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クリプトン・フューチャー・メディア チームマネージャー 熊谷友介氏
4月25日から3日間開催されているゲーム開発者向けのカンファレンス「Nexon Developers Conference 17」(以下,NDC17)。2日目の26日にはクリプトン・フューチャー・メディアのチームマネージャーである熊谷友介氏が「生まれたきっかけは「共感!」初音ミクの発展理由と、クリプトン・フューチャー・メディアの取り組み」と銘打ったセッションを行いました。
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熊谷氏の自己紹介スライド。会場からは笑いが。
◆なんでも自分たちで作るクリエイターのためのクリエイター
クリプトン・フューチャー・メディアは、世の中の様々なクリエイターに対し、創作活動をするための商品やサービス、プラットフォームを提供する「クリエイターのためのクリエイター」としてビジネスを行っていると熊谷氏は述べました。
音楽を制作するためのツールやソフトを販売するビジネスは非常にニッチな分野で、日本では50万人から100万人しか音を売る対象者がいないのではないかと言われています。ここをビジネスの対象とするには限界があるので、「深掘りと応用」で新しいことを行っていこうと様々模索してきたと熊谷氏は語ります。
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深掘りと応用、この2つをバランスよく行っていくことが大切と話す。
この2つの事例として、同社は北米、ヨーロッパ、中国、アフリカ、南米など世界中からユニークな音楽をかき集め販売することを「深掘り」と呼ぶ一方で、「応用」として初めたのが2001年に初めた携帯電話を使った販売モデルです。海外から輸入した音を着信音としてユニークに加工し販売、そこから携帯電話のビジネスをスタートしたと熊谷氏は述べました。
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クリプトン・フューチャー・メディアが2001年に開始した携帯電話向けサービス。
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その後、壁紙や着せ替え、キャラクターサイトなどをリリース。
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同時に様々なWEBサービスも展開。
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VRなどゲームコンテンツも自社で作れるように。
このように自分たちで企画立案からサイトの制作、インフラなど全て内製してきたことにより、遠回りであったが最終的には体力と様々な知識が身につき、多岐に渡るビジネス展開が可能になったと述べ、こういった開発手法はこれからの時代に求められるものであると会場の開発者にアドバイスを送りました。
◆初音ミクが生まれるまで
ここから話題は変わり初音ミクの話へ。現在、初音ミクの関連楽曲は熊谷氏が把握しているだけでも50万曲、Youtubeへの投稿は200万以上、市場規模は年間約300億円と言われていますが、開発時には非常に苦労したと当時を振り返ります。
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開発当初の苦労話。
当時は全く知られていないボーカロイドに声をあてるということに抵抗があり、声優事務所からは断れられ続け、やっと決まった事務所では数百のボイスサンプルの中から選定せねばならず苦労したと熊谷氏は苦笑い。また、当時はpixivなどイラストの投稿サイトがなくひたすら「イラストレーター かわいい」といった単語でインターネット上でイラストレーターを検索するなど、地道な手段をもちいてミクのデザインをしてくれたKEIさんに出会ったといいます。
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最初にでてきたデザイン案。ポニーテールにするかツインテールにするかで社内で揉めたのだそう。
◆初音ミクが広げていった共感の輪
初音ミクはなぜここまで広がっていったのか? ミクを語る上で欠かせないキーワードは「共感」だと熊谷氏は述べました。ミクを使ってYouTubeやニコニコ動画に音楽を投稿する人が現れはじめ、その動画を視聴する人の中にはイラストレーターや動画を作る人がいて、この音楽に共感した人たちが、せっかくいい曲なのに絵が動かないのがもったいない!と、無償でイラストや動画を提供しPVを作ろうという動きが始まっていったのだといます。そして、このPVを見た人たちがまた共感し新たに曲を作り、動画を作り…という創作の輪が広がっていったのだと熊谷氏は語ります。
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共感をキーワードに創作の連鎖が起こりミクは世界中に広がっていった
一方で、環境を整備しないと創作の輪が広がっていかないとも熊谷氏は話します。クリプトン・フューチャー・メディアが整備したものの一つが「ライセンス」です。著作権の関係上、イラスト投稿やミクの商品を作って販売することはNGです。しかしそれではキャラクターは広がっていきません。ミクのイメージを大きく損なわないのであれば、個人のクリエイターでも自由に創作してもよいというレギュレーションを設け、投稿サイトを自分たちで作ってクリエイターに創作の場を提供することでミクの輪をさらに広げていったのです。
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ライセンスの整備について
◆なぜ地方都市で働くのか?
最後に、なぜ地方都市である北海道でビジネスをするのか?という話へ。クリプトン・フューチャー・メディアは創業当初からインターネットでビジネスをすると決めていたのですが、インターネットがそこまで発達していない当初はとても不便だったといいます。ただ、今では全く不便を感じておらず、逆に不便であったからこそ、携帯電話でビジネスを行おうといった色々な発想が生まれた、と熊谷氏は話します。日本だけでなく、韓国でもインターネットを使ってどこでも仕事が出来るようになった昨今、チャンスはどんどん広がっていくだろうと会場の開発者にエールを送り講演を締めくくりました。
取材協力:ネクソン 《山﨑浩司》
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