ガーデンオーケストラは、1999年2月にプレイステーションで発売された『FFVIII』が大好きな有志によって、この公演のためだけに結成された団体です。後藤正樹氏の指揮のもと、コーラス約30名を含む、約110名の奏者によって『FFVIII』の楽曲がたっぷり奏でられました。
今回の会場・ティアラこうとうの1000を超える座席は、満席となる大盛況。なんと、開場時間前にすでに定員を超える来場客が列を成していた(!)というほどです。
このコンサートでは、『FFVIII』の音楽が、ストーリーの流れに沿って奏でられました。各楽曲はガーデンオーケストラ独自の編曲によるもので、「Premonition」など、スクウェア・エニックス社主催の『FF』コンサートでは演奏されたことのない楽曲も披露されました。ここからは、コンサートの詳しい内容をお届けします。
■プログラム
【プレコンサート】
Slide show Part1&Part2
Shuffle or boogie
Odeka ke chocobo - mods de chocobo
【第1部】
Liberi Fatari
Balamb GARDEN
The Landing - Never Look Back - Dead End(SeeD実地試験メドレー)
Waltz for the Moon
Blue Fields - Fisherman's Horizon - Love Grows(今の、みんなには内緒だからなメドレー)
Don't be Afraid - Force Your Way - The Man with the Machine Gun
Dance with the Balamb-fish - Fragments of Memories - Tears of the Moon - Ride On(ルナサイドベースメドレー)
【第2部】
The Oath - Premonition
Compression of Time - The Castle
The Extreme
The Successor - Ending Theme
【アンコール】
Overture
■カードゲームの楽曲やチョコボを演奏!プレコンサート
開場時間をまわると、あっという間にホール内は満席に。世界的にも類を見ない『FFVIII』のみのコンサートということで、観客の期待も高まっていきます。……すると、開演までまだ時間があるにもかかわらず、奏者のみなさんがステージに登場。「まだ開演時間前だぞ?」と、ざわつく会場内。なんと開演時間に先立ち、プレコンサートが行われたのでした。プレといっても、奏者全員が登場する贅沢なものです!
まず演奏されたのは、『FFVIII』のストーリー中、とある人物が映画に出演するシーンで流れる楽曲「Slide show part1&part2」です。ゆったりした旋律のPart1、一転してテンポが早くなり楽しげなPart2。とある人物が必死になってドラゴンと戦うシーンを回想し、思わずニヤリとした方も多いのではないでしょうか。
お次は、『FFVIII』をプレイした方ならハマった方も多いであろうカードゲームのBGM「Shuffle or Boogie」! この曲をやってくれるとは…!わかってますねニクいですね!原曲には手拍子の音が入っているのですが、パーカッションのメンバーが、「パパッ、パン! パパッ、パン!」と手拍子を始めて。指揮の後藤氏が観客側を振り返り、「さあ皆さんもご一緒に」的な笑顔を見せると、観客からも自然に入る手拍子! カードゲームの音楽で、会場は一気に楽しい雰囲気になりました。
次に演奏されたのは、『FF』シリーズではおなじみ、チョコボのBGMです。とある村のチョコボ注意標識前で流れる「Odeka ke chocobo」は、木管アンサンブルによるかわいらしい演奏で、チョコボのかわいらしさがよく表現されていました。この楽曲はゲーム中での使用場面が限られていますが、それにも関わらず演奏を披露してくれたのは愛を感じますね。間髪を入れずに、今度は「mods de chocobo」。こちらはたくさんの楽器が入ってきて、にぎやかな演奏! ごきげんな空気に包まれたまま、歓声の中プレコンサートは終了しました。
筆者は大のカードゲーム好きだったので「カードゲームの曲やってくれたー!!」と、この時点ですでに満足感を得ていたのですが(笑)、あくまでもプレコンサート。まだまだこれからが本番です。
■生演奏でよみがえる、スコールたちの旅路
