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SUDA51とレトロゲームを探訪する連載企画「RETRO51」。前回は永井豪の漫画を原作とする『マジン・サーガ』を扱いましたが、なんと今回も永井豪作品です。ハードは少し時代をさかのぼり、PCエンジンにフォーカス。
『凄ノ王伝説』は、1989年にPCエンジンでリリースされたRPG。永井豪の漫画『凄ノ王』を原作としながらも、オリジナルストーリーで作られた意欲作です。『ドラゴンクエスト3』の大ヒットでRPGが一気に普及した時期ですが、距離の概念のある戦闘システム、シンボルエンカウントと当時としても画期的な作品。そして永井豪の独得な終末的世界観は未だに唯一無二の存在感を示しています。
前回に引き続き、須田氏には本作の思い出と永井豪作品の魅力を語っていただきました。さらにPCエンジン初期のソフトラインナップの魅力やファーストパーティのハドソンの活躍を振り返ります。
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――今回はPCエンジンですが、前回の『マジン・サーガ』に引き続き、永井豪作品の『凄ノ王伝説』です。あえて永井豪の連続という濃い企画になっています(笑)。私は原作の内容はほとんど知らないんですが、やはり『マジン・サーガ』と同じく恋人レイプから始まるんですね。
須田:
そうですね。目の前でレイプされて覚醒というお約束です。
――最初は学園が舞台。主人公は超能力サークルに所属します。そこでの陰謀に巻き込まれ、様々な敵と戦い、だんだん強くなっていく。ポストアポカリプスの『バイオレンスジャック』よりも学園モノという感じですか?
須田:
ベースはそうなんですが、途中からポストアポカリプスになるんですよ。主人公の朱紗真悟が凄ノ王に覚醒して、地球を壊滅に近い状態に破壊してしまいます。いわゆるファーストインパクトです。学園モノでありながら、とんでもない災厄が訪れるとはまさに『エヴァンゲリオン』。
――『エヴァンゲリオン』ですか(笑)。
須田:
初号機を初めてみたとき、「あっ凄ノ王だ」って思いました。
――本当ですか(笑)。
須田:
『エヴァ』より早い『エヴァ』だったんです!
――連載開始はなんと79年ですね。紆余曲折あって完結するのは、完全版が出た96年。ゲーム自体は89年でかなり古いですね。
須田:
すごく面白かった記憶がありますよ。当時、ほぼ徹夜でクリアしていると思います。最後がどうだったか記憶にないですが。とりあえずプレイしてみましょうか。
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ゲームを開始するとカットシーンで物語が展開します。PCエンジンらしい大きなグラフィックスは永井豪のキャラクターや世界観を存分に表現。緊迫感のある演出もよく出来ています。主人公の朱紗真悟は瓜生麗の陰謀によって、自分自身の化身である凄ノ王によって世界を壊滅させます。ゲームの目的は荒廃した世界に君臨する三匹の凄ノ王を倒すこと。オープニングが終わると、唐突に町に投げ出されます。
ゲーム内容自体はオーソドックスなRPGです。グラフィックスは今見ると簡素ですが、当時としては十分な品質。NPCに話しかけると、さっそくお使いイベントが発生します。アイテムはボウガンや手投げ弾といった現代的なもの。さらに武器屋の看板がアサルトライフルというのは世紀末感を漂わせています。
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仲間のステータスは標準的なものですが、魔法の代わりにESPが用意されています。この辺は超能力バトルの原作に準拠。パーティーは3人まで組むことが可能です。メインキャラクター以外にも、ゲストキャラクターが存在し、酒場でお金を払って雇うことができます。また酒場では客に酒をおごって情報を入手。今回は有り金をほぼ使い切って、ESPが得意な女性エスパーのリーザを仲間に入れました。
町の外に出るとマップが広がっています。シンボルエンカウント形式であるため、邪魔な戦闘は避けることができます。ただし夜になると敵が増えるといった変化も。戦闘はターンベースですが、シミュレーションの要素があります。キャラクターはそれぞれOPという行動ポイント持っています。OPは移動、攻撃、ESP、アイテムの使用などで消費され、尽きるまで何度も行動できます。
