これまで誰も思いつかなかった画期的なアイデアの仕掛人が、謎解きイベント「リアル脱出ゲーム」を主催するイベントクリエイター集団SCRAP代表の加藤隆生氏。“謎解きエンターテインメント”という新奇のジャンルを着想、京都を発端に国内のみならずアジア、アメリカでもムーブメントを起こし、今年最も世間の注目を集めるクリエイターのひとりである。今回の映画について、SCRAPのこれまでと今、そしてこれからについて話を伺った。
――映画、とても面白かったです。最初は気楽に観るつもりだったんですけど、気付いたらついつい意地になって謎を解こうとする自分がいて。解けなかったですが…。映画としてものすごく新しい形だなと思いました。どんな経緯で実現することになったんですか?
加藤:2年くらい前にテレビ東京の方と飲んでいるときに「出題編と解答編がある映画はどうですか!?」というのを酔っぱらいながら言ったことがあって。それをその方が会社で話したところ、「うまくいきそうです、企画書書いてください」という流れになったんです。でもその頃はまだ「映画になるわけねえ」って思ってたんで、タイトルとあらすじを適当につくって「ハイ」って渡したんです。そしたら、「企画通りそうです、具体的に謎つくってください」って言われて。そこからスタッフを4人もつ鍋屋に集めて一緒に考えた。そしたらそのときは神憑っていて、もつを注文してもつが出てくるまでには謎ができていました。
――ええーー!!
加藤:ふふふ(笑)。ラッキーでした。
――今SCRAPは何人くらいの集団なんですか? 謎はどんな風につくっているんですか?
加藤:社員は14人。そのうち3人がイベントのコンテンツをつくるディレクターで、それ以外はイベント運営スタッフ。僕とその3人のそれぞれがペアになる形で3つにチームを分けて、月に合計3つくらいのコンテンツをつくってます。その物語のあらすじをつくるところまではだいたい僕がやってますね。タイトルとキャッチと設定という大きい流れをつくったあと、ディレクターたちに具体的な形にしてもらうということが多いです。
SCRAPのあるスタッフから「うちは文化祭ノリでつくっている」といった話を聞いたことがある。まるで遊びみたいな活動が今ビジネスとして成り立っているSCRAPという集団。一体、どんな背景からSCRAPは今という時代に生まれたのだろうか。
――SCRAPは最初、京都のフリーペーパーだったんですよね?
加藤:はい。10年前の当時僕はライターだったんですけど、自分で出版社に売り込みに行くのってめんどくさいじゃないですか。だから、メディアを持ってそれが面白かったら仕事来るだろ、と思って、自分のプレゼン資料を2か月に1回作る、という感覚でフリーペーパーを立ち上げたんです。別にフリーペーバーで食っていきたいとは思ってなかったけれども、印刷代くらいは稼ぎたかった。2か月で20万稼げればいいんですよ。そのマネタイズする方法として、1号出すごとにイベントをやっていたんです。
――それが「リアル脱出ゲーム」だったんですか?
加藤:そのうちの1個ですね。毎晩家で書いてた乙女チックポエムを皆の前で朗読するイベントとか、過去の人生の中で一番辛かった失恋を皆の前で発表して一番ひどい失恋を決定するイベントとか、「片思い俳句」って言って、恋する思いを俳句にしたためて発表するイベントとか…。世の中のほとんどのメディアって家にいたら向こうからやってくるものだけど、フリーペーパーは街に出ないと手に入らない。ということは、僕らのファンはアクティブに街に出る人たちだろうから、きっとイベントにも呼びやすい人種だろうな、と思ったんです。
――なるほど、世の中には鑑賞するのみのイベントが多いですけど、当時から参加型だったんですね。
加藤:世の中の99%以上のイベントって、有名人を観に行くものなんですよ。でも京都の1フリーペーパーにそんな力はない。だとしたら「この企画面白そうだから行こう」と思わせて人を呼ばなくちゃいけない。そうなったときに、我々が面白いことを語るんじゃなくて、参加者に言ってもらうしかなくなるんですよね。だから初期の頃から参加型のイベントっていうのはずっとやってました。
――それは時代を見越していたんですか? それとも自然発生的だったんですか?
加藤:というか、関西って「素人って面白い」っていう文化が根付いてるんですよ。たとえばローカル番組の『探偵ナイトスクープ』も素人が出てくる番組ですし、ただ芸人が街を歩くだけで大阪のおばちゃんが絡んでくるっていう番組とか山ほどやってるんです。最近でこそ、さまぁ~ずさんがモヤモヤしながら歩いていく番組が東京でもありますけど。それに、学校で普段交わされてる会話もそれなりにエンターテインメントだったし、皆自分のことをちょっと面白いと思ってるから。「俺笑いのセンスあるなあ」って思ってるやつはクラスに2、3人はいるわけで、合計すると何百人かはいる。そこが狙い所かな、と。
――なるほど、関西という土壌ゆえに生まれたものだったんですね。「リアル脱出ゲーム」が大人気になるのは予測していらっしゃいましたか?
加藤:うん。1回目が終わったときに確信してました。2007年の7月でした。
――それはどうして?
加藤:とんでもなく盛り上がったからです、「嘘やろ!?」っていうくらい。大人がもう、警備員の手を振り払って、「あそこに謎があるはずだー!!」って言って、「ありません! ありません!」みたいな(笑)。22歳くらいから40歳くらいの参加者150人全員が熱狂してるんです。最後、脱出に成功したチームが出たときに、150人が皆同じ方向向いて喜んでて。終わったあとも誰も帰ろうとしなくて、ずーっと「あの謎はこうだった」「あのときあなたはこういう行動をした」とか初対面同士で話してるんです。そんなシーンを見て、これはとんでもないものになるな、ここで終わるものではないな、と思いました。
――そんなに人を惹き付けた原因は何ですか? その根底には何があると思いますか?
加藤:これ、不思議な話で、リアル脱出ゲームって技術的には何も新しくないんですよね。同じことは100年前でもできたんですよ。だけど100年間誰も思い付かなかった。でもさすがに自分が100人に1人の天才だと思うには、僕もそこまでうぬぼれることもできないので…。今だから受けたんだと思うんですよ。それが何かっていうと、ネットカルチャーかな、と。
――はあ! ネットですか。
加藤:僕らは子どものころ、テレビとか映画とか一方通行のものを見て憧れることしかできなかった。でもウェブがやってきて、ブログとか書くようになって、それに対するリアクションがもらえるっていうことに皆が慣れたんだと思うんですよ。そんなインタラクティブな世界に住んでるということを踏まえて周りを見たときに、向こうからのリアクションが何も来ないエンターテインメントに対してちょっと満足できなくなったんじゃないかなと思うんですよね。ドラマやクイズ番組って、画面の向こうの選ばれた人たちがその体験をしているけど、自分たちにはできないっていうことに対してどっかで疑問があったんじゃないかと。やっぱり皆、物語の登場人物になりたいし、できれば主人公になりたい。
――なるほど…!
加藤:そういう欲望を晴らすものが実は1つあったのがカラオケだと思うんですけど。でもカラオケも発明されて30年くらい以上経つエンターテインメントなんで、そろそろ次のものが必要だったんじゃないでしょうか。
※後編に続く
【インタビュー】『リアル脱出ゲーム』ヒットの裏側 「みんな物語の主人公になりたい」(前編)
《奥 麻里奈@RBB TODAY》関連リンク
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