今回は、2作品のコンポーザーである牧野忠義氏に作曲の手法や当時の思い出、今だから話せる裏話まで広くお答えいただきました。ぜひサウンドトラックを聴きながら、ゲーム中の思い出と共にご覧ください。
―――前作は広大なフィールドを感じられる壮大なオーケストラサウンドという印象でしたが、本作は神秘的でありダークな印象はもちろん、曲のバリエーションに幅を感じました。本作以外にもさまざまな作品に参加されている牧野さんならではという感じがしたのですが、どういった部分に変化をつけようと思われたのでしょうか。
牧野:前作では、『ドラゴンズドグマ』という新しいタイトルに合う音楽性を決めるまでにすごく時間がかかりました。結果として「オーソドックスなヨーロッパテイストの重厚な楽曲」という所に落ち着いたのは、色々な可能性を試した結果です。今作ではそのオーケストラサウンドをベースに、黒呪島に見合う音楽性を考えると同時に、幸いにも僕がこのシリーズを担当出来る、その意味をもう一度考え直しました。
オーケストラ編成は僕が本来、子供の頃から持っている要素を、ロックサウンド、特にギタープレイは学生時代の財産とBlackLuteの経験を、民族要素はモンスターハンターを担当していた時に研究した手法で、シンセサイザーサウンドは以前、効果音を作っていた頃の要領で・・・など、自分の中でも忘れつつあった色々な経験を改めて思い出して、それを全部突っ込む事にしました。僕ならではの楽曲を、ドラゴンズドグマの音楽とイコールに出来れば、もっと相乗効果の高い、良い曲が作れるんじゃないかと思ったんですね。
『ドラゴンズドグマ』の音楽コンセプトはオーケストラ:ロック:民族要素が基盤になっているので、まずはその比率を変え、民族要素を多めに設定し、前作では排除していたシンセサイザーを入れる事にしました。
「絶望戦闘 ~黒呪島内~」や「怨嗟の囚人 ~囚人サイクロプス~」などは黒呪島のドロっとした感じを出すのに適しているシンセベースやアルペジエイター、一変して月明りが差し込む「羨月楼」ではグレゴリアンチャントとシンセパッドを合わせて冷やかな空間の音楽を作ったりしています。木々が揺れる音を表現しているのは、レインスティックという雨や波の音を作る民族楽器です。これを入れる事で、そこに空気が流れている印象を与え、他の閉じられた戦闘エリアとの差別化を図ったりと、工夫を重ねています。今までの経験をしっかりと自分の引き出しとして蓄えて適材適所を考えながら見合うものを選択していく、という感じでしょうか。
「屍竜~」は『モンスターハンター』と同じ手法で作曲をして、そこに『ドラゴンズドグマ』のフィルターを掛けていますね。前作では敢えて踏まない様にしていた部分なので、戦闘曲でも横に流れる様な楽曲が多かったのですが、この曲は縦で刻む力強い曲です。『モンスターハンターポータブル 3rd』の「閃烈なる蒼光~ジンオウガ」同様、僕個人的にも気に入っています。「雫が~」は、Coils of Lightと同時に作った曲ですがあのフレーズを基に考えた時、二つの曲に何か統一した楽器が欲しかったのと、フルオーケストラとソロバイオリンのコントラストが逆に印象的になるんじゃないかと思いました。サントラに収録されている正式な形に持っていくまでは、ものすごく難しい曲でしたが、象徴的な一曲になったと思います。
―――前作、本作共に1曲1曲に高いストーリー性を感じますが、どのような流れで作曲されたのでしょうか?
牧野:「Eternal Return」は『ドラゴンズドグマ』の統一テーマとして、「Coils of Light」は『ダークアリズン』のテーマとして作曲してますのでその曲を聴くと色々な情景を思い出せてもらえる様な曲作りを心がけていますので、完成するまでには相当な時間がかかります。作ってみて、寝かして、また聴いて直して…を繰り返し、テーマとして意味のある曲になっているかを長期的にチェックします。
映画と同じく、テーマ曲を作ってからそのフレーズをゲーム内に落とし込んでいくので、ゲームプレイを進める内に、最終的にテーマ曲に辿りつく。という流れを演出しているのも、そう感じて頂ける要因かと思いますね。
一曲単位でも、主張する所と抑える所をしっかり意識して作る事で、より緊張感が増しますし、インパクトを付けやすい。ゲーム全体を通して見てもやはり緩急は必要です。ゲームを一周する=長い楽曲を聴き終わる、というイメージを常に意識しています。
―――(前作部分もふくめ)とくにオーダーのあった曲はあるのでしょうか?
