『逆転オセロニア』は、オセロとトレーディングカードゲーム(以下TCG)の要素を組み合わせたスマートフォンアプリ。ルールのベースはオセロながら、さまざまなスキルを持つ駒(キャラクター)を組み合わせてデッキを構築する要素もあり、戦闘ではキャラたちによるコンボや回復などがとびかい、オセロに独自の楽しさと奥深さを付加しています。対戦形式は、CPUと戦う「クエスト」と、PvP(プレイヤー同士の対戦)である「クラスマッチ」の2パターンが用意されていますが、本講演ではPvPを前提とします。
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PvPを前提として考えたとき、『逆転オセロニア』のゲームサイクルは
・キャラクターの獲得
・デッキの構築
・対戦で実践
のプロセスを繰り返してゲームを楽しむことにあります、と田中氏。この過程のうち、どれか一つにでもやりがいやおもしろさが欠けてしまうとサイクルがそこで停滞――すなわち、プレイヤーが飽きてゲームから離れてしまうことを意味します。
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本講演では、3つのサイクルのうち「デッキ構築」の重要性に着目。デッキ構築におけるおもしろさとは、すなわち最適解を考える楽しさということ。プレイヤーたちにやりがいを感じてもらうには、強いデッキが固定化されてしまわないように、どのようなキャラクターやデッキが多く使用されているのかを正確に把握することが重要になります。
『逆転オセロニア』では、キャラクターの使用率に加え、デッキ編成における特徴的なパターンを日々人力でチェックしているとのこと。ですが、人力ではどうしても把握できる範囲に限界がきます。そこで、データマイニングでデッキ環境を自動的に抽出し、視覚化すればより効率化ができる、と田中氏は語りました。
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そのためには、まず「様々なキャラクターの関係性を集計」すること、そして次に「使用されるキャラクターのパターンを発見」することが肝要です。関係性の集計については、とあるキャラクターAとBの2体を「ルール」として抽出し、それを「支持度」、「信頼度」、「リフト」という3つの指標で評価します。それぞれの指標は、以下のような意味を持っています。
支持度:キャラAとキャラBが同時に使われている確率
信頼度:キャラAをデッキに組み込むとき、キャラBも組み込まれる確率
リフト:キャラAとキャラBの組み合わせが有用であるかを示す指標
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これらを総合的に見ることで「各キャラクターが運営の狙い通りに使用されているか」などを判断できます。また、こうしたデータをしっかりと数値化することで、敢えて支持度が低いルールに着目することで「一部のプレイヤーだけが知っている有用な組み合わせ」なども発見できるかもしれません。
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キャラ同士の関係性だけでなく、最大5体で構成されるデッキそのもののキャラパターンを大量に抽出して分析すれば「そのとき流行っているデッキ環境」の検知も可能になります。似たような構成が流行してしまう前に、何らかの手段で環境を変化させ続けることができれば、おもしろさややりがいが損なわれづらくなるというわけです。
次に、解析の具体例が挙げられました。まずは、膨大な対戦ログのデータの中から、時期、プレイヤーレベル、勝敗など、特定の条件でデッキを抽出。そうして絞り込まれたログのデッキを、先ほど挙げた支持度、信頼度、リフトの三つの指標で分析。こうして、大規模データの中に存在する関係性を抽出することをアソシエーション分析といいます。分析データを総合的に判断することで、開発スタッフすら見落としてしまいがちなデッキのコンセプトや、キャラクターの活用法、新たに追加したキャラクターの使用傾向などを知ることができます。
解析データをクラスタリングすることの重要性も語られました。クラスタリングとは、類似したデータ同士をグルーピングする手法のこと。そして、正しくグルーピングするには、どういうデータが類似していて、どういうデータは類似していないかを計る尺度もしっかり定義されていなければなりません。講演ではその尺度の一例として、ある集合Aとある集合Bの類似度を計るJaccard類似度を用いることが挙げられました。
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クラスタリングが正しく機能すれば、人力による分析より、はるかに多様なデッキ構成に目を通すことができます。ただし、「回復デッキ」、「速攻デッキ」などというような、どのような傾向が見られるデッキをどう定義するかは、今はまだ人力で行う必要がある、という課題もあわせて提唱されました。
ここまでに紹介した、対戦デッキの抽出→アソシエーション分析→クラスタリングという流れでのデータ解析を継続的に行えば、環境に大きな変動が生じたときも、「新たなキャラクターを実装したから」、「イベントが開催されたから」など、その理由や原因の特定もしやすくなり、結果としてよりよい運営へとつながっていきます。
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最後にまとめとして、こうしたアソシエーション分析やクラスタリングによるデータ解析のメリットは
・キャラクターの組み合わせや使用率を定量的に評価できる
・処理が軽いので、リアルタイムで分析できる
・デッキ構築やパーティー編成の要素を持つゲームならなんにでも応用できる
・現状で有用なキャラやデッキなど、対戦環境のトレンドを素早く検知できる
などにあるとし、田中氏が今後チャレンジしたい課題としては
・抽出されたデッキのコンセプトも、人力ではなく自動で定義できるようにする
・ネットワーク解析を活用し、環境のカギとなるキャラクターを事前に把握しやすくする
・情報コンテンツとして一部のデータをプレイヤーに提供するなど、分析以外の活用
が挙げられました。
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TCGの要素を持つゲームから、(デッキ構成、パーティー構成などの)データを抽出すると10万、100万という数になることもめずらしくない、と語る田中氏。すっかり成熟し、レッド・オーシャンとなったスマートフォンゲーム市場だけに、こういうプレイヤーの目に入りづらいところで差を付けられるゲームこそが生き残っていくのかもしれません。
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