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ボウガンといった遠隔武器やESPは敵と離れていても使用可能。距離を取ることで安全に敵にダメージを与えることができます。序盤はESPを使用できるリーザが大活躍。ESPの「ウェーブ」がダメージソースとして有用でした。主人公の朱紗はボウガンによって遠隔攻撃でしのぎます。
最初のお使いクエストでは強制戦闘といったイベントも発生。戦闘画面を活かした演出は非常によく出来ています。戦闘では通常のターンベースRPGがより多めの敵が登場しますが、行動回数が多いため問題なく倒せます。
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須田:
僕はファミコン、スーファミを当時、買わなかったんです。ファミコン買わずにPCエンジン、スーファミ買わずにメガドライブを買った。何故かはわかりません。だからファミコンの『ドラクエ』をやらずに『凄ノ王伝説』をやっていた。僕にとってはRPGといえば、これ。こっちの体験のほうが強いんです。『ドラクエ』はお嫁さんを選ぶ作品はやりましたね。
――『ドラゴンクエスト5』ですね。お嫁さんはどっちを選んだんですか?ゲーマーの中では究極の選択ですが。
須田:
いや、覚えてないですね。
――(笑)
須田:
たぶん、生意気な方だったから、ビアンカかな。
――本作は『ドラクエ』などと比べるとかなり殺伐としていますね。戦闘は予想以上に現代的でした。全体的には『Fallout』のような雰囲気です。
須田:
スピード感ありますよね。敵の量も多いですが、その分、行動できる回数も多い。
――序盤に5、6体の敵が出てきますからね。『ドラクエ』だと死を覚悟しますが、本作では無理なく戦えました。
須田:
結果、ガンガン敵を倒す爽快感がありますね。
――グラフィカルな演出なのでテキストを待つ時間も少ないですね。今の人には『ドラクエ』よりも遊びやすいかもしれません。あとはダークヒーローものでポストアポカリプスというのが斬新。日本のRPGには珍しいタイプかもしれません。それこそ『Fallout』のシリーズにも近いので、そういったものが好きな人にはたまらない。
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須田:
そうです。永井先生は基本的にはダークヒーローなんです。漫画で自ら滅ぼした世界をゲームで追体験する。漫画の後日譚というのも新しかったです。
――また『ドラクエ』で比較すると、『ドラクエ4』のデスピサロを思い出します。デスピサロは『ドラクエ』には珍しくダークヒーローです。ちょうどこの翌年に『ドラクエ4』がリリースされています。
須田:
やはり名作でした。当時は『凄ノ王』の大ファンだからずっと待っていた。若い人には漫画とセットでやって欲しいです。漫画も超絶おもしろい。
――確かにシステムが洗練されていて、今でもすんなりプレイできます。最近は海外のインディーがJRPGを作ることが多いんですが、それに近い雰囲気がありますね。
須田:
そうそう。まさにそういう雰囲気。
――戦闘は『クロノトリガー』にも似ていますね。位置関係で変化するというのあたりは。普通のターン制ではなく、グラフィカルに描かれたマップで戦闘するのは、当時としてはかなり斬新。
須田:
新しい。現代のタイトルに採用してもおかしくない仕組みです。
――確かにビジュアルが新しければ、現代でも通用するシステムです。
須田:
サイキックRPGっていうのもいいですね。自分の中から出てきた怪物を自分自身で倒すというストーリーも良い。説明書を見ると、最終的に瓜生麗と雪代小百合が仲間になるようですね。
――本当だ。これの絵は原作のメインキャラクターですね。
須田:
単なる原作の焼き直しゲームではないんです。原作が終わったあとの後日譚であって、『凄ノ王』の本当のエンディングはゲーム遊ばないと分からない。この3人が最終的にパーティ組むとかもう衝撃ですよ。漫画ではもともと対立していて、瓜生が雪代をレイプさせて、朱紗を覚醒させたわけなんですから。すごい展開です。永井豪ファン必見、必プレイです。
――それでも若い人にはまだまだ知られていないようですね。永井豪作品ということもあり、入りづらい感じはあります。
須田:
バイブルとして知ってほしいですね。覚醒するのが永井豪のモチーフ。ナヨナヨしたやつが急に番長になったり、覚醒して急にいじめられっ子がいじめっ子に復讐する。
――なるほど。
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――今日は少ししかプレイできなかったですが、久しぶりにどうでしたか?