牧野:先ほどのテーマ曲に関しては、特に何もオーダーはなかったですね。僕の仮歌も、何とか受け入れてもらえましたし(笑)
前作ディレクターの伊津野からも、特にチェックやオーダーはなかったですが初期の方向性を決める時にたくさん話をした事を覚えています。今作ディレクター木下とは死体沸きシステムの「腐肉に群れし獣」など、新要素に関わる部分はオーダーをもらいました。言葉だけでは中々伝わりにくいので、実際に僕の席に来てもらって「こんな感じ?」とか詰めた記憶があります。
―――『ダークアリズン』テーマ曲の「Coils of Light(光の螺旋)」は、どのように生まれたのでしょうか。また、タイトルにはどのような意味がこめられているのでしょうか?
牧野:『ダークアリズン』のストーリーが最も訴えたいのは、アッシュの境遇や心情だと思ったので、輪から解き放たれたアッシュが、記憶を持ったまま幼い頃に戻るという設定で曲を作りました。だから絶対、男の子のボーカルが必要だったんです。
子供が歌えるメロディーラインってすごく単純化しないといけないので、鼻歌で作りました。それに和音を乗せて、楽曲を構成していき、出来る限り簡略化したつもりだったのですが、それでも相当難しかったらしく(笑) 収録ではウィリアム・モントゴメリー君がすごく頑張って歌い上げてくれました。
「Eternal Return」は直訳すると「久遠」。その環を断ち切るのが前作の覚者であり「Finish the cycle of eternal return」という詞に反映されています。このドラゴンズドグマの世界を母なる者が見つめている印象ですね。
一方、「Coils of Light」はその世界に生きたアッシュ、グレーテ、オルガのストーリーをアッシュ目線で歌っています。彼の自責の念に近いかも知れません。タイトル名「光の螺旋」には、竜の理の「環」という大きな循環がひとつ。もうひとつはグレーテの金髪、円状に振るう剣の切っ先の光、という、イメージで命名しました。『ドラゴンズドグマ』である以上、「Eternal Return」は外せないメロディーですが、より歌いやすく耳に入りやすい楽曲にしようと思っていました。
僕が個人的に気に入っている詞は、「When thou pulledst this boy from the sand,
Didst thou see him bread, with brand?」直訳すると、「砂からその子供を起こした時、剣と髭を蓄えた英雄になると思った?」となりますが、本来の意味は「英雄になれなかった(=あなたを救えなかった)僕を、あなたは笑うだろうか?」という、アッシュからグレーテへの問いかけです。
アッシュは、グレーテを最愛の人としながらも、彼女を竜の理から救う事が出来ず、ずっと苦しんでいたんですね。この詞を見た時は、僕も鳥肌が立ちました。
―――ブルガリアで収録されたそうですが、どのような収録、雰囲気だったのでしょうか。
牧野:前作の楽曲の一部は、ブルガリア・ソフィアのBNR(ブルガリア国営放送)で、約130名の大規模収録を行いました。現地のブルガリア人に加え、日本・LA・ドイツ・フィンランドからスタッフを呼び寄せたのですが、雰囲気はとても良く、奏者さんもスタッフさんも熱心に取り組んでくれました。
ブルガリア人の指揮者が、「死闘の果てに」の演奏を終えた時、「マキノサン、ブラボー!」と言ってくれた事。収録が全て終わった後、奏者さんが僕の所にたくさん駆けつけて来て、「あなたの音楽には、神の息吹を感じます」と涙目になりながら言ってくれた事が今でも忘れられないです。彼らに演奏して頂いた事を誇りに思いますし、いつかまた会いに行きたいですね。
―――特に思い入れの深い曲(苦労した曲、すぐ作成できた曲、これはじっくり聞いてほしい!、実はここにこんな仕掛けがあるなど、可能であれば5曲~程度)をご紹介ください
牧野:前作含めての話になりますが、あまり語る機会もなかったので、今回特別に裏話をいくつかご紹介します。
1. 「Eternal Return」と、「死闘の果てに」は、もともとひとつの曲でした。
制作途中で、「ボス戦闘時に優勢になったら流れる曲を入れてみたら?」というアイデアをサウンドメンバーと考えて、別曲として分離させる事にしたんです。「Eternal Return」にも死闘の果てにのフレーズが丸々入っているのはその名残ですが、拍子は3/4と4/4でそれぞれ違うので印象は異なるかもしれません。この2曲は作曲にあたり、本当に体力と気力が必要でした。
2.「Eternal Return」と同時に作った曲は「白鱗を纏うもの」でした。
オーケストラとロックの融合をテストしていたタイミングで同時期に作っていました。テーマ曲と並行して戦闘曲のポリシーが固まり始めた頃ですが、オーケストラとロックの比率を確立した曲でもあります。もう思い出したくない位しんどい時期だった、気がします。
3.「運命の選択」のイントロフレーズ、「シ、ド、レ、ミ、シ、ド、レ、ミ・・・」とずっとループするフレーズはこの『ドラゴンズドグマ』の「環」をイメージしています。
この1秒にも満たないループ1回が覚者の人生全てだとして、それを何度も何度も繰り返す。この世界が時間を掛けて、積み上げてきた理と曲を結び付けようと当時考えていました。「Eternal Return」のイントロのピアの部分や、「Main Title」など、色々な所に含まれています。興味のある方は、もう一度じっくり聴き直してみてくださいね。
