本作はGDC2015で公開された技術デモ『Back to Dinosaur Island』と世界観を共にするものです。前作は巨大昆虫が飛び交う中、恐竜の生態を観察するものでしたが、本作は翼竜のコロニーがある絶壁をワイヤーに牽引されて登っていくというものです。途中で何度かリフトグリップを握りかえる必要がある以外は、特にめぼしいインタラクションはなく、テーマパークのライドものといった内容だともいえます。
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もちろん開発には同社の最新版「CRYENGINE」が使用されています。もともと自然描写に一日の長があるCRYENGINEだけに、VRで広がる情景はリアルそのもの。卵泥棒とまちがえられて翼竜に威嚇されたり、羽ばたきで土埃が巻き上がったり、赤ちゃん翼竜がいたりと、本当にその場にいるかのような錯覚を覚えました。しかし、そこには開発者が用意したもう一つの仕掛けがあったのです。
というのもデモの映像は大型スクリーンで周囲に表示され、順番待ちをしている時に筆者にも見えていました。それを見て「ああ、ワイヤーに牽引されたリフトグリップを握って、地面を見下ろしながら『水平』に進んでいくんだな」と勘違いしていたのです。よくよく考えれば重力があるので、そんな奇妙な状況があるわけがありません。しかし映像だけ見てそう感じてしまったのですね。
秘密は椅子にありました。リクライニングが効いた椅子で、斜め後ろに体を倒して体験するようになっていたのです。これだと自然と顔が斜め上を向くことになります。この体制で頭を上に動かすと視界に空が広がり、崖の上を登っているのだということが直感的に理解できました。画面だけでなく椅子の傾きまで考慮してデザインされたVRコンテンツを体験したのは初めてで、その発想力に驚かされました。
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またリフトグリップを両手で掴む動作はXbox Oneの左右トリガーで行う設計でした。一つのワイヤーが終了し、次のワイヤーに移動するためリフトグリップを掴み変える時は、一度片方のトリガーを離して体を前におこし、タイミングよくトリガーを押しこみます。この体重移動も「崖を登る」という感覚にマッチしていました。ちょっとした体の動きと組み合わせることで、VR体験がここまでリアルになるのかと感じたほどです。
実は最初、うっかり左右のトリガーを同時に離してしまい、地面に落下してしまったのですね。そこで改めて「なるほど、これは崖を登っているんだ!」と実感できました。それ以来、連結部分ではことさら慎重に、かつ力が入ったほどです。また崖を登る途中で下を向くと眼下には深い谷が広がり、思わず足がすくむ思いでした。失敗もあいまって「高さ」を感覚的に理解してしまったのです。
ビジュアルだけでなくサウンドも立体音響がうまく活用されており、背後から聞こえる羽ばたき音に、思わず振り返るなんてことも。椅子自体は回転しないため、真後ろを向くことができず、それがまた現実の崖上りとオーバーラップすることに。そんなこんなで崖を登り切ると、はるか彼方に宇宙船の残骸が見て取れました。あれはいった何・・・というところでデモは終了。わずか数分間でしたが非常に濃密な体験となりました。
余談ですがOculus Rift用のデモということで、本作にも立体視の演出が組み込まれています。しかし体験中はまったく気がつかず、逆に「なぜ立体視でないのか」と質問してしまったほど。同社リードプログラマーでデモ開発にも携わったダリオ・L・サンチョ・プラデル氏と話した結果「あまりに体験がリアルに感じられたので、逆に気がつかなかったのでは」という結論に。「それが本当の立体視だ!」と盛り上がったのでした。
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