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THE MUSIC MAGES(略称:TMM)とは、『ファイナルファンタジー』(以下、『FF』)シリーズの大半の楽曲を手掛けた植松伸夫氏の楽曲を、電子オルガンのエレクトーンで演奏するという団体です。“THE MUSIC MAGES”という名前は、『FF』のジョブにちなんで“音魔道士”という意味を持ちます。
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今回の6thコンサートでは、今年で発売20周年となる『FFVI』の楽曲をメインプログラムとし、他の『FF』シリーズからも多くの楽曲の演奏が披露されました。本稿では、エレクトーンの多彩な音色でたくさんの『FF』楽曲を堪能できた、このコンサートの模様をお届けします。
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■第1部
・ユニット紹介(FINAL FANTASY TACTICS)
・FINAL FANTASY Xメドレー
・フィールドメドレー 2014
・ダンジョンメドレー
・バトル2(FFIX)
・CHOCOBO×CHOCOBO 2014
■第2部FINAL FANTASY VIより
・予兆
・戦闘~決戦
・霊峰コルツ~獣ヶ原~スラム・シャッフル
・魔導士ケフカ~許されざる者
・アリア~婚礼のワルツ~決闘~大団円
・飛空艇ブラックジャック
■第3部FINAL FANTASY VIより
・魔導研究所~魔大陸
・死闘
・墓碑銘~仲間を求めて
・あの日から…~からくり屋敷
・邪神の塔~妖星乱舞
・蘇る緑
会場のタワーホール船堀を訪れると、すでにたくさんの観客が詰めかけ、賑わいを見せていました。スタッフの皆さんが装備されていた、青い「staFF」Tシャツがとても素敵(最後の“FF”2文字が大きくなっているのがミソですね!)。開場時間になり、ホールに入ると、目に入るのは「THE MUSIC MAGES」と映し出されたステージ後方のスクリーン。そして、ステージの中央にグランドピアノが1台と、その左右にエレクトーン2台が設置されていました。TMMのコンサートでは、1曲につき2人または3人という少人数の編成で、メンバーが交代してゆきながら、さまざまな『FF』の楽曲が演奏されるのです。
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開場後しばらく経ち、ピアノソロによるプレコンサートが始まりました。『FFIX』の「独りじゃない」、続いて『FFVI』の「運命のコイン」が演奏されます。メロディアスかつ情感あふれる旋律に、会場は一気に『FF』の世界に引き込まれていきました。3曲目に演奏されたのは、『FFVI』の「スピナッチ・ラグ」。原曲は『FFVI』のゲーム中ではオークション会場で流れる曲ですが、今にも舞台袖からオークショニストが出てきそうなほどの、リズミカルで軽快な演奏でした。
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司会・齋藤友樹氏
そして開演!『FF』の白魔道士のような白い衣装に身を包んだTMMのメンバーたちが登場します。第1部の最初に演奏されたのは『ファイナルファンタジータクティクス』の「ユニット紹介」。コンサートの始まりを告げるかのごとく、元気に勇ましく奏でられました。また、演奏にあわせて、スクリーンではTMMのユニット(演奏メンバーやスタッフ)たちが紹介されました。
演奏後は、本日の司会者であるTMM副代表の斉藤友樹氏が登場。斉藤氏はまず、今回からTMMの公演が有料化に踏み切った点に触れました。TMMは、ゲーム音楽に想いをよせる一員として、このジャンルが確立することを強く望んでいるとのこと。「私たちの活動が少しでも貢献できれば」と思い、決断をしたそうです。
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次の演奏曲として斉藤氏から紹介されたのは「ファイナルファンタジーXメドレー」。TMMの名物、“地味メドレー”です。この地味メドレーとは、あまりコンサートで演奏される機会のない隠れた名曲にスポットを当てよう!というもの。斉藤氏によると、前回のTMM公演(ラスボス曲特集)の際に、地味メドレーのひとつとして演奏された『FFV』メドレーが、来場者アンケートで全曲中トップの人気を取ってしまったそうで「全ラスボスが泣きました」と紹介。「いっそ地味メドレーだけでコンサートができるのでは」と発言されていました。筆者も地味メドレー特集をひそかに願っています。
さて、そんな地味メドレーとして「ファイナルファンタジーXメドレー」で演奏されたのは「ミヘン街道」「雷平原」「ジェクトのテーマ」の3曲。たしかに人気曲の陰に隠れがちですが、どれも味わい深い楽曲ですね。「雷平原」では、原曲で印象的な「カッ……カッ……カッ……カッ……」という時計の針の音もしっかり再現して演奏されていました。軽快なピアノの音色も非常に心地よかったです。
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続いて披露されたのは「フィールドメドレー2014」。『FFXI』の「Ronfaure」、『FFIX』の「あの丘を越えて」、『FFV』の「未知なる大地」、『FFIII』の「果てしなき大海原」、『FFI』の「メインテーマ」、そして「ファイナルファンタジー」と、ハイテンポなリズムに乗せて次々と名曲たちの演奏が繰り出されました。ファミコンを意識したようなピコピコ音で奏でられたのが、往年の『FF』プレイヤーにはたまりません!
