『Ingress』はGoogleが配信する無料アプリ。端末のGPS機能を活用し、現実世界をフィールドにして遊ぶ壮大な陣取りゲームです。プレイにはGmaliアカウントが必要ですが、課金アイテムの類が一切なく完全に無料なのも魅力的です。
アプリを立ち上げると近未来SF的なインターフェイスが展開し、プレイヤーはいきなりこの現実世界にまつわる壮大な秘密を知ることになります。いわく、世界には実は「エキゾチック・マター(XM)」と呼ばれる物質が満ちており、人々は日常生活の裏でそれを利用して人類を進化させようとしている「エンライテンド」と、その企みを阻止せんとする「レジスタンス」に分かれて争っているというのです。
コードネームを設定し、どちらの勢力に所属するかを決めたらゲームスタート。エージェントが具体的にすべきことは、XMがあふれるポータルを発見してそれらをリンクさせること。ポータル同士をリンクして生まれたコントロールフィールド内に住む人々は、フィールドを作ったエージェントの勢力の支配下に入ることになります。
ポータルは石像や石碑など、歴史的な趣きがあるものの近くによく発見されます。大抵の場合写真つきで示されますので、写真と地図を頼りにポータルを探してみましょう。それは普段の自分の行動範囲にあるものでも「こんなものあったっけ?」と思わされるものだったり、もしくは存在を知ってはいても特に気に留めたことはないものだったり……よく知っているはずの地元でも、新たな発見があることでしょう。
それだけではなく、本来の目的である「陣取り=自勢力の拡大」もゲーム的な楽しみに満ちています。昨日行ったポータルが奪い返されてしまった、明日はこのポータルまで足を伸ばしてみようか……そうやって「もうちょっと、もうちょっと」と遊んでいるうちにドップリはまってしまう人が急増しているようです。
この辺り、スタミナ制のソーシャルゲームを「まだスタミナが残っていてもったいないから」とついつい長時間遊んでしまう感覚に通ずるものがあるかもしれません。しかも『Ingress』はその気になれば何時間でも続けて遊び放題です。その代わり、自分のリアルスタミナがめきめき削られていきますので遊びすぎには注意しましょう。
ゲームに夢中になればなるほど生み出される副次効果がユニークなのも特徴的です。まず、前述したように地元や職場、学校の周辺などを散策することでささやかな発見が楽しめるというものが一つ。ポータルを回るほどに実際の歩数もふくれあがっていき、どんどん健康になってしまうというのが二つ。特にiOS版は夏の配信開始となったこともあり、暑さにも負けずウォーキングしていたらダイエットできてしまった、などという声もよく見かけます。
そして三つ目は経済の活性化です。日夜ポータルをハックして周るヘビーなエージェントたちは、しばしば「課金アイテム」という言葉を使います。とはいえ、冒頭でも述べたようにゲーム内にそうしたアイテムがあるわけではありません。「効率よくプレイするために買った身の回りのもの」をジョークでそう呼んでいるというわけです。
それは例えば虫除けスプレーであったり、モバイルバッテリーであったり、自転車にスマートフォンを固定するためのホルダーであったりという具合。中には『Ingress』のために自転車そのものを新調した、などという人もいるとかいないとか。
それだけにとどまらず、本作は地域振興にも貢献しようとしています。というのも、先月に岩手県が『Ingress』を地域活性化に活用する試みを始めると発表したからです。ポータルを回るということは、その地域の神社や施設などを回るということ。エージェントたちによる熾烈な縄張り合戦は、現実世界だけを見ればちょっとした観光にもなってしまうわけですね。
こうした「ゲームと現実がリンクした盛り上がり」を見ていると、趣きは異なれどDSの『ドラゴンクエストIX』や『ラブプラス』のブームを思い出しますが、それぞれ前者には地図を交換するというシステム上どうしても地域差が出てしまい、後者はカノジョとの交流がメインで他のプレイヤーとの関わり合いは薄めであるというウィークポイントもありました。
その点本作は、いつでも自分の好きな時間に遊べて、地域差の影響も少なく(周りに他のプレイヤーがいないならいないでポータルを占拠し放題です)、さらにリアルタイムで勢力図に影響を及ぼしていくので他のプレイヤーとの関わりも楽しめます。こうしてブームになってからの結果論ではありますが、なるほど盛り上がるのもうなずけます。
全世界でのダウンロード数が500万を越えたという『Ingress』。スマートフォンをお持ちの方は、過ごしやすい秋のうちにダウンロードして遊んでみてはいかがでしょうか。もしかしたら冬になるころには、寒さを押してでもポータルを回る一流のエージェントになっているかもしれませんよ。
(C) 2014 Google Inc.
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