CEDEC2012、1日目の講演に登壇した三部幸治氏は現在タイトーで技術顧問を務めており、アーケードゲーム黎明期から開発に携わっています。アーケードゲームの変遷と、これからの「組み込み技術者」(定義:ハードウェア(デジタルを含む電子回路)とソフトウェアの両技術に精通したエンジニア)をどのように育成していくのかを語りました。
まず始めに、現在のアーケードゲームの市場規模が紹介されました。全世界での市場規模は5兆円程度で、日本のみ家庭用ゲームより、アーケードゲームの方が売上比が高くなっています。ちなみにこの数字は、消費者がソフトウェアに対して支払う金額ベースなので、家庭用ゲームであればソフトを買った金額のみ、アーケードゲームであれば課金部分の合計になっています。
海外アーケードゲームの売上状況は、アメリカは「非常に落ち込んでいる」ということです。店舗数に関しても「飛行場の近くなどに数店舗あるくらい」で「家庭用ゲームがメイン」になっているとのことです。一方アジアでは、まだまだ少ないものの売上は伸びてきているそうです。なお、数値は2007年のもので「多少違いはある」とのことですが、概ねの傾向は変わっていないということです。
カテゴリ別の売上をみると、全体の40%をクレーン機が占め、メダル機31%、テレビゲームは18%のシェアとなっています。売上の9割近くをこの3種が占め、残りがプリクラ、カード、音楽ゲームの順になっています。ちなみに三部氏によると「インベーダー全盛期はアーケードゲーム全体の80%近くを売り上げていた」そうです。
実際にアーケードゲームを開発する際に必要な役割は「家庭用ゲームの開発とほとんど変わらないが、メカニックとハードウェアはその都度、設計・設定しなければならない」としています。
ここからは、アーケードゲームの技術の変遷についての話になりました。まず、日本のアーケードゲームを語る際に欠かすことが出来ないのが『スペースインベーダー』です。日本では初めてCPU(8080)を搭載したアーケードゲームになります。制作当時は1人の人間が全ての作業を行っていたそうで、製作者の西角氏は、「プログラミングに関しては、ゼロから独学で学んだ」そうです。手書きのアセンブラでソフトを開発し、「ツールが高額」だったため、自らROM焼きまで行っていたといいます。
また、西角氏は筐体だけでなく、ゲームを一時保存するためのデジタルカセットドライバーや、絵作成ツール、プログラム開発デバッガーなど、制作に必要なツールも自ら制作していたそうです。三部氏は「当時のゲーム開発者は、ハードウェア・ソフトウェアからツールも制作する組み込みエンジニアだった」とまとめました。
スペースインベーダー以降、アーケードゲームは進化を続け、映像技術においては1980年代からは後にファミコンなどでも使われる「スプライト」が重用され、1990年中頃からは「ポリゴン」を活用したゲームが多く登場しました。
しかし、先ほどの市場の概況からも分かるとおり、2000年以降はテレビゲーム型のシェアは減り、クレーン機やメダルゲームに比重がうつりました。そこで、メカやモーターなどの制御技術が従来に増して重要になっています。入力信号から、モーターへの出力、センサー検出、ネット接続などの多数の信号処理を行うために欠かせないのがワンチップマイコンです。
現在のアーケードゲーム開発において欠かすことの出来ないワンチップマイコンですが、電源のノイズに弱いという弱点があり、対処が必要になっています。また、従来のテレビゲーム型に比べ、多数の制御が必要になっているため、それぞれの対処を行っていかなければなりません。
そこで現在タイトーが行っている研修では、自分で部品を選定し、作り上げるというルールを設け、「ワンチップマイコンが自由に扱えるようになること」「マイコンI/Oと周辺ハードが自作できるようになること」「ノイズへの対処ができるようになること」の3つが目標に設定されています。
三部氏は後輩の育成について以下の4点が重要であるとしました。
・後輩のために「技術解説書」を作る(OJTのみでは時間がかかる)
・簡単でも全行程を経験させる
・学ぶ習慣を身につけさせる
・英語を読めれば、世界が広がる
こうして後輩を指導していけば「先輩(=自分)にも少し先のことを考える余裕が出てくる」と語りました。
次世代の技術者を育てる育成方法に続いては、今後アーケードゲームにも必要になるであろう3つの技術があげられました。1つ目が「ワイヤレス給電」です。現在のメダルゲーム機では本体とロボットがコードなどでつながっている状態ですが、この技術が実用化されれば、ユーザーはあたかもそこで動いているかのような感覚を得られるとしています。
2つ目が「パワーセービング技術」です。先ほど説明があったように、近年はマシンの制御機能が複雑になっており、熱対策が必須となっています。電源が小さくなればコストカットにもつながる技術なので、今後取り組む必要があるとしています。
最後にあげられたのが、「センサ情報の統計処理」です。例としてタイトーのパンチングマシンにおける動画像解析技術があげられました。パンチングマシンでは、キックや勢いをつけすぎたパンチなど、危険で悪質なプレイも多いということで、そういったプレイをした際には得点などが表示されないような仕組みになっています。カメラから得た情報や、マシンに加わる圧力の変化などを総合的に解析し、危険なプレイかどうかを判断しているということです。
そして三部氏は最後に、次世代の技術者を育てていくために3つの「教育機関への要望」を掲げました。
・中等教育で理系にもっと興味を持つ工夫を(諸外国に比べて少なすぎる)
・問題発見能力・解決能力の体験と向上を ― サンデル教授の授業のような内容で
・英語は学問ではなく常識として教える
英語については「話せなくても、早くなくても良いので、読めるようなると良い」と語っていました。
こうした現場での育成、教育からの育成を重ね、「若い技術者を育て、エンタメ業界にさらなる革新を!」と、熱いメッセージを残して講演は終了しました。