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土本
オールゲームニッポンの時間がやってきました。よろしくお願いします。
安田
今回もよろしくお願いします。
平林
今月はE3が開催されましたし、国内のトピックスも盛りだくさんですね。
土本
本題に入るまえに私事で恐縮ですが……。じつはインサイド編集長を退任することになりまして。
安田
えー、びっくり! 本当ですか?
平林
公私混同疑惑があったんですか(笑)?
土本
いやいや不祥事は起こしていません(笑)。このたび、会社の辞令で編集長の職から離れ、新サイトの立ち上げやコンテンツ開発を行う新規事業を担当することになりました。
平林
異動はいつからですか?
土本
7月1日付です。
安田
ということは、オールゲームニッポンに土本さんが登場できるのは今回が最後ですか?
土本
はい。残念ながら……。次回からは後任の編集長が参加する予定です。
安田
土本さんはインサイドをたったひとりで学生時代に立ち上げたんですよね? 自分の手で生んで育てた媒体の編集長をお辞めになるんだから、感慨もひとしおだと思います。
土本
かれこれ15年間も編集長をやってきました。さみしい思いがありますが、新しいことに挑戦する楽しみもあります。
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安田
ところで土本さんから見て、今年のE3はどうでした?
土本
今年はEA(エレクトロニック・アーツ)やアクティビジョンなど、複数の大手のパブリッシャーがブース展示を見送りました。E3離れが起きるのではないかと心配されましたが、終わってみれば例年通りに盛り上がっていました。来場者も昨年と比べて微減(主催者発表で前年比で3.6%減)程度で収まったようです。コンシューマゲーム市場の健在ぶりを示したと思います。
平林
確かにブース展示を見送る企業が出てきましたね。この傾向はしばらく続くかもしれません。E3開催の経緯にさかのぼりますが、そもそもE3はアメリカの巨大流通チェーン、ウォルマートやKマートの都合に合わせて始まりました。バイヤーが年末商戦の仕入れタイトルを決めて、それを掲載した数百万部のチラシや販促品までつくるとなると相当な準備期間が必要で、5月下旬から6月上旬に開催するのが望ましかった。こうした流通の諸条件に合わせて運営されてきたのがE3です。
安田
そうですよね。E3のそもそもの趣旨は、年末商戦のためのトレードショーでした。そんなショーの性格もあってE3では大手流通のバイヤーさんがVIP待遇されています。ところでE3は何年から始まったんでしたっけ?
平林
日本でプレイステーションとセガサターンが発売された年の翌年ですから……1995年ですね。eコマースもダウンロード販売も普及していなかった頃、パッケージソフトを店頭で販売する時代に生まれたE3です。あの頃から20年以上も経ち、時代とともに役割も変わってきました。最近のE3は「発表会」や「交流の場」や「祭典」の色が濃くなってきました。
安田
ところで土本さん、気になった出展タイトルは何かありましたか?
土本
インサイド読者の間で評判が良かったのは『バイオハザード7』でした。個人的に注目したのは『God of War』、『DEATH STRANDING』などでしょうか。あとはもちろん『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下『ゼルダの伝説』)ですね。トレーラーの再生回数が『スプラトゥーン』などを抜いて、米国任天堂YouTubeチャンネルで過去最高記録を更新中です。
平林
次世代機NXの情報が少なかったのは物足りなかったですが、ゾンビが登場しない(笑)……『ゼルダの伝説』はじつに日本的なゲームだと思いました。
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土本
ところでVRですが、E3以外の場面でもネタが尽きませんね。東京・お台場のVR専門施設「VR ZONE」はオープン以来、すごく評判がいいですし、6月はauがHTC VIVEの無料体験コーナーを新宿に設置した、なんていうニュースもありました。
平林
最近、「アダルトVRフェスタ」というイベントが秋葉原で開催されて、ビルに入りきれないほどの行列ができたそうです。かと思うとノルウェーの軍隊がOculus Riftを使って訓練するのだとか。アダルトコンテンツやら、軍事シミュレーションやら。硬軟入り混じって混沌としていますね。今年は後半もVRの話題は尽きそうにありません。
安田
土本さんには、連載第1回からお世話になってきました。オールゲームニッポンに参加していただいて、印象深かったことってありますか?
