今回の演奏会では、『ファイナルファンタジー』(以下『FF』)シリーズ、『クロノ・トリガー』、『聖剣伝説 ファイナルファンタジー外伝』、の楽曲が吹奏楽で演奏されました。「ブラス・エクシード・トウキョウ」の演奏会では、毎回さまざまなジャンルの楽曲が取り上げられていますが、ゲーム音楽のみのプログラムは第7回演奏会の『ドラゴンクエスト』特集以来2度目となります。会場には1,000名以上にものぼる観客が詰めかけ、力強い吹奏楽によるゲーム音楽の数々を堪能しました。
また、ゲストには『FF』シリーズの作曲者である植松伸夫氏が出演し、軽妙ながらも含蓄のあるトークが繰り広げられました! 本記事では、植松氏のトーク内容についてもお届けします。
■プログラム
【第一部】
クロノ・トリガーメドレー
(予感/クロノ・トリガー/朝の日ざし/風の憧憬/時の回廊/ボス・バトル2/エピローグ~親しき仲間へ/遥かなる時の彼方へ)
聖剣伝説 ~ファイナルファンタジー外伝~
(序章/二章/三章/四章/五章/終章)
【第二部】
ファイナルファンタジーVIIより オープニング~爆破ミッション
ファイナルファンタジーI メドレー
(オープニング・テーマ/街/マトーヤの洞窟)
ファイナルファンタジーVメドレー
(オープニング/ファイナルファンタジーV メインテーマ/ハーヴェスト/王家の宮殿/ビッグブリッヂの死闘/決戦/最後の闘い/親愛なる友へ/エンドタイトル)
【第三部】
ファイナルファンタジーVIセレクション
(予兆/ロックのテーマ/カイエンのテーマ/妖星乱舞 第一楽章)
ファイナルファンタジーVIIより エアリスのテーマ
ファイナルファンタジーVIIより J-E-N-O-V-A
ファイナルファンタジーVIIIより Eyes On Me
ファイナルファンタジーXより ザナルカンドにて
ファイナルファンタジーVIIより 片翼の天使
【アンコール】
ファイナルファンタジー(ピアノソロ演奏)
ファイナルファンタジー(ファイナルファンタジーVI「蘇る緑」バージョン)
この演奏会の構成は、第一部に『クロノ・トリガー』と『聖剣伝説 ファイナルファンタジー外伝』のメドレーが、第二部以降は『FF』シリーズの楽曲が演奏されるというものです。これらのゲームを実際にプレイして育ってきたメンバーによるオリジナル編曲で、それぞれのゲームの世界を彩る名曲の数々が約3時間にわたって披露されました。また、一般公募によって結成された、60名にものぼるコーラス隊「コーラス・オブ・エクシード」による合唱も要所要所で入り、吹奏楽の演奏にさらなる迫力と美しさを加えていました!
第一部『クロノ・トリガーメドレー』のはじめに演奏された「予感」では、「カッ… カッ… カッ…」という時計の音をパーカッションで再現。さらにコーラスも入ってきて、クロノの音楽世界へ一気にググッと引き込まれます! 疾走感のある「クロノ・トリガー」からラストの「遥かなる時の彼方へ」まで、ノンストップで堪能することができました。
『聖剣伝説 ~ファイナルファンタジー外伝~』は、同作品のオーケストラアレンジCD「想いは調べにのせて」をベースにした吹奏楽アレンジです。「Rising Sun」「果てしなき戦場」「最後の決戦」「伝説よ永遠に」といった名曲たちが、ゲストの東城裕之氏による味わい深いギターサウンドを身にまといながら、ストーリーの流れに沿ったかたちで奏でられました。
第二部、『FFV』メドレーでの「ハーヴェスト」では、演奏メンバーによるハンドクラップも入って楽しい雰囲気になります。さらに、コントラバス隊のみなさんが楽器をクルッと回すパフォーマンスもあって、耳だけでなく目にも楽しめました!メドレー終盤の「ビッグブリッヂの死闘」~「決戦」~「最後の闘い」バトル曲三連戦は、聴いているこちらも思わず血がたぎるような熱さ!!怒涛のごとく畳み掛けてくる音圧と緊迫感は、宇宙の法則が乱れるかのよう・・・!!ゲストの安田結衣子氏による「親愛なる友へ」ピアノソロでしっとりと聴かせてくれたあとは、元気でさわやかな「エンドタイトル」で締めくくられます。
第三部では、『FFVI』からセレクトされた楽曲と、「エアリスのテーマ」「ザナルカンドにて」「片翼の天使」といった『FF』音楽の代表選手ともいえる楽曲たちが披露されます。アンコールでは、安田氏による「ファイナルファンタジー」の美しく繊細なピアノソロ、続けて『FFVI』の「蘇る緑」バージョンでの「ファイナルファンタジー」で壮大なフィナーレ! 観客からは割れんばかりの大きな拍手が送られ、大盛況のうちに演奏会は幕を閉じたのでした。
■植松伸夫氏への質問コーナー、トーク内容を紹介!
