吉田氏はVRは何も新しい技術ではなく、何度もブームが起きたと振り返ります。しかし、これまでは技術的に未熟で十分な体験を作れてきませんでした。それを変えたのはスマートフォンの圧倒的な普及です。「スマートフォンが爆発的に売れたことで高精細なパネルやセンサーが普及し、性能を押し上げ、コストも低下させました」スマートフォンとVRは主要部品は殆ど共通であると吉田氏は述べました。また、VRでは3D空間を開発する必要がありますが、Unityのようなリアルタイム3Dを容易に制作できるツールが広がったというのも大きな変化です。
そのような状況の中で、SCEは2010年頃からPlayStation Moveや既存のヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いた簡易的なVRシステムの研究を進めてきたといいます。頭部のトラッキングを行い、HMDに表示される映像が動きに追随する。非常に簡易的なものでしたが、関わる多くのスタッフが没頭し、週末にも趣味でコンテンツを作るような状況が生まれたそうです。それに確信し、2011年からは正式なプロジェクトとしてスタートします。
■VRはまさに総合芸術
ハイエンドなVRで求められるものはどういったものでしょうか? 吉田氏は「Sense of Presense」という言葉で説明しました。日本語で言えば「本当にそこにあるような感覚」とでも言うでしょうか。没入感を超え、頭ではなく、体がその世界に入っていると信じきってしまうような状態です。
しかしこの「Sense of Presense」は壊れやすい、と吉田氏は言います。「信じきっていても、映像が動きについてこない、喋ってる声が別の方向から聞こえる、など少しの違和感でも壊れてしまうのです」。映像、音声、トラッキング、コンテンツ、操作性、快適性などの要素が高いレベルで、まるで総合芸術のように揃っていてこそ実現できるものです。ハイエンドなVRであるPlayStation VRが目指すのはこの実現です。
しかしそれだけではありません。吉田氏は「PlayStationのVRである以上、どんな人でもテレビに簡単に繋いで手軽に遊べることが重要です」と言います。価格についても、「家庭用ゲーム機は同じハードを沢山作って、長い間売るビジネス」とした上で、「ハイエンドなOLED(ディスプレイ)を使っていても比較的、お安い値段で提供できる」とコメントしました。残念ながら「値段はまだ言いませんが」ということで具体的な価格については言及されませんでしたが「PS4も同じ性能のハイエンドPCと比べたらかなり安いものにできている」と期待を持たせます。
ハードウェアは自慢の作りのようで、プレイステーション4の発売前からVRは構想されていたこともあって、本体が120Hzの出力に対応していたり、デュアルショック4にはトラッキングに使えるLEDが付いているのはVRを見越したものだったとか。ソニーの長年の製品作りのノウハウを活かした着脱が容易な設計や、頭部の個人差を吸収する作りなども注目です。
■対応コンテンツも続々登場
今回の台北ゲームショウでは40台のPlayStation VRが設置され、対応タイトルも16作品が揃いました。
注目は地元の台湾デベロッパーからの作品。XPEC Entertainmentの『Oh! My Generis』は手のひらで惑星を作っていくゲーム。Winking Entertainmentからは『The Telltale Project』という火星探査を舞台にしたゲーム。そしてUSERJOY Technologyからは『The Occasonal Encounter』は台湾の素晴らしい場所を疑似体験できるゲーム、といった風に多様なものが生み出されていっています。
最後に吉田氏はパイロットの訓練、外科出術の練習、車や家の内覧、観光地の体験、ライブ観戦、スポーツ観戦、報道、などゲーム以外にも多様なコンテンツがVRが作られていっていると説明。体験させる、という意味で今までの映像コンテンツとは全く異なる作りとなりますが、非常にパワフルなものを生み出せると述べました。
「HTC Vive」を提供するHTCの地元ということもあってか、台湾のデベロッパーの間でもVR熱は高いものがあるよう。台北ゲームショウでも様々なブースでVRコンテンツを目にすることができました。今年、いよいよ消費者向け製品となり手に届く事になるVR。新しい体験が人々の人生をどう変えていくのか楽しみが広がります。
※一部製品名を追記しました。ご指摘ありがとうございました(13:49)
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