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国民的声優の茶風林が語る「朗読と怪談のシンクロ率」-島根県松江市で開催する怪談朗読会「酒林堂」とは

声優歴31年の大ベテランとして映像を通して知られる茶風林さん。2009年から観客が日本酒を飲みながら実際にあった体験談を聞ける怪談朗読『怪し会』を主催。本稿では、朗読にかける想いと2016年から松江観光大使に任命された立場から見た「松江市の魅力」をお訊きしました。

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国民的アニメ『サザエさん』の磯野波平や『名探偵コナン』の目暮十三警部、様々なテレビのナレーションで日本人の誰もがその声を聞いたことがあるであろう声優・役者の茶風林さん。声優歴31年の大ベテランとして映像を通して知られる一方、2009年から観客が日本酒を飲みながら実際にあった体験談を聞ける怪談朗読『怪し会』を主催してきました。

声優・役者の茶風林さん

当初は東京公演だけでしたが、2014年から島根県松江市でも開催されるようになった『怪し会』。10年目の節目として『酒林堂』として生まれ変わりました。2018年9月8日と9日に松江市で『酒林堂 八雲 2018』を開催。松江市はギリシャ生まれで日本を愛した文筆家・小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)が『kwaidan(怪談)』を書いた地であり、島根県は日本酒発祥の地とも呼ばれています。

10年目の節目として茶風林さんに「声優業として多忙を極める中で、怪談朗読会はどうして開催したのか?」「ノンアルコールでも楽しめるイベントでなぜ日本酒を出したのか?」、さらに、2016年から松江観光大使に任命された立場から見た「松江市の魅力」をお訊きしました。

語りに一番ふさわしいのは怪談かもしれない


――さっそくですが、怪談朗読会を始めた経緯を教えてください。

茶風林言葉にすると語弊もありますが、朗読会にもっと付加価値があったらいいなとずっと考えていました。絵本なら5分くらいで読み終わりますが、朗読だと一つのお話を集中して20分以上聴かせるにはものすごく技量が必要になるのです。演者がただ座っている、あるいは立っている姿勢のままで世界観を維持しなければいけないわけで、お客さんの想像力に委ねてしまっている部分がかなりあると思います。

ところが、木原浩勝先生のPSP版の『実話怪談「新耳袋」一ノ章』というビジュアルノベルで収録をさせていただいた時に、「ええ!?もしかしたら、語りに一番ふさわしいのは怪談かもしれない」ということに気づいたのです。

見えないものを頭の中で、「もしかしたらあるんじゃないか?」とイメージを膨らませて怖がるのが怪談の世界。実は僕らの朗読会は全く同じことを行っている。どんな小さなお話から大きなお話まで、語る演者の力によって物語を膨らませ、聞いている人がドキドキするという元々見えないものを頭の中で見えるようにする。すごくシンクロ率が高いなと思って、朗読と怪談の組み合わせの魅力に取り付かれてしまったのです。

稽古中の様子。オープニングの発声を念入りにチェック中。東京都江戸川区の密蔵院にて

――いざ主催するとなった時に、舞台にお寺を選ばれた理由はなんだったのでしょうか?

茶風林僕ら演者は基本的には声優・役者を生業にしているからこそ、声の力でお客さんの心をもっと揺さぶるために演出が大事です。20分と言わず30分でもお客さんの心をギュッと握ったままにするため、お寺を舞台にする、ロウソクの明かりだけで読むといった演出にしました。

それも密蔵院(東京都:真言豊山派もっとい不動)というお寺に出会えたことで今の形が完成しました。セットは一切必要ない。ご本尊がそのまま雰囲気を作っていますから。なおかつ、お寺はシェルターとしての機能を持っていて、魔が集まって来るのを避けることができるのです

過去の公演の様子。異世界にいるかのような雰囲気

――なるほど。過去の公演の映像を拝見しましたが、暗闇の中、ロウソクの灯りのみで怪談を朗読していると、魔が寄ってきそうだなと思ったのですが、実は守られていたのですね。

茶風林お客さんは不思議なもので、「お寺で怪談やるの?恐~い」と恐がってくれるんですけど、本当は守られているのです。あんまり守られているといったらシラケてしまうので言わないですけど(笑)。

もう一つの防護策としては、実際にあった体験談を語る演者に障りがあるといけないので、四国にある日本で一社しかない憑きもの落としの「賢見神社」に毎回お祓いをしてもらいに行っています。

賢見神社にて関係者と撮影。万全を期して怪談朗読にあたる

――万全を期しているわけですね。しかし、ロウソクの明かりだけを頼りに演者の方が朗読するのは怖くないですか?

