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―――お二人とも、元々プロレスがお好きだったんですか?
Chihaya:二人ともユークスに入ってから、ですね。
koma;元々興味が無かったわけではないんですが、もの凄く好きというわけでもありませんでした。会社に入ってからですね。
Chihaya:だって周りがプロレスの話しかしてないし……ぶつぶつ聞いている内に「あ、私ってプロレス好きなんだ」と(笑) 逆に私は子供の頃に、親から「プロレス観るの禁止」と言われて育ったんです。おばあちゃんはプロレスが好きだったんですが。だから、子供の頃は「プロレスは野蛮だな!」「観てはいけないんだな!」と考えて育ちました。
koma:……そのキャラいいですね。
Chihaya:女子高生で? そういうキャラばっかじゃん。
koma:おばあちゃんです。おばあちゃんにピンっと来ました。
一同:そっちか!(笑)
Chihaya:おばあちゃん……萌えキャラとして、シャイニングウィザードを。
koma:昔のプロレスは、より野蛮なイメージが強かったですからね。
Chihaya:逆に「絶対観ない」という人の気持も分かります。
―――エンターテイメントだという事を理解して観ないとですからねえ。
koma:それは難しいところですよね……。
Chihaya:「嫌いだ」という時の見方って、自分の近くに寄せたくないもの、くらいだったんです。その時の自分の気持ちを思い出すと、大変な仕事だなって思うんですよ。実は、漫画の中ではわざと「プロレスは野蛮だ」「プロレスはインチキだ」という言葉を出しています。そこを避けて「プロレスは素晴らしいんだ!」と漫画の中で言っていたら、かえってカッコ悪いなと思って。
―――初めてのプロレス、はどの段階でしたか?
Chihaya:私は橋本真也選手でした。闘魂三銃士ですね。橋本さんは本当にカッコ良かった。その頃にユークスへ入社して、最初に新日本のゲームを作っていました。
koma:私はWWEでした。一作目を作る時に入社したんです。その頃からモーションを作っていたんですが、実はchihayaが私の師匠だったりします。
Chihaya:もう自分で作るのが面倒だったんで、後は頼む! と。
koma:こき使われましたね!
一同:(爆笑)
―――では漫画の作業に入られる前はずっとゲーム一筋で?
Chihaya:そうです。私は『エキサイティングプロレス』(以下エキプロ)一筋、ユークスでプロレスゲーム以外を作らせてもらった事はありませんね。プロレスだけ。komaはもうフリーで絵の仕事をやるようになりまして。
koma:プロレス以外にもちょくちょく色々な事をやらせていただいています。そのおかげで多くの経験ができていますね。ゲームのモーションをやっていた事が、作画の元になっています。
―――人体で言うと、ガワだけで骨の入っていない絵を描く人っているじゃないですか。顔から描いたり。
koma:その辺りは勉強したかどうかです。私は足から描きますが。
Chihaya:モーション作る時って下の方から固めていくからなあ。
koma:一番大事なのは腰で、重心の位置。それを元に全身が作られるという感じで
―――しっかり地面に立っていますよね。ドロップキックの場面でも、キャラに重さを感じます。
koma:空間での位置関係や、動きの中でどう変化していくかと言うのは、すべてモーションの時に勉強させていただいて。それがなんとなくできていればいいなあって(笑) ドロップキックも気を付けています。
Chihaya:プロレスファンはねえ、やっぱり見る目が厳しいんですよ。「ただの後ろ回し蹴り」として成立していればいいのではなくて、「これは○○が○○で使ったローリングソバットである」みたいなこだわりが出て来ます。足の角度など、それくらいの繊細さで描いてくれてますね。
koma:作画する際にデフォルメキャラにする必要があるので、実際の頭身と変える必要があり、そのあたりが難しいところですね。そこを自然に見せるようにはしています。ポスターを描いた時のシャイニングウィザードは大変でした。膝立ちになっている人の上に乗って膝蹴りを繰り出す技なんですけど、それをそのまま作画するとスピード感が無くなってしまう。試合で尖った膝を顎にクリーンヒットさせる、「気持ちのいい絵面」にするのが難しくて、それを加味しながら描くと今度はディフォルメした時とのバランスがおかしくなってしまいます。その辺りを調整しながら描いていますね。
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Chihaya:意外と大変だったんだなぁ……。
一同:(笑)
koma:何度もリテイク出したじゃないですか! 仕舞いには「パンチラさせろ! パンチラさせろ!」って!