4.「Coils of Light」と「雫が~」は、前作『ドラゴンズドグマ』の発売前にアイデアがありました。
あるPV映像でこの2曲の原型を使用していますが、『ダークアリズン』へのフックとして
ユーザーさんに、暗に提示していたのです。
―――サウンド面でのこだわり、聞き所についてお願いします。
牧野:楽曲は全て、5.1chサラウンドミックスを行っているので、ゲーム中では360度音楽に包まれる事が出来ます。特にダークアリズンでは作曲しながらサラウンドミックスを行ったので、ステレオにダウンミックスする際にも奥行き感や広がりを維持する様にしました。一言で奥行き感と言っても、様々な要素が存在するので、楽曲によって手法を変えてバランスを取っています。このミックス作業自体も奥が深く興味が尽きないので…いつまででもやってしまいます(笑)
―――RPGのラストバトルというと(例えば死闘~のように)派手で盛り上がる曲がくることが多いかと思います。しかし前作・本作共に「勝つ」というより「終らせる」という決意のようなものを強く感じる演出となっていますが、どのような意図があるのでしょうか。
牧野:前作・今作共にラストバトルには色々な人の心情や真理が入り混ざっているので、激しい曲ではストーリーを表現出来ないと思いました。そこに辿りつくまでにはゲームバランス的に壮絶な戦いが準備されているので(笑) ラストは少し落ち着かせて、しっかりと真相を受けて止めてもらう為にああいう流れにしています。あとは僕が好きな演出、というのも大きな理由かもしれません。(笑)
木下ディレクターにも、「Coils of Light、ダイモーン戦で使います」って言ったら「ここでこの曲?」みたいな顔をしていましたが実際に映像で見てみると、すごくマッチしていて。
即Goサインが出ましたね。ユーザーの皆様も印象に強く残っているのではないでしょうか。すごくポジティブな評判をたくさん頂いています。
―――Raychellさんが歌い上げられた、タイアップ版「Coils of Light」の歌詞はRaychellさんご本人が書かれたということですが、日本語メインの歌詞となっていますね。前作では曲中に日本語は全く出てこなったので少し意外だったのですが、日本語でというオーダーをされたのでしょうか?
牧野:これは、「Coils of Light」を聴いた松川プロデューサーが思いついた展開ですね。今作では「フルボイス日本語化」という大きなトピックスがあったので、それをよりアピールする為の日本語歌詞でした。当初、僕自身にはイメージがなかったのですが、実際に聴いてみると母国語の威力を感じましたね。純粋に耳に入ってくるのは、やはり自分の慣れ親しんだ言語なんだな、と。
―――Raychellさんがかなり積極的に参加されたということですが、何か思い出深いエピソードなどあればお願いします。
牧野:最初にお会いした時に、もう詞を作って来てくれました。また、歌収録前日にソロバイオリン収録を行ったのですが、その現場にも夜遅くまで立ち会って頂いて、この曲のイメージを掴もうとする姿勢は素晴らしかったですね。歌収録の際も、ブースに入って休憩なしでずっと歌っていたので自分の声の扱いをよく知っている方だな、と感じましたね。
―――ボーナストラックのアレンジ曲演奏共演を関戸さんにお願いすることになった経緯について、もう少し詳しくお願いします。
牧野:そうですね、スクウェア・エニックス ミュージック様からのオリジナル・サウンドトラック発売というのが、前作も大きな話題となりました。今作ではよりコラボ感を強めて多くの方々に聴いて頂きたいという思いもあり、以前から知り合いだった関戸さんにオファーをさせて頂きました。
関戸さんは共通の知人を通して、数年前からお付き合いさせて頂いており昨年の「狩猟音楽祭2012ツアー」の神戸公演にも駆けつけてくださいました。The Black Magesのギタリストと、BlackLuteのギタリストとして感覚的にも合う部分が多く、お互い刺激し合える良き大先輩です。
―――「死闘の果てに」はギターアレンジにぴったりの曲に思えましたが、この曲にしようと思ったのはどのような点からでしょうか。
牧野:もともと一年ほど前、「ゲームのじかん」というニコ生番組でこの曲を僕一人で演奏したのがきっかけです。その時とはアレンジが違いますが、関戸さんに加わって頂いた事で、よりアグレッシブなバトル曲になりましたね。Eternal Return ~self piano Arrange ver~も、以前「ゲームのじかん」で演奏したのを覚えていたので、今回新規で収録しています。
―――CD収録だけで終ってしまうのが非常に勿体無い気がしますので、ぜひ今後DLCでのBGMや別の形でも聞いてみたいのですが、そうした予定はあるのでしょうか。
牧野:そう言って頂けるのは非常に嬉しいですね。ん~・・・どうでしょう。松川に聞いておきます(笑) ただ、こういったアレンジverを受け入れて頂けるのも、ゲームを遊んで頂いているユーザーの皆様のおかげだと思っていますので、何らかの形で反映出来たらいいですね。
―――関戸さんもご出演されたUSTREAM番組「デーデーデェーA」は、どういった経緯で決まったのでしょうか?