須田:
記憶の奥底に沈んでましたが、やっぱり面白かった。びっくりしました。PCエンジンの記憶はタイトルが少ないですが、ひとつずつが大きかった。初期も『カトちゃんケンちゃん』や『邪聖剣ネクロマンサー』の印象が大きいですね。『ネクロマンサー』はクリアしましたが、あれもエンディングがすごかった。本作も同様、壮大なストーリーだったと思います。
――89年ですから、PCエンジンの初期ですね。PCエンジンには他にも変わったRPGが多い。『桃太郎伝説』や『天外魔境』といった和風RPGシリーズは今でも珍しいように思います。
須田:
そうですね。どれもファーストパーティーのハドソンが開発しています。
――当時のハドソンの開発力は定評がありました。コンスタントに素晴らしいゲームをリリースしています。もともとハドソンは「ファミリーベーシック」の開発以来、ファミコン初期のサードパーティでした。
須田:
その後はコナミに買収されて、今はもうなくなってしまいましたね。
――PCエンジン時代は北海道の会社だったというのもすごいですよね。地方のソフトハウスがコンソールを作れるというのはなんとも夢がある話です。
須田:
任天堂も含めて当時は地方の企業がハードを作る時代でした。
――そういった意味ではPCエンジンは日本のコンソールの歴史を考えるにはすごく重要な存在です。今では続編がほぼ不可能な『桃太郎電鉄』や『PC原人』といったシリーズは、いまだに人気が高い。
須田:
『R-TYPE』の移植も素晴らしかったですね。当時のアーケードをファミコンで移植するのは無理でしたが、PCエンジンならなんとか出来た。
――初期のキラータイトルですね。
須田:
当時はファミコンとPCエンジンでどっちを買おうか悩みに悩みました。
――決め手は何だってんですか?
須田:
グラフィックスです。
――須田さんらしいですね(笑)。当時から須田さんはグラフィックスに対するこだわりがつよかったんですか?
須田:
やっぱり『カトちゃんケンちゃん』の顔がデカイわけですよね。
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――(笑)。
須田:
あれはすごいなっていう。
――確かに。『源平討魔伝』の移植もPCエンジンでした。あれもキャラクターが大きい。
須田:
あのデカさはすごかったです。
――ファミコンはあのサイズのスプライト出せないですからね。このゲームもオープニングも永井豪らしい絵がいっぱいでてきましたが。
須田:
当時ではかなりリッチですよ。当時のロムサイズで考えるとかなりの容量を使っています。
――PCエンジンの強みを活かした演出ですね。
須田:
そうです。あとPCエンジンは我らが『ファイヤープロレスリング』もデビューしました。
――当時のPCエンジンで使われたHuCARDは1MBくらいで、最大でも2.5MBらしいです。
須田:
今だと写真一枚ですね。
――ただしその後のCD-ROM2の登場で、光学ディスクも使えるようになりました。
須田:
PCエンジンは拡張性もあったんですよね。
――いわゆる「コア構想」と呼ばれていたものですね。最初はエンジンのコアだけですが、徐々に拡張していく。名前からしてかっこいい(笑)。
須田:
合体ロボみたいな感覚。
――須田さんが最初に買ったのは、初代の小さなやつですか?
須田:
そうです。CD-ROM2も欲しかったですが、高くて手が出ませんでした。当時の稼ぎでは本体を買うのもやっとの思いです。ソフトもそれほど買えなかったですね。そのため、ビデオゲームのレンタルショップというのも当時はありましたから。
――昔は友達に借りたりして、徹夜でプレイして返すみたいなこともありました。結果として、今以上に攻略情報に飢えていたように思います。
須田:
確かに今はそういうのないですよね。
――では、今回をまとめて最後に一言お願いします。
須田:
若い方には原作も読んでほしいです。永井豪作品はなかなか伝える機会も少ないのですが、ゲームと共に楽しんでほしい。
記事提供元: Game*Spark