Chihaya:「これは重心合ってるけど、パンチラしないじゃないか!」って。折角だから、勿体無いし。
―――ゲームだと、何を担当されていたんですか?
Chihaya:私は企画でした。最初はモーションをやっていたんですけれども、作ってるうちにゲーム全体、「ゲームをこうやって作りたい」と思い企画になりました。『エキプロシリーズ』全般ですね。現在は「ぶかつのじかん」「ロリクラ☆ほーるど!」のコンテを切りつつ、ユークス内でゲーム企画もしています。ただ、上手くいかない事がどちらにも影響してしまう事があるんですよ。ほのぼのギャグ漫画を考えている一方で、会社で仕事をすると楽しい事ばかりではありませんからイライラする事があったりして。そういう時って本当に楽しい事って思い付かなくなってしまうので、辛いですね。
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―――私は谷屋種(タチアナ)、たーにゃがお気に入りでしてね……。
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Chihaya:元々主役っていうものは決めずにやっていたんですが、たまにはたーにゃが主役の話を描いてみるか、と思い彼女を主役にした話を描いたんです。そうしたら、ものすごく反響がありまして。雑誌連載を始めるにあたりヤンマガの編集さんからいくつか言われた事の一つに「主役を置いて」というものがあったため、それではたーにゃを主役にしましょうとなりました。読者は「まずどこに感情移入するのか」が明確でないとごちゃっとしてしまうので、「元々プロレスを知らない」たーにゃでならば、読者の気持ちに寄り添っていけるのではないかと思ったんです。
koma:最初にこの企画が立ち上がった時には、あこが主役的な感じだったんですけどね。イメージで5人作った時に、「あこが主役だな」と。
―――好きなキャラは?
Chihaya:「反響をもらう」事が一番嬉しいので、たーにゃですね。漫画をこういうところになるまで引き上げてくれた、という意味では恩があります。
koma:そんな深刻な話だったんですか!?
一同:(笑)
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koma:作画的な話をすれば全員好きなんですけど、あこが一番分かり易くて表情豊かで動かしやすく……一番多く描いているので書き易い(笑)
―――あこはトラブルメーカーだけど、表情が一番豊かですよね。
Chihaya:あこはそうですね。プロレスで言う「ヒール」で上手な人って、凄く表情が豊かで上手なんですよ。
koma:顔芸マスター!
Chihaya:凄い調子に乗って話してたんだけど、正義の味方のオースチンやシナなんかに痛いところを突かれて「ぐぎぎぎぎぎ!」みたいな顔を作ったりして(笑) あこはそういうところがあります。「やばい!」って時とか人間的なカッコ悪さがある。
koma:実際の作画で「ぐぬぬ!」みたいな顔を描くと「もっと可愛くしろ!」って言われちゃうんですけど、私たちはもうちょっと崩したいんですよねー。でも、可愛さと両立させていきたいとは思っています。私だけだとどうしてもギャグ方向へ行ってしまうんで(笑) 変顔させたくなっちゃう!
―――正義と言えば、先日シナをテレビで見た時に揉めてましたよ。
Chihaya:いっつも揉めてます(笑) WWEは、「闘う理由」「そこに至る理由」への導線が凄く上手いんですよ。「K-1」がブームだった頃の「煽りV(ビデオ)」がめちゃくちゃよくできてたじゃないですか。あれと同じレベルで、WWEは毎週毎週連続させていると思うんですよ。その人の「闘う理由」が説明されて感情移入できて。シナはその才能が凄く高くて、「シナと関わる選手も活かして互いに盛り上がる」んです。「中に居る映画監督」みたいな感じ。プロデュースにも関わっていますし、凄い選手ですよね。
koma:ロックやオースチンのあとを継いだ形ですよね。
Chihaya:あの頃と今と何が一番違うかって、昔はインターネットが無かったんです。現在は、ストーリーでもみんなが予想してすぐにバレちゃう。単純に悪い奴が何かして、仕返しするというだけでは通用しなくなっていて、もっと複雑になったストーリーを回していくにはもの凄く頭のいいキャラクターが必要なんです。
―――頭がいいと言えば、ジ・アンダーテイカーがまだ現役だという事実。
koma:どれだけやってるんだって感じです。
Chihaya:しかもギミックレスラーですからね!
koma:だったらゴールダストも凄いじゃないですか!