開演時間を迎え、改めて奏者のみなさんがステージに登場。チューニングののち、後藤氏がタクトを振るってオーケストラが歌い出したのは、『FFVIII』を代表するオープニングテーマ「Liberi Fatari」。『FFVIII』の物語のはじまりが、オーケストラの疾走感あるハーモニーと荘厳なコーラスとともに奏でられます。筆者はサントラで何百回と耳にした楽曲ですが、やはり生の演奏は全く違います。身体へダイレクトに伝わる音圧、その迫力に、思わず身体が震えました。
『FFVIII』の主人公、スコールたちが所属する兵士養成学校・バラムガーデンで流れる「Balamb GARDEN」。ガーデンオーケストラの名称の由来にもなったこの楽曲では、まさに学びの庭といえる、穏やかでやさしいメロディが奏でられます。ゆったりとした木管の響きが心地よかったです。
お次は“SeeD実地試験メドレー”。バラムガーデンが誇る傭兵「SeeD」選抜の最終試験のため、ドール公国で奮闘するスコールたちを描く楽曲がメドレーで奏でられました。
「The Landing」では、静かにはじまるイントロ(冒頭で入る心臓の鼓動音も、ティンパニで再現されていました!)から、盛り上がりを見せます。
場面は切り替わり、無人機動兵器X-ATM092に追われながらのドール脱出のシーンで流れる「Never Look Back」。鳴り響くパーカッションが、追われる焦りと緊張感を演出します。
間髪を入れずに続く「Dead End」は、スコールたちを追っていたX-ATM092が、キスティスの機関砲によって破壊されるシーンで流れる楽曲です。ストリングス、パーカッションにコーラスも加わり、迫りくる脅威を撃ち砕くような、爽快感抜群の演奏が繰り広げられました。
「Waltz for the Moon」は、スコールがヒロイン・リノアと出会い、ダンスをするシーンで流れる楽曲です。2人のはじめての出会いを彩るように、オーケストラで美しく優雅に奏でられました。ちなみにこの楽曲は、『FFVIII』の主題歌「Eyes On Me」が3拍子でアレンジされたワルツになっています。
次は、“今の、みんなには内緒だからなメドレー”と名づけられた、『FFVIII』をプレイした人は思わずニヤリとしてしまうタイトルのメドレー!まずはフィールドマップの曲「Blue Fields」の、静かでゆったりとした演奏から始まります。ふんだんに入るコーラスが、美しさと、寂しさを伴う旅情感を演出していました。
続いて、『FFVIII』でも特に人気の高い癒し曲である「Fisherman's Horizon」へ。ピアノソロから、徐々に木管とストリングスが入り、楽曲を爽やかに盛り上げていきます。そして「Love Grows」…「Eyes On Me」のインストゥルメンタルアレンジであるこの楽曲は、スコールが、リノアを背負ってエスタへ向かって単身歩いてゆくシーンで流れます。壮大に歌い上げるストリングスとコーラスによる盛り上がりは、やさしく変わりゆくスコールの心情や、育ちゆく愛を表すかのような心ふるえる演奏でした。
「Don't be Afraid」「Force Your Way」「The Man with the Machine Gun」の3曲は、バトル曲のメドレーです。「Force Your Way」は原曲よりもテンポを抑え、重厚な雰囲気となっていました。この楽曲はスクウェア・エニックス社主催の『FF』コンサートでも演奏されたことがなかったので、非常に新鮮でした。ラグナ編の戦闘曲である「The Man with the Machine Gun」もテンポを抑え目にして、美しい旋律をじっくり聴かせてくれます。途中に入る、アレンジの効いたピアノソロは特に絶品で、おしゃれでクールな雰囲気を醸し出していました。
第1部最後は“ルナサイドベースメドレー”。宇宙を連想させる華々しいオーケストラ演奏の「Dance with the Balamb-fish」から始まります。とある人物を救出・再会するシーンで流れる「Fragments of Memories」は、ピアノソロと木管の旋律でやさしく奏でられたあと、オーケストラ全体で壮大な盛り上がりを奏で、再会の喜びを表現していました。邪悪で不安な旋律の「Tears of the Moon」に続き、最後は飛空艇ラグナロク搭乗時の「Ride On」! ストリングスや金管の疾走感ある演奏で、大空を舞うさわやかさと気持ちよさがよく表現されていました。
ここで休憩をはさみ、第2部に入ります。
■最終決戦へと向かう、第2部