茶風林確かに、演者的には生火なので消える不安と戦わなくちゃいけません。けれど、いつ消えるか分からない、触れれば熱い、そういう中で演じる緊張感が良い方向で怪談朗読にも現れています。後から考えれば非常に素晴らしい偶然を手に入れて、この10年間やってきたなぁと感じています。お客さんにとっても、ああいう風景を見たり、空間にいたりすることはあまりない機会だと思うのです。

日本酒を出すことで「和風ライブハウス」のようになる


――本公演は日本酒を出していることが一つの特徴だと思います。日本酒がなくても充分に楽しめると思うのですが、なぜ第1回から日本酒を出し続けているのでしょう?

茶風林結果的に自分が観に行きたいと思える楽しいイベントにしたいと思ったのです。ただ単にお客さんが座ってドキドキしながら聞いて、「ハー終わった。良かったー」で終わるのではなく、法事などではお酒がつきものですから、「お清めもかねて日本酒を出したら『和風ライブハウス』のようなものになるかな?」と思ったのです。

美味しいおつまみと一緒に、ガブガブ飲むのではなく、少量を舐めるように飲んでいただく。そして、ちょっと舐めるだけだったら、僕たちが厳選した美味しいお酒を提供して、「え?日本酒ってこんなに美味しいの?」ということにも気づいてもらいたかったのです。ちょっと怪談朗読とは別のアプローチですけど(笑)。

過去公演で提供された「豊の秋」と「國暉」。どちらも松江市で醸される

「島根県には真の闇がある」小泉八雲縁の地・島根県松江市でも公演が始まる


――2014年からは島根県松江市でも公演をするようになりました。今年で5回目ですが開催の経緯は?

松江市での開催場所、洞光寺。小泉八雲ゆかりの地

茶風林東京公演の原作者である木原浩勝先生が小泉八雲の曾孫(ひまご)の小泉凡さんと以前から松江市で「松江怪談談義」を開催していたことでそのお口添えもあって「ぜひ松江で小泉八雲の怪談を語って欲しい」という要請を頂いたことがきっかけです。

最初は東京公演と同じようにできるのか?というのがとても不安だったのですが、松江市に取材に行かせて頂いて、小泉八雲が愛した東林寺(浄土宗)と洞光寺(曹洞宗)のどちらで開催するのがいいか?というありがたいお話を頂きました。

当時は松江市でどのようにやるか決まっていなかったので、生声が聞こえやすいほうがいいということで、寺院内で手を叩いてみたらすごく響いた東林寺で松江市での第1回公演を開催させていただきました。東林寺で開催したことや、深夜にお墓周りを散策させて頂いた体験はかけがえのないものになっています。

あそこには真の闇があるなと。東京だと闇を探すのが大変です。どこに行っても、だいたい外灯の明かりがあるじゃないですか。ところが、東林寺の境内で初めて、自分の手先が見えない真の暗さがあると知ったのです。その感動が松江公演の始まりでしたね。

現在は、最初に提案のあったもうひとつのお寺「洞光寺」にて開催しております。こちらは小泉八雲の著書「神々の国の首都」の冒頭に、松江の朝を告げる音として、鐘の音が記されているお寺です。その著書にもたびたび出てくるお寺でぼんやりと境内にある鐘を見ると同じ風景を見ているのだなと感じることができます。

稽古中の様子。確かにこの雰囲気ならセットは不要だ

日本酒発祥の地と言われる島根県のお酒の素晴らしさも伝えたい


――松江公演では、松江市にある4蔵のお酒を順番に出していますね。

茶風林お酒をぜひご紹介したい思いがありました。蔵元はどこも個性的で方向性が違うので素敵ですよね。2014年の「李白」李白酒造さんは、基本的にはジャパニーズワインとして海外展開して売りたい。2015年の「豊の秋 美保」米田酒造は、地元の「美保神社」のお供え酒として代々やっていくという非常に良い酒造りをしていますよね

2016年の「國暉」國暉酒造さんは、蔵の橋から見てもビジュアル的にも非常に素晴らしく地元に根を下ろして、松江の酒としてやっていくという誇りを持っている。2017年の「超王祿」王祿酒造さんは、「イベントとのタイアップはしません」と言われたのですが、市が動いてくれたこともあって、「きちんと温度管理をするなら」とお寺の中に大きな冷蔵庫を入れ、特約店さんに間に入って頂き実現しました。お客さんの口の中に入るまで自分たちが責任を持つというポリシーがあって素敵だなと。

そういった松江市には個性的な蔵があるよと紹介している間に、2016年に松江市のほうから観光大使にぜひというお話をいただいたのです。

観光大使就任の様子。松江市市長の松浦正敬氏と(写真左)

――2018年の第5回松江公演は「七冠馬」という松江市以外の蔵元のお酒を提供することが発表されています。

茶風林第4回までで紹介する蔵が一巡してしまったので、もう一度戻るのでも良いとは思ったのですが、可能であればオール島根のお酒という形で県庁所在地のある松江を中心に範囲を広げてほかのお酒もご紹介したいと観光課の方にも相談したところ、それが叶ったんです。だから、松江市だけでなく島根県全体の、小泉八雲の世界観を伝えていきたいなと思いを新たにして『怪し会』から『酒林堂』に生まれ変わったのです。