Chihaya:「テイカーだけが何十年もギミックレスラーやってるような言われ方は心外だ!」みたいな。komaはゴールダスト大好きですから。
koma:いや実際テイカーは凄いですよね。
一同:(笑)
Chihaya:ギミックレスラーの人っていうのは、そのギミックを与えられた時にどれだけ前向きに取り組むかって事だと思うんです。だって「今日から死人としてやってくれ」みたいな事をテイカーは言われたわけですよね? 私だったら「そんなもん上手くいくか!」と思っちゃうところ、テイカーは真面目に「死人だったらこうするかな」とか「白目になってみようかな」なんてしたりするんですからね。本当に本気で取り組んだから、あれだけの「凄味」になるのかなって思います。
実際WWEのインタビューを観ていて、ジェリコが「最近の若い選手はシナリオに頼り過ぎてて駄目だな」みたいな事を言っていて、ついにジェリコもそんな話をするようになっちゃったんだなって感慨深かったですね。でも言ってる事はまともで、そのシナリオじゃ上手く行かないだろ、と思った時点で負けなんだ、失敗を作ったのはそう考えた自分自身なんだ、という事を言っていて、いい事言うなあ、おじさんの星だなあ、と(笑)
koma:実際墓掘り人なんていきなり言われてもねえ(笑) どんな魂胆なんだと。
Chihaya:「これは出世コース外れたな」って思っちゃうよね(笑)
koma:最初テイカーの「墓掘り人」の名前だけ聞いた時は、中心人物だと思わなかったんですよ。でも実際知れば知るほど「この人は凄いな」と感じるようになって、テイカーの力でキャラクターが活きましたね。
Chihaya:入場シーンなんか、ただ歩いているだけで迫力がありますから。
koma:だからあのモーション作る方が大変なんですよ。歩くだけで実際のテイカーの凄味を出す必要があって。
Chihaya:肩を怒らせるわけでもなく、ただスーッと歩いてくるだけで……神々しいものを感じる……。
一同:(爆笑)
koma:本物なら感じられるオーラみたいなものを、どう伝えるのか? そこが大変でした。
―――ではそういった部分も漫画の方に活かして作画をされてと。作画する際に気にかけている部分はどこですか?
koma:とっつき易さ、ですね。プロレスの持っている泥臭さみたいなノリ、おっちゃんが怒鳴りながらやってる空気を、「いたりあ~ん」的な女子高生の部分で華やかにすると。泥臭さは技をかけていれば勝手に付いて来ちゃいますけど。
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Chihaya:「野蛮さ」を感じる要素が多いですからね。
koma:そういったモノを含めたプロレスに、もっとライトに触れて欲しいなと思ってやっています。
―――ライトさを求めてアニメ化するならば、今だと5分枠かなーと思ってます。
Chihaya:アニメですか……でもまずは漫画ですね。漫画をこれだけ苦労して描いていても、みんなあっという間に読んじゃうんだろうなって思うんです。私もこの仕事を始める前は、漫画を読み飛ばすように読んでました。ところが現在は、構図なども見ながら時間をかけて読むようになりましたよ。お話の「疾走感」のようなものはゲームでも表現できなかった事だと思うし、しかもそれがずっと続いていく、お話が更新されていく、追加されていくっていう経験はゲームでは難しいですから。アニメの前にまず漫画にしっかり取り組みます。
―――「漫画にしよう」という発端はなんでした?
Chihaya:元々のスタートは大それたものではなくて、ユークス内の「もうちょっとブログなどを盛り上げていこう」という流れの中で、一つはコラム、もう一つは漫画という形で始まっています。当社のスタッフは本当にプロレスが好きで仕事をやっていますので、それを発信していきたいなという想いもありましたし、「本当に好きで作ってるの?」という事を払拭する意味でもありました。コラムを書かせても漫画を描かせてもプロレスが好きという事は伝わるんじゃないかと。続けている内に「プロレスを盛り上げるために」と応援してくださる方も増えたんですけど、まず我々が楽しんで作っている、その事が一番理想的なんじゃないかなって。
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koma:「本当に好きなんだな」と感じていただければ。
Chihaya:「ディズニーランド好きな人」という話がありまして、年間何百回も行く人がいますよね? そういう人がディズニーランドの良さを語ってもあまりピンと来ないんですが、実際その人がディズニーで遊んでいる姿を見ると心の底から楽しんでいる事が分かります。それと同じように、ユークスのスタッフもプロレスを心底楽しんでいて、色々な楽しみ方、いじり方、ギャグもそうだし日常会話だって「楽しさ」が溢れている。好きで堪らないってトコがありますから、コラムでも漫画でもそういう事は発信できていると思っています。
koma:実際に読んでいて楽しい漫画って、作者の「好き」が伝わって来ますよね。
―――その辺りの「想い」を、漫画に。
Chihaya:それだけ興奮させる力を持たないと……まずはパンチラを増やす事からか……パンツで日本を元気にする……! あ、でも、たまたまシャイニングウィザードをしたから見えてしまう。そして、たまたまラダーに飛び付けば、見えてしまう。パンツはそういう事です。たまたまですよ。
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koma:あれは打ち合わせの後に、私が勝手に描いたんですよ。あった方がいいなーと。
Chihaya:!? 分かってきたな……!
