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「“盛り上がっている”ではなく“盛り上げている”んです」―関西ゲーム業界を熱くする男に訊く地元への思い

ヘキサドライブ代表取締役社長兼CEO 松下正和氏

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ヘキサドライブ代表取締役社長兼CEO 松下正和氏


東京に次いでゲーム企業の多い関西。京都には任天堂、大阪にはカプコンと世界を代表する企業が本社を構え、大小様々なパブリッシャー・ディベロッパーが軒を連ねています。

2018年3月には関西最大規模のゲーム業界勉強会「GAME CREATORS CONFERENCE '18」が一般社団法人デジタルエンターテインメントクリエイター協会(DECA)により開催される他、3ヶ月に一度、GIPwest主催にて行われる「関西ゲームデベロッパー交流会」などゲーム業界同士での活動も活発な地域です。

「” 盛り上がっている”のではなく” 盛り上げている”」、というGIPwest、DECA両団体のキーマンであり、ヘキサドライブ代表取締役社長兼CEOの松下正和氏(以下松下氏)に、両団体の活動にかける思い、現状の課題、地元愛についてお話頂きました。

【取材・構成 山﨑浩司】

───本日はよろしくお願いします。経歴を含めた自己紹介をお願いします。

松下氏1994年にカプコンに入社、最初はアーケードの部署に配属されました。最初にやった仕事はアーケードゲームの『ストリートファイターZERO』でアドンというキャラクターを作りました。プログラマーとしてその後もキャリアを積んできまして、コンシューマーでは、『パワーストーン2』、『Devil May Cry 3』や『ロストプラネット』のメインプログラマーをやっていました。カプコンに13年間努めた後、今のヘキサドライブという会社を立ち上げて、今が12年目になります。業界的には25年位のキャリアになります。

───『Devil May Cry 3』、めちゃめちゃ遊んでいました……!

松下氏ありがとうございます、いいゲームですよねぇ。

───嬉しさのあまりいきなり脱線してしまいました。本日はBitSummit(*)の会場でインタビューをしているわけですが、会場を回られて気になるゲームはありましたか?
(*)5月12~13日に京都のみやこめっせで開催されていたBitSummitVol6に同社も出展。会場にてインタビューを実施。

松下氏沢山あるのですが……。UNTIESさんのブースで展示されていた「BATTLOON‐バトルーン‐」は気になりました。ゲームもシンプルでカワイイ感じで。元々が学生作品なんですよね。それがソニー・ミュージックエンタテインメントさんのUNTIESレーベルからリリースという事で。夢のある話だなぁと思います。

後は、僕はシューティングが大好きで。会場では、「デビル・エンジン」や「Black Bird」とか。昨今シューティングというジャンルは減ってきているのですが、インディーシーンではまだまだ熱い。これからもきっといいゲームが出てくるんだと思います。

あと、インティ・クリエイツさんの『Bloodstained: Curse of the Moon』。まるで、ファミコン時代のような味のあるグラフィックが堪らないですね。是非プレイしたいです。

───ありがとうございます。それでは本題ですが、GIPWestとDECAという2つの団体の成り立ちや具体的な活動を教えてください。

松下氏GIPWestは東北の震災がきっかけです。仲のいい他社の方々と義援金を送ろうとなったときに「お金を集約する口座が要るよね」という話になって、GIPWestという形で送ったんですけども、せっかく集まったんだから何かしていこうよ、ということになりまして。

メインの活動としては「関西ゲームデベロッパー交流会」というのを3ヶ月に1度開いています。交流会自体は設立前からヘキサドライブでやっていたのですが、現在ではGIPWestの活動の一つとして行っています。クリエイターを対象とした「DECA」とは違って、企業・デベロッパー、ゲーム会社同士で盛り上がっていきましょうという位置づけですね。



───ということは学生さんが交流会に来たり、ということはない?

松下氏そうですね。GIPWestはゲーム業界の人間だけで、ということなので。関西ゲームデベロッパー交流会も、企業の社員が「お仕事の話もしていい場所」として開いています。関西ってゲームの開発会社が東京に次いで多いんですよね。個人でやられているような会社もたくさんあってそういう所を含めるとそれこそ100社以上はあると思います。でも意外と会社間での繋がりがなくって、同じ関西同士それほど遠く離れてないのに知らなかった、という人たちが繋がる場として使っていただいています。

───では続いてDECAの成り立ちの経緯についてお聞かせください。

松下氏4年前にCEDEC(*)のローカル版を全国でやろうという話があり、関西の企業の中で動いてほしいという事でお声掛け頂き、僕がCEDEC関西の実行委員長をさせていただくことになりました。
(*)日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス

そこで実行委員の同業の方たちと「次の年もこういう勉強会やりたいよね」という話の流れがありまして。その次の年は今後のローカルCEDECの枠組みづくりとのタイミングと我々が開きたいカンファレンスの時期が合わないという話があったので、じゃあ自分たちでやっていこうかと。関西に勉強したい人達のニーズがあるとわかったので、その火を消さないために自分たちやってきました。

実施規模も年々大きくなってきまして、今年では参加人数が900人くらいまでいきました。規模が多くなると扱うお金の規模も多くなるので「ちゃんとした組織を作ったほうが良いよね」ということでDECAを立ち上げた、という経緯になります。

───両団体の大きな違いとしては、GIPWestはデベロッパー同士、DECAはもうちょっと広く、ということになるのでしょうか。

松下氏そうですね。どちらかと言うとDECAはクリエイター同士の勉強や技術交流、ゲーム業界を目指す学生向けの認知を広げるという目的でやっています。

───GCC2018の懇親会には600人も参加したそうですね。

松下氏ゲーム業界の懇親会で600人を超える規模となると本当に日本有数なのではないかなと。CEDECのデベロッパーズナイトも多くの方が参加されますが、もしかするとそれよりも規模大きいんじゃないかなと思っています。

GCC2018懇親会の様子。ゲーム業界人が600人も参加する懇親会は国内では稀。

───手応えはかなりあったと?

松下氏感じています。関西の人が、というよりは僕らが交流すること自体がすごく好きなんですよ。懇親会付きチケットのほうが先に売り切れたりするくらいなので(笑)、みんなもそういう場を求めているのかなと思っています。

───関西圏外からも参加者は多かったのではないでしょうか?

松下氏それこそ九州や関東から来られている方もいらっしゃったみたいですね。ありがたい話で、良いスピーカーの方に来ていただいて、他のセミナーや勉強会では聞けないような「ここだけの話」があったおかげかなと。

───このセッションがすごかった、などはありますか?

松下氏個人的には、カプコンさんの『モンスターハンター:ワールド』の企画のセッションは反響が大きかったように感じます。あとは、スクウェア・エニックスさんの『ドラゴンクエスト』の内川さんの話、任天堂さんのセッションも凄く素晴らしいお話をされていました。本当に甲乙つけがたく、どれもいいセッションばっかりだったなと思います。

───それこそ任天堂やカプコンなど関西のビッグネームの方たちがセッションされてたんですね。

松下氏『逆転裁判』シリーズの巧舟さんの講演も凄くレアでなかなか他では聞けないだろうなと。

───その点はやはり、「関西ならでは」、という感じもありますね。

松下氏関西ならではの部分は僕らも出したいなと思っています。大きく他のセミナーやカンファレンスと違うのは、公募じゃない、という点。スピーカーさんには直接お声掛けしてお願いしているんです。「話す気はなかったけどこの話をしようか!」みたいなこともあったりして。毎回調整が大変なのですが、とてもありがたいことにみなさんお忙しい中、時間を割いてやっていただいています。

───学生さんも結構いらっしゃったのでしょうか。

松下氏まだまだ少ないです。業界のプロの方が多く登壇頂くので学生の方にリーチできるともっと来るとは思います。コンピュータ系の専門学校さんの学生には結構知っていただいているんですけど、まだ大学生には知られていないんじゃないかと。

───うーん、もったいないですね。

松下氏継続的にやっているので今後は増えていくのかなと思ってはいます。東京まで行ってカンファレンスに出るとなったら交通費宿泊費もかかるというところを考えると、関西でそういう話が聞けるのってすごく貴重な場です。

セッションと会場の様子。関西だけでなく、国内からゲーム業界人が集う。

───是非学生の皆さんにも参加してもらいたいですね。業界人からすれば、名だたる企業が多く集まる関西は「ゲームの地」という印象が強いですが、学生さんにとってはそうでもないのでしょうか?

松下氏企業自体が知られてないというのもありますし、カンファレンスで話されるような内容や実際プロが現場でどういうことをしているのかという事自体、多分情報が全然ないんですよ。今ゲーム業界のプロたちがこういう事を考えて作っているんだな、というのを知ってもらいたい。

関西にはゲームの開発会社もたくさんあって、ゲームクリエイターもたくさんいて、ゲーム業界に入りたい学生さんの受け皿もあるのですが、まだまだ情報や技術交流は少ないと思っていて。そこを少しでも活性化させたいという思いは強くあります。

───GIPWestとDECAの活動を通して具体的な成果などはありましたか?

