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シャルルマーニュ伝説は、8世紀~9世紀初頭に実在したフランク王国の国王カール大帝と十二勇士と呼ばれる騎士たちの冒険譚です。
フランク王国は5世紀末~10世紀頃まで現在のフランスやドイツなどに位置し、カール大帝の治世では、現代のフランス、ドイツ、スイス、オランダ、ベルギー、イタリアの大部分まで含んだ広大な地域を支配しました。ローマ教皇レオ3世から「ローマ帝国皇帝」の帝冠を与えられており、現ヨーロッパの礎を築いた英雄であり、中世以降のキリスト教ヨーロッパ王国の太祖でもあります。
騎士物語の代名詞とも言われるアーサー王伝説と比べると、これまで日本での知名度は低かったシャルルマーニュ伝説ですが、大人気ゲームFateシリーズ(『Fate/Grand Order』(以下、FGO)や『Fate/EXTELLA LINK』)に、アストルフォやローラン、カール大帝が登場したことから注目されています。そこで、まだ知らない方のために大まかな流れや登場人物を紹介します。
※トマス・ブルフィンチ著、市場泰男訳『シャルルマーニュ伝説 中世の騎士ロマンス』を中心とした紹介になっています。
※名前の表記がドイツ語読みとフランス語読みで違うため、一部をシャルルマーニュ十二勇士が登場するFateシリーズに合わせています。
■史実と物語の違い
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『シャルルマーニュ伝説 中世の騎士ロマンス』は、後年の11世紀~13世紀にかけてフランス語で書かれた数十編の作者不明の「武勲詩」から成り立っています。シャルルマーニュ(以下、シャルル)とはカール大帝の別の呼び方で、「マーニュ」とは「偉大なる」という意味です。
カール大帝の治世はキリスト教が現ヨーロッパに完全に布教しておらず、イスラム教を信じるサラセン人たちが勢いを伸ばしていた時代。キリスト教の保護者だったカール大帝は「平和なくして、神を喜ばせることはできない」という信念の下、約43年の治世の間に50回以上もの軍事遠征を行って、キリスト教を土台にした西ヨーロッパにおける政治圏を成立させました。
シャルルマーニュ伝説も、カール大帝や十二勇士と呼ばれる騎士たちを主人公に、キリスト教徒とイスラム教徒であるサラセン人や未開部族との戦いを描いています。ただし、アーサー王伝説やギリシャ神話などを取り入れたファンタジー色が強く、さらには中国と戦ったり、怪物がでてきたりと、登場人物も含めて史実とかけ離れているところも見られます。
また、カール大帝の描写についても、普通は物語上のほうが美化されるものですが、作中では短気である、うさん臭い部下に騙される、ドラ息子を愛しすぎて政治判断を間違えるなど、史実の賢王像とはズレもあります。これは作中の時代背景が、フランク王国が安定した頃でカール大帝が年老いたというのも理由かもしれません。
作品もカール大帝というよりは、ローランやリナルドなど騎士たちが主人公と言える構成になっています。
■シャルルマーニュ十二勇士
シャルルの騎士の中で特に名高い12人が十二勇士と呼ばれています。彼らは互いに対等に付き合い、また大帝とも友人のような関係にあったとされていますが、実はこの12人は断定されていません。全員が個性的なエピソードを持っているわけでもないですし、ローランやリナルド、アストルフォのように間違いなくカウントされる騎士もいれば、基本的には欠番枠でその都度誰かをカウントすることもあります。ひとまずはシャルルを除いたメンバーを紹介します。
「よく裸になる最強騎士」ローラン
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シャルルのお気に入りの甥。幼少期に父がフランスから追放されたため、イタリアのストリの洞窟で母と2人で貧しい暮らしをしていました。ひどく貧乏だった少年時代は半裸でいることが多かったようで、後に絶世の美女アンジェリカに振られたショックで全裸になってフランス中を放浪するなど、裸エピソードに事欠きません。『FGO』で、アストルフォが「変態」と呼ぶ理由はここにあるのでしょう。
シャルルが教皇に皇帝の冠を授かるためにローマに向かう途中にストリに立ち寄った際、自軍の食料を盗んだローランと出会いました。血縁があったことも含めて気に入ってフランスに帰る時には連れて帰り、ローランはシャルルの騎士の中でも群を抜く勇士として成長します。ギリシャの英雄ヘクトールが使っていたとされる聖剣デュランダルの持ち主。怪力無双でもあり、武器がなくても太刀打ちできる相手はほとんどいません。そんな頼もしい勇士ですが、フランスの窮地に女を追いかけて戻ってこないということもありました。
