こうした中、「PLAY, WATCH, CREATE」というキャッチフレーズを掲げ、会場内に3箇所のブースを設営したのがマイクロソフト。18タイトルのインディゲームが並んだ「Xbox Lobby Bar」、オンラインゲーム運営ソリューション「PlayFab」専用の「PlayFab Booth」、そしてクラウドサービス「Microsoft Azure」を前面に押し出した「Azure Booth」です。
中でも異彩を放ったのがAzure Boothです。Azureのロゴである三角形をイメージした看板デザインがひときわ目立ち、来訪者から「Azureはどんなゲームなんですか?」という質問が繰り返されたほど。ブース内容については既報の通りで、フロントエンドからバックエンドまでAzureでまとめられた点がポイント。まさに「Azure推しを鮮明にした今年のGDC」だったと言えるでしょう。
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実際にここ数年間で同社は、Officeを中心としたパッケージビジネスから、Azureを中核としたクラウドサービスに、大きくビジネスモデルを変化させてきました(本稿もOffice365とOneNoteで執筆されています)。その一方、自社製品ですべてを囲い込むのではなく、任意のツールやミドルウェアを自由に組み合わせられる柔軟性も併せ持っているのが、最近の同社の特徴です。
このようにAzureはマイクロソフトの基幹業務ですが、それだけにサービス名が表だって出てくる機会は、これまで少なかったのかもしれません。同社でAzure グローバルブラックベルト(技術エキスパート)を担当する増渕大輔氏も「Azureはゲーム以外でもさまざまな分野で幅広く活用されている世界最大規模のクラウドサービスです。それだけに、GDCでAzureについて大々的にアピールするのは今回が初めてで、新鮮に映ったのかもしれません」と語りました。
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というわけで、本稿ではGDC2018におけるマイクロソフトブースの出展内容について、増渕氏への取材をもとに深掘りしていきます。中でも一番のポイントとなったのが、製品単独でもブース出展された「PlayFab」です。2018年1月に買収されたばかりのサービスで、オンラインゲームのログインや課金、ユーザーマッチング、そしてさまざまな分析機能をゲーム運営側に提供するクラウドサービスです。
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同種のサービスは数多く存在しますが、増渕氏は「PlayFabの強みはLive OpsまたはLiveオペレーションを意識したゲームの運用サポートにあります」と説明します。Live Opsとはプレイヤーの行動をリアルタイムに把握してプロモーションやメッセージング、リワードなどをセグメント毎にダイナミックに行うゲーム運用の新しい考え方です。またトリガーと呼ばれる分析用のイベントを仕込んでき、あるレアアイテムが入手されると、何千・何万といったユーザーから抽出し、管理者画面で通達してくれる、といった運用も可能にします。
PlayFabの各機能はゲームクライアント側からAPIを経由してアクセスし、活用されます。そのためクライアント側の作り込みで、さまざまな活用アイディアが考えられます。増渕氏は「アプリケーション内で複数のトリガーを設定しておき、因果関係を分析することも可能です」と語りました。ここから発展させれば、機械学習と組み合わせたゲームバランスの自動調整といったアイディアも考えられます。
PlayFabは元々マイクロソフト出身のサーバエンジニアによって開発され、2014年に創業されました。性能は折り紙付きで、すでにカプコン、セガゲームス、ディズニーなど、さまざまな大手企業に採用されています。またPlayFabはマルチプラットフォーム対応しており、さまざまなクラウドサービスで使われているのが現状。
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ただし、PlayFabで分析した結果を即座に開発に反映させるためには、そのための開発効率化が欠かせません。増渕氏も「PlayFabはオンラインゲームの“運用を効率化”するツールで、“開発の効率化”とのセットで真価を発揮します」と説明します。そのためVisual Studio ファミリーの「Visual Studio Team Services(VSTS)」や「Visual Studio App Center(App Center)」にもあわせて注目して欲しいと説明しました。
VSTSはソーシャルゲームのように、ユーザーからのフィードバックをもとに常に改善を継続していくアプリケーションやサービスを開発する上で、強力な援軍となる開発管理用クラウドサービスです。バージョン管理・タスク管理・自動ビルド・自動テストなどの多彩な機能を持ち、開発メンバーが高速・安全・確実にソフトウェアの改善を行うことができます。App Center はモバイルアプリのライフサイクルを自動化し、テストや配信をサポートするサービスです。Microsoftが保持する数千ものモバイル端末の実機を使い、複数バージョンを指定したビルドやUIテストができることを特徴としています。また、エンドユーザーの実機でアプリがクラッシュした際の詳細なCrash Reportを取得可能。再現性の難しいバグの発見・解決を行うことができます。