ここで、エレクトーンの紹介コーナーに。斉藤氏によると、エレクトーンは“ひとりでオーケストラ曲を演奏できる”というコンセプトで誕生。上段の鍵盤でメロディ、下段の鍵盤で和音、足の鍵盤でベースを弾くのが基本スタイルとのことです。「両手両足で鍵盤を駆使する姿は、まさに人間4WD!」と斉藤氏。「『FF』のモンスターで例えると……モルボルですかね」と言い放ち、観客の笑いをとっていました。
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TMM代表・堀越美沙氏
次に、TMM代表の堀越美沙氏が、エレクトーンの演奏方法について実際に操作をしながら説明を始めます。右足のペダルで音量調節、左足のペダルでベース、左手で和音、右手でメロディを演奏……と、ひとつずつパートを増やして奏でられたのは『FFX』の「シーモアバトル」。堀越氏の器用な演奏には驚きを隠せませんでした。続いて堀越氏は、ピアノ同様に鍵盤をタッチする力の強弱で音量を変えられるという『タッチ奏法』を紹介。鍵盤を押しながら指を横に揺らすとヴィブラートをかけることもできるそうで、これはオーケストラの楽曲を演奏する際に使用するとのことです。
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説明を終え、「では実演してみましょう」と堀越氏が披露したのは、『クロノ・クロス』の「時の傷痕」! 曲名が発表された際に、観客から軽い歓声が起きたほどの人気曲です。本来ソロで演奏するのは難しいほど多数のパートが存在する曲ですが、あえてソロで挑むというのがかっこいいですね。堀越氏はタッチ奏法を駆使し、細やかな指のコントロールでヴィブラートをかけながら、静かなイントロ部分から最後の盛り上がりまでをたった1人で熱演。堀越氏だけで演奏しているとは思えないほどのテクニカルで熱い演奏に、観客からは大きな拍手が送られました。
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伊藤誠子氏
暗さがありながらも美しい「ダンジョンメドレー」(『FFIV』の「ダンジョン」、『FFV』の「ダンジョン」、『FFVII』の「最期の日」の3曲を演奏)、緊迫感のある『FFIX』の「バトル2」と続いた後、第1部最後に披露されたのは「CHOCOBO×CHOCOBO 2014」です。チョコボのテーマを様々な形でアレンジしたというこのメドレーは、おなじみのメロディである「ノーマルdeチョコボ」からの、伊藤賢治氏のバトル曲風アレンジ「バトルdeチョコボ」、某クラシック曲風の美しい「カノンdeチョコボ」と続きます。
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阿部奈緒美氏
演歌風アレンジ「演歌deチョコボ」ではペダルを駆使し、うなるようなサックスの音色で演奏されていました。『FFVII』の既存楽曲である「エレキdeチョコボ」は、テンポの早い楽しげな演奏で、観客からの手拍子も入って盛り上がります! またスクリーンには、TMMメンバーが描いた、スノーボードに乗るチョコボとモーグリのかわいらしいイラストも(この曲はチョコボとの戦闘シーンだけではなく、スノボのミニゲームでも流れるので、スノボに乗っているというわけですね)。演奏の最後にはスノボのレコードタイムと、「変」ランクの文字が表示され、笑いが起こっていました。こういうマニアックな『FF』ネタをしれっと入れてくるのもTMMの特色です(笑)。
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浦野奈緒子氏
第2部からは今回のメインプログラム、『FFVI』特集が始まります。まずは「予兆」。重厚かつ荘厳なパイプオルガンの音色でオープニングシーンが演奏され、観客は一気に『FFVI』の世界へ引き込まれていきます。続く「ティナのテーマ」も、しっとり切なく、情感たっぷりに奏でられました。
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続いては、通常戦闘曲「戦闘」とボス戦の曲「決戦」。原曲にはないピアノの音色が入ったアレンジになっており、疾走感が増していました。また「決戦」は、途中のピアノソロが聴き惚れてしまうほど美しかったです。そんな演奏の中スクリーンに登場したのは、TMMメンバーが描いた、妙にリアルなオルトロス!『FFVI』をプレイした方なら誰もが覚えているであろう、紫のタコのモンスターです。魔法「ファイア」を食らっての「アッチッチーーー! ゆでだこ!?ゆでだこ!?」といった戦闘中の名(迷)ゼリフが映し出され、ゲームの思い出が次々によみがえってきました。