演奏の合間には、司会者の山口こずえ氏から植松氏への質問コーナーがありました。四半世紀以上にわたってゲーム音楽制作に携わり、また音楽を心から愛する植松氏ならではの、含蓄ある言葉の数々が印象的です。以下に、植松氏が語られた内容をご紹介します。
Q.ご自身の作曲されたゲーム音楽が、生の吹奏楽で演奏されたことについてのご感想は?
植松氏:ひとことで言うと、照れくさいですね。ゲーム中の楽曲はシンセサイザーのサンプリングで音を鳴らしていたんですけど、それが生の吹奏楽で演奏してもらえるなんて……僕の子どもが、すごくきれいなお洋服を着せてもらっているみたいです。また違った気分で聴けて、新鮮な気持ちですね。
Q.ゲーム音楽を作曲される際には、ゲーム開発者の方から、世界観やキャラクター設定などを提示してもらったあとに音楽を作るんでしょうか。
植松氏:そうですね。設定資料集みたいなものが、はじめにあるんですよ。キャラクターの名前ですとか、どんな性格か、どんな喋り方か、こんな服を着てますよ~みたいな。それを見て、イメージをふくらませながら音楽をつけていく感じですね。『FFI』や『FFII』の頃は、ディレクターの坂口さん(坂口博信氏)から「ここはこういう音楽にして」とか、ああしろ、こうしろという注文が多かったんですけど、『FFVII』くらいの頃からは何も言われなくなりましたね。やりたいようにやっていいよ、と。「オープニング~爆破ミッション」は、「これに曲を付けて。よろしく~」と映像を渡されて、曲をつけて坂口さんに見せたところ、「Very Good!」と言ってもらえました。なぜ英語だったのか分からないですけど(笑)。
Q.ゲーム音楽を作曲するにあたって、大切にされていることを教えてください。
植松氏:う~ん、時期によってちがうんですよね……。ファミコンの頃って、絵も荒いですし、音も電子音ですし、視覚的にも聴覚的にもあまり説得力がないんですよ。つくりものみたいな印象があるんですよね。だから音楽は、極力メロディを持たせて、心の動きなり感情なりを加味して、酸素の役割のような感じで僕はつけていましたね。でも最近のゲーム機だと、キャラクターはしゃべるわ、後ろでずーっと風などの効果音が鳴っていたりで、映画のようになってますよね。だから、昔の8bitのころのゲーム音楽のあり方と、今のゲーム音楽のあり方は、多少ちがってきていると思いますね。今、ゲーム音楽は模索している時期だと思います。このまま行っても、ただの映画ですからね……。ゲーム音楽として、これからどうなっていくべきなのか?っていうのは、きっと若いゲーム音楽作曲家の誰かが発明しますよ。若い人の役割なんですよ、発明って。この会場の中にもゲーム音楽作曲家を目指している人がいるかもしれないですけど、早く発明してください!(笑)
Q.『FFVI』以降は、仲間たち1人1人のテーマ曲が増えてきましたね。植松さんご自身がお気に入りのキャラクターと、テーマ曲はありますか。
植松氏:キャラクターのテーマ曲って、簡単なものと難しいものがあるんですよ。強い男の子とか、かわいい女の子っていっぱいいるじゃないですか。たとえば、女の子が何人か出てくるって時には、それぞれの子をどうやって音でイメージ付けしていくか?ってのを悩むんですよね。それよりも、ケフカみたいな飛びぬけてヘンなキャラクターのほうが曲を作りやすいです。『FFVII』の「エアリスのテーマ」は、作ってる時に、「これは、いいのができたなぁ」って思ってたんですよ。・・・思ってたんですけど、完成したゲームを遊んでみたら、序盤で●●じゃって・・・(苦笑)。(※注:ネタバレのため伏せ字にしています。) まあ、●●ことは知ってたんですけど、実際にゲームをやってみると、あんなに序盤で●●じゃうのか~って・・・あの意外さが、『FFVII』のイメージを決定づけているところがあると思いますね。
Q.『FF』シリーズの中で、思い入れのある楽曲はありますか。
植松氏:う~ん、たくさん作ってきたので、どれかひとつってのはなかなか難しいですね・・・アンジェラ・アキさんに歌ってもらった、『FFXII』の「Kiss Me Good-Bye」かな。いまだに自分で聴いてますよ。お気に入りなんです。
Q.植松さんは、ロールプレイングゲームは遊ばれますか。
植松氏:やりますよ。自分の関わったゲームはプレイしてます。このあいだ、僕が音楽を担当させてもらった『ファンタジーライフ』というゲームが出たんですよ。それがねぇ、思いのほかハマっちゃって。今、135時間くらいやってるんです(笑)。3DSのゲームで何やろうかなぁって思ってる方、だまされたと思ってやってみてくださいよ。非常に内容もいいしね、何より、イヤな気分にさせないんです。人を傷つけることもないし。心温まるイイ感じのゲームなので、ぜひやってみてください!
