたいになってますよね(笑)。
―――以前、制作風景を見学させてもらった時は、開発室のそこかしこで人が集まって、モニターを見ながら雑談っぽく打ち合わせをされている姿が印象的でした。みんな、よく喋るなあと。
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西村:フロアにパーティションがなくて、立ったら一望できるとか。顔と顔をつきあわせてゲームを作ろうとか。そういうのは昔から変わってませんね。
小手川:みんな、やいのやいの言いながらゲームを作るのが、楽しいんですな。他のチームからも、バンバン意見が飛んできますから。逆にあんまり口を挟んでいると、そこのチームに突然、編入されたりしますからね。
井上:そうそう(笑)。僕も最近「ちょっと、うちのチームに来ない?」って、別々に2カ所から言われていて。あんまり口を挟んでいると自分が作ることになっちゃった、なんてことがたまにあるよね。
●みんな他の仕事の内容について、すごく関心が高い
―――具体例はありますか? たとえば『VANQUISH』なら、最初はこういう感じだったのが、現場でどんどんアイディアを加えていって、がらっと変わってしまった、みたいな。
西村:全部がそうだったからなあ(笑)。
井上:何か新しい絵とか、動くモノができたら、「関係ある人、ちょっと来て~」みたいな感じで声がかかるんです。そしたら、わーってそっちの席に集まって、寄ってたかって見るんですよ。何か新しいモノができたら、みんな見たいんですよね。見たら、口を挟みたくなるじゃないですか。それで、わいわい言って、新しいアイディアが出てきて。そうした場には、たいていディレクターもいますから、みんなが賛成したら、その場で仕様が変わっちゃうんです。
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―――自分の仕事以外のことに興味があるって、すごく面白いですね。
井上:そうやって、わいわい作るのが楽しいんですよ。開発中のモノでも、やっぱり遊びたい。遊んで口を挟みたい。だから仕事じゃなくて、趣味みたいなもんです。
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常にコミットしていないと知らぬ間に仕事が増えていたり |
井上:ホントに危険ですよ。どんどん仕様が変わりますから。
小手川:『VANQUISH』でいえば、変形する超巨大戦艦が登場するステージがあるんです。あれはもともと背景の一つで、遠くの方で戦艦が変形する、くらいの内容だったんです。作業分担もキャラクターモデリングじゃなくて、背景チームの担当だったんですよ。でも自分は変形モノが好きなので、お願いして、作らせてもらったんですね。
井上:そうそう。そうしたら誰かが「せっかく戦艦が変形するんだから、その上に乗りたい」って言い出して。
小手川:挙げ句の果てに「動力部に侵入して、コアを引きちぎって、大爆発させたい」とか言い出して。結局、背景パートのスタッフに教えてもらいながら、自分で全部作ることになっちゃいました。自分で撒いた種とはいえ、死ぬかと思いましたよ(笑)。もっとも、その作業を通して新しい技術も学べたので、結果的には良かったんですが。
山口:そんな風に作業分担についても、その場のノリでコロコロ変わってしまうことが、結構多いです。それも、かなり大きな仕様のところまで。こんな風に、最初にがちがちに決めてしまうわけではなくて、そのアイディアを実現するために一番適したモノは何かを、作りながら選んでいくという。
西村:紙っぺら一枚みたいな仕様書はありますが、イメージが伝わってくるだけで、5~10分で意味をなさなくなりますから。
小手川:あまりにそういうのが多すぎて、最近では「良い感じにしといて!」というフレーズが禁句になってます(笑)。
井上:僕はいまだに使うなあ。「これ、良い感じにしといてくれる?」って。
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三上真司ディレクターを迎えて開発された『VANQUISH』 |
●意見の対立があっても、最後はディレクターが判断
―――なんだか、みんなで殴り合いながらゲームを作っている感じですが、喧嘩にならないんですか?
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さすがに殴り合ったりはしてませんでしたが… |
山本:その程度で心が折れるようなタイプだと、ウチ、無理。
山口:悪意のある意見はありませんよね。みんなゲームを面白くしたいがために、意見を出し合うので。だから、そういうのがエスカレートして、喧嘩とか言い合いになったりしても、後にひかないんです。
井上:時には感情論でぶつかることもありますけど、向かっている方向は同じなので。
山本:最終的にはみんな、ユーザーのことを考えて作っていますし。その気持ちは共通して、がっつり持っていると思いますから。時が経てば自然と落ち着きますね。
西村:それに、最終決定はディレクターの権限ですからね。意見が割れたり、言い合いになったりしても、ディレクターがしっかり舵取りをしてくれますので。ディレクターもガンガン、現場に入ってきますからね。
井上:そこはもう、ディレクターを立ててあげないと(笑)。時には決めてもらうというより、決めさせることもあるよね。材料をそろえて、さあ、どっちやねん、みたいな。
山口:だから一日でもディレクターがいないと、現場が回らなくて、困るんですよ。もっとも、ディレクターの判断が迷走して、ぐちゃぐちゃになって終わることも、たまにありますけど。
西村:それでダメになったとしても、もう一回作り直せばいいんです。
井上:よう失敗するんですよ。じゃあ次、みたいな。
大谷:たまにディレクターのオーダーでも、明らかに違うやろう、という時もありますよね。そんな時でもあえて作ってみて、「な、あかんやったろ?」って言ったり。
井上:確かに、それが一番楽しい(笑)。
小手川:それを楽しめるという時点で、もう一周回ってますよね。
(後編に続く)
BAYONETTA(ベヨネッタ) (C)SEGA
MAX ANARCHY(マックス アナーキー) (C)SEGA
VANQUISH(ヴァンキッシュ) (C)SEGA
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