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岩永一成氏
次は「霊峰コルツ~獣ヶ原~スラム・シャッフル」。重厚な勇ましさを感じさせる「霊峰コルツ」、パーカッションのリズムが心地よい「獣ヶ原」、ゾゾの降りしきる雨の音もばっちり再現した「スラム・シャッフル」と、『FFVI』を彩る印象的なロケーションの楽曲が次々と演奏されます。
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続いての楽曲は、『FFVI』の中でも特に印象深い敵役・ケフカのテーマである「魔道士ケフカ」です。アルバム『ピアノオペラ ファイナルファンタジーIV/V/VI』のバージョンがピアノソロで演奏されました。悪だくみをするケフカが飛び跳ねているかのような、ねちっこいピアノプレイとともに、赤く染まったスクリーンにはケフカの「ヒッヒッヒッ…」「つまらん!」などのセリフが映し出され、彼の狂気的なキャラクターが存分に表現されます。続く「許されざる者」は、原曲よりもややテンポの早い、緊迫感あふれる演奏。スクリーンの「ゆるさん……ゆるさんぞ!帝国め!!」といったカイエンのセリフも相まって、ドマ城事件での彼の怒りと悲しみがひしひしと伝わってきました。
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石井青汰氏
お次は、『FFVI』でも特に有名なオペラシーンの楽曲群「アリア~婚礼のワルツ~決闘~大団円」です。「アリア」の前奏から演奏がスタートし、さあ歌が始まる!という瞬間。
(いとしの……)
⇒(ああ ドラクゥ……)
スクリーンに映し出されたのは、歌詞の選択肢!カーソルは間違ったほうを選んでしまい、演奏も音をはずしてしまいます。さらに「なんか違うな? え? ゴメンちゃーい」というセリフが映し出され、ブーイングの音が低音の演奏で再現されていました。スクリーンはいったん暗転し、再び前奏が奏ではじめられるとともに映し出される「Take 2」の文字。ホールは爆笑に包まれます。
今度は正しい選択肢を選んで始まったオペラの歌声。それは、スーパーファミコンの原曲(電子音による疑似的な歌声)にとても近い音色で奏でられ、『FFVI』プレイ当時のオペラシーンの感動を、鮮烈に呼び起こしてくれました。演奏に合わせて、スクリーンに歌詞が映し出されていたのもゲームそのままのイメージでよかったですね。しかしまさか、オペラシーンの選択肢までを完全に再現してしまうとは……!『FFVI』をプレイしたファンとしては、その再現度に感心しきりでした。
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赤松由美氏
その後も、美しく優雅なダンスシーンの楽曲「婚礼のワルツ」、激しい戦いを思わせる「決闘」と演奏は続きます。最後は、ロックとオルトロスが舞台に乱入し、やけくそになったダンチョーの「ミュージック スタート!!」から始まる「大団円」。まさにドタバタ劇のようなハイテンポさで、元気に奏でられました。
第2部最後の曲は、「飛空艇ブラックジャック」。途中、「幻獣を守れ!」と「セッツァーのテーマ」のモチーフを織りまぜながらの疾走感のある演奏で、さわやかに締めくくられました。
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第3部からは、ステージ中央のピアノがエレクトーンに交替し、エレクトーン3台での演奏になりました。まずは「魔導研究所」。原曲でも印象的だった、機械的でユニークなリズムが繰り返し奏でられます。続く「魔大陸」は、ハープの美しいアルペジオと激しいドラムのリズムが絶妙にマッチしていて、耳に心地よかったです。途中で少し、魔大陸浮上時の楽曲「大破壊」が折り込まれていたのも芸が細かいですね。アルテマウェポン戦の楽曲「死闘」は、緊迫感とスピード感にあふれていて、戦いの激しさを雄弁にものがたった迫力ある演奏でした。
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大庭千明氏
続いては「墓碑銘~仲間を求めて」です。「墓碑銘」は、やわらかい音のオルガンとギターで奏でられ、原曲のイメージを大切にした演奏でした。また、スクリーンにはセッツァーとダリルの過去が語られるイベントのセリフが映し出され、ゲームの思い出がまざまざとよみがえってきます。そこからの疾走感あふれる「仲間を求めて」。笛の音色で高らかに奏でられる、切なくも美しい旋律は鳥肌ものでした! 途中にさりげなく「ティナのテーマ」が挟まれていたのもGoodです。
