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閉鎖空間に閉じこめられ、強いられた殺人により互いが疑心暗鬼に陥りながらも、過酷な状況に屈せず真実と生存を掴み取る物語を紡いできた『ダンガンロンパ』。PSP向けのADVとして登場した1作目が好評を博し、後にシリーズ展開を迎えました。
しかも、ナンバリング続編となるADVのみならず、アクション要素も加わった『絶対絶望少女 ダンガンロンパ Another Episode』、VR作品『サイバーダンガンロンパVR 学級裁判』など、様々な形で『ダンガンロンパ』を表現。更に、1作目を原作とするTVアニメ化、さらに「私立希望ヶ峰学園」から始まる物語の完結編を描くオリジナルストーリー「ダンガンロンパ3 -The End of 希望ヶ峰学園-(未来編 / 絶望編 / 希望編)」もアニメで描かれました。
そしてこのたび、「ダンガンロンパ3 -The End of 希望ヶ峰学園-」の舞台化となる「ダンガンロンパ3 THE STAGE 2018 ~The End of 希望ヶ峰学園~」の公演が、7月20日に サンシャイン劇場で幕開けを迎えました。サンシャイン劇場での公演は7月23日まで。続いて、森ノ宮ピロティホールにて7月27日~7月29日に渡って行われた後、東京凱旋公演をヒューリックホール東京で8月3日~8月13日にかけて実施されます。
今回は、「ダンガンロンパ3 THE STAGE 2018 ~The End of 希望ヶ峰学園~」の開幕を記念し、その幕開けに先駆けて行われたゲネプロの模様をお届け。物語の核となる部分については伏せますが、前半のあらましやポイントなどには軽く触れているので、気になる方はご注意ください。
◆脚本・演出・演技の三位一体でデスゲームを徹底再現! 静と動が入り乱れる世界を舞台構成で表現
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まず驚かされたのが、各キャラクターの再現度。衣装は、デザインの踏襲だけでなく、しっかりと服装として馴染ませており、いい意味でコスプレ感が低いという印象を受けました。原作通りの奇抜なデザインもあるものの、変に浮いた感じはなく、アニメの雰囲気をうまく現実世界に落とし込んでいます。
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また、キャラクターごとの体格や立ち振る舞いもこだわりを感じさせ、朝日奈の動作には躍動感があり、意志の強さを秘めた宗方京介の佇まい、冷静で鋭い観察眼を放つ霧切響子の眼差しなどが、演技を通して伝わってきます。
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さらに台詞も、単に原作キャラの声を真似るという形ではなく、各キャラの雰囲気や言動を再現しようという意気込みが伝わってきます。苗木誠の「それは違うよ!」は物語の盛り上がりを後押しし、シビれるほどの出来映え。『ダンガンロンパ』が持つ特徴や魅力をしっかりと掬い上げる脚本と、それを十二分に表現するキャスト陣の力が結びついた成果だと感じさせられます。
本作は前後半合算で約3時間の舞台で、「ダンガンロンパ3 -The End of 希望ヶ峰学園-」の未来編および希望編を軸として描いています。TVアニメ12話分のストーリーがうまく凝縮されており、またその分展開もスピーディで見応え充分でした。
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物語の内容は、公式サイトにも書かれている通り、苗木たちを含めた未来機関の面々がモノクマによって隔離され、一定時間ごとに睡眠薬が投与されるバングルを強制的に着用。そして、眠っている間に一人だけ目を覚ます裏切り者によって、仲間達が殺されていく「デスゲーム」が始まります。苗木や霧切、朝日奈にとっては、かつて味わったコロシアイのゲームに再び立ち向かう形に。ただし今回は、一定のルールこそあれ、「学級裁判」はないので、各キャラの思惑や信念がより生々しくぶつかっていきます。
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この舞台は、最前部と高台になっている舞台奥、その中間を繋ぐ階段で構成。一同に会するような場面では広く使う一方で、各箇所で異なる場面を展開させて同時に進行させるなど、濃密な物語を短時間で描く工夫が舞台構成の段階から見て取れます。
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そこに、照明を活かした様々な演出も加わり、時には舞台背景の壁にエフェクトや映像を表示。舞台奥にあるモニターも組み合わせ、豊かな表現で物語を彩ります。演出が多いと、「どこを見ればいいのか分からなくなりそう」と不安に思う方がいるかもしれませんが、照明は演出だけでなく視線誘導にも一役買っているので、自然体で眺めていれば没入感が遮られることはありません。
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また、物語の軸として「デスゲーム」があるものの、心理戦や口論が主体ではなく、それぞれのキャラが信じる正義や想い、また真情の吐露としてぶつかり合う1対1の殺陣なども数多く盛り込まれており、見事な体さばきや動きのキレで観客を魅了します。
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特に、刀を持つ宗方は、自身が信じる希望に向かって武力を行使することも躊躇わず、その剣戟をたびたび披露し、物語にメリハリと緊張感を生み出す存在として印象深く活躍。もちろん、元・超高校級のボクサーである逆蔵十三や、元・超高校級のレスラーのグレート・ゴズなども、その優れた才能をアクションで遺憾なく表現。物語とアクションの両立で、「ダンガンロンパ3 THE STAGE 2018 ~The End of 希望ヶ峰学園~」を盛り上げます。
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さらに殺陣は1対1だけでなく、シチュエーションによっては集団戦も。アンサンブルなモノクマの手下たちとの乱戦もありますし、月光ヶ原美彩の車椅子に内蔵された火器を人間で表現するなど、演出に“人”を組み込むユニークさも、見どころのひとつと言えるでしょう。物語の展開に合わせ、役者たちが自らスローモーな動きとなり、時にストーリーを引き立たせ、時にアクションのキメを強調するなど、その緩急の付け方や演出の妙が光ります。
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かと思えば、ゲネプロでは観客の様子に合わせたアドリブ台詞が飛び出したり、ルールを破ると即死亡する「NG行動」について、「こんなNG行動はイヤだ」というネタを元学園長の天願和夫が披露するなど、つい笑いを引き出されてしまうシーンも。「「生」と「牧場」の文字が入ったアイスを選ぶ」がNG行動だったら、筆者は間違いなく引っかかってしまいます。
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緊張と緩和、物語とアクション、静と動が織りなし、希望が希望を殺す絶望に迫った「ダンガンロンパ3 THE STAGE 2018 ~The End of 希望ヶ峰学園~」。ここ数年でアニメの舞台化が急増しましたが、まだ不安感が拭えないという方がいてもおかしくはありません。ですが、今回舞台化された本作は、原作への敬意がしっかりと込められており、そして再現度も高く、なにより舞台として見応えのある3時間を提供してくれたことは間違いありません。
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もし興味が湧いたのであれば、観覧を検討してみてはいかがでしょうか。各キャラを演じるキャスト陣の開演前コメントなども次のページで紹介させていただきますので、そちらも合わせてご覧ください。
キャスト陣や西森英行氏のコメント、そして質疑応答も