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まずは上の写真を見ていただきたい。ここはインサイド編集部が入っているビルの中で、ご覧のとおり真ん中が空洞なのだ。実にスペースの無駄使いであるが、形としては面白い。さて、もし貴方がこの写真を見て「上から敵が降って来そうだ」とか「実はこの空間、歩けるんじゃないか?」と妄想したならば、今回紹介するゲームを気に入る可能性は高い。そう、MAGES.の科学アドベンチャーシリーズ第4弾『CHAOS;CHILD』を。
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妄想を具現化できる能力者=ギガロマニアックスたちがサイコな事件に巻き込まれていく『CHAOS;CHILD』は、非常に濃い作品だ。なんたって冒頭に「自分の腕を切って、むしゃむしゃ食べる男」が映し出されるのだから、このゲームの作り手たちはどうかしている。余談だが、ADVでCEROが「Z」に分類されるのは非常に珍しい。それだけヤバイということだ。
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ただそれが本作の魅力であり、「気持ち悪い」「不気味」「怖い」そんな感情が絵、音、そしてテンポから伝わってくる。だがなぜだろう、ボタンを進める手が止まらない……。
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つまりADVとして良く出来ているという事だ。実際、トゥルーエンドを見るまでに30時間以上かかったが、ホラー色の強い作風でありながらもぶっ通しで楽しめた。
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舞台は科学アドベンチャーシリーズ第1弾『CHAOS;HEAD NOAH』から6年後の渋谷で、連続猟奇殺人が発生する。主人公である宮代拓留は、新聞部の部長として本事件を仲間たちと調査。最初こそ充実した高校生活が描かれるが、真実が少しずつ明らかになるにつれ、宮代拓留とプレイヤーは一連の事件の本質を理解する。
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『CHAOS;CHILD』では妄想と科学が強くリンクしており、妄想が実現するからといって、単純なる異能力バトル物語ではない。あくまで妄想による物理干渉が科学現象として扱われており、それがサスペンス要素を強めている。特に本作のキーアイテムである「力士シール」の詳細は面白かった。
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ただ科学が関係ない、単純な妄想も楽しめるのが本作の魅力だ。それが一般的なADVの分岐フラグにあたる「妄想トリガー」で、「ポジティブ(主にエロ)」「ネガティブ(主にグロ)」「妄想しない」の3つに分岐する。これらは単純に妄想として楽しめ、ネタ展開も満載だ。「ハムサンド」と「ツナサンド」を間違えてはいけないという教訓も得られる。
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自分で推理できるのがサスペンス作品の魅力の一つだが、主人公の推理とプレイヤーの推理がほぼ同時進行になるよう構成されているため、物語に置いて行かれる事がない。
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その仕掛けとして用意されているのが、情報を海外ドラマの様に整理する「マッピングトリガー」であり、ここでの選択によって分岐するのも面白い。また主人公が高校生であるため、進行・理解のスピードも難しすぎずわかりやすかった。
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科学アドベンチャーシリーズの主人公といえば、毎度癖のある人物だと相場が決まっている。ただ今回の主人公である宮代拓留に関しては、過去作に比べるとかなり控えめだった。もちろんリア充・情強を自称しているため多少は痛い奴なのだが、まぁ「これだから情弱は……」という思考は分からなくもない。そのため感情移入がしやすく、本作のシナリオにマッチした設定だと言える。また過去作と大きく違うのが、見えている世界で見えていないことが起きているということ。
あらゆる出来事に自分と他人が関わっている本作のストーリーは、トラックに連続で跳ね飛ばされるような感覚で進行。もちろんトラックのアクセルを踏むのはプレイヤーだ。その衝撃や痛みは、主人公とプレイヤーの両方が味わうことになるが、いつしか宮代拓留という男は、プレイヤーが考えもしなかった決断をすることになる。
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萌えなんだけどギャルゲーじゃなくて、中二なんだけど科学で、重たいんだけどカジュアルで……そんな科学アドベンチャーシリーズ独特の雰囲気はそのままに、非常に異質で複雑怪奇に仕上がった『CHAOS;CHILD』。正直なところ、しつこい回想演出や物足りない分岐など幾つか不満はあるが、エンドロールを見つめながら言葉にできない感情を感じた。だから僕らは、何十時間も掛けてゲームをプレイするのだろう。こんな気持ちは久々だ。