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7月18日よりiOS/Androidアプリ『Fate/Grand Order』では第2部第2章「無間氷焔世紀 ゲッテルデメルング 消えぬ炎の快男児」がスタートしました。4月にスタートした第1章「Lostbelt No.1 永久凍土帝国 アナスタシア 獣国の皇女」から3ヵ月。スカサハ・ランサー、スカサハ・アサシンに次いで3人目のスカサハとなったスカサハ=スカディの登場に驚いたマスターたちも多いはず。この記事では、スカサハとはいったいどのような存在なのかを筆者のわかる範囲で記していこうと思います。
※本編のネタバレにご注意ください。
※本記事はあくまで当編集部による考察に過ぎません。
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スカサハの伝承
まず、スカサハは実在が確認される人物ではなく、北欧のケルト神話に登場するキャラクターの一人となります。筆者が確認した限りでスカサハが登場する最も古い文献は「スカサハの言葉」という詩、もしくは『クアルンゲの牛捕り』の前話のひとつである「エウェルへの求婚」という物語のどちらかとなります。
いずれも6世紀から9世紀に成立したものであるため、1000年以上前から語り継がれてきた存在であることに間違いはありません。ここでは主に「エウェルへの求婚」の内容を取り扱わせてもらおうと思います。
また、同じ物語であっても膨大な数の写本が存在し、スカサハの設定も様々に異なっています。ここで記載するスカサハの設定が『FGO』にそのまま反映されているとは限らないことは理解していただければと思います。
エウェルの求婚でのスカサハ
まず、「エウェルへの求婚」の主人公は、『FGO』にも登場するクー・フーリン。スカサハの愛弟子です。
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諸国漫遊修行中のクー・フーリンは北方の国アルヴァこと影の国(現在のスコットランド)を訪れ、そこで娘ウアタハ(妹バージョンの伝承も存在する)と共に暮らしていたスカサハと出会います(さらに2人の息子がいるバージョンの伝承も存在する)。スカサハは女武者として知られており、前途を嘱望される若者たちに、武術や魔術などの手ほどきを行っていました。
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難所を超えて影の国にたどり着いたクー・フーリンをスカサハは喜んで弟子に迎えました。ここでクー・フーリンは1年と1日の間修行にはげみ、投げ槍の妙技や刃の妙技、ルーン魔術、両腿の友情などの非常に多岐にわたる奥義を伝授されます。
修行中、スカサハのライバル(双子の姉妹との説もある)であるオイフェとの間に戦争が起こりますが、スカサハはクー・フーリンに睡眠薬を与えて戦争に行けないように画策します。しかしクー・フーリンは睡眠薬をものともせずに戦場に現れ、負傷したスカサハの代わりにオイフェと一騎打ちに臨んでこれに勝利。オイフェを生け捕りにして妻として、のちにコッラという名の息子を授かります。
クー・フーリンは修行を終えてスカサハより与えられた秘槍ゲイ・ボルグを携え立ち去りますが、コッラはスカサハの弟子となり、のちに父親であるクー・フーリンとの決闘に破れ殺害されるという悲劇的な結末を迎えることとなります。
と、ここまで書くと分かってもらえると思いますが、基本的にスカサハはクー・フーリンの物語に登場する主要人物という扱いで、主人公ではありません。
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『女王スカァアの笑い』でのスカサハ
しかし美貌の女戦士で主人公の師匠にして恋人役などというおいしいキャラクター、昔の作家が見逃すはずもありません。
スコットランドの作家、ウィリアム・シャープがフィオナ・マクラウドという偽名を使い発表した『女王スカァアの笑い』では、クー・フーリンに恋い焦がれたスカサハの、かなりヤンデレな姿が描かれています。
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クー・フーリンが仙界の王ミデルの妻・イテーンを愛していると告げてスカサハの元を去ったのち、スカサハはイテーンをさらって閉じ込め、老いさらばえて死ぬのを自身で見届けようかと思いを巡らせました(スカサハの不死性はここで確認できる)。
この考えは実行されませんでしたが、たまたま流れ着いた海賊を虐殺して憂さを晴らそうとするなど、自身の感情を持て余すスカサハの姿は『FGO』に登場するスカサハからはあまりイメージできません。
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『FGO』のスカサハがウィリアム・シャープに出会ったら、速攻でゲイ・ボルグ・オルタナティブをぶちかましそうな気がしますが、こういった解釈のスカサハも存在していることは間違いありません。
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多くの人々の想像によって形作られた存在が英霊が持つ側面の1つとするのであれば、『FGO』に登場したスカサハも、マスターたちが思い描くスカサハも、また真実のスカサハの1つと言えるのかもしれません。果たして『FGO』が形作る物語の中でスカサハはどのような役割を演じていくのか。また新たな姿のスカサハが登場することはありうるのか。ゆっくりと『FGO』を楽しみながら拝見させていただこうと思います。
画像提供:ババコンガ
参考文献:「かなしき女王 ケルト幻想作品集」筑摩書房
「ケルト神話の世界」中央公論社 ヤン・ブレキリアン
「ケルト神話」青土社 プロインシァス・マッカーナ
「世界女神大事典」原書房 松村 一男、沖田 瑞穂、森 雅子
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