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『rain』はPlayStation CAMP!という、JAPAN STUDIOが主催するクリエイターの募集企画から誕生したプロジェクトです。これは市場に存在しない、全く新しいものを生み出そうと2006年から開始されたもの。現在までに『東京ジャングル』『勇者のくせになまいきだ』『無限回廊』などがリリースされてきました。
『rain』は"ゲーム"というものを徹底的に分解するところからスタートしました。PlayStation CAMP!の趣旨である「全く新しいもの」を目指すとすれば、「プレイヤーとゲームの関係」など、ゲームの根幹に変化を与えることができれば大きいのではないかという発想からです。そしてコアとなる「見えないキャラクターを操作する」というアイデアが誕生します。ここからチームでは「透明」という要素に何を掛けあわせれば良いか考えたそうですが、「見えない」ということがゲームにとっていかに致命的か思い知らされたそうです。しかし不意に「雨」というキーワードが発想され、雨によって見えるようになる、ということがゲームの根幹となっていきます。
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"ゲーム"を分解 | 透明な主人公に辿り着いた |
再び"雨"というものを徹底的に考えることになります。「雨は誰にでも降り注ぎ、静寂を与える、記号的なだけでなく感情的なモチーフでもあります」と鈴田氏は言います。そこから世界観をふくらませていく幾つかのキーワード「夜」「孤独」「空っぽの街」「男の子」「女の子」といったものが生まれてきたそうです。ビジュアルは少し時代を遡ったヨーロッパという事で比較的すんなり決まります。
ここでプロトタイプが作られます。手書きのテクスチャがプロジェクションマッピングで美しく表現され(後に工数や修正が容易という理由で手書きのテクスチャをモデルに貼り付ける方式に変更)、ゲームデザインも「雨」というキーワードで思考が膨らんでいったそうです。
しかし、そこを襲ったのが2011年3月11日の東日本大震災です。鈴田氏は「この悲惨な現実を前にエンターテイメントは無力だと感じました。雨に打たれる少年たち、こんなゲームを世に出して良いものだろうかと感じました」と話し、池田氏も「このまま企画を進める気にはなりませんでした」と振り返りました。そんなチームを支えたのは「必ずエンターテイメントが必要な時が来る」というPlayStation CAMPを指揮していた山本正美氏の言葉だったそうです。
「新たな『rain』を作ろう」と、ここからプロジェクトは大きく変わります。孤独や寂しさなど負の要素が多かったのが、「雨」をテーマにしながらも好奇心や勇気という前向きな要素が中心となり、暗いだけじゃなく、幻想的で前に進みたくなるような世界へと作り替えられていきました。暗い夜を照らす月の光、美しいライティング、ポストエフェクトでぼかされた静寂ながら吸い込まれるような世界です。
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少しゲームの方向が変わっていった | 美しい世界が作られた |
レベルデザインにも手が入ります。当初はゲームプレイを優先し、レベルデザイナーがデザインが必要な箇所にホワイトボックスを配置し、その後、デザイナーがそのホワイトボックスのサイズに合うオブジェクトを考えるという流れで制作が行われていました。しかしこの手法ではゲームプレイは良いものになりますが、ビジュアルが劣ってしまう可能性があります。それに対処するため、その後はきちんと絵コンテを描いたり、レベルデザインとビジュアルデザインの連携が強化されていきました。
ここまで開発が進んだ段階でユーザーによるテストプレイを実施。しかしその結果は散々だったそうです。「どこに行けばいいのか分からない」「とにかく遊びにくい」「自分の位置が分からなくなる」「難易度が高すぎる」ほとんどがネガティブな意見だったそうです。
問題はカメラワークにありました。本作では初期の『バイオハザード』のように、固定カメラを、プレイヤーの移動に合わせて切り替えていくようなカメラワークを採用していました。しかし、透明な主人公は、カメラが切り替わると容易に見失ってしまいます。雨が降って無ければ一度見失ったキャラクターを見つけることは不可能と言ってもいいでしょう。切り替えのタイミングで見失い、そのスキに敵に殺されるというケースもあったそうです。対処法としてカメラを切り替えてもイマジナリーライン(想定線)は必ず守る。主人公が完全に消えている場合は切り替えを行わない。敵などで危険な箇所では切り替えない。といったことがルール付けされ、全部で約200箇所のカメラを手動で調整していったそうです。この結果、カメラに対する不満は消えたそうです。
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カメラワークの問題点が多数指摘 | 挙動を変えることで沈静化 |
『rain』は2013年8月に完成を迎え、10月にリリースされました。多数の賞を取るなど評価された一方で、チャレンジ性の薄さはコアゲーマーから批判を受けたポイントになったそうです。鈴田氏は「既存のゲームのアンチテーゼから始まったわけですが、それがいかに大変か痛感したプロジェクトでした。同時に確立されたゲームメカニックがどれだけ洗練されているかも感じることができました」と振り返りました。しかし「見えない主人公」という常識に立ち向かうようなコンセプト設計で、1つのゲームを仕上げた試行錯誤は大きな糧となるのではないでしょうか。