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国内最大級の有名プロゲーマー梅原大吾氏。東京ゲームショウ2016で彼は新たに2つのギネス記録「『ウルトラストリートファイターIV』での最高ランキング」「最も視聴されたビデオゲームの試合」を獲得し、Twitch特設ブース上でその輝かしいレコードを受け取りました。Game*Sparkではそんな梅原大吾氏に単独インタビューを行い、「Twitchグローバルアンバサダー」「プロゲーマー」としての活動、新たな取り組みについて話を伺い、「今後プロゲーマーを目指す者」へのメッセージをいただきました。
――これで3つめとなるギネス記録を手にしましたが、その中のひとつである「最も視聴されたビデオゲームの試合」についてお話を聞かせてください。この記録はEVO 2004でJustin Wong選手を相手に行った『ストリートファイターIII』の試合映像でしたが、当時、対戦中に緊張感や特別な感情を抱いたりはしましたか。
梅原大吾氏(以下、ウメハラ): 結果として人生が変わる試合になったとは思うんですけど、自分としては「絶対勝ってやろう」「良い試合にしてやろう」という特別な意識はなかったです。むしろあの年を境にゲームは辞めよう、と考えてましたから。かと言って「最後だから~」ということもなく。
――後から知ってぎょっとする、という感覚でしょうか。
ウメハラ: そうですね。本人からしてみれば「そんなに騒ぐ試合か?」って。でも、あれがなければ今の自分ではなかったでしょうね。
――「Twitchグローバルアンバサダー」に就任した経緯やきっかけについて教えてください。
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ウメハラ: “プロゲーマー”って受け身な仕事だと思ってたんですよね。もちろん練習も必要だし、アスリート的な側面もある。でも、大会があって、賞金が出て、スポンサーがつく、それだけじゃあまりにも他人任せだなって気持ちがあったんです。その点で言うと、自分の努力とか工夫でどうとでもなる「配信」ってすごい可能性を持ってる。ゲームに限らず、恐らくこの「配信」っていうエンターテイメントはずっと続いていくと思う。そう感じて、いつかやってみたいな、と考えてたところにちょうど声をかけられたんです。
――「大会に出て賞金を獲得する」というのと、映像配信で「自分の中からコンテンツを作る」というのは感覚が大きく変わってくると思われますが、実際にやってみてどう感じましたか。
ウメハラ: 久々に「慣れないことをやってんな」と思いました(笑)。仕事にも同じことが言えると思うんですけど、始めたばっかりの頃が一番大変じゃないですか。いろんなことを覚えなきゃいけないし。「格闘ゲーム」なら今更覚えることもないし、ある程度気楽になれたんだけど、「動画配信」にはとにかくいろんなことで頭を使わされる。「こういうことをやるべき」「こういうことはやっちゃダメ」、そういう発見が毎回あって勉強になってます。大会のときみたいな堂々とした気持ちはないですね。
――ユーザーとしてTwitchを利用されることはありますか。例えば格闘ゲームの配信者をチェックしたりなどは。
ウメハラ: 格ゲーは一切観ないです。『ハースストーン』はたまに観るんだけど、「俺の知らないカードばっかだな!」って感じでよく分からなくなっちゃう(笑)。
――Twitchブースでは『ハースストーン』デビュー戦を披露されるご予定ですよね。試合に向けた自信のほうはいかほどでしょうか。
ウメハラ: 自信は無いですけどね!(笑)
――今までプレイしてきた格闘ゲームと『ハースストーン』のコツの違いは、どこにあると思われますか。
ウメハラ: 当然明らかに違うゲームなんですけど、格闘ゲームってすごく展開が速いじゃないですか。『ハースストーン』はゆっくり考えられる。運の要素は絡むけど、「最善手」というのをじっくり選ぶことも出来る。格闘ゲームは多少雑でもスピードが重要になったりもするから。
――話題は変わりますが、『ストリートファイターV』についてはどうお考えですか。作品としての感想についてお聞かせください。
ウメハラ: 俺は結構高く評価してます。結局、格闘ゲームに限らないけど、「スタートは大事」ってことがよく分かりましたよね。面白いというか、真面目に作られてるなとは思ったんですけど。ゲームが面白いかどうかって、料理で言えば“素材”だと思うんですよね。今はEVOも規模が大きくなっているけど、それがずっと続くとは思ってない。だから、今みたいに格闘ゲームが爆発的な人気を持っていない時期にこそ、プロゲーマーとしての地力をつけるタイミングなんじゃないかなと。
――配信者、プロ選手としてのポテンシャルを高める必要があると。
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ウメハラ: そうですね。「爆発的な人気はない」とは言え、『ストリートファイターV』は個人的には大好きですよ。それに、格闘ゲーの人気って元々はこんなもんだったとも思ってますし。
――先日発表された「EVO Japan」への出場予定はありますか。
ウメハラ: 出なかったらビックリしますよね!(笑)先のこと過ぎて盛り上がりについては見えてこないですけど。個人的には、海外のEVOって「拡げること」に強くフォーカスしてるように見えるんですよね。そういうのを日本でも出来るのかな、とは思います。大げさかもしれないけど、EVOってイベントからは人生のいろんなことを学んできましたし。
――今後、「Twitchグローバルアンバサダー」としてどのようなことに取り組みたいとお考えですか。
ウメハラ: 格ゲーのコミュニティーを盛り上げるためには3つの重要な要素があると思っていて、ひとつ目は「ゲーム」。さっきの話で言えば“素材”の部分ですよね。次はEVOみたいな「イベント」。そして「人」。で、俺なら「人を育てる」「正しく理解してもらう」みたいなところで何か出来るんじゃないかなって。他人を配信に呼んだりして、今までと別角度の人柄を見せてみたり。
――ゲーム開発やイベント運営側ではなく、配信者や視聴者などコミュニティーを築いていこう、というスタイルですね。
ウメハラ: そうですね。スターとまでいかずとも、魅力的に映る人間を増やしていきたいなと思ってます。
――プロゲーマー、人気配信者を目指すユーザーに向けたアドバイスなどはありますか。
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ウメハラ: 俺はプロゲーマーなんだけど、「ゲームばっかやってる」っていうのもどうかと思うよね。人間にとって一番の娯楽って「人間と何かすること」じゃない?動画を観るのもそうだし、人と会話したり、全部「人」が絡むんですよね。朝から晩までピコピコやってるだけじゃ魅力的には映らないと思うし、「ゲームが上手くなればいい」って言うだけじゃ足りないと思う。本気で配信を通して食っていきたいなら、むしろ「ゲームから一旦離れろ!」と言いたい。
――ゲーム以外の知識や考え方も身につけていく、ということでしょうか。
ウメハラ: 俺も前は別の分野でやっていこうという気持ちがあったんだけど、結果的に「もうゲームしかないんだな!」って考える機会になった。そのおかげで、「ゲームで頑張ってやっていくんだ」という気持ちは人一倍強いよ。これから本気でマンガしか読んでない人が描いたマンガ、ドラマしか観てないやつが作ったドラマ、そういう感じのものになって欲しくないよね。配信する人としての魅力っていうものが必要になっていくんじゃないかって、俺は思うよ。
――本日はありがとうございました。
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