2015年8月14日より登場しているフリーゲーム『ファウストの悪夢(Fausts Alptraum)』は、ゲーテの戯曲「ファウスト」をモチーフにしたミステリー謎解きゲームです。制作はLabORat Studio(白鼠ゲーム実験室)が行っており、制作ツールとしては「RPGツクールXP」が採用されています。
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そのまがまがしい雰囲気からホラーゲームと解釈されそうですが、本作のジャンルは“ミステリー謎解き”というもの。確かに怖がらせる要素は存在するのですが、やはり謎解きがメインのアドベンチャーと言うべきでしょう。
なお、本作は台湾のチームが制作した作品ですが、2016年2月からは日本語対応バージョンが配信されています。私が遊んだバージョン(1.06)ではやや日本語訳が安定しない部分もありましたが、ゲームプレイに大きな問題はありませんでした。
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さて、本作の主人公は「イリザベス」と呼ばれる少女。父親であるヘンリー・ファウストの葬式に参列した彼女は、その後マーサおばさんに連れられ、とある館へと向かうことに。父の遺したこの奇妙な館はあまりにも不気味でしたが、彼女は中へ入ることになってしまいます。
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館の中で遭遇した黒猫を追い、少女は地下室へとたどり着きました。しかしそこには暗闇しかなく、彼女が戻ろうとした瞬間──、紫色の悪魔「メフィストフェレス」と出会うことになってしまいます。その後、イリザベスは玄関に戻るも既に出口は消え去っており、メフィストフェレスからこう言われます。
「もし本当に出たいなら、私がここから出る道を教えてあげます。」
「しかし、もしあなたがここで過ごした時間を、たとえ一秒でも名残惜しく思ったら、あるいは『この素敵な一時が、この瞬間が止まったらいいのに』などと言ったら、それはあなたの負けです。」
「しかし、もしあなたがここで過ごした時間を、たとえ一秒でも名残惜しく思ったら、あるいは『この素敵な一時が、この瞬間が止まったらいいのに』などと言ったら、それはあなたの負けです。」
こうしてイリザベスは、奇妙な館で出口を探すことになったのです。
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この館には鍵が閉まった扉ばかりが存在します。そのためイリザベスは、出口を探すためにさまざまな場所を探索し、アイテムや鍵などを見つけて先へ進む方法を探さねばなりません。
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館は暗いため、「マッチ」で周囲を明るくして進むことになります。明かりはいわゆるHPに該当する要素で、館の中にいるネズミに触れると減ってしまいます。また、「チョコ」を食べると移動速度が上昇するというシステムもあるのですが、このあたりはそこまで意味がないため気にする必要はありません。
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肝心なのは謎解きです。館に隠されたアイテムを見つけるのは一筋縄ではいかず、色・音・計算などを使ったクイズを解く必要があります。時には、本棚に置かれている書籍に関連した謎解きも用意されているため、メモを取りながら遊ぶほうが良いでしょう。
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そして、猫の「シベル」が探索を手助けしてくれることも。一緒にいるとネズミが逃げていくだけでなく、何かヒントがある場合はシベルがアクションを起こしてくれます。ほかにも役立ってくれるシーンが存在するため、とてもありがたくかわいい存在です。
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謎解きの難易度は高めで、場合によっては追いかけられるなどのイベントも用意されていますが、本作にはゲームオーバーという概念がありません。そのため、腰を据えて遊ぶタイトルと言えるでしょう。
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『ファウストの悪夢』の魅力は何かといえば、それはこの館を構成する世界と言うべきでしょう。不気味ではあるものの品のある風景、憂いを帯びつつもかわいらしいイリザベスの表情、魅力があるものの近寄りたくはないメフィストフェレスの姿など、館を探索するようにじっくりと眺めたくなります。
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イベントごとに多くのグラフィックが用意されているのはもちろん、ゲームプレイ中のドット絵もなかなかのこだわり。しばらく操作しないとイリザベスがうとうとしたり、鏡の前を通るときちんとそこに映ったりもします。また、メニュー画面などにも一工夫が施されています。
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雰囲気作りといえば、楽曲も注目すべき点でしょう。ゲーム内で流れるBGMとしてピアニストが演奏した楽曲が採用されており、それぞれの印象的なシーンをうまく作り上げる一因となっています。
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そして、ミステリーというだけあって物語も重要な要素のひとつ。なぜイリザベスは館に閉じ込められてしまったのかという事件が軸になっており、謎を解くたびにそれが少しずつ明らかになっていきます。基本的に物語は館の住人が残した手記という形式で語られますが、童話をモチーフにした話がメタファーとなっていることもあります。
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本作のエンディングは4つとなっており、隠しエンドまでたどり着くと謎の輪郭がようやく掴めるようになります。おそらくそれを見ても物語に対する理解は完全にはならず、良く言えばその後の考察も楽しめるといったところなのでしょう。
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さて、そんな奇妙な館を作り上げている本作ですが、欠点がないわけではありません。ひとまず、謎解きの誘導が完璧ではないというところが挙げられるでしょう。
謎解きアドベンチャー全般に言えるであろうことですが、謎そのものの解き方より、そこにたどり着く方法がわからないというケースがあります。本作でもそれは同じで、まったく謎でもない場所でも詰まることがあると思われます。また、謎そのものも、まともに解くより総当りで解いたほうがマシというケースが少しありました。
とはいえ、本作はこの奇妙な館を堪能する作品なわけで、詰まることに関しては苦に感じないような方が遊ぶべきタイトルと言えるでしょう。言い換えれば、イリザベスやメフィストフェレスが紡ぎだす世界に惹かれ囚われても良いと思える方は、足を踏み入れることをおすすめします。
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なお本作は、公式側で実況プレイ動画や二次創作作品の公開が認められています。もちろん公式サイトに書かれている一部の条件を守る必要はありますが、それさえ守れば問題なし。動画の視聴者や二次創作のファンアートを見る側としても楽しめる作品になっています。
あまり語るのも野暮になるので、このあたりにしておきましょう。大事なのはこの悪夢で何を見るかということ。何を見出すことができるかはあなた次第なのでしょう。
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