「The Oath」は、とある敵対ガーデンとの対決時、スコールがバラムガーデン内で演説をしたシーンで流れた楽曲です。傷ついた生徒たちに向かって自分の思いを伝え、多くの人の気持ちを動かすスコール…。その姿と重なるように、ストリングスで奏でられる力強く美しい旋律が、心をふるわせます! 間髪を入れず奏でられたのは、敵対する魔女とのバトル音楽「Premonition」です。ストリングスと木管に加え、会場中に響き渡る金管とパーカッションが、魔女の強大さと、激しい戦いを表していました。
続いては「Compression of Time」。「時間圧縮」と訳されるこの楽曲は、クラリネットと、バックに薄く流れるストリングスの音色で、浮遊感のあるメロディが奏でられます。不安な印象を抱かせる楽曲ではありますが、ハープが非常に美しく、耳が魅了されます。続く「The Castle」では、様々な音が入り乱れ、魔女の居城の不気味な雰囲気が再現されていました。
いよいよ魔女との最終決戦の楽曲、「The Extreme」です。静かなピアノとグロッケンから始まり、やがて疾走感のある重厚で迫力ある旋律が奏でられます。この楽曲は、「静と動」の使い分けが魅力だと筆者は思うのですが、金管、木管、ストリングス、パーカッション、ピアノ…すべてのパートが総力戦といえるような激しい演奏を繰り広げ、まさに最終決戦と呼ぶにふさわしい演奏でした。鳴り響くパーカッションが非常に格好よく、印象深いです。
戦いに終止符を打ち、続いて演奏されたのは「The Successor」。原曲はピアノソロの、静かで落ちついた楽曲ですが、ガーデンオーケストラでは全編オーケストラでアレンジされ、だいぶ印象が変わっていました。最後の盛り上がりは、ストリングスの音色で壮大に彩られていて、思わず鳥肌…!
間髪を入れずにはじまる「Ending Theme」。精神世界に迷い込んでしまい、足元もおぼつかないかたちでさまようスコール……。それを表すような、ストリングスによる不安で歪んだ旋律が、観客の心を少しずつ蝕んでいきます。不安が最高潮に達する寸前、静かにはじまる「Eyes On Me」。ピアノを主体にし、コーラスを取り入れてアレンジされた美しい演奏が、観客を安心させ、心をうるおしていきます。目を閉じて耳を傾けると、そこには一面の花畑が広がっているかのようでした。
そして続くのは「ファイナルファンタジー」。この旋律を聴くと、筆者は自然と姿勢を正してしまいます。演奏にも、奏者さんひとりひとりの気持ちがひときわこもっているように感じました。演奏は、ビデオカメラのムービー後のスタッフロール部分までしっかりと続きます。この部分は「Liberi Fatari」のマーチアレンジになっているのですが、高らかなコーラスとともに、勇壮に奏でられました。
ラストは、月夜に浮かぶバラムガーデンのシーン。ピアノによる『FF』シリーズではおなじみのプレリュードが重なる透明感のある演奏は、リノアとスコールの2人を祝福しているかのようでした。演奏のフィナーレを迎えた瞬間、少々の余韻のあと、万雷の拍手が巻き起こります!
アンコールは、タイトルデモ画面の楽曲「Overture」の躍動感ある演奏で締めくくられ、コンサートは幕を閉じたのでした。
■今もたくさんの人に愛される、『FFVIII』
ガーデンオーケストラの奏者のみなさんは、この1日限りの、たった2時間ほどの公演のために、日々の仕事をかかえながら練習を繰り返し、本番を迎えました。そして1000人以上の観客(実際の来場者はそれ以上)とともに『FFVIII』の音楽を分かち合ったという事実に、胸を熱くせずにはいられません。
終始『FFVIII』への愛でいっぱいのコンサートを観覧し、『FFVIII』という作品は、発売から14年経った今でも、たくさんのファンに愛され続けているのだな……と、深い感慨を筆者はおぼえました。それは、『FFVIII』という作品の持つ奥の深さ、そして、植松伸夫氏の手掛けた楽曲群の素晴らしさが理由なのは間違いないでしょう。
このコンサートを聴いてから、『FFVIII』のゲームをまたプレイしたくなった方も多いのではないでしょうか。(筆者もそのひとりです(笑)。)現在はゲームアーカイブスで配信されていますし、PC版も発売予定なので、現在でも『FFVIII』の世界に触れることができます。プレイステーション版当時のプレイでは分からなかったことも、今改めてプレイしてみると、再発見できることもあるのではないでしょうか。
『FFVIII』という作品が、これからも多くの人に愛されることを願って……この挨拶で締めたいと思います。まみむめも!
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