さまざまなゲーム開発に関連するセッションが行われ、ゲーム開発に携わる開発者が登壇するなか、日本でも大ヒットとなっている『生きろ!マンボウ!』を手がけるSELECT BUTTONの中畑虎也CEOが登壇。「How I created the game」というセッションタイトルを掲げ『生きろ!マンボウ!』が誕生するまでの開発について語りました。
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まず冒頭で中畑氏より、セッションに参加している開発者に向けて「5人以下のスモールチームでゲーム開発を行っている方は?」という質問が投げかけられました。思っていたよりも挙手があがり「結構いるみたいですね!」と中畑氏。『生きろ!マンボウ!』自体、非常に少ない人数で制作を行っており、ディレクター、デザイナー、エンジニアの合計3名で開発をしたそうです。また、当時は3名とも別々の会社に務めていて、ゲーム開発にも携わっていませんでしたが「どうしてもゲームを作りたい」という熱い想いのもと、趣味という形でゲーム開発に着手スタート。
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いろいろなゲームジャンルがあるなか、中畑氏達が目をつけたのが「育成ゲーム」。日本では非常にポピュラーなゲームジャンルで『たまごっち』を例にあげながら、育成ゲームの収益性の高さについての説明も行いました。
ゲーム制作自体は趣味という形ではじまったものの「せっかくなので多少のお小遣いも…」と収益性も多少は意識をしていたとのことで、1ダウンロードあたり平均0.4ドルと高い収益性を持つカジュアルゲームというジャンルでのゲーム開発を開始しました。
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開発当初は100万ダウンロードを目標に置いていたものの、Google PlayやApp storeのランキング上位には非常に高品質なタイトルが並んでいます。3Dをふんだんに活用したものや、豪華声優を起用したタイトル、何億円ものプロモーション費用を投資したタイトルが上位に並ぶ中、プロモーション費用が1円もない中畑氏がどのように戦っていけばよいのか。
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彼らが選んだ方法は「尖り」と「丸み」という考え方です。前述した通り、ミッドコアタイトルがランキング上位に並ぶ中、カジュアルゲームがランキングに入り込むためにはある意味突拍子の無いアイデアや奇抜なアイデア(「尖り」)が必要だと中畑氏は語ります。
とはいえ、鋭いだけですと一定層からの支持を得られたとしても広く周知されることはないでしょう。カジュアルゲームは多くのユーザーに遊んでもらうことによって収益が発生するモデルでもあるので、ダウンロード数を増やしていく必要があります。
そこで「共感」(「丸み」)を得られるようなコンテンツ作りを意識。この「尖り」と「丸み」をいかにバランス良くゲーム内に盛り込めるかどうかで、カジュアルゲームおよびスモールチームで開発を行うゲームタイトルが成功するか否かのキーポイントになると中畑氏は語ります。
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ゲームジャンルが決定したあとは「どのようなキャラクターを育成させるのか?」といったテーマ作りに着手します。育成するモチーフを選定する際に、誰もがこどもの頃に熱狂するいろいろなヒーローを例にあげながら、そういったヒーローたちには共通して「魅力的な長所」と「ユニークな短所」というものを持ち合わせていて「魅力的な長所」は「大きい」や「強い」「かっこいい」など誰もが感じる部分で非常にわかりやすいのですが、重要なのは「ユニークな短所」がキャラクターを作る際に大切な部分であると中畑氏は語ります。
大きくて強いヒーローに憧れるのはもちろんそうなのですがそれだけですと「自分とは違ったなにかすごいところにいる人」と感じてしまいます。そういった魅力的な長所に加えて、ユニークな短所があることによって「このヒーローも、僕と同じようなことで悩んでいるんだ」と読者やプレイヤーに共感をされやすくなり、憧れつつも自分と近い距離でキャラクターを見ることができるため、キャラクターの世界観に没頭することができやすくなります。
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そういった点を踏まえて彼らが見つけたヒーローは「マンボウ」。マンボウは非常に体も大きく、優しさにも満ち溢れています。一方でユニークな短所も持ちあわせており「天国に一番近い生物」と呼ばれるほど、非常に体が弱かったりします。この長所と短所をうまく掛け合わせ、マンボウが死なないように2.3トンを目指して育成をしていく、というテーマに決定したとのことです。