「最後は守護聖人になった」リナルド
モンタルバンの人。シャルルの甥、ローランの従兄弟。ローランと並ぶ十二勇士の双璧で、頑固でまじめ一徹な性格でもあります。必ずしもシャルルに従順ではなく、シャルルの機嫌を損ねて宮廷から追放されることも。騎士すら蹴り殺すという暴れ馬バヤールにただ一人認められた主人。隠居後は聖職者として神に仕えるために働き、死後の遺体はドルトムントに送られて守護聖人になりました。
「理性が蒸発している?」アストルフォ
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イングランドの王子。美少年で金持ち。しかし、うっかりな所があって冒険ではしばしば罠にはまり、木に変えられるなど大変な目に会う。武芸にものすごく秀でているわけではないものの、相手を打ち負かす魔法の槍、敵を追い払う不思議な角笛、空を飛ぶヒッポグリフと数々のマジックアイテムや伝説上の動物を偶然などから手に入れて大活躍します。
ローランがアンジェリカに振られて狂った「狂えるオルランド」のエピソードでは、旅の途中で出会った3賢者に導かれ、ローランの狂気を治せる「ローランの思慮分別」を手に入れるために月へ行きます。そこにはアストルフォの思慮分別もあり、保管されているビンの中には半分以上も入っていました。通常、残っていないほうが思慮分別が備わっているという意味なので…『FGO』で理性が蒸発していると例えられる所以はここにあります。
「ローランの親友」オリヴィエ
少年時代にローランとの殴り合いがきっかけで男の友情が芽生え、無二の親友になりました。ローランの影に隠れているところもありますが、ロンスヴァルの戦いなど、非常に侠気のある一面を見せてくれます。
「数少ない調整役」ナモ
バイエルン公。戦場では大きな活躍が見られないものの、シャルルの顧問役のようなポジションで信任が厚いです。人質としてやってきたオジエを実の息子のように可愛がったり、ギエンヌ領の若当主ユオンがシャルルに無茶な任務を言い渡された時は撤回させようとしたり、十二勇士では大変貴重な物事に対して冷静な判断ができる人格者です。
「存在感が薄すぎる」サロモン
ブルターニュ王。ナモと並んでシャルルの傍にいることが多いので同じ顧問役だと思われますが、ナモのついでに名前が記載されている印象が強いです。
「異教徒討伐に燃える僧侶」チュルパン
レームの大司教でシャルルの書記役。聖書にも俗文学にも精通した知識人で、実在の人物とも言われ、シャルルとその息子ルイの治世下で物語を紡いだとされています。「異教徒を殺すのは自分の職務」と思っており、自らも剣を持って戦場に立ちます。鎧や兜が返り血で朱く染まるのは聖職者として見ると少し怖くなります。
「リナルドが大好きな魔法使い」マラジジ
リナルドの従弟で宮廷魔術師。リナルドと仲が良い印象。絶世の美女アンジェリカに利用されることもありましたが、リナルドに名馬バヤールを引き合わせたり、ガヌの裏切りをいち早く察してリナルドに救援を頼んだり、リナルドとシャルロが対立した際には駆けつけたりとリナルドに関わる場面でよく活躍します。あと、11年間、教会や修道院に施しを求めて旅をしながらお金を貯え、金の杯を手に入れたという本人談も出て来ます。
「良い所無し」フロリマール
シルヴァン・タワーの領主。ローランの友人で最も勇敢で善良な騎士と言われ、旅に出る時も恋人フロルドリを連れて行くという、作中では一番仲むつまじい恋人同士だと思います。
しかし、初登場では恋人を賭けてアストルフォと勝負するも負けてあわや自殺しようとしたり、「狂えるオルランド」では恋人の前でアルジェリア王ロドモンに決闘で負けて捕虜になったり、せっかくフロルドリと結婚したのにアフリカで行われた3対3の決闘でグラダッソ相手に討ち死するなど、これといった見せ場がないのに十二勇士に数えられています。
「アーサー王のいるアヴァロンに辿り着いた」オジエ・ル・ダノワ
元はデンマークの王子。父のデンマーク王ジョフロワがシャルルに敗れたために、人質として差し出されます。誕生の時に妖精モルガナたちの祝福を受けたため、武勇と美貌に秀でた騎士となり、ローランやオリヴィエとも義兄弟の誓いを交わしました。シャルルの信頼を得て十二勇士の中ではローランやリナルドに引けを取らない活躍を見せています。しかし、最後は妖精モルガナに連れ去られる形でアヴァロンの島に行き、あのアーサー王とともに暮らしていると伝えられます。
「裏切り者」ガノ
宮廷貴族としてシャルルに仕える。他の十二勇士には信用がおけない人物として見られるも、シャルルだけは全幅の信頼を置いていました。シャルルマーニュ十二勇士の多くが命を落としたロンスヴァルの戦いを引き起こした裏切り者。
物語のおおまかな流れ