土本
インサイドではかなり特殊な対談コーナーですが、お世辞ではなく毎回タメになりました。ありがとうございました。なかでも印象に残るというと、色をテーマにした回でしょうか。海外でつくられたゲームと日本でつくられたゲームは色でわかる、なぜだろう? について語った回ですね。あの時のお話は印象的でした。なんとなく感覚でとらえていたことを、理論的に整理すると、こういうことなのか。すごく刺激になりました。
安田
確か、あの色をテーマにした話は大いに盛り上がって、2回に分けて掲載したんですよね。
土本
はい。オールゲームニッポン第6回と第7回、連続で掲載しました。
平林
私も印象に残っています。安田さんが「日本に存在する色の数は他の国と比べて圧倒的に多い」と自説を述べられたんです。
安田
四季がある、標高差がある、降水量が多い、国土が南北に広がっている、太平洋と日本海がある。植物や動物など日本に生存する固有種の数はガラパゴスよりも多い。こうした自然環境がたくさんの色を生んだのではないか。そんな話をしましたね。
土本
そうでした。こうして生まれた自然の色は染物、織物、陶磁器などに使われるようになり独自の色彩文化を生んだ、という考察でした。あのお話を聞いて以降、ゲームにとどまらず、日本の色が気になってしかたありません。
平林
日本には色が多い! これは日本のゲームを考える上で大きなヒントになりますよね。話はE3に戻りますが『ゼルダの伝説』。あの緑色の画面を見た瞬間、日本の色を感じました。俗っぽく言うと、日本茶のペットボトルのデザインをまず連想したんです。「おーいお茶」「綾鷹」「伊右衛門」「生茶」「ヘルシア緑茶」。同じ緑なのに、巧みに使い分けられた日本の緑たち。『シュレック』の緑とは違いますよね。日本の色名辞典で調べたら、緑系の色名だけでも何十種類もありました。白緑(びゃくりょく)、若葉色(わかばいろ)、若草色(わかくさいろ)、若竹色(わかたけいろ)、苔色(こけいろ)、萌黄色(もえぎいろ)、常磐色(ときわいろ)……。こうした日本の伝統色の濃淡を組み合わせて、『ゼルダの伝説』は草原や森林を描いているんだな、と思いました。
安田
あの色使いは独特ですね。全体の印象が若々しいというか、生命力にあふれています。これがまた日本の色彩文化、日本語のおもしろいところですが、色は緑色なのに、そのことを「青々とした」って形容するじゃないですか。『ゼルダの伝説』の色は緑なのですが、そこから「青々とした」印象を受けました。
平林
言われてみるとその通りですね。青々とした緑とは言語矛盾のようですが、意味はばっちり通じます。
安田
では、土本さん。最後に何かメッセージを。
土本
ゲームメディアの仕事をしてきて、何が一番幸せだったかというと、ゲームをつくる人たちとたくさん出会えたことです。皆さんが個性的で元気にあふれています。ゲーム業界はこれからも、つくる人の気持ちが底力になってくれるに違いない。そんなことを考えてますね。残すところ数日間ですが、インサイド編集長の職をまっとうします。
平林
長い間、お世話になりました。これからもよろしくお願いします。
安田
おつかれさまでした。新しいお仕事も頑張ってください。
(次回は7月29日、新編集長登場予定です)
■パーソナリティの紹介
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安田善巳 (やすだ よしみ)
角川ゲームス代表取締役社長、フロム・ソフトウェア代表取締役会長。日本興業銀行、テクモを経て、2009年に角川ゲームスの設立に参画。経営者でありながら、現役のゲームプロデューサーとして『ロリポップチェーンソー』『デモンゲイズ』などを手掛け、現在は『GOD WARS』『ルートレター』の開発に取り組む。
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平林久和(ひらばやし ひさかず)
インターラクト代表取締役社長。ゲーム黎明期の頃から専門誌編集者として従事。日本で唯一のゲームアナリストとしてゲーム評論、ゲーム産業分析、商品企画などの多方面で活躍してきた。著書に『ゲームの時事問題』『ゲームの大學』(共著)など。「今のゲームを知るためには、まず日本を知ることから」が最近の持論。