まずは、Social Game Info編集長・木村英彦氏による、ゲーム運営事業者に関するイントロダクション。ゲーム運営事業者とは、スマートフォンのゲームの運営のみを専門に行う企業のこと。次の作品を作るための資金を早く獲得したいゲーム開発会社と需給がかみ合い、少しずつ市場を拡大しています。
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ゲーム運営事業者の解説。手早く次作の制作に着手したい開発会社と思惑が一致し、市場を拡大しています
議論の予備知識となるイントロダクションを終えるとパネルディスカッションに移行。登壇者はファンプレックス代表取締役社長の下村直仁氏、同社で運営移管統括部長を務める佐藤洋祐氏、そしてDeNA Games Tokyo代表取締役社長の井口徹也氏、同社で取締役を務める山口恭平氏です。
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DeNA Games Tokyoが運営しているタイトルの一例
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ゲームの運営を“開発されたゲームを未来に届け続けること”と定義するファンプレックス
井口氏:“プレイヤーのみなさんに長く遊んでいただくこと”だと考えています。そのためには短期的な利益だけを求めるのではなく、長期的な発展性を見据えるのが大切です。
下村氏:サービスがある日突然終わってしまうような事態を避けるのはもちろん、プレイヤーのみなさんに“そうなってしまわないかという不安”を抱かせないようにするのも大切です。
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左からファシリテーターの木村氏、ファンプレックスの佐藤氏と下村氏、DeNA Games Tokyoの井口氏と山口氏
下村氏:そのゲームで遊ぶことへの安心や安全を提供し続けることです。KPI(Key Performance Indicator)を分析するのはもちろんですが、CI(Corporate Identity)やQA(Quality Assurance)を見るのも同じように重要だと考え、日々知見を積み上げています。
佐藤氏:“運営するゲームが楽しく変化し続けること”は裏切れないと考えています。そして、そうであるためには、運営している我々の意識も絶えず変わり続けなければいけません。
山口氏:ゲームに求められるクオリティのハードルは年々上がっています。それをどれだけ敏感に察知して、ご満足いただけるものを提供できるかです。「このゲームはおもしろいけれど、こちらのゲームはつまらないよね」では、信頼を失ってしまいますので。
井口氏:成長し続けられる組織作りをすることです。プレイヤーのみなさんが求めるものは変化し続けますので、運営チームのあり方も同様に、日々変わり続けなければなりません。
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ゲームが変わり続けるためには、自分たちも変わり続けなければならない、と下村氏
下村氏:ゲーム運営業界で働くということは、エンドレスでゲームを楽しくし続けていくということ。そして、それを実現するためには、誠実でいてほしいと考えています。ひとつは、プレイヤーのみなさんによりよいゲームを届けましょうということ。ゲーム運営の現場では、当然“修羅場”もつきまといます。そういうときにギスギスするだけではダメですね。
そして、自分自身の成長やキャリア、ひいては人生にも誠実であってほしいです。どれだけおもしろいゲームを作っても、仲間に恵まれても、自身が成長することにも貪欲でなければ、明日のゲームが今日のゲームを超えることはありません。
井口氏:弊社で重きを置くのは、工夫が好きな人です。なんらかの物事と向き合ったときに、“どう工夫したか”を嬉々として話せる人は強いです。ふたつめは、もちろんゲームが好きであることです。どうすればもっとおもしろくなるかを、実感として考えられるのは大切です。
井口氏:弊社は未経験の方も多く受け入れていますので、門を叩く際に専門的な知識は必須ではないようにしたいです。ただ、ゲームに対する拒否反応がないとか、なんでも楽しみながら事に当たれるなど、そうした考え方や気概はほしいです。
山口氏:逐一状況が変化する現場ですので、それを敏感にキャッチアップできることです。「今、このゲームではこのパラメータが重視されている」というようなプレイヤーのトレンドをすぐつかめる肌感覚があるとなおいいです。
下村氏:開催したイベントが期待ほどには伸びないかと思えば、想定していなかった層が楽しんでくれたりと、ゲーム運営はトライアル&エラーが頻繁に発生します。「それならば次はこうしよう」と、今後の成功のためにほくそ笑むことができるメンタルでしょうか。失敗をバネにできるのは大きな武器です。
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業界志望者に向けて、専門的な知識は必ずしもいるものではないと語る井口氏
さまざまな意見が飛び交ったパネルディスカッションの終了後は、参加者から寄せられた質疑への返答コーナー。以下のような質問と回答がなされました。
Q.データでは測定できないような事柄の改善施策を行う場合、どのような事に基づいて決定をくだすか?
井口氏:どのような目的で開発をするのか、あらためて向き合うことです。その結果、「半年後に、より優れた形での改善ができそう」となれば、先を見据えて、一時的に収益が落ちるのもやむなしという判断をくだすこともありえます。
下村氏:誰が腹をくくるか、何を目的として行う決定なのかを重視します。その決定をくだすことで、達成したいゲームの形に近づく蓋然性が高ければゴーサインを出します。
Q.“ユーザーファースト”の意識を、社でどのように浸透させているか?
井口氏:意思決定をするレイヤーをきちんと実感させることです。“売上げが上がるから”ではなく“プレイヤーのみなさんを楽しませつつ、売上げを上げる”のが肝要なんです。「この仕事は誰のためにやっているのか?」という意識を徹底させ、それこそ毛穴からにじみ出るほどの“ユーザーファースト”を出せるようにしていきたいですね。
山口氏:ゲームにかぎらず、映画でもなんでもいいですが、愛してやまないものにいち消費者としてのこだわりを持ち続けられるかが大切です。そういう間隔を忘れずに持ち続けてほしいです。
佐藤氏:ゲームを初めた直後の人と同じ気持ちを体験させることです。以前、自分のチームのメンバーに運営しているゲームをイチからやり直させて、レベル20くらいまで遊ばせたことがありますが、それで見えてくるものは確実にあります。
下村氏:チュートリアルの導線がうまく機能していないなど、思いのほか達成できていない部分が見えて愕然とすると思います。そうしたところを改善すればゲームがよりよくなりますし、そうやって“お客様につくすための知識”を積み上げていくのは、こちらにとってもポジティブなものです。
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井口氏が「もっとゲーム運営市場にプレイヤー(=運営会社の従業員)を増やすことが大切」と語り、下村氏が「エンターテインメントのおもしろさは万国共通。もっと世界に対して積極的に出ていきたい」と意気込みを見せてセミナーは終了。古くはPCのオンラインゲーム市場で、そして今はモバイルゲーム市場を舞台に成長を続けるゲーム運営市場。プレイヤーのことを第一に考える“ユーザーファースト”こそが利益につながる最善手であり、引いては業界の発展にも寄与するということが、あらためて強く示されたセミナーとなりました。