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毎週土曜日0時からお届けしている「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」。7回目は前回に続いて「色」をテーマにお届けします。
平林
前回はゲームの色の話をしました。
安田
話はダイナミックに展開しましたよね。「日本には色が多い」という話題から、日本の伝統文化や国土の地理的な話になりました。
平林
色というのは、かなり国柄や土地柄に関係あるぞという突っ込んだ話ができました。「海外のゲームと日本のゲームの色は違うな」と感じている方は多かったようでして、掲載後に反響がありまして。Facebookや個人メールフォームを通じて、かなりの数のメッセージをいただきました。
土本
そうでしたか。
平林
虹の色の数え方は国によって違いますよね? とか。アフリカのサッカー代表チームのユニフォームは原色が多いのはなぜ? とか。色の話題で盛り上がっていましたよ。なかでも、知ってびっくりしたのがイランの食料品売場のことでして。イランに住んでいたことがある方の情報によると、テヘランの市場では食料品を色に分けて売っているそうです。食材ごとではなくて、赤い食べ物と白い食べ物のように色別で。白い魚と白い野菜が同じ店で並んでいるのだとか。
安田
言葉が国によって違うように、色に対する考え方もずいぶんと違ってきますね。先週、日本には四季がある、土地は南北に長くて、標高差がある、降水量も多い。こうした条件がそろっているので、多様な生物が住んでいると言いましたが、さらにですね、植物の種類が多いというのも日本という国土の特徴です。そしてこれは色の多さと大いに関係あると思いますね。
平林
確かにそうですね。植物の名前が色の名前になっている例は多いですね。桃色、桜色、橙色などがパッと思いつきます。萩色や柿色もあります。
安田
山吹色(やまぶきいろ)、亜麻色(あまいろ)、若草色(わかくさいろ)、朽葉色(くちばいろ)、萌黄色(もえぎいろ)、常磐色(ときわいろ)なんていうのもありますね。日本の伝統色の名前って、改めて並べてみると独特の味わいがあります。
平林
これら、日本の伝統色の名前は、外国語に翻訳しにくいでしょうね。……そういえば、日本の伝統色といえば、思い出しました。ソニーの4Kテレビ「ブラビア」のテレビCM。あのCMのキャッチコピーが好きでした。「この国を描くことは千の色を描くことだ」。日本の四季折々の景色とともに、日本の伝統色が紹介されていました。この国、つまり日本には千の色があるというメッセージです。なんともオールゲームニッポン的なテレビCMじゃないですか!
土本
まさしく!
安田
植物が多いということは、色の名前に影響があったというだけではなくて、色、そのものをつくれてしまう。つまり、色をつくるうえでの染色ですね。染色技術も発達するということですよね。草木染めのような染物、それと織物もあわせて、布に色をつける技術が日本ではかなり昔から発達していたようです。ですから全国各地に着物や帯の産地が広がっているんでしょうね。
平林
博多織(福岡)、京友禅(京都)、結城紬(茨城)などは有名なので知ってます。着物の産地は詳しくないのですが、大ざっぱですみません。日本全国、どの地域にも地場の染物・織物がありそうです。地域でいえば、磁器や陶器といった焼き物も、いろいろな土地に産地が広がってます。
安田
ということから想像を膨らますと、昔の人は、僕らが思っている以上に色を楽しむという文化があったんだと思いますよね。十二単の時代、平安時代ではすでに「あの人の色使いは斬新だ」的な。今でいうとファッション評論のような記録も残されています。
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平林
で、日本の色の特徴は? ということについて考えてみたんですが、もう本当に素人っぽいことを言うと、ケバくないんです(笑)。ケバくないということは、中間色・淡色をうまく使っていることです。
安田
それは、わかりやすい。
平林
で、私は西洋の絵画が好きで昔、調べたことがあったんですが、ルネサンス以前の絵画の色はキリスト教的な教えに縛られていたんです。
土本
たとえばどんなことですか? 使ってはいけない色があったとか?
平林
いけなかったのは混色ですね。混色して新しい色をつくることは、神が生んだ自然秩序に逆らう冒涜という意識があったようなんです。諸説あるのですが、この考えは哲学者・プラトンが最初に唱えたとも言われています。ですからルネサンス以前の西洋画は、特定の色を持つ鉱物を単体で塗ったものがほとんどです。パレットでもキャンバスでも絵の具を混ぜ合わせるということをしません。
安田
日本では染物でも磁器の塗りでも、色を混ぜて表現する文化がありますよね。
平林
「隣人を愛しなさい」と教えを説くのがキリスト教ですが、キリスト教の歴史にはダークな側面もあります。中世のキリスト教って、魔女狩りや異端審問のように、弾圧的だった面があるじゃないですか。これって、西洋文明・西洋文化を知るうえで重要なことだと思うんですよね。
(つづく)
■パーソナリティの紹介
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安田善巳 (やすだ よしみ)
角川ゲームス代表取締役社長、フロム・ソフトウェア代表取締役会長。日本興業銀行、テクモを経て、2009年に角川ゲームスの設立に参画。経営者でありながら、現役のゲームプロデューサーとして『ロリポップチェーンソー』『デモンゲイズ』などを手掛け、現在は『Projectcode -堕 天-』『Projectcode -月 読-』の開発に取り組む。
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平林久和(ひらばやし ひさかず)
インターラクト代表取締役社長。ゲーム黎明期の頃から専門誌編集者として従事。日本で唯一のゲームアナリストとしてゲーム評論、ゲーム産業分析、商品企画などの多方面で活躍してきた。著書に『ゲームの時事問題』『ゲームの大學』(共著)など。「今のゲームを知るためには、まず日本を知ることから」が最近の持論。