世界崩壊後の街で流れる「あの日から…」、小気味よく入るカスタネットの音色が心地よい「からくり屋敷」と演奏は続き、ラストダンジョンの「邪神の塔」。最後の敵に挑む決意を表すかのような、勇ましさと重厚さのあふれる演奏でした。
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中島達也氏
ラストバトル曲「妖星乱舞」は、第一楽章から第四楽章までがフルで届けられました。パイプオルガンやティンパニの音色を駆使した鬼気迫る演奏は、オーケストラにも引けをとらない壮大さです。特に、鐘の音色から始まる第三楽章のソロ演奏は圧巻。ホール全体を支配するかのような、圧倒的なパイプオルガンの音色で奏でられる神聖な旋律は、ゾクゾクと身体が震えるほどの美しさ! お見事でした。
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濱田久美氏
そして迎えたエンディング曲、「蘇る緑」。この曲は、カイエン、セッツァー、エドガー&マッシュ、モグ、ウーマロ、ゴゴ、ガウ、ロック&セリス、ティナ、リルム、シャドウ、ストラゴスと、『FFVI』のプレイヤーキャラクター14人分のテーマ曲が次々に演奏されていく、20分を超える超大曲です。TMMはこの恐ろしい難曲に、たった3名のメンバーで挑んだわけですが、さすが熟練のエレクトーン奏者が集うTMM。とても3名で演奏しているとは思えない、重厚かつ壮大な演奏が繰り広げられました。セリスとロックのメロディが重なりあうシーンも、リルムからシャドウになるところの切ない盛り上がりも、情感たっぷりな演奏でドラマチックに表現されていました。すべてのキャラクターのテーマを奏で終えると、飛空艇が飛ぶシーンのメロディが爽やかに雄大に奏でられます。そして最後は「ファイナルファンタジー」。20分を超える演奏をすべてやりきったあと、観客からは盛大な拍手が贈られました。
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福島和希氏
鳴りやまない拍手の中、アンコールに披露されたのは「永遠に、レイチェル」。切なさあふれる、メロディアスな旋律がしっとりと演奏されます。後半に「セリスのテーマ」が組み込まれていたのがなんともニクいアレンジですね。スクリーンに映し出された真紅のフェニックスのイラストも、神々しく雰囲気を盛り上げてくれました。
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続いて、「しんみりした曲で終わるのもどうかと思いますので」という堀越氏の振りで登場したのは、赤いサンタクロースの帽子をかぶったTMMメンバー! もうすぐクリスマスということで、演奏されたのは『クリスマス・コレクションズ music from SQUARE ENIX』より、『FFVII』の「ゴールドソーサー~空駆けるハイウィンド(X'mas Edit)」。観客からは手拍子も入って、明るく楽しい雰囲気でコンサートは幕を閉じたのでした。
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とても楽しいコンサートでした! TMMは、エレクトーンの最大の特性である「どんなジャンルでも演奏可能」という点を生かし、多彩な音色を駆使しての、“リアルタイム演奏”スタイルをコンセプトに掲げています。ゲーム音楽は、もともとゲーム機で奏でられるために作られた電子音楽で、人が演奏することを想定して作られているわけではありません。
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そんなゲーム音楽を、自らの両手両足を駆使して演奏しきってしまうTMMの皆さんは純粋にすごいと思いますし、『FF』という作品への愛情にあふれていると思います。ゲームへの愛が強いためか、原曲をとても大切にしたアレンジになっているのが、『FF』を愛するゲーマーとしては嬉しかったです。また、随所に『FF』好きとしては反応せずにはいられない小ネタも多く仕込まれていて、たくさん笑わせてもらいました。思い出深い名曲の数々を、エレクトーンで堪能できるTMMのコンサート。ご興味をお持ちの方は、ぜひ足を運んでみてください。
なお、TMMの次回公演は、2015年12月13日に『キングダムハーツ』の楽曲を特集したコンサート「THE MUSIC MAGES外伝2」を開催するとのことです。スペシャルゲストに下村陽子さんも登場するそうですので、これは期待大ですね。
Photo by GMCP(Game Music Concert Photographics)
http://gmcp.game-ss.com/