koma:ありがとうございます。パンチラはサービス精神、プロレスにつながる部分ですね。エンターテイメント性を大切にしているんです。
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―――パンツはエンターテイメントだと!
koma:そこまで言っちゃっていいんですか!?
―――言い切りましょうよ!
Chihaya:勿体無いからね! パンツはエンタメ!
―――プロレスをする女子高生という設定はニッチですよねー。
Chihaya:彼女たちが「女子プロレスをしているのか」と言うと違うんですよね。コスチューム着てリングでやっちゃうのとは違うんです。
koma:これはChihayaさんから最初に言われた事で、彼女たちは「女子プロレスも含めた」エンターテイメントとしての「プロレス」をやっている、楽しんでいるんです。制服で好きなプロレスの話をしながら技も出して、という感じ。
―――ぶっちゃけ彼女たちは「部活動」をしてませんね。
Chihaya:漫画として、スポ根の部活にはしたくないと思っています。もっとゆるゆる日常系でプロレスの熱意のこもった話にしたかった。スポ根モノでは、部活モノのストーリーとして守らなきゃならない流れがあると思うんですよ。どういうところで練習して、挫折があって、敗北して覚醒して勝利があって。そんな魅力を求めるのがこの漫画であれば表現すべきですが、そうではありませんからね。
komaとも話しているんですが、将棋や麻雀の漫画に近いと思っています。プロレスのネタが出てきた時に、あまり説明をしていないんです。したくないって部分もあるんですけど、結局、将棋漫画でも麻雀漫画でも、そのルールや戦略の凄さを100%理解しながら読んでいる人ってほとんどいないと思うんですよ。分かんないんだけど、ドラマの中で将棋や麻雀の流れや戦法などが漫画を面白くしてるなって事は伝わってきます。だから、プロレスの細かいネタも「そのジャンルを好きな人が楽しんで描いてるんだな」と思っていただければ幸いです。
koma:スポーツやゲームを題材にした漫画だと、そのルールを一々説明するのではなく、分かり易い「楽しさのエッセンス」が詰め込まれた場面を見せるだけで読者を引き込めるんですよ。そこに、小さいネタとか普通では分からないようなネタを散りばめていければと思っています。「知っている人はより楽しめる」みたいな。
Chihaya:そこは迷いがありました。あまり読者を置いてけぼりにはできませんから、その辺りは二人でかなり話したんです。
―――紙面になってみてどうでしたか?
Chihaya:一つ大きな違いがあって、webだと1回につき4コマ一つじゃないですか? でも雑誌だと、それが一気にいくつも載ってしまう。お話の浸透の仕方とか、キャラクターの入ってくる度合いみたいなものが違っていて。webだとノリに近い単発ネタだったのですが、お話としてすっと入ってもらう、ストーリーの流れを感じてもらう構成にする必要がありました。
ストーリーを展開させたりキャラクターを掘り下げたりという事は、一番やりたかった事。元々プロレスゲームを作っていた理由と言うのが、「自分だけのプロレスの箱庭を作りたかった」んです。自ら会場をデザインしてキャラクターデザインをして入場シーン考えて入場曲も取り込んで、という事を全部できるようにするゲームを目指していて。ゲームで一番できない弱いところと言うのが「新しいストーリーを展開させる」と言う事で、それは本物のプロレスに敵わない。毎週変化するギミックがあり、キャラクター、選手たちの気持ちが変わり……そうなるとやはり、漫画ですね。
koma:ゲーム作りではそこが大変でした。作っている内に次から次へと新展開になってしまいまして。
Chihaya:ストーリーモードがあっても古くなっちゃうんですよ。作っている最中に「彼は今週からヒールになったよ」とか言われてしまって。
koma:ゲームを作っている最中にヒールに変わって、またすぐベビーフェイスに戻って(笑)
Chihaya:新しいはずのデザインや設定が古くなっちゃうんです……。「古いものを消して下さい」とか連絡が……。