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ゲームの方向性が決まったあとは、α版の制作に取り掛かります。スピードを重視し、ラフなデザインと暫定のゲーム内容で開発を進めていったのですが、直面したのが前述した「尖り」と「丸み」のバランス。キャラクターがすぐに死亡するというコンセプト自体は非常に面白くはあるものの「このゲーム、すぐマンボウが死んじゃうんだよ!」と普通の女性にゲームを奨めても「私がやるゲームじゃないかも…」と敬遠される可能性が高くなります。そういった点も踏まえ、せめてデザインは可愛らしくし「誰でも手に取れるようなものにしよう」といろいろな調整を加えていきました。
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ある程度ゲームの方向性が出来上がった後、一旦開発の手を止め、テストプレイを実施します。が、満場一致で「全くおもしろくない」という感想に。α版に「強くてニューゲーム」というシステムを実装しておらず、死んだらそこで終わってしまいます。普通に死んで終わってしまうので、悲しすぎてそれ以上の感情が生まれず、リテンションが生まれません。
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そこでマンボウが死ぬことによって「死んだらメリットがあるんだよ!」という部分をうまくユーザーに伝えていく施策に取り掛かります。死んでしまった場合、ポイントボーナスが追加されたり、死亡率が下がったり、体重追加ボーナスを追加したりといったメリットを盛り込んで行きます。この3つの追加システムを実装しつつ、当時「Cookie Clicker」が世界的に大流行していました。画面上のクッキーをポチポチするだけなのですが「どんどん溜まっていくクッキー」にユーザーはインフレーションの快感を感じることができ、多くの中毒者が生まれたタイトルです。中畑氏はそこに着想を得て、マンボウにもその要素を盛り込み、最初は餌を食べても0.1キロづつしか体重が増えていきませんが、プレイを進めていくうちに3キロや5キロづつ体重が増えていく、といった要素を盛り込みインフレーションの快感要素を実装していきます。こういったブラッシュアップを行うことにより、ゲームとしての面白さは非常に深みが増したと中畑氏は語ります。
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開発段階も大詰めになってきた中で、最後の問題として「どのようにプロモーションを行うか」という問題がでてきます。本タイトルのようなカジュアルゲームがヒットするためには「バイラル(口コミ)」が不可欠であると中畑氏は語ります。
『生きろ!マンボウ!』は、多くの死に方が存在しているため、こんな要因で死んだ(目に泡が入って死亡など)といったものは多くのユーザーが友達や家族に共有したい事柄で、そのタイミングでTwitterやFacebookのシェアボタンをポップアップさせることでシェアされやすい仕組みづくりを行いました。もう一つは「死なずにここまでマンボウを大きくした」という達成感のバイラルで、こちらもユーザーが感じる「気持ちよさ」や「達成感」などをうまくシェアできるような仕組み作りを心がけたとのことです。
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こういった試行錯誤を繰り返しながら、無事にリリースを迎えた『生きろ!マンボウ!』ですが現在では556万ダウンロードと多くのユーザーにプレイをされている状況です。日本だけではなく、韓国ではなんと400万ダウンロード。アメリカでも英語版がリリースされており、順調にダウンロード数を伸ばしているようです。
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オンラインゲームやアプリゲームが活発化している韓国ということもあり、会場内には非常に多くの開発者が足を運んでおり、参加している方はみな真剣にセッションを聴いている様子でした。
わずか3名という少ない開発チームで制作を開始した『生きろ!マンボウ!』ですが、500万ダウンロードを突破するなど大きな成功を遂げている本タイトル。しかしながらカジュアルゲームやスモールチームがヒットを有無出す法則としては「こういった形や考え方以外でも方法はあるはず。もっといろいろな方にゲーム作りにチャレンジしてほしい」と会場に訪れている開発者に向け、熱いエールを送っていました。