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毎週土曜日0時からお届けしている「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」。早くも8回目ですが、今回は日本人と宗教という話題が飛び出してきます。日本人は比較的、宗教とは距離を置いていると考えがちですが、実は神社仏閣はコンビニよりも遥かに多く存在するそうです。日本と海外を比較した際に、日本人の独特な宗教観や宗教に対する接し方はどうしてもクローズアップされてきます。安田さんと平林さんの会話の中でも幾度と無く登場するキーワードになっていきそうですね。ではどうぞ。
平林
あっという間です。オールゲームニッポンはもう8回目です。ところで、今までこの連載コーナーをやってきて発見したことがありまして。
安田
何でしょう?
平林
前回、前々回でゲームの色の話をしていましたよね。そこで安田さんが「日本にはそもそも色の数が多い」というお話をされました。
安田
日本の国土の条件がたくさんの生物が生息する条件に適していた、特に植物が多かったなどの話ですね。
平林
はい、そうでした。さらにそのまえには、文化の多様性のお話もありました。日本には伝統文化から最新のロボットまで幅が広いという……
安田
ありましたね。
平林
それに加えて、八百万の神とか。多神教とか。
安田
神社の話もよくしてきましたよね。
平林
で、ふと気づいたというか。私自身が今回の対談で学んだことのひとつが「多」というキーワードなんです。もう自分のバカさ加減を告白するようなものですが、日本というと、ひとつにまとまっているという先入観があったんですね。よく言うじゃないですか、日本は単一言語であるとか、多民族国家ではないとか。和というのは、ひとつの輪をつくってまとまることですし。逆にですね。ネガティブな意見としては、日本人は個性をおさえてしまって画一的なんて言われ方もします。
安田
なるほど。
平林
個人的な話をしますと、私の名前は久和でして……
安田
知ってます(笑)。
平林
ですから子供のころから「和は大事だ」と教わってきて、どうやってひとつになるか……みたいなことを一生懸命に考えてきました。なのですが、オールゲームニッポンを通じて「多」である日本に気づいたんです。
安田
ひとことで日本と言っても、国土の地形が複雑ですからね。海沿い、川沿い、山沿いの集落によって独自の個性が生まれます。見える景色、穫れる作物、食べるもの、飲むお酒、工芸品のつくり方、風習など、土地ごとに違っています。こうした多様な地域特性があって、それらが集まってできたのが、日本とも言えますからね。
平林
さて、こうして日本を再発見しているこの時期に、不幸にもイスラム過激派組織の事件が起きました。事件は現在進行形なので軽々しく論評をするべきではないし、また、本来のイスラム教と過激派組織の行動は別物です、と断っておきますが……そう前置きしたうえで、やはり考えてしまうのは宗教のことです。
安田
根深い宗教の問題ですけど、どんなことを考えてます?
平林
日本の宗教観というのは、つくづく独特なんだなと思います。オールゲームニッポンでは、よく話題に出ますが多神教的な価値観って、世界レベルで見ると本当に珍しいんだなと痛感します。
安田
確かに世界の他の地域と対比してみると、それは明らかですね。神様がたくさんいる、ということからして独特ですし、神道には聖書や経典にあたるものありません。神道って、とてもおもしろいことに宗教として明文化されていないんですよね。「ふるまいそのものが教えである」と神道のことを解説する人もいるほどです。
平林
ついイスラム教と比較をしてしまいますが、神道には原理主義もありません。神道の過激派が他の宗教を攻撃した、なんて話は聞いたことがありません。あと、これはキリスト教が熱心にやってきたことですが、海外に出て布教することもしなかった。神道はいつの時代も日本の中でじっとしています。
安田
これは私の考えですが、神道に親しんでいた昔の日本人は、そもそも布教するぞ、という概念さえなかったのかもしれませんよ。もしかしたら「家の近くにお宮さんがあるな」くらいの意識でしかなくて。それを宗教ととらえていなかった可能性すらあるんじゃないかと思うんです。
平林
現代の宗教という言葉では、おさまりきらない宗教観を持っているということですね。
安田
古代の日本には、自然のあらゆるものに神が宿るという自然信仰を下敷きにした神道があったとします。
平林
はい。
安田
この神道は、じつに寛容な信仰なのですが、そこに付け加わるようにして、時代でいうと6世紀のころに仏教が伝来しました。のちに、仏教も日本に広まるわけですけど、神道は仏教を認めて共存して現代にいたります。神道と仏教のように、これだけ信者の多い宗教が共存している国は日本のほかに思いつきませんね。
平林
まさに共存ですよね。昔、いったい日本には神社やお寺はいくつあるんだろうと調べたことがあるのですが、ともにすごい数でした。
土本
いくつあるんですか?
平林
放置されている神社、お寺とかがあって正確な数は把握できていないのですが、神社本庁や仏教各宗派に登録されているものを合計すると、ともに8万弱です。コンビニエンスストアの数が全国で5万軒くらいですから、日本にはものすごい数の宗教施設があることになります。
土本
コンビニの3倍以上の数の神社とお寺があるんですね。
平林
そうですね。ここで少しゲームの話をしますと、『イングレス』(Ingress)ですね。イングレスをやってポータルを探していると、日本には、こんなに神社仏閣が多いのかと気づかされます。さらに、この8万弱にはカウントされていないお地蔵さんも多いですね。
安田
日本人のことを信仰心は薄いという人もいますが、そんなことはないと思いますね。何かの宗教に熱狂することはなくても、厚い信仰心を持っているのが日本人だと思います。
(つづく)
■パーソナリティの紹介
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安田善巳 (やすだ よしみ)
角川ゲームス代表取締役社長、フロム・ソフトウェア代表取締役会長。日本興業銀行、テクモを経て、2009年に角川ゲームスの設立に参画。経営者でありながら、現役のゲームプロデューサーとして『ロリポップチェーンソー』『デモンゲイズ』などを手掛け、現在は『Projectcode -堕 天-』『Projectcode -月 読-』の開発に取り組む。
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平林久和(ひらばやし ひさかず)
インターラクト代表取締役社長。ゲーム黎明期の頃から専門誌編集者として従事。日本で唯一のゲームアナリストとしてゲーム評論、ゲーム産業分析、商品企画などの多方面で活躍してきた。著書に『ゲームの時事問題』『ゲームの大學』(共著)など。「今のゲームを知るためには、まず日本を知ることから」が最近の持論。