Q.植松さんの音楽は、ゲームをしない人にとっても想像力や興奮をかき立たせてくれますね。ゲームをしない音楽ファンに向けてのお言葉はありますか。
植松氏:音楽ファンって言っても、いろいろな方がいますよね。クラシックファン、ジャズファン、J-POPファンとか。・・・みんなね、自分の好きな音楽は聴きますけど、「クラシックは聴くけど、ロックはちょっと・・・」とか、「ええ~、J-POPでしょ?」みたいな人っているじゃないですか。ああいうの、すごくもったいないと思うんですよね。音楽って、なんでジャズもクラシックもJ-POPも人気があるかっていうと、面白いからなんですよ。面白がり方を知っている人は音楽を楽しめるんだけど、自分で扉を閉ざして、「俺はジャズなんか関係ねぇし」なんて思ってたら、その人はジャズの楽しさは一生わからないですよ。だから、ゲーム音楽もね、「ゲーム音楽でしょ?」って閉ざさないで、まずは「どれどれ」って食べてみると、中にはお口に合うものがあるかもしれないですよ。まずは食べてみることですよね。
Q.今現在、植松さんが関わっている新作について教えてください。
植松氏:えーっと、言っていいことと、いけないことがあるんですけどね(笑)。ひとつ、これまで自分がやっていなかった新しいこととして、今、デジタル書籍を作っています。絵本なんですけどね。1946年、戦争が終わった直後の時代を舞台にした、ロボットが主人公の物語を書きまして。絵を描いてもらって、僕が音をつけて・・・というのを今やってる最中です。今までずっとゲーム音楽をつくってきましたけど、それとはちょっと違うことをはじめてます。「ブリコ1946」というタイトルです。そのうちデジタル書籍でダウンロードできるようになると思いますので、ご興味がありましたら読んでみてください。
Q.最後に、ゲームファン、吹奏楽ファンにメッセージをお願いします。
植松氏:ゲームだからだとか、吹奏楽だからとか、そういうジャンルはもうナシにして、みんな、自分の興味を持ったものには素直にまっすぐ向き合ってみてください。世の中には、まだ僕らの知らない楽しいことや素晴らしいことがいっぱいあります。ぜひ、目をつぶらないで、いろんな楽しいところに突き進んでいってほしいと思います。
今回の会場で、はじめてゲーム音楽の生演奏を聴いた方には、「ゲーム音楽にもこんなにいい曲があったのか!」と感じた方もいらっしゃったのではないかと思います。植松氏の言葉にもあったとおり、これまであまりゲームに触れてこられなかった方でも、ぜひ、ゲーム音楽の世界に触れてみていただければと思います。新しい扉が開けるかもしれません!
少し余談になりますが、植松氏は、開演前や休憩時間中、終演後に、自らが全曲作詞作曲したアルバム「植松伸夫の10ショート・ストーリーズ」をロビーにて販売されていました。ファンからの、サインや写真撮影といった要望にもこころよく応じており、終始和やかであたたかい雰囲気。たくさんのファンと、植松氏、どちらも非常にうれしそうな笑顔が印象的でした。
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