牧野:これはスクエニさんからの提案でした。一緒にラジオ番組やりませんか?というお話を頂いて。関戸さんをスペシャルゲストにお迎えして、コンポーザー同士の深い話やそれぞれのキャリア、育った環境、ギターや作曲を始めた時の事など、パーソナル面にまで突っ込んだ話をさせて頂きました。
前作では、スクエニさんもカプコン側も初めてのコラボでしたので、どこまで踏み込んで良いのか?手探りで進めていったのですが今回、関戸さんにギター参加頂いた事で、一気に垣根がなくなったと言うか。お互いの温度感も、親交を深めながら分かってきたので意気投合した感じですね。
―――USTに対するユーザーの反応はいかがでしたか?
牧野:USTREAMの画面右側にリアルタイムで表示される視聴者さんのツイートを見ていたのですが、やはり、普段なかなか聞けない話ばかりだったので、とても好評でした。残念ながらアーカイブは残っていないので聞き直す事は出来ませんが、最終回ではスクエニさんより「J-E-N-O-V-A(FF7AC/TBM)」を、カプコンより「英雄の証(MH/BlackLute)」を、そして「死闘の果てに」の3曲をスペシャルギターアレンジverで、関戸さんとギターの共演をさせて頂きました。この共演もまた熱かったですし、ユーザーさんも大変喜んでくれました。
―――CD初回特典のスリーブケースが、前作のほうは暗く、本作のほうが美しい青空という、ゲームとは逆のイメージだったので驚きました。こちらは何か意図があったのでしょうか?
カプコンCD担当:DDのサントラCDと対になるイメージとしたいと思っており、プロデューサーと相談したところ「高貴なイメージ」や「ダイモーン」などのヒントを貰い、青白く光る空を用いることになりました。デザインについてはスクエニさんと何度もやり取りをして完成まで持っていきました。
―――「ハギとこ」で生演奏を披露されていましたが、ぜひ他の楽曲も聴いてみたいです。オーケストラコンサートはもちろん、バンド風のアレンジなども期待したいところです。
牧野:ありがとうございます。「黒呪島探検隊」(ニコ生番組)でも演奏ましたし、去年は「モンスターハンターオーケストラコンサート 狩猟音楽祭2012ツアー」で各地区6か所のオーケストラと共演させて頂きましたので、コンサートや生演奏の、体で感じる感動も良く知っているつもりです。ドラゴンズドグマ・オーケストラコンサートを開催する為にはもっと良い曲を作って、より多くの方々に聴いて頂かないと、と毎日、自分に言い聞かせています。
―――牧野さんご自身は、ゲームをどの程度プレイされたのでしょうか?
牧野:僕、「MONSTER」という名前で公式ポーンをやっているのでそれなりにプレイしていますよ。Lv100位だったかな。黒呪島周回プレイがキツくて、挫折中ですが(笑)
―――本作をプレイしているユーザーへメッセージをお願いします。
牧野:自分が信じられない楽曲は皆さんに何も伝わらないと思いますし、そこに対して全力を注ぎ、信念を持って向き合って行くのが僕の責任かな、と感じています。今後も期待を裏切らない楽曲を作り、色々な形で皆さんにお届けしたいと思います。『ドラゴンズドグマ』シリーズ、これからもよろしくお願い致します!
―――ありがとうございました!
先日まで開催していた「ウルドラゴン討伐祭り」や「ポーンコミュニティ祭り」など、発売後もまだまだ盛り上がりをみせている『ドラゴンズドグマ:ダークアリズン』。ぜひ、また新たな気持ちでゲーム中やCDのサウンドを楽しんでみてくださいね。
「ドラゴンズドグマ:ダークアリズン オリジナル・サウンドトラック」は、好評発売中で価格は2,800円(税込)となっています。
(C)CAPCOM CO., LTD. 2012, 2013 ALL RIGHTS RESERVED.
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