松下氏GIPWestの交流会を通じて仕事に繋がった、という事例は多くあるので間違いなく関西のゲーム業界の活性化の一助にはなっているかなと。GCCに関してはアンケートの結果や、次の年に来てくださる皆さんの集まり具合でしか窺い知れないんですけども「次もやってほしい」、「また来年もよろしくおねがいします」、「関西でこういう場があるのは本当にありがたいです」と好評を頂いています。ゲーム業界の人達やクリエイティブ意識の高い人達に関しては賛同していただいているのだな、というのは感じますね。

───GCCは開催自体が成果、と言った感じでしょうか。

松下氏DECA自体はGCCがメインの活動にはなりますが、カンファレンス以外にもクリエイターに対してアプローチできたらいいよね、という話はしています。実行委員会で案が出ているのは、福岡のGFFさんがやっているようなコンテストなどがやれたらいいよね、と。

GIPWestにしてもDECAにしても手前味噌ですが、各メンバーが自身の手を動かしてやっているというのが大きいです。専用に人を雇っておらず、本当にメンバーがWEBページを作成したりメールの対応をしたり備品を買ったりとみんなで手分けしているので、今後はもうちょっとそういう所を洗練してやっていきたいですね。

───各々がやりたいからやる、やるべきだからやる、という意気込みを感じます。こういった団体を立ち上げた背景には関西ゲーム業界への危機感があったのでしょうか?

松下氏人口減少の問題もそうですし、優秀な人材が九州や関東など他県に流れていってしまう危機感はあります。いやいや、まだ関西でゲーム業界は盛り上がっているんだよという。それにプラスして、僕はずっと関西で、それこそ二十歳のときに就職して25年居るんですけども、関西のゲーム業界に少しでも恩を返したいという気持ちもありまして。自分たちの業界ですし、自分たちのためにもなりますしね。


───教育機関との連携についての動きはありますか?

松下氏これがまだ具体的には動けてないところがあります。しかしDECAなどを作ることによって窓口がわかりやすくなったため、大学などからお問い合わせなどは少しずつ頂いています。今後そういうところで連携できるといいですね。

最近では大学卒業後にゲーム業界に行く人はいますけど、学校の先生の授業だけでは今の現場の状況の話が十分伝わるかといえばそうではないので、いろんな企業に来ていただいてお話しいただきたいというときにDECAやGIPWestが学校と企業をつなぐパイプになればいいなと思います。

───学生さんからしてみても、第一線で働く方に指導を受けられるのは貴重な機会ですよね。これまで活動されてきてここが変わった、というような所はありますか?

松下氏GIPWestの活動は10年以上やっていて交流会ももうすぐ40回近くなるので、関西の会社同士が顔見知りになり繋がりが強まっている感じがしていますね。

「関西盛り上がっているよね」と、言っていただけることが多くなってきました。それこそ関東など他の地域から大手も含めいろんな企業がアプローチに来てくれて。盛り上げていかないと盛り上がらないんですよ。

サイバーコネクトツーの松山さんにも言われたんです。「九州盛り上がってますよね」っていうと「いや、盛り上げてんねん」と。ですよね、と思いました。地域愛が活動のベースにあるんだと思います。

───勝手に盛り上がるわけがないですよね。松下さんの「恩返しがしたい」という気持ちに地域愛を感じます。行政側に対してはなにかアプローチはありますか?

松下氏これがまだ出来てなくて。それこそBitSummitは京都市と密接にやられていますので、僕らも見習って大阪の方でやりたいとは思うんですけどなかなかアプローチしきれていないところがあります。今後の課題はそこですね。まず、その話をどこに持っていけば良いのか、入り口にもたっていない段階なので。

京都は明らかにマンガやアニメ、ゲームとかコンテンツに対する考え方とかにも理解がありますし、部署にしてもものづくり振興課がありますが、じゃあ大阪だとどこになるのか、っていう。

───このインタビューを読まれている大阪の行政の方、ぜひヘキサドライブの松下さんにお問い合わせを!それでは、両団体の今後の予定や展望などをお聞かせください。

松下氏GIPWestに関しては関西のデベロッパーの方たちを中心に一緒に盛り上がっていきましょうという形で活動していますので、もしまだ参加されていないゲームデベロッパーの方がいれば是非ご参加ください。また、関西のゲームデベロッパーの方と繋がりたい関西以外の方もデベロッパーやパブリッシャーであれば交流会に来ていただいていますので、ぜひお声がけください。

GCCはまだ来年の具体的案については出てきていませんが、今回も予定していたチケットは全部売り切れてしまったので、少しずつではありますが、様子を見ながら規模を大きくしていきたいですね。中身に関してはこれからですが、なにか新しいことがやりたいです。期待してください。



「関西のゲーム業界に恩返しがしたい」、という思いから活動を続ける松下氏。GIPwest、DECAの中核メンバーも皆同じ気持ちで集い、自ら手を動かして関西ゲーム業界の盛り上げに貢献しています。行政や教育機関との連携面に課題あり、ということでしたが、産官学が手を取りあえば両団体の活動が大きく飛躍し、関西ゲーム業界だけでなく関西全体の教育・雇用に繋がりこの地域が活性化することになるでしょう。この未来は、そう遠くないと今回のインタビューを通して感じました。
《山﨑浩司》
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