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Visual Studio ファミリーはTeam ServicesはC++やC#をはじめ多彩な言語や、アジャイルやスクラムといった各種開発手法にも対応しています。そのため活用方法も多彩で、ゲームエンジンのUnityと、オンラインゲームの開発ミドルウェアであるPhoton、そしてPlayFabとTeam Servicesによる組み合わせはその一例。いずれもC#で開発できる点が特徴で、世界中で活用事例が広がっています。
日本ではWeb業界を母体にソーシャルゲームが発展したため、ゲーム業界ではLAMP(Linux-Apache-MySQL-PHP)構成が主流です。一方、家庭用ゲームのクライアント開発では伝統的に、低レイヤーから開発できるC++が人気。そのためC#でサーバプログラムが書かれる事例は、それほど多くありません。しかし増渕氏は、生産性やコスト面から「C#エコシステム」に移行するのも一案だと言います。
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参考になるのが、Microsoft MRを用いてデモ展示されていたVRゲーム『PINBALL LIZARD』の事例です。本デモはUnity+Azure+PlayFabの構成で開発されており、UnityのプロジェクトフォルダやC#で書かれたサーバコード、Azureの設計ガイドなどの多くが、Github上で公開されています。増渕氏は「日本の開発者も、ここから学べることも多いのでは」と指摘し、ぜひ活用して欲しいと改めて呼びかけました。
参考:Githubにて公開されている『PINBALL LIZARD』のコード
https://github.com/Azure/gaming/tree/master/pinball-lizard
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ゲーム配信ソリューション「Mixer」についても補足説明されました。Mixierは旧Beamとして知られ、2016年に買収されたサービスで、2017年にXbox OneとWindows 10に統合されました。HLS/MPEG-DASH といったストリーミング配信技術ではなく、リアルタイム配信技術のWebRTCを採用している点が特徴で、既存配信メディアに比べて格段に遅延が少なく、最大4つの配信画面を並べてCO-OP配信できます。
会場ではインディゲーム『Darwin Project』を用いたマルチプレイの実況配信が行われていました。本作は最大10人のプレイヤーに加えて、神視点でゲーム全体に参加する1人のショーディレクターで楽しむバトルロイヤル形式のFPS(一人称視点シューティング)。デモでは配信者がプレイヤーの画面を、ブラウザ上で自在にスイッチングしながら配信し、ゲームを盛り上げていました。
このように例年に比べてXbox Oneの影が薄かった今年のマイクロソフトブース。同社では「Xbox Play Anywhere」という概念を提唱しており、対応ダウンロード版ゲームを購入すれば、Xbox OneとWindows 10 PCの両方でプレイできます。この機能をバックヤードで支えているのもAzureです。E3を控えていることもあり、まずはAzureのアピールに注力したいという意図も感じられます。
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その一方でマイクロソフトは2017年9月、Xboxの顔として長年事業を牽引してきたフィル・スペンサー氏をゲーミング担当エグゼクティブパイスプレジデントに任命し、最高幹部らで構成されるSenior Leadership Team(SLT)に迎え入れました。SLTのメンバーはCEOのサティア・ナデラ氏をはじめ16名で、このことは同社がXboxとゲーム事業をより重視していくことの現れだと言えます。
増渕氏も「これまでAzureは幅広いビジネス向けに営業を展開しており、ゲーム業界はその一部という位置づけでした。しかし今回の組織改編に伴い、よりゲーム業界に特化した形でAzureの技術支援を行っていくことになりました。GDCでAzureを前面に押し出した背景には、そうした点もあります。私個人も、これまで以上にゲーム業界向けに注力していくことになります」と語ります。
例年、GDCでゲーム開発者向けの展示、E3でゲームユーザー向けの発表が行われ、11月から始まる年末商戦に向かって進んでいくゲーム業界。すでに今年もマイクロソフトは、6月10日より始まるプレスカンファレンス「Xbox E3 2018 Briefing」をはじめ、過去最大規模のショーになると発表しています。その影にAzureがあることを改めて知らしめたGDCでの展示でした。
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