黒川氏の考えによると、現在のLINEで指示を集めている「LINEスタンプ」には、携帯電話時代からあった絵文字やデコメといった感情を図像で伝えるという楽しみが集約されているといいます。人間にとって「他人とコミュニケーションを取る」ということは最大のエンターテイメントであるとするならば、感情をスタンプの形で円滑に伝えるツールであるLINEは携帯電話文化の先にある進化したエンターテイメントツールなのではないかと提起しました。
それに対してLINEの大ファンである土本氏は、現在のコミュニケーションのプラットフォームとしての普及率の凄さを改めて確認しました。ゲームプラットフォームとしてのLINEはmixiやFacebookなどのリアルグラフを中心としたソーシャルゲームとそれほど変わりません。しかし一方で、LINE POPで遊んでいると昔の同級生から「ハートをくれ」とか話しかけられる瞬間が非常に新鮮だと、土本氏は述べました。
また、土本氏はLINEを業務においてもたまに利用することがあるといいます。営業マンに「怒りのブラウン」を送信することは、下手な文章よりも多くを伝えることができるのではないかといいます。黒川氏もFacebookなどで長文を書くと、必要以上に厳しと取られるケースがあるのに対して、文字情報よりもスタンプのほうがソフトなニュアンスが伝わる点が良いと同意しました。
一方、そのLINEスタンプの発明に目黒氏は非常に感心したといいます。スタンプは特別なメッセージを発しなくても、会話のきっかけとなる点が使いやすく、新しいスタンプを購入して自慢するだけでも楽しいと述べました。
また現在、LINEの浸透に追随する形でDeNAがcommをリリース、さらに韓国で既に人気のあったカカオトークがYahooと提携する形で無料音声通話・メッセンジャーアプリにおいても戦国時代に突入しつつあります。今後のメッセンジャーツールとしては、どのアプリが覇権を握っていくことになるかについて議論がなされました。
登壇者たちはどのアプリが覇権を握るかについては、現在のところ予想はできないと述べましたがが、現状の普及率の高さからLINEが優位にあることについては一致していました。また目黒氏はテキストベースではLINE、音声はcommといった使い分けはなされる可能性を示唆しつつ、ゲームメディアとしてはリアルグラフのSNSでゲームがいかに拡散していくかに関心があると述べています。これまでのMobageやGREEはバーチャルグラフであるのに対し、リアルグラフが中心のLINEやcommがゲームプラットフォームとしてどのようなゲームをリリースしていくかが今後の注目点であるといいます。
それに対し、土本氏はユーザー層の違いに焦点を当てました。現在のMobageやGREEのユーザーは男性中心であるのに対して、LINEはかなりの女性が使用しています。今後、女性のスマートフォンユーザーが伸びていくのは必然であるため、女性向けのゲームが活躍していく可能性を土本氏は示唆しました。
また佐藤氏はCnetで掲載された記事から、初めての携帯電話がスマートフォンである高校生、いわば「スマホネイティヴ」が25%になっていることを指摘しました(参考)。そのため、そのようなスマホネイティヴ層がLINEやcommといったメッセンジャーアプリからゲームを始める可能性があるため、スマートフォンゲームの低年齢化が今後起こっていくだろうと述べました。
■今後のスマートフォンゲームの可能性
今後このようにゲームがスマートフォンプラットフォームで広まっていくことになる流れに対して、黒川氏から目黒氏に対して、「ファミ通」などの家庭用ゲーム機専門誌をフラッグシップとしたメディア展開を行なうエンターブレインはいかに立ちまわるか質問がなされました。
それに対して、目黒氏はスマートフォンゲームとコンシューマゲームは決してユーザー層を食い合わず共存していくことを強調しつつ、現在のスマートフォン市場では有料ゲームがほとんどビジネスとして成功していないことを述べました。その市場で戦っていくためには、宣伝力はもちろん、ゲーム序盤の導入や面白さをいかに伝えるかが勝負であると指摘しています。さらに、コンシューマのゲーム以上に運営の重要性が強く、全体として予算や人員面での体力がないと厳しくなるだろうと予想しております。
一方で土本氏は、ユーザーの嗜好の変化は非常に激しいため、まだまだ小規模な開発による新規タイトルがヒットする可能性も高いと見込んでいます。黒川氏もそれに同意しつつ、『アングリーバード』ほどとは言わないまでも、まだまだ小規模開発者による大ヒットという夢を見たいと述べています。
さらに佐藤氏は、単純な宣伝力よりもやはり面白さをユーザーは期待している点を強調しました。「パズドラ」の大ヒットも業界がソーシャルゲーム一辺倒になっていたところに対するカウンターの側面が大きかったとも思われます。「ソーシャル・アプリ・プロバイダー」と呼ばれる「SAP」の多くは、自らのサービスをゲームというよりもサービスとして捉えていると、佐藤氏は言います。しかしながら、そこからどうやって新たなサービスを開拓するかは未知数であり、特にスマートフォン独自のリッチな表現を生かしたものはまだ登場していないと述べています。
黒川氏はこの話の流れを受けて、自身がインディーゲームの開発活動を行なっていることを紹介しました。実際に黒川氏は国内の同人ゲーム・インディーゲーム開発者たちのイベントである今年の「東京ゲームロケテショウ」に参加するなど、異例の活動を行なっています。エンターテイメント業界のプロとして働きながらも、ビジネスから一端距離を置いて、自由に表現できる場所が今後はもっと広がっていくだろうと黒川氏は展望を述べています。
■いよいよ発表「エンターテイメント大賞」
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