――島根県は酒蔵が30近くありますから、ぜひ、オール島根を目指して今後も開催頂ければと思います。「酒林堂」としての第1回公演に「七冠馬」を選ばれた理由を教えてください。

茶風林そもそもの東京公演の第1回目は、「七冠馬」簸上清酒の社長と仲良させて頂いたご縁から、「ぜひうちのお酒を使ってくれ」と提供していただいたのです。

――「怪し会」としての第一回目のお酒と、生まれ変わった「酒林堂」で提供するお酒が同じ「七冠馬」というのはなんだか運命じみた縁を感じますね。

最初は五里霧中でしたから、手を差し伸べてくれて大変有り難かったです。その時はまさか将来、松江で公演するなんて想像もできませんでしたが、いつか松江市以外の蔵元のお酒を扱えるのならぜひ「七冠馬」も推したいと強く思っていました。

今回用意されている酒枡

「小泉八雲の感じた世界が残っている」のが松江の魅力


――茶風林さんは埼玉県出身ですよね。2016年に松江市の観光大使になりましたが、県外の方から見て、松江市の魅力はどこにあると感じていますか?

茶風林僕の場合は小泉八雲の作品が好きなので、ぜひ著作を読んでから松江に来ていただきたいなと思います。例えば幕末好きな方だと京都に行かれると思いますが、幕末の志士たちのドラマの舞台が街に埋もれビルになっていたりして、そこには碑が一本建っているだけだったりして、当時の面影を探すのはとても大変だと思うのです。しかし、松江には小泉八雲が日本で触れて見たもの、感動が実はかなり近い形でそのまま残っているのです。

観光スポットを回るのでも良いのですが、小泉八雲の著作に一度目を通してから行かれると松江城にしても“水の都”美保関や加賀の潜戸(くけど)も「そのまま残っている!」「こんなふうに八雲は見たんだ!」と、彼が感じたことがビビッドに感じられるのです。

茶風林と小泉八雲像。松江市では八雲の足跡が街中で感じられる

朗読怪談を10年続けて来られたのは、そこに真実があったから


――ご多忙の中で10年間、朗読会を続けて来たモチベーションは何だったのですか?

茶風林世の中には素敵なお話がいっぱいあるからです。朗読怪談にしても誰かが怖がらせよう思って作った“創作怪談”だったら、10年も続いてこなかったと思います。“実話怪談”という誰かが体験したお話の中に、聞く人の心を揺さぶる「真実」があると思っているので、「このお話はなんて素敵なんだ」と続けて来られたのです。

ただただ怖いお話をするのではなくて、「ああ、ここに至るまでにはこういうことを訴えたかったんだな」といったところをお客さんに伝えたい、同時に日本酒の美味さも伝えたい、その2本立てで、次の10年も続けて行きたいです。

――最後に9月の「酒林堂 八雲」公演に向けてのメッセージをお願いします。

茶風林今年は大名茶人として知られる松江藩主・松平不味(まつだいらふまい)公の没後200年ということで、怪談とはちょっとテイストが違うかもしれませんが、新たな“不味公像”を皆さんにお見せできればと思っています。

皆さんお馴染みの“小泉八雲のろくろ首”をメインに据えて、「七冠馬」という美味い酒でおもてなし致しますのでぜひ楽しみにいらしてください。

松江市で開催される「酒林堂 八雲」は、その場に行った人しか味わえない唯一無二の空間です。小泉八雲の『怪談』が生まれた地で、日本酒発祥の地島根県の日本酒を味わう一時は、まさに日本の「和」の心でしょう。

稽古にて「ろくろ首」朗読中の様子



声優・役者歴31年の茶風林さんを持ってして「まだまだ素敵なお話がいっぱいある」という実話怪談。お寺+ろうそくの灯りのみという、非日常的なシチュエーションの中で聞く朗読は聞く人の心を揺さぶり、本当にそこに「怪」がいるような感覚に陥ることでしょう(実際はお寺に護られているのですが)。

「酒林堂」が開催されるのは9月8日、9日とまだまだ残暑厳しい日取り。特別な空間で、声優の皆さんが紡ぐちょっぴり怖い朗読と美味しい日本酒で涼を求めてはいかがでしょうか。


『酒林堂』公式サイト 

チケット情報、松江市公式サイト

聞き手:山崎浩司(インサイド編集長)
文:乃木章
《乃木章》

現場に足を運びたい 乃木章

フリーランスのライター・カメラマン。アニメ・ゲームを中心に、親和性のあるコスプレやロリータ・ファッションまで取材。主に中国市